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Violonが繋いだ縁 5
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「んんっ……」
ずっと想像してた。
いつも優しく笑ってくれるあの唇でキスしてくれたら、どんな味がするんだろうって。
でもいざ、セルジュさんの唇が重なったらそんなことを考える余裕もないんだな。
それくらい、セルジュさんとのキスが心地良すぎたんだ。
重ねるだけの優しいキス。
その感触が心地よくてもうおかしくなってしまいそう。
ゆっくりと唇が離れていくのを追いかけてしまうくらい、僕はセルジュさんとのキスに心を奪われてしまったんだ。
茫然と何も考えられないまま、気づけば表彰式は終わっていた。
セルジュさんに抱きかかえられたまま、支度室に戻ると
『セルジュ、お前やりすぎだぞ』
と声がかけられた。
『エヴァンさま。ご覧になっていたのですか?』
『当たり前だろう。ミシェルの初めてのコンクールなんだ。見にこないわけがない。絶対に優勝するとわかっていたしな』
『えっ? それはどういう意味ですか?』
僕が尋ねるとロレーヌさまはにこりと優しい笑みを浮かべて、
「そのままの通りだ。元々あれだけの技術があったんだ。その上、セルジュとあれだけ集中してこのコンクールに臨めばミシェルの実力なら、優勝しないわけがない。私はそう確信して音楽学校に推薦したのだからな』
と仰った。
『セルジュはミシェルに一目惚れしていたから、てっきりすぐに恋人にすると思っていたのだが、まさか今日まで我慢するとは思っていなかったな』
『えっ?』
『エヴァンさまっ、それは……』
『ああ、悪い。余計なことを言ったか? まぁ、ようやく思いも伝えられたことだし、ミシェルからも了承を得たわけだから今日から一週間は好きに過ごせばいい。あの城を使ってもいいぞ。あとのことは任せておけ』
『はい。ありがとうございます。ではミシェル。行きましょうか』
『えっ? 行くって、どこにですか?』
『ついてくればわかるよ』
そう言われて、僕はヴァイオリンケースだけを持ってセルジュさんにどこかに連れて行かれた。
『ここは?』
『駐車場だよ。さぁ、これに乗って出かけるよ』
『えっ? わっ!』
何が何だかわからないうちに助手席に乗せられ、車はどんどん進んでいく。
『ここからなら30分ほどで着くからゆっくりしていて』
『あの、さっきの……ロレーヌさまが話していらした、一目惚れって……』
『ああ、そうだな。せっかくだから話しておこうか。向こうに着いたらそんな余裕はないだろうからな』
『えっ、余裕って……それはどういう意味ですか?』
『ふふっ。それは後でじっくりと教えてあげるよ』
ぱちっとウィンクされてドキドキする。
今までとは全然違う話し方にもドキドキするし、セルジュさんにずっとドキドキしてる気がする。
『ミシェルは本当に可愛い。私はあの日、初めてミシェルと目が合った瞬間、運命を感じたんだ』
『うん、めい?』
『ああ、そうだ。一目見てすぐにわかった。ミシェルが私の運命の人だとね』
『そんな――っ』
『私があの日ミシェルに出したケーキのことを覚えているかな?』
『えっ? ウィークエンドシトロンですよね。セルジュさんがお好きな……』
『ああ、そうだ。大切な人と一緒に食べたいっていうのはミシェルのことだったんだよ』
『ええっ? そうだったんですか?』
思いもよらない事実に驚きが隠せない。
『ふふっ。やっぱりな。私が他の誰かのために用意したものだとミシェルが勘違いしているんだろうとすぐにわかったよ』
『それならそうと早く言ってくれたら……』
『あの時、すぐにミシェルを私のものにしていたら、手放したくなくなると自分でわかっていたから言えなかったんだ。ミシェルはエヴァンさまからお世話を頼まれた大切な人だったから。ミシェルは知っているか? エヴァンさまがああやって直々に、あの音楽学校に推薦したのはミシェルだけなんだよ』
『えっ……ぼく、だけ?』
『ああ、それだけミシェルに才能を感じたんだ。実際に素晴らしい才能を持っていたから。だから、その才能を私の欲で独り占めしてはいけないと必死に理性を保っていたんだよ。ミシェルがプロのヴァイオリニストになるまで私はそばで見守り続けると決めていたんだ』
『セルジュ、さん……』
『今日のコンクールでミシェルが優勝を決めたら、結婚を前提に恋人になってもらおうと思って用意していたんだよ。まさか、ミシェルの方から告白してくれるとは思わなかったけれどね』
『あ、えっと……ごめん、なさい?』
『いや、謝ることはない。私はあれだけの聴衆の前で私に告白をしてくれたことが嬉しかったよ。もうこれでフランス全土にミシェルが私の大切な人だと見せつけることができた。誰にもミシェルを奪わせないよ』
その言葉が冗談ではなく、本気だとわかってたまらなく嬉しい。
僕だけがセルジュさんに恋をして、諦めなければいけないと思っていたから。
『僕も……』
『えっ?』
『僕も嬉しいです。セルジュさんが僕の大切な人だって、みんなに見せつけられて……』
『ミシェルっ!』
『僕のファーストキスなんですから、責任とってくださいね』
『――っ!!! ああ、任せてくれ! 一生、手放したりしないよ。まずはあそこで私たちの愛を確かめ合おうか』
