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運命の出会い
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「史紀、どうしたんだ? どうしてお前がここにいる?」
私の言葉にハッと我に返った史紀は、一気に私の部下に意識が戻ったようだ。
「あ、いえ。会長がそろそろお越しになる頃だと思いまして、連絡事項を伝えにまいりました」
「連絡事項? なんだ?」
「本日、貴船会長がお越しになるご予定ですが、ご子息の征哉さんもご一緒されるそうです」
「征哉くんがどうして一緒に?」
「先日無事に司法修習を終えられて、春からは次期総帥として勉強されるので会長にご挨拶なさりたいそうです」
「征哉くんが社会人になるのか。よその子の成長は早いというが本当だな」
「パパー、せいやくんって、誰?」
「そうか、一花はまだ会ったことがなかったかな」
桜城大学医学部に通っていた征哉くんは、一花が生まれた頃はまだ高校生で海外留学をしていた。
日本に戻って大学に入学してからは医学部に通いながら司法試験の勉強に勤しむというかなり忙しい毎日を過ごしていた。
大学二年次に司法試験に合格してからは今度は医学部の勉強をしながら、経済学の勉強も始め貴船コンツェルンの次期総帥としての実力をメキメキと備えてきた。
そして大学卒業後に司法修習に入り、この度無事に終えたようだ、
貴船会長にとっては自慢の息子に違いない。
「征哉くんは、玄哉会長の息子さんだよ」
「ええー、そうなんだ! 一花、早く会いたい!! どんな人?」
「私もしばらく会っていないが、いい青年に成長しているだろうな。一花のいいお兄ちゃん的存在になるかもしれないな」
「ふみくんみたいな?」
「ああ、そうだな」
「わぁー、会えるの楽しみ!!」
大喜びする一花を微笑ましく思いながら史紀に視線を向けると、
「あの、会長。それで今日はどうして一花くんが? 奥さまに何かありましたか?」
と心配そうな表情で問いかけられた。
「ああ、そうだったな。麻友子は元気だから心配しないでいい」
「あのねー、ママはみちこちゃんと旅行なの」
「そうか、旅行なのか」
「シッターの佐和さんが体調不良だというから、一花は私が見ることにしたんだ」
「一花が、パパのお仕事の手伝いするんだよ! ねぇ、パパ」
「ああ、頼むよ」
「任せといて!!」
「ふふっ」
「ははっ」
得意げな一花の表情がたまらなく可愛くて、史紀と顔を見合わせて笑ってしまった。
一花を部屋に連れて行き、初めて腕から下ろすと、嬉しそうに窓際に走っていく。
ここの窓は外には出られないから安心だな。
「うわぁー、下に見える人がみんなありさんみたいに小さいよ」
「ふふっ。一花、景色を楽しんだらこっちにおいで」
「はーい。何かお手伝いする?」
「ああ、一花。この書類の上に書いてあるこの数字、読めるか?」
「もう! パパ! 一花はもうすぐ一年生だよ! それくらいちゃんと読めるもん!」
「そうか。じゃあ、これを1から10までの数字の通りに並べてくれるか?」
「はーい!」
一花に並べてもらう書類はもちろん機密書類の類ではない。
それでもこうして責任を持って並べてもらうことが大事なんだ。
「パパー、できたよ!」
「おお、さすが一花。見せてごらん」
確認すると、ちゃんと綺麗に並べられている。
「よくできたな。じゃあ、今度はここにハンコを押してもらおうか」
「はーい!」
こうして幾つかの仕事をやってもらっているうちに、あっという間に昼食の時間になった。
「一花、そろそろ貴船会長と征哉くんがくるから、応接室に移動しようか」
「ここで会うんじゃないの?」
「食事が届くからそこに移動するんだ」
「わぁー、みんなでお弁当だね! せいやくん、どんな人かなー」
私が征哉くんと呼ぶものだから、一花もせいやくんと呼んでしまっているが、本人から何か呼び名を指定してくれるだろう。
『貴船のおじちゃま』も『みちこちゃん』もどちらもお二人の意向のままだからな。
本当に一花は誰からでも可愛がられる可愛い子だ。
「じゃあ、一花。行こうか」
抱っこして連れて行こうとすると、
「パパと一緒に歩きたい!」
と言ってくれるが、きっと久しぶりに会う貴船会長にまだ赤ちゃんのままだと思われたくないのだろう。
そんなところが垣間見れて実に楽しい。
一花の手をとって一緒にエレベーターに乗り込み、ここより五階下に降り、応接室に向かった。
「なんだかドキドキしちゃうね」
「一花にとって征哉くんは初めて会う人だからな。だが、緊張することはない。いつも通り元気に挨拶したらいいからな」
「はーい。ねぇ、パパー。このウサギ耳、可愛いから見えるようにしたほうがいいかな? そのほうがウサギだってわかっていいかも」
「パパはどちらでも可愛いと思うが、一花の綺麗な髪が見えたほうがいいんじゃないか?」
「そうかなー? じゃあ、そうするー!」
ウサギ耳のフードを被ればもちろん可愛いから見せびらかせたいと思う。
だが、そんな可愛い姿を他の誰にも見せたくないのも同じくらい思うんだ。
それが可愛い子どもを持つ父心とでもいうのか。
とりあえずは、一花の可愛いウサギ耳姿を貴船会長と征哉くんに見せることは阻止できたな。
一花と二人で待っていると、扉を叩く音が聞こえる。
きた!!
