18 / 37
桜の下で
しおりを挟む
<side征哉>
入学式も無事に終わり、一旦教室に戻って行った一花たちが昇降口から出てくるのを私たちは今か今かと待っていた。
混乱を避けるために一組から順番に出てくるということだから一花たちは最初に出てくるはずだが、まだだろうか……。廊下の奥を覗き込む勢いで待っていると、たくさんの小さな足音が聞こえ始めた。
一花たちだ!!
「一花っ!」
「あっ、せいくん!!」
一瞬走って私の元に来ようとして、その足を止めたのは廊下を走ってはいけないことに気づいたからだろう。
さすが小学生。しっかりとルールを守れているようだ。
それでも我慢できないのだろう。靴箱で外靴に履き替えると一目散に私の元に駆け寄ってきた。
「せいくん! 一花のご挨拶、しっかり見てくれた?」
「ああ、もちろん! 上手に挨拶できていて鼻が高かったよ」
屈んだ私の胸に飛び込んできた一花を抱きかかえて笑顔を見せると、一花も嬉しそうに笑った。
「一花、素晴らしかったわ」
「ママ! パパもちゃんと見てくれた?」
「ああ、もちろんだとも! 今日はこれからお祝いに美味しいものでも食べに行こうか」
「わーい!! ねぇ、せいくんも一緒?」
一花が私も一緒がいいと望んでくれるなら、どんなことをしたって一花の願いを叶えよう。
「そうだな。夕方に戻ればいいから、一緒にいけるよ」
「よかった! 一花、せいくんにもうひとつお願いがあるの!」
「一花のお願い? なんだ?」
「一花ね、ご挨拶頑張ったらご褒美が欲しいなって」
一花の方から褒美をねだるとは珍しい。普段なら私の方から欲しいものを聞き出すというのに。それでも物欲のない一花から欲しいものを引き出すのは本当に難しい。一花の方から強請ってくれるなら嬉しいしかない。
「ああ、一花の欲しいものならなんでも用意するよ。洋服か? おもちゃか? それとも――」
「あのね、一花。中庭にある大きな桜の下でせいくんと一緒にお写真撮りたいの!!」
「えっ? 桜の下で、写真? 私と?」
「うん! すっごく綺麗なんだよ!! だから、せいくんと一緒に撮ってお部屋に飾ったり、スマホの待受にしたいなって。だめ、かな?」
「だめなわけがないだろう! すぐに撮りに行こう!!」
「わぁーっ!! やったぁ!! パパとママ、それに貴船のおじちゃまと未知子ちゃんも!!」
一瞬だけみんなも一緒に撮るのかとがっかりしてしまったが、
「一花、せいくんとは二人で撮りたいな」
と耳元に可愛い声が聞こえてそのまま膝から崩れ落ちそうになる程嬉しかった。
ああ、もう本当に一花には勝てないな。
『セイヤ、どこかに行くのですか?』
滑らかなフランス語が聞こえてきて、振り返るとエヴァンが腕に可愛い子を抱きかかえていた。
ああ、この子がエヴァンの大事な子か。確か弓弦くんだったな。
『エヴァン、一花ちゃんの大事な人とお友達になったの?』
『ああ、そうなんだよ。pantoufleを忘れてね、貸してもらったんだ』
『そうなんだ。でも、一花ちゃんはフランス語わからないから日本語にしよう』
『そうだったな。悪い』
二人がそんな会話をしている間に、一花もまた私に話しかけた。
「せいくん、弓弦くんの大事な人とお友達になったの?」
「ああ、少し困っていたようだったから話しかけたんだ。ほら、フランスと日本ではいろいろ違うこともあるだろう? それで話しかけたら今年の春から桜城大学に通うらしくてね、私の後輩だから仲良くなったんだ」
「そうなんだ! 一花と弓弦くんも仲良しだし、せいくんと……誰だっけ?」
「エヴァンだよ」
「そのエヴァンさんとせいくんもお友達になれたんだね」
「ああ、いい友達になれそうだよ」
私の言葉に一花は嬉しそうに笑ってエヴァンと話をしている弓弦くんに声をかけた。
「弓弦くん、せいくんとエヴァンさん。お友達になったんだって!」
「僕も今聞いた! 僕たちと一緒で嬉しいね」
「うん! ねぇ、僕たち今から真守くんが言ってたあの桜のとこに写真撮りに行くんだ! 弓弦くんたちも一緒に行こうよ!!」
「わぁ、行きたい! 行きたい!! 一緒に行っていいの?」
「もちろんだよ。ねぇ、せいくん」
「ああ、日本の桜が美しいのをたっぷりと味わってもらいたいな」
「じゃあ、パパとママも一緒に行くね」
弓弦くんは一花に誘われて、嬉しそうに私の両親と一花の両親と話をしていた彼らに桜を見に行こうと声をかけた。
私の両親と一花の両親と弓弦くんの両親はもうすっかり打ち解けているようだ。
この入学式でいい縁ができたようだな。
入学式も無事に終わり、一旦教室に戻って行った一花たちが昇降口から出てくるのを私たちは今か今かと待っていた。
混乱を避けるために一組から順番に出てくるということだから一花たちは最初に出てくるはずだが、まだだろうか……。廊下の奥を覗き込む勢いで待っていると、たくさんの小さな足音が聞こえ始めた。
一花たちだ!!