セルジュさんの視線の先に目を向けると、とてつもなく大きくて美しい古城が見えた。
ずっと想像してた。
いつも優しく笑ってくれるあの唇でキスしてくれたら、どんな味がするんだろうって。
でもいざ、セルジュさんの唇が重なったらそんなことを考える余裕もないんだな。
それくらい、セルジュさんとのキスが心地良すぎたんだ。
重ねるだけの優しいキス。
その感触が心地よくてもうおかしくなってしまいそう。
ゆっくりと唇が離れていくのを追いかけてしまうくらい、僕はセルジュさんとのキスに心を奪われてしまったんだ。
茫然と何も考えられないまま、気づけば表彰式は終わっていた。
セルジュさんに抱きかかえられたまま、支度室に戻ると
『セルジュ、お前やりすぎだぞ』
と声がかけられた。
『エヴァンさま。ご覧になっていたのですか?』
『当たり前だろう。ミシェルの初めてのコンクールなんだ。見にこないわけがない。絶対に優勝するとわかっていたしな』
『えっ? それはどういう意味ですか?』
僕が尋ねるとロレーヌさまはにこりと優しい笑みを浮かべて、
「そのままの通りだ。元々あれだけの技術があったんだ。その上、セルジュとあれだけ集中してこのコンクールに臨めばミシェルの実力なら、優勝しないわけがない。私はそう確信して音楽学校に推薦したのだからな』
と仰った。
『セルジュはミシェルに一目惚れしていたから、てっきりすぐに恋人にすると思っていたのだが、まさか今日まで我慢するとは思っていなかったな』
『えっ?』
『エヴァンさまっ、それは……』
『ああ、悪い。余計なことを言ったか? まぁ、ようやく思いも伝えられたことだし、ミシェルからも了承を得たわけだから今日から一週間は好きに過ごせばいい。あの城を使ってもいいぞ。あとのことは任せておけ』
『はい。ありがとうございます。ではミシェル。行きましょうか』
『えっ? 行くって、どこにですか?』
『ついてくればわかるよ』
そう言われて、僕はヴァイオリンケースだけを持ってセルジュさんにどこかに連れて行かれた。
『ここは?』
『駐車場だよ。さぁ、これに乗って出かけるよ』
『えっ? わっ!』
何が何だかわからないうちに助手席に乗せられ、車はどんどん進んでいく。
『ここからなら30分ほどで着くからゆっくりしていて』
『あの、さっきの……ロレーヌさまが話していらした、一目惚れって……』
『ああ、そうだな。せっかくだから話しておこうか。向こうに着いたらそんな余裕はないだろうからな』
『えっ、余裕って……それはどういう意味ですか?』
『ふふっ。それは後でじっくりと教えてあげるよ』
ぱちっとウィンクされてドキドキする。
今までとは全然違う話し方にもドキドキするし、セルジュさんにずっとドキドキしてる気がする。
『ミシェルは本当に可愛い。私はあの日、初めてミシェルと目が合った瞬間、運命を感じたんだ』
『うん、めい?』
『ああ、そうだ。一目見てすぐにわかった。ミシェルが私の運命の人だとね』
『そんな――っ』
『私があの日ミシェルに出したケーキのことを覚えているかな?』
『えっ? ウィークエンドシトロンですよね。セルジュさんがお好きな……』
『ああ、そうだ。大切な人と一緒に食べたいっていうのはミシェルのことだったんだよ』
『ええっ? そうだったんですか?』
思いもよらない事実に驚きが隠せない。
『ふふっ。やっぱりな。私が他の誰かのために用意したものだとミシェルが勘違いしているんだろうとすぐにわかったよ』
『それならそうと早く言ってくれたら……』
『あの時、すぐにミシェルを私のものにしていたら、手放したくなくなると自分でわかっていたから言えなかったんだ。ミシェルはエヴァンさまからお世話を頼まれた大切な人だったから。ミシェルは知っているか? エヴァンさまがああやって直々に、あの音楽学校に推薦したのはミシェルだけなんだよ』
『えっ……ぼく、だけ?』
『ああ、それだけミシェルに才能を感じたんだ。実際に素晴らしい才能を持っていたから。だから、その才能を私の欲で独り占めしてはいけないと必死に理性を保っていたんだよ。ミシェルがプロのヴァイオリニストになるまで私はそばで見守り続けると決めていたんだ』
『セルジュ、さん……』
『今日のコンクールでミシェルが優勝を決めたら、結婚を前提に恋人になってもらおうと思って用意していたんだよ。まさか、ミシェルの方から告白してくれるとは思わなかったけれどね』
『あ、えっと……ごめん、なさい?』
『いや、謝ることはない。私はあれだけの聴衆の前で私に告白をしてくれたことが嬉しかったよ。もうこれでフランス全土にミシェルが私の大切な人だと見せつけることができた。誰にもミシェルを奪わせないよ』
その言葉が冗談ではなく、本気だとわかってたまらなく嬉しい。
僕だけがセルジュさんに恋をして、諦めなければいけないと思っていたから。
『僕も……』
『えっ?』
『僕も嬉しいです。セルジュさんが僕の大切な人だって、みんなに見せつけられて……』
『ミシェルっ!』
『僕のファーストキスなんですから、責任とってくださいね』
『――っ!!! ああ、任せてくれ! 一生、手放したりしないよ。まずはあそこで私たちの愛を確かめ合おうか』
セルジュさんの視線の先に目を向けると、とてつもなく大きくて美しい古城が見えた。
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