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桜の下で
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<side征哉>
入学式も無事に終わり、一旦教室に戻って行った一花たちが昇降口から出てくるのを私たちは今か今かと待っていた。
混乱を避けるために一組から順番に出てくるということだから一花たちは最初に出てくるはずだが、まだだろうか……。廊下の奥を覗き込む勢いで待っていると、たくさんの小さな足音が聞こえ始めた。
一花たちだ!!
「一花っ!」
「あっ、せいくん!!」
一瞬走って私の元に来ようとして、その足を止めたのは廊下を走ってはいけないことに気づいたからだろう。
さすが小学生。しっかりとルールを守れているようだ。
それでも我慢できないのだろう。靴箱で外靴に履き替えると一目散に私の元に駆け寄ってきた。
「せいくん! 一花のご挨拶、しっかり見てくれた?」
「ああ、もちろん! 上手に挨拶できていて鼻が高かったよ」
屈んだ私の胸に飛び込んできた一花を抱きかかえて笑顔を見せると、一花も嬉しそうに笑った。
「一花、素晴らしかったわ」
「ママ! パパもちゃんと見てくれた?」
「ああ、もちろんだとも! 今日はこれからお祝いに美味しいものでも食べに行こうか」
「わーい!! ねぇ、せいくんも一緒?」
一花が私も一緒がいいと望んでくれるなら、どんなことをしたって一花の願いを叶えよう。
「そうだな。夕方に戻ればいいから、一緒にいけるよ」
「よかった! 一花、せいくんにもうひとつお願いがあるの!」
「一花のお願い? なんだ?」
「一花ね、ご挨拶頑張ったらご褒美が欲しいなって」
一花の方から褒美をねだるとは珍しい。普段なら私の方から欲しいものを聞き出すというのに。それでも物欲のない一花から欲しいものを引き出すのは本当に難しい。一花の方から強請ってくれるなら嬉しいしかない。
「ああ、一花の欲しいものならなんでも用意するよ。洋服か? おもちゃか? それとも――」
「あのね、一花。中庭にある大きな桜の下でせいくんと一緒にお写真撮りたいの!!」
「えっ? 桜の下で、写真? 私と?」
「うん! すっごく綺麗なんだよ!! だから、せいくんと一緒に撮ってお部屋に飾ったり、スマホの待受にしたいなって。だめ、かな?」
「だめなわけがないだろう! すぐに撮りに行こう!!」
「わぁーっ!! やったぁ!! パパとママ、それに貴船のおじちゃまと未知子ちゃんも!!」
一瞬だけみんなも一緒に撮るのかとがっかりしてしまったが、
「一花、せいくんとは二人で撮りたいな」
と耳元に可愛い声が聞こえてそのまま膝から崩れ落ちそうになる程嬉しかった。
ああ、もう本当に一花には勝てないな。
『セイヤ、どこかに行くのですか?』
滑らかなフランス語が聞こえてきて、振り返るとエヴァンが腕に可愛い子を抱きかかえていた。
ああ、この子がエヴァンの大事な子か。確か弓弦くんだったな。
『エヴァン、一花ちゃんの大事な人とお友達になったの?』
『ああ、そうなんだよ。pantoufleを忘れてね、貸してもらったんだ』
『そうなんだ。でも、一花ちゃんはフランス語わからないから日本語にしよう』
『そうだったな。悪い』
二人がそんな会話をしている間に、一花もまた私に話しかけた。
「せいくん、弓弦くんの大事な人とお友達になったの?」
「ああ、少し困っていたようだったから話しかけたんだ。ほら、フランスと日本ではいろいろ違うこともあるだろう? それで話しかけたら今年の春から桜城大学に通うらしくてね、私の後輩だから仲良くなったんだ」
「そうなんだ! 一花と弓弦くんも仲良しだし、せいくんと……誰だっけ?」
「エヴァンだよ」
「そのエヴァンさんとせいくんもお友達になれたんだね」
「ああ、いい友達になれそうだよ」
私の言葉に一花は嬉しそうに笑ってエヴァンと話をしている弓弦くんに声をかけた。
「弓弦くん、せいくんとエヴァンさん。お友達になったんだって!」
「僕も今聞いた! 僕たちと一緒で嬉しいね」
「うん! ねぇ、僕たち今から真守くんが言ってたあの桜のとこに写真撮りに行くんだ! 弓弦くんたちも一緒に行こうよ!!」
「わぁ、行きたい! 行きたい!! 一緒に行っていいの?」
「もちろんだよ。ねぇ、せいくん」
「ああ、日本の桜が美しいのをたっぷりと味わってもらいたいな」
「じゃあ、パパとママも一緒に行くね」
弓弦くんは一花に誘われて、嬉しそうに私の両親と一花の両親と話をしていた彼らに桜を見に行こうと声をかけた。
私の両親と一花の両親と弓弦くんの両親はもうすっかり打ち解けているようだ。
この入学式でいい縁ができたようだな。
入学式も無事に終わり、一旦教室に戻って行った一花たちが昇降口から出てくるのを私たちは今か今かと待っていた。
混乱を避けるために一組から順番に出てくるということだから一花たちは最初に出てくるはずだが、まだだろうか……。廊下の奥を覗き込む勢いで待っていると、たくさんの小さな足音が聞こえ始めた。
一花たちだ!!