「一花っ!」
「あっ、せいくん!!」
一瞬走って私の元に来ようとして、その足を止めたのは廊下を走ってはいけないことに気づいたからだろう。
さすが小学生。しっかりとルールを守れているようだ。
それでも我慢できないのだろう。靴箱で外靴に履き替えると一目散に私の元に駆け寄ってきた。
「せいくん! 一花のご挨拶、しっかり見てくれた?」
「ああ、もちろん! 上手に挨拶できていて鼻が高かったよ」
屈んだ私の胸に飛び込んできた一花を抱きかかえて笑顔を見せると、一花も嬉しそうに笑った。
「一花、素晴らしかったわ」
「ママ! パパもちゃんと見てくれた?」
「ああ、もちろんだとも! 今日はこれからお祝いに美味しいものでも食べに行こうか」
「わーい!! ねぇ、せいくんも一緒?」
一花が私も一緒がいいと望んでくれるなら、どんなことをしたって一花の願いを叶えよう。
「そうだな。夕方に戻ればいいから、一緒にいけるよ」
「よかった! 一花、せいくんにもうひとつお願いがあるの!」
「一花のお願い? なんだ?」
「一花ね、ご挨拶頑張ったらご褒美が欲しいなって」
一花の方から褒美をねだるとは珍しい。普段なら私の方から欲しいものを聞き出すというのに。それでも物欲のない一花から欲しいものを引き出すのは本当に難しい。一花の方から強請ってくれるなら嬉しいしかない。
「ああ、一花の欲しいものならなんでも用意するよ。洋服か? おもちゃか? それとも――」
「あのね、一花。中庭にある大きな桜の下でせいくんと一緒にお写真撮りたいの!!」
「えっ? 桜の下で、写真? 私と?」
「うん! すっごく綺麗なんだよ!! だから、せいくんと一緒に撮ってお部屋に飾ったり、スマホの待受にしたいなって。だめ、かな?」
「だめなわけがないだろう! すぐに撮りに行こう!!」
「わぁーっ!! やったぁ!! パパとママ、それに貴船のおじちゃまと未知子ちゃんも!!」
一瞬だけみんなも一緒に撮るのかとがっかりしてしまったが、
「一花、せいくんとは二人で撮りたいな」
と耳元に可愛い声が聞こえてそのまま膝から崩れ落ちそうになる程嬉しかった。
ああ、もう本当に一花には勝てないな。
『セイヤ、どこかに行くのですか?』
滑らかなフランス語が聞こえてきて、振り返るとエヴァンが腕に可愛い子を抱きかかえていた。
ああ、この子がエヴァンの大事な子か。確か弓弦くんだったな。
『エヴァン、一花ちゃんの大事な人とお友達になったの?』
『ああ、そうなんだよ。pantoufleを忘れてね、貸してもらったんだ』
『そうなんだ。でも、一花ちゃんはフランス語わからないから日本語にしよう』
『そうだったな。悪い』
二人がそんな会話をしている間に、一花もまた私に話しかけた。
「せいくん、弓弦くんの大事な人とお友達になったの?」
「ああ、少し困っていたようだったから話しかけたんだ。ほら、フランスと日本ではいろいろ違うこともあるだろう? それで話しかけたら今年の春から桜城大学に通うらしくてね、私の後輩だから仲良くなったんだ」
「そうなんだ! 一花と弓弦くんも仲良しだし、せいくんと……誰だっけ?」
「エヴァンだよ」
「そのエヴァンさんとせいくんもお友達になれたんだね」
「ああ、いい友達になれそうだよ」
私の言葉に一花は嬉しそうに笑ってエヴァンと話をしている弓弦くんに声をかけた。
「弓弦くん、せいくんとエヴァンさん。お友達になったんだって!」
「僕も今聞いた! 僕たちと一緒で嬉しいね」
「うん! ねぇ、僕たち今から真守くんが言ってたあの桜のとこに写真撮りに行くんだ! 弓弦くんたちも一緒に行こうよ!!」
「わぁ、行きたい! 行きたい!! 一緒に行っていいの?」
「もちろんだよ。ねぇ、せいくん」
「ああ、日本の桜が美しいのをたっぷりと味わってもらいたいな」
「じゃあ、パパとママも一緒に行くね」
弓弦くんは一花に誘われて、嬉しそうに私の両親と一花の両親と話をしていた彼らに桜を見に行こうと声をかけた。
私の両親と一花の両親と弓弦くんの両親はもうすっかり打ち解けているようだ。
この入学式でいい縁ができたようだな。
1,245
お気に入りに追加
1,332
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談?本気?二人の結末は?
美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話
雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。
諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。
実は翔には諒平に隠している事実があり——。
諒平(20)攻め。大学生。
翔(20) 受け。大学生。
慶介(21)翔と同じサークルの友人。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる