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突然の異世界転移

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連休の暇さ加減に思いつきで違うものが書きたくなり突発的に書いてしまったものですが、楽しんでいただけると嬉しいです♡





ここはランジュルス王国の王都にほど近いスイーツショップ『コンフィズール』
僕はそこの店主として働いている。
と言っても、別にパティシエの資格とか持っているわけではない。

実は僕、美坂みさかひじりは、就活に勤しむ22歳の普通の大学生だった・・・……3ヶ月前まで。


あの日、僕は第一志望の会社の最終面接に向かっていたんだ。
この会社に行きたくてずっと就活を頑張ってきた。
そしてとうとう最終面接まで漕ぎ着けた。
こんな日に遅刻するわけにはいかないと余裕を持って家を1時間も早く家を出たけれど、なぜか駅は構内にも入りきれないほどの人で溢れていた。
どうやら近くの駅で事故があったらしい。
ゔーっ、こんな大事な日に!
入場制限が続く駅までの道には延々と人が並んでいて、このまま並んでいても間に合いそうにない。

タクシーやバスにもすでにたくさんの行列ができている。
どうするか悩んだけれど、僕の選択は一択。

歩くしかないっ!

幸い、その会社まで歩けない距離ではなかったし、1時間も歩けば着くだろう。
早く家を出てよかった。

不幸中の幸いってこういうことだよね。

そう思って、踵を返し大通りへと向かっていた矢先、僕は突然乗用車に撥ねられて地面に叩きつけられた。

今までに感じたこともないような物凄い力で撥ね飛ばされている間、人間ってこんなに簡単に飛ぶんだな……とか、もう面接間に合わないな……とか、新しいスーツにしたばかりだったのにな……とかいろんな思いが駆け巡っていたけれど、バーーンと地面に叩きつけられた瞬間、途轍もない痛みが押し寄せてきて、そのとき初めて、ああ、このまま死ぬんだ……と思った。

痛みで目を開けていることもできず、周りを飛び交っていた大声も段々と聞こえなくなってきて、僕の意識はそのまま途絶えてしまった。

そして、目を覚ましたときには……森の中に倒れていたんだ。

えっ? これ、なにっ?
ここ、どこ??

見渡す限り、木、草、木……。
なんでこんなところにいるんだ?

僕、車に撥ねられて死んだんじゃなかったっけ??
思い返してみてもあの時の衝撃はよく覚えている。

けれど、身体を起こしてもなんの痛みも感じない。
あれは夢?
それともこれが夢??
どっちなの?

パッと自分の身体を見てみると、

「わぁっ!!」

自分の服に大量の血が付いていた。
思わず上着を撫でるとどうやらもう血は乾いているらしく手につくことはなかった。
慌てて上着を脱いでみたけれど、服以外に血がついている箇所はどこにもなくて身体に痛いところもなかった。

でも、血がついてるってことは事故に遭った方が本当ってことだよね?

なら、ここにいるのが夢なんじゃない?

古典的な方法だけど……と思いながら、自分のほっぺを力一杯摘んでみると
『いたっ!!』
思いっきり痛くてこれが夢じゃないと思い知らされた。

事故に遭ったのも事実、ここにいるのも事実……。
一体どうなってるんだよ。

とにかくこの森から出ないと話にならない。
取り合えず人を探してここがどこなのか聞くしかないな。

「よしっ、行こう!」

自分で自分を奮い立たせるために必死で大声を上げた。

念の為、周りを少し歩いてみたけれど荷物は何も見当たらず、とりあえず僕はさっき脱いだ血まみれの上着を羽織り直し、身一つで森を歩き始めた。
といってもどこに向かっていいかも見当がつかない。

かえって道に迷って森の奥深くまで行っちゃったりして……。
まさか熊とか出ないよね、この森。
急に恐ろしくなってきた。

立ち止まり、耳を研ぎ澄ましてみると遠いけれどなんとなく音? いや、声? が聞こえる気がする。
あれは多分、獣じゃないはず。

とにかく闇雲に歩き回るのをやめて必死に声らしきものが聞こえる方向へと進んだ。

それからどれくらい歩き回っただろう。
いいかげん足が疲れてきた。
今日に限ってスーツも靴も新調したばかりだったんだ。
第一志望の会社だったから気合い入れたのに……。

やっぱりこれは現実なんだ。
夢の中でこんなに疲れるなんてないもんね。

はぁ……こんなことになるなら履き慣れた靴にしておけばよかった。
ゔー、靴擦れが痛い。
草むらに座り込んで靴と靴下を脱いでみてみると、踵が少し剥けて血が出ている。

わぁっ、見なきゃよかった。
血を見ると余計痛くなった気がする。
地面は草だし、怪我をしそうなものもなさそう。
もう脱いじゃえ。

僕は靴下をズボンのポケットに入れ、革靴を手に持ち先へと歩き続けた。

ようやく、微かに聞こえていた声が少しずつ鮮明に聞こえてきた。

よしっ、人がいる場所までもう少しだ。

耳に入ってくる言葉がなぜか日本語に聞こえるけれど、まぁ話が通じるならそれに越したことはない。
どんな人たちがいるんだろう。

ドキドキしながら、声の主がいる場所まで歩き進めるとそこにいたのはまるで執事のような黒服に身を纏ったスマートでダンディーなおじいさんと同じような服を着た若い人が何かを一生懸命摘んでいるところだった。

なんだろう? この香りはハーブ?

声をかけていいものかどうか悩んでいると、足元の枯れ枝を踏んでしまいパキッと乾いた音が辺りに響いた。
その瞬間、2人はハッとしたような表情で僕の方を向いた。

「貴方さまはどなたでしょう? なぜここに?」

おじいさんが声をかけて来たけれど、なんと言っていいのかわからない。

「あ、あの……その、僕……」

何から話していいのかわからず口籠もっていると、若い方の人が駆け寄ってきた。

「お前、ここは公爵さまのお屋敷だぞ。どこから勝手に入ったんだ!」

「わっ、ご、ごめんなさ――うぅっ!」

殴られると思って咄嗟に顔を両手で庇った瞬間、今までの疲れがでたのか急に目の前が真っ暗になって、僕はそのまま倒れてしまった。

どさっと倒れ込んだ場所は草が生い茂っていて、痛みを感じることはなかったのを良かったと頭の片隅で思いながら、僕はそのまま意識を失った。
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