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心を奪われる
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<side征哉>
なんだ、この天使は……。
「隣のせいやくんもこんにちはー!」
鈴の鳴るような声で挨拶をされて、しかも可愛い笑顔を向けられて咄嗟に返答できなかった。
昇天するというのはこういうことを言うのかもしれない。
茫然としつつも目の前の天使の姿をとらえるのに必死になっていた。
なんでこんなに私の心を掴むんだろう……。
その答えに気づくよりも前に父に挨拶を促されてハッと我に返った。
慌てて挨拶をするものの、私の意識は可愛い天使にしか向けられていない。
なんとか絞り出した私の挨拶を肴に父と櫻葉会長が言葉を交わしているが、当の私は、にっこりと笑顔を向けてくれる天使にもう夢中になってしまっている。
そんな私の状況を、父は知ってか知らずか、可愛い天使に征哉を頼むと言ってくれる。
そんなことを言って嫌われでもしたらどうするんだ! と父に文句を言いたいところだったが、
「はーい。せいやくん。一花も今度から一年生になるの! よろしくね」
天使は嫌がることもなく、私の笑顔を振りまいてくれた。
ああ、この子は本物の天使だ。
可愛くて小さな手を握るのに、天使の前にしゃがみ込み手を差し出した。
その小さな手の方が先に私の手を握ってくれる。
ああ、もう本当に可愛すぎる。
「一花くん、私も社会人一年生だから同じだな。よろしく。私のことは好きに呼んでくれていいよ」
そういうと、天使は私を『せいくん』と呼んでくれた。
誰からも呼ばれたことのない呼び方だ。
そんなことだけで嬉しく感じるなんて、私は一体どうしてしまったのだろう。
『一花』と呼んでいいかと尋ねても嫌がるそぶりもない。
ああ、この子は私のものだ。
もう誰にも渡すつもりはない。
櫻葉会長は私たちの雰囲気を嗅ぎつけたのか、昼食に誘い、引き離そうとするが、
「一花。せいくんとご飯食べたい!」
と一花の方から言ってくれる。
そう言ってくれるなら私が断る謂れもない。
一花の手を握ったまま、料理が並べられたテーブルに着く。
大人用のテーブルは一花には高すぎて座ると料理が食べにくそうだ。
「一花、ここにおいで。そうしたら食べやすいよ」
そう言って膝に乗せると、
「わぁー、せいくん! 本当だ! すごいっ! これで食べやすくなったね」
と喜んでくれる。
ああ、もう本当に可愛すぎる。
「一花、何を食べたい?」
「うーん、あっ! これ! 美味しそう!」
「じゃあ、あーんしてごらん」
「あーん」
「くっ――!!」
赤い小さな舌が見えるだけでこんなに興奮するなんて!!
こんなこと今まで一度も感じたことがないのに。
しかも相手は小学生だぞ!