「どうぞ」
と声をかけると、ゆっくりと扉が開いた。
「いや、ご無沙汰しておりましたな、櫻葉さん」
「いえ、こちらこそご無沙汰ばかりで。今日はお越しいただき恐縮です」
「急に息子を連れてきてしまい、申し訳ない。息子がどうしても櫻葉さんに挨拶をしておきたいと申すものでな」
「いえ。私も今日は息子を同伴しておりますので同じですよ」
「おお、可愛らしい子がいると思ったら、一花くんだったか」
「貴船のおじちゃま。こんにちはー」
「すっかり大きくなって、お兄ちゃんになったな」
ぺこりと頭を下げて挨拶をする可愛い一花の姿に、貴船会長は眦を下げている。
「隣のせいやくんもこんにちはー」
「すみません、私が征哉くんと呼んでいたもので」
「いやいや可愛い子に呼ばれて息子も喜んでおります。ほら、征哉。櫻葉会長と御子息に挨拶しないか」
そう言って、前に押し出された彼は一花を見つめたまま微動だにしない。
長身で目鼻立ちの整った容姿の彼は、私が知っている征哉くんよりもさらに凛々しく成長していた。
「征哉っ」
「あっ、はい。失礼いたしました。櫻葉会長、ご無沙汰しております。おかげさまで無事に司法修習を終え、四月から父の元で学ぶこととなりました」
「ははっ。征哉くんのような素晴らしい御子息が跡継ぎで実に羨ましい。うちの一花にも征哉くんのようになって欲しいものですよ」
「いやいや、一花くんのような可愛らしい息子さんで羨ましいのはこちらですよ。一花くん、征哉を頼むよ」
「はーい。せいやくん。一花も今度から一年生になるの! よろしくね」
一花の方から手を差し出すとは珍しい。
いつもは人見知りで私や麻友子の後ろに隠れているというのに。
一花の差し出した手を握るのに、征哉くんはその場にしゃがみ込んで一花と目線を合わせてくれた。
それだけでも優しい男だ。
「一花くん、私も社会人一年生だから同じだな。よろしく。私のことは好きに呼んでくれていいよ」
「ふふっ。おんなじ? ねー、じゃあ、せいくんって呼んでいい?」
「ああ、いいよ。私は一花と呼んでいいかな?」
そう言って優しく手を握ると、一花は嬉しそうに
「うん、いいよ。せいくん」
と笑った。
その二人の幸せそうな表情になんともいえない感情が込み上げてきて心配になってしまう。
「い、一花。挨拶も終わったし、そろそろお昼にしようか。美味しい食事が来ているぞ」
「わぁー、ご飯!」
いつもの笑顔で私を見てくれてホッとして、
「じゃあ一花。おいで」
と手を取ろうとすると、
「一花。せいくんとご飯食べたい!」
と言い出した。
「いや、征哉くんも困るだろう。なぁ征哉くん」
「いえ。私は構いません。一花、一緒に食べようか」
「わぁーい!!」
征哉くんは一花の手を握り、そのままテーブルに進んで行った。
私は茫然としてその姿を見送るしかできない。
ハッと我に返り、貴船会長に目を向けると貴船会長もまた茫然と二人の様子をみつめている、
「貴船会長っ、どうかされましたか?」
「あっ、いえ。うちの征哉があのような態度を見せるのは初めてで驚いてしまいました」
「というと?」
「お恥ずかしい限りですが、征哉は今まで誰にも興味を持ったことがないのです。もちろん、女性とのお付き合いも私の知る限り皆無です。それどころかそういうことから避けていた節があるというのに、一花くんへのあの態度に驚いてしまいまして……。もしかしたら、いや……まさか……」
貴船会長が言わんとしていることが伝わってきて、私もまさかという気持ちを隠せない。
とはいえ、一花はまだ幼い子どもだ。
かたや25歳の征哉くんの相手には決してならない……はずだ。
そうは思ってみても、あっという間に膝に乗せ、楽しそうにしている二人を見ると、無理やりに引き離してはいけないような気持ちにさせられる。
もしかしたら、私が今日会社に連れてきたのが、運命の始まりだったのか……。
