溺愛されまくりの会長令息が財閥イケメンスパダリ御曹司に見初められました

波木真帆

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おやすみの儀式

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「一花……せいくんと一緒におねんねしたかったな」

一花と櫻葉会長が眠る客間に案内し、寝室の扉の前で寂しそうにそう言われてしまったが流石に一緒に寝るのは難しい。

「その代わりにこのゾウが一花と一緒に寝てあげるよ」

少し前に、我が社のイベントでノベルティを作ることになり、人気ぬいぐるみ作家のsaraさんにお願いしたのだが、その打ち合わせで彼の工房に出かけた時に偶然見かけて連れ帰ってきたぬいぐるみだ。
あの時どうしてこんなにも惹かれてしまったのかと思っていたが、今考えればあの時から一花と出会うことを予感していたのかもしれない。

一花にゾウを渡すと、あれだけ一緒に寝たいと騒いでいたのがあっという間におとなしくなったのだ。
本当にこのゾウのおかげで助かった。

「うん。この子、せいくんに似てるから今日は我慢する! 一花、もう一年生だからね。あっ、ねぇ、このゾウさん。セイって名前つけてもいい?」

「ふふっ。私と同じ名前か。構わないよ」

「よかった。じゃあ、おやすみ、せいくん」

「ああ、一花。おやすみ」

挨拶をしたけれど、一花は私を見上げたまま離れようとしない。

「んっ? どうしたんだ? 寝ないのか?」

一花の目の高さに屈んで尋ねてみると、

「せいくん、ダメだよ! まだおやすみのチューしてないよ」

と言われたと思ったら、一花の顔が近づいてきてそのまま私の頬に一花の唇がちゅっと重なった。

「えっ……」

「ふふっ。おやすみなさい!」

一花は嬉しそうに寝室の扉を閉めて中に入って行ったが、私は突然のことにしばらくその場から動くことができなかった。

<side一花>

初めてせいくんと目が合った時、王子さまかと思った。
それくらい、かっこよくてびっくりしちゃった。

身長がすごく高いのに、一花の目の高さにしゃがんでくれてすごく嬉しかった。

パパたちとがそばにいる時に大人の人に会うのはたまにあるけれど、せいくんはパパと同じくらい優しい目をしていたから、全然怖くなかった。
膝に乗せてもらってご飯を食べさせてくれる時もずっと優しかったし、寝ちゃっても無理に起こしたりしないで寝かせてくれたし、髪も優しく洗ってもらえたし、本当に優しい。

「ねぇ、セイ。一花、せいくんが大好き!」

貸してもらった大きなゾウさんのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら、大きなベッドの上で寝転んでゴロゴロしていると、

「一花、まだ寝てなかったのか?」

とパパが入ってきた。

「セイとおしゃべりしながらパパが来るの待ってたの」

「そうか。じゃあ、寝ようか」

「うん」

セイを抱っこしてパパと寝ると、パパもセイを抱っこしているみたいに見えてなんだか可愛い。

「ねぇ、パパ」

「どうした?」

「ママ、もう寝ちゃったかな?」

「どうかな? 未知子さんとおしゃべりしているかもしれないな」

「ふふっ。そっかぁ。一花たちと同じだね」

「そうだな。一花……」

「んっ? なぁに、パパ」

「一花は、征哉くんが好きか?」

「うんっ! すっごく優しいし、王子さまみたいだから好きだよ」

「そうか……」

「でもね……」

「んっ?」

「一花はパパも大好きだよっ」

「――っ、一花」

「ふふっ。パパ……おやすみ」

「ああ、いい夢を見るんだよ」

パパがセイごと一花をぎゅっと抱きしめて、おでこにチュッとしてくれる。
いつものお約束。

ぼくはそのまま眠りについた。


「んー、おしっこ……」

トイレに行きたくて、目を覚ましたけれど

「あれ? パパ?」

隣にいたはずのパパがいない。

どこに行ったんだろうと周りを見ると、知らない部屋で怖くなってしまう。

ああ、そうだ。
ここ、せいくんのお家だった。

トイレ、どこだろう……。
そういえば……

ーお風呂に入る前にトイレに行っておこうか。

そう言ってせいくんがトイレに連れて行ってくれた。
あそこだ。

僕はセイを抱っこしたまま、ベッドを下りて寝室を出た。
しんと静まり返った部屋で、ちょっと怖い。

扉を開けて廊下に出るけれど、誰もいない。
いつもなら、二階堂さんがすぐにきてくれるのに……。

ここにはいないから仕方ないんだけど、やっぱり怖い。

どっちに行ったらいいのかもわからなくなって、セイを抱いたままペタペタと裸足でトイレを探していると、

「えっ? 一花? どうしたんだ?」

と声が聞こえた。

「あっ……せい、くん……! ふぇ……っ、うっ……」

一人じゃなくなった喜びと、安心で気づいたら僕は泣いてしまっていた。

「一花っ」

せいくんが大きな身体で包み込んでくれて、そのまま抱き上げてくれた。

「どうしたんだ? 私に教えてくれないか?」

勝手に歩き回って怒られるかと思ったけれど、その優しい口調に安心して、僕は一生懸命説明した。

「あの、ね……といれ、いきたくて……でも、ぱぱ、いなくて……といれ、わからなくて……ごめんなさい……」

「そうだったのか。悪い、一花。ちゃんとトイレの場所を説明しておけばよかったな。とりあえずトイレに行こうか」

そういうとせいくんはすぐそばにあった部屋に入って、スタスタと奥に進んで行った。

かちゃっと扉を開けて入ると、せいくんの匂いでいっぱいだ。

「ここ……」

「私の部屋だよ。ベッドの奥にトイレがあるんだ」

そう言って、僕をトイレに連れて行ってくれた。

「一人でできるか?」

「大丈夫。一花、一年生だから」

「ふふっ。そうか」

トイレを済ませて出てくると、せいくんが手を洗ってくれて

「偉かったな」

と褒めてくれる。

ああ、本当にせいくんがいてくれてよかった。

「一花が寝ていた部屋のベッドの奥にもトイレがあったんだよ」

「知らなかった……」

「私がちゃんと教えておけばよかったんだ、悪い」

「ううん、大丈夫」

「じゃあ、部屋に戻ろうか」

「一花、このベッドでおねんねしたい。だめ?」

「だが……」

「パパいなくて一人は怖いよ。ねぇ、せいくん。一緒に寝よう?」

「くっ――!」

せいくんは何故か苦しそうな表情をしていたけど、

「わかった。じゃあ一花が眠るまでな」

と言って、僕とセイを抱っこしたままベッドに横になってくれた。

「一花、おやすみ」

「せいくん、おでこにチューして」

「えっ……」

「それじゃないと眠れない」

「あ、ああ。わかった」

せいくんがおでこにちゅってしてくれて、なんだか不安な気持ちが一気に消えて行った気がした。
そして僕はやっと安心して眠ることができた。
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