自分でそう言い聞かせるが、可愛いものは可愛い。
決して手は出さないけれど、愛でるくらいは許してほしい。
一花は好き嫌いもなく、なんでもよく食べてくれた。
「せいくん、一花……もうお腹いっぱい」
「そうか、でもよく食べて偉かったぞ」
「ふふっ。一花、えらい?」
「ああ、さすが一年生だな」
そういうと、得意げな顔を見せてくれるのも可愛い。
「せいくん、一花。眠たくなっちゃった……」
「無理しないでいいよ。このまま寝たらいい」
そう言って胸に閉じ込めて背中をトントンと叩いてやると、一花はあっという間に夢の世界に落ちていった。
スウスウと可愛い寝息を立てる一花を眺めていると、
「一花、寝たのか?」
と声が聞こえた。
「はい。お腹いっぱいになったようです」
「そうか、じゃあ一花をこちらに」
櫻葉会長にそう言われれば返さないわけには行かないが、正直返したくない。
それでもさすがに父親に返さないわけにはいかなくて、櫻葉会長の腕に渡そうとするけれど、一花の手がしっかりと私の服を握っていて離そうとしない。
「仕方ないな……。もうしばらく征哉くんに任せてもいいか」
「はい。喜んで」
父と櫻葉会長が仕事をしているのを一花を腕に抱きながら見ていると、
「ふふっ。せいくん……」
一花が嬉しそうに私の名前を呼んでくれる。
ああ、もう間違いない。
一花は私の運命の相手だ。
父が母と出会ったように。
櫻葉会長が奥さまと出会ったように。
そして、磯山先生が絢斗さんと出会ったように。
これはもう運命。
父も櫻葉会長もそれがわかっているから、無理に引き離そうとしないのだ。
一生愛する人なんてできないと思っていたけれど、一花に出会ってわかった。
私はずっとこの日を待っていたんだ。
「やぁーっ、せいくんも一緒にお家に帰るの!」
「一花、わがまま言ってはいけないぞ」
「いやぁーっ、せいくんもまだ一花と一緒にいたいもん!! ねぇ、そうだよね?」
そろそろ帰らなければいけない時間にいなったからと櫻葉会長が一花を私の腕から離そうとした時、目を覚ましてしまった一花が大声で泣き始めた。
「はぁー、一花がこんなことを言い出すのは初めてだ」
きっと、一花の本能が私と離れたくないと言っているのだろう。
「櫻葉さん、無理に引き離しては一花くんが可哀想だ。どうだろう、櫻葉さんも一緒に我が家に泊まっては?」
「ですが……」
「なぁ、一花くんも征哉の家に泊まりたいだろう?」
「わぁー! 一花、征哉くんのお家に行く!! 貴船のおじちゃま、ありがとう!!」
さっきの涙は何処へやら。
あっという間に満面の笑顔を見せてくれる。
「一花には勝てないな……」
ポツリと呟いた櫻葉会長の言葉に私も同意した。
きっと私も一生一花に勝てることはないだろう。
だが、それでいいんだ。
一生一花の笑顔だけを見ていたいのだから。
なんだ、この天使は……。
「隣のせいやくんもこんにちはー!」
鈴の鳴るような声で挨拶をされて、しかも可愛い笑顔を向けられて咄嗟に返答できなかった。
昇天するというのはこういうことを言うのかもしれない。
茫然としつつも目の前の天使の姿をとらえるのに必死になっていた。
なんでこんなに私の心を掴むんだろう……。
その答えに気づくよりも前に父に挨拶を促されてハッと我に返った。
慌てて挨拶をするものの、私の意識は可愛い天使にしか向けられていない。
なんとか絞り出した私の挨拶を肴に父と櫻葉会長が言葉を交わしているが、当の私は、にっこりと笑顔を向けてくれる天使にもう夢中になってしまっている。
そんな私の状況を、父は知ってか知らずか、可愛い天使に征哉を頼むと言ってくれる。
そんなことを言って嫌われでもしたらどうするんだ! と父に文句を言いたいところだったが、
「はーい。せいやくん。一花も今度から一年生になるの! よろしくね」
天使は嫌がることもなく、私の笑顔を振りまいてくれた。
ああ、この子は本物の天使だ。
可愛くて小さな手を握るのに、天使の前にしゃがみ込み手を差し出した。
その小さな手の方が先に私の手を握ってくれる。
ああ、もう本当に可愛すぎる。
「一花くん、私も社会人一年生だから同じだな。よろしく。私のことは好きに呼んでくれていいよ」
そういうと、天使は私を『せいくん』と呼んでくれた。
誰からも呼ばれたことのない呼び方だ。
そんなことだけで嬉しく感じるなんて、私は一体どうしてしまったのだろう。
『一花』と呼んでいいかと尋ねても嫌がるそぶりもない。
ああ、この子は私のものだ。
もう誰にも渡すつもりはない。
櫻葉会長は私たちの雰囲気を嗅ぎつけたのか、昼食に誘い、引き離そうとするが、
「一花。せいくんとご飯食べたい!」
と一花の方から言ってくれる。
そう言ってくれるなら私が断る謂れもない。
一花の手を握ったまま、料理が並べられたテーブルに着く。
大人用のテーブルは一花には高すぎて座ると料理が食べにくそうだ。
「一花、ここにおいで。そうしたら食べやすいよ」
そう言って膝に乗せると、
「わぁー、せいくん! 本当だ! すごいっ! これで食べやすくなったね」
と喜んでくれる。
ああ、もう本当に可愛すぎる。
「一花、何を食べたい?」
「うーん、あっ! これ! 美味しそう!」
「じゃあ、あーんしてごらん」
「あーん」
「くっ――!!」
赤い小さな舌が見えるだけでこんなに興奮するなんて!!