「一花っ!」
「あっ、せいくん!!」
一瞬走って私の元に来ようとして、その足を止めたのは廊下を走ってはいけないことに気づいたからだろう。
さすが小学生。しっかりとルールを守れているようだ。
それでも我慢できないのだろう。靴箱で外靴に履き替えると一目散に私の元に駆け寄ってきた。
「せいくん! 一花のご挨拶、しっかり見てくれた?」
「ああ、もちろん! 上手に挨拶できていて鼻が高かったよ」
屈んだ私の胸に飛び込んできた一花を抱きかかえて笑顔を見せると、一花も嬉しそうに笑った。
「一花、素晴らしかったわ」
「ママ! パパもちゃんと見てくれた?」
「ああ、もちろんだとも! 今日はこれからお祝いに美味しいものでも食べに行こうか」
「わーい!! ねぇ、せいくんも一緒?」
一花が私も一緒がいいと望んでくれるなら、どんなことをしたって一花の願いを叶えよう。
「そうだな。夕方に戻ればいいから、一緒にいけるよ」
「よかった! 一花、せいくんにもうひとつお願いがあるの!」
「一花のお願い? なんだ?」
「一花ね、ご挨拶頑張ったらご褒美が欲しいなって」
一花の方から褒美をねだるとは珍しい。普段なら私の方から欲しいものを聞き出すというのに。それでも物欲のない一花から欲しいものを引き出すのは本当に難しい。一花の方から強請ってくれるなら嬉しいしかない。
「ああ、一花の欲しいものならなんでも用意するよ。洋服か? おもちゃか? それとも――」
「あのね、一花。中庭にある大きな桜の下でせいくんと一緒にお写真撮りたいの!!」
「えっ? 桜の下で、写真? 私と?」
「うん! すっごく綺麗なんだよ!! だから、せいくんと一緒に撮ってお部屋に飾ったり、スマホの待受にしたいなって。だめ、かな?」
「だめなわけがないだろう! すぐに撮りに行こう!!」
「わぁーっ!! やったぁ!! パパとママ、それに貴船のおじちゃまと未知子ちゃんも!!」
一瞬だけみんなも一緒に撮るのかとがっかりしてしまったが、
「一花、せいくんとは二人で撮りたいな」
と耳元に可愛い声が聞こえてそのまま膝から崩れ落ちそうになる程嬉しかった。
ああ、もう本当に一花には勝てないな。
『セイヤ、どこかに行くのですか?』
滑らかなフランス語が聞こえてきて、振り返るとエヴァンが腕に可愛い子を抱きかかえていた。
ああ、この子がエヴァンの大事な子か。確か弓弦くんだったな。
『エヴァン、一花ちゃんの大事な人とお友達になったの?』
『ああ、そうなんだよ。pantoufleを忘れてね、貸してもらったんだ』
『そうなんだ。でも、一花ちゃんはフランス語わからないから日本語にしよう』
『そうだったな。悪い』
二人がそんな会話をしている間に、一花もまた私に話しかけた。
「せいくん、弓弦くんの大事な人とお友達になったの?」
「ああ、少し困っていたようだったから話しかけたんだ。ほら、フランスと日本ではいろいろ違うこともあるだろう? それで話しかけたら今年の春から桜城大学に通うらしくてね、私の後輩だから仲良くなったんだ」
「そうなんだ! 一花と弓弦くんも仲良しだし、せいくんと……誰だっけ?」
「エヴァンだよ」
「そのエヴァンさんとせいくんもお友達になれたんだね」
「ああ、いい友達になれそうだよ」
私の言葉に一花は嬉しそうに笑ってエヴァンと話をしている弓弦くんに声をかけた。
「弓弦くん、せいくんとエヴァンさん。お友達になったんだって!」
「僕も今聞いた! 僕たちと一緒で嬉しいね」
「うん! ねぇ、僕たち今から真守くんが言ってたあの桜のとこに写真撮りに行くんだ! 弓弦くんたちも一緒に行こうよ!!」
「わぁ、行きたい! 行きたい!! 一緒に行っていいの?」
「もちろんだよ。ねぇ、せいくん」
「ああ、日本の桜が美しいのをたっぷりと味わってもらいたいな」
「じゃあ、パパとママも一緒に行くね」
弓弦くんは一花に誘われて、嬉しそうに私の両親と一花の両親と話をしていた彼らに桜を見に行こうと声をかけた。
私の両親と一花の両親と弓弦くんの両親はもうすっかり打ち解けているようだ。
この入学式でいい縁ができたようだな。
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