「櫻葉さん、今は見守るだけでしょうな。大丈夫です、うちの征哉は弁護士の資格を持っています。一花くんがどれだけ可愛くても法を犯すようなことは絶対にしませんから安心してください」
そうだな、今は貴船会長の言葉を信じるしかないか。
私たちは仲睦まじい二人を見ながら、そう願うしかなかった。
それから十年以上の時が流れて、一花が十八の誕生日を迎えた日。
一花は征哉くんの伴侶となった。
大勢の祝福を浴びながら……。
* * *
幸せな一花と家族の様子を楽しんでいただけたでしょうか。
短編予定だったので最後は早足になりましたが、もし需要があれば、征哉side、一花sideなんかも書いていけたらいいなと思っています。
本編の方の続きもどうぞお楽しみに♡
私の言葉にハッと我に返った史紀は、一気に私の部下に意識が戻ったようだ。
「あ、いえ。会長がそろそろお越しになる頃だと思いまして、連絡事項を伝えにまいりました」
「連絡事項? なんだ?」
「本日、貴船会長がお越しになるご予定ですが、ご子息の征哉さんもご一緒されるそうです」
「征哉くんがどうして一緒に?」
「先日無事に司法修習を終えられて、春からは次期総帥として勉強されるので会長にご挨拶なさりたいそうです」
「征哉くんが社会人になるのか。よその子の成長は早いというが本当だな」
「パパー、せいやくんって、誰?」
「そうか、一花はまだ会ったことがなかったかな」
桜城大学医学部に通っていた征哉くんは、一花が生まれた頃はまだ高校生で海外留学をしていた。
日本に戻って大学に入学してからは医学部に通いながら司法試験の勉強に勤しむというかなり忙しい毎日を過ごしていた。
大学二年次に司法試験に合格してからは今度は医学部の勉強をしながら、経済学の勉強も始め貴船コンツェルンの次期総帥としての実力をメキメキと備えてきた。
そして大学卒業後に司法修習に入り、この度無事に終えたようだ、
貴船会長にとっては自慢の息子に違いない。
「征哉くんは、玄哉会長の息子さんだよ」
「ええー、そうなんだ! 一花、早く会いたい!! どんな人?」
「私もしばらく会っていないが、いい青年に成長しているだろうな。一花のいいお兄ちゃん的存在になるかもしれないな」
「ふみくんみたいな?」
「ああ、そうだな」
「わぁー、会えるの楽しみ!!」
大喜びする一花を微笑ましく思いながら史紀に視線を向けると、
「あの、会長。それで今日はどうして一花くんが? 奥さまに何かありましたか?」
と心配そうな表情で問いかけられた。
「ああ、そうだったな。麻友子は元気だから心配しないでいい」
「あのねー、ママはみちこちゃんと旅行なの」
「そうか、旅行なのか」
「シッターの佐和さんが体調不良だというから、一花は私が見ることにしたんだ」
「一花が、パパのお仕事の手伝いするんだよ! ねぇ、パパ」
「ああ、頼むよ」
「任せといて!!」
「ふふっ」
「ははっ」
得意げな一花の表情がたまらなく可愛くて、史紀と顔を見合わせて笑ってしまった。
一花を部屋に連れて行き、初めて腕から下ろすと、嬉しそうに窓際に走っていく。
ここの窓は外には出られないから安心だな。
「うわぁー、下に見える人がみんなありさんみたいに小さいよ」
「ふふっ。一花、景色を楽しんだらこっちにおいで」
「はーい。何かお手伝いする?」
「ああ、一花。この書類の上に書いてあるこの数字、読めるか?」
「もう! パパ! 一花はもうすぐ一年生だよ! それくらいちゃんと読めるもん!」
「そうか。じゃあ、これを1から10までの数字の通りに並べてくれるか?」
「はーい!」
一花に並べてもらう書類はもちろん機密書類の類ではない。
それでもこうして責任を持って並べてもらうことが大事なんだ。
「パパー、できたよ!」
「おお、さすが一花。見せてごらん」
確認すると、ちゃんと綺麗に並べられている。
「よくできたな。じゃあ、今度はここにハンコを押してもらおうか」
「はーい!」
こうして幾つかの仕事をやってもらっているうちに、あっという間に昼食の時間になった。
「一花、そろそろ貴船会