こんなこと今まで一度も感じたことがないのに。
しかも相手は小学生だぞ!
自分でそう言い聞かせるが、可愛いものは可愛い。
決して手は出さないけれど、愛でるくらいは許してほしい。
一花は好き嫌いもなく、なんでもよく食べてくれた。
「せいくん、一花……もうお腹いっぱい」
「そうか、でもよく食べて偉かったぞ」
「ふふっ。一花、えらい?」
「ああ、さすが一年生だな」
そういうと、得意げな顔を見せてくれるのも可愛い。
「せいくん、一花。眠たくなっちゃった……」
「無理しないでいいよ。このまま寝たらいい」
そう言って胸に閉じ込めて背中をトントンと叩いてやると、一花はあっという間に夢の世界に落ちていった。
スウスウと可愛い寝息を立てる一花を眺めていると、
「一花、寝たのか?」
と声が聞こえた。
「はい。お腹いっぱいになったようです」
「そうか、じゃあ一花をこちらに」
櫻葉会長にそう言われれば返さないわけには行かないが、正直返したくない。
それでもさすがに父親に返さないわけにはいかなくて、櫻葉会長の腕に渡そうとするけれど、一花の手がしっかりと私の服を握っていて離そうとしない。
「仕方ないな……。もうしばらく征哉くんに任せてもいいか」
「はい。喜んで」
父と櫻葉会長が仕事をしているのを一花を腕に抱きながら見ていると、
「ふふっ。せいくん……」
一花が嬉しそうに私の名前を呼んでくれる。
ああ、もう間違いない。
一花は私の運命の相手だ。
父が母と出会ったように。
櫻葉会長が奥さまと出会ったように。
そして、磯山先生が絢斗さんと出会ったように。
これはもう運命。
父も櫻葉会長もそれがわかっているから、無理に引き離そうとしないのだ。
一生愛する人なんてできないと思っていたけれど、一花に出会ってわかった。
私はずっとこの日を待っていたんだ。
「やぁーっ、せいくんも一緒にお家に帰るの!」
「一花、わがまま言ってはいけないぞ」
「いやぁーっ、せいくんもまだ一花と一緒にいたいもん!! ねぇ、そうだよね?」
そろそろ帰らなければいけない時間にいなったからと櫻葉会長が一花を私の腕から離そうとした時、目を覚ましてしまった一花が大声で泣き始めた。
「はぁー、一花がこんなことを言い出すのは初めてだ」
きっと、一花の本能が私と離れたくないと言っているのだろう。
「櫻葉さん、無理に引き離しては一花くんが可哀想だ。どうだろう、櫻葉さんも一緒に我が家に泊まっては?」
「ですが……」
「なぁ、一花くんも征哉の家に泊まりたいだろう?」
「わぁー! 一花、征哉くんのお家に行く!! 貴船のおじちゃま、ありがとう!!」
さっきの涙は何処へやら。
あっという間に満面の笑顔を見せてくれる。
「一花には勝てないな……」
ポツリと呟いた櫻葉会長の言葉に私も同意した。
きっと私も一生一花に勝てることはないだろう。
だが、それでいいんだ。
一生一花の笑顔だけを見ていたいのだから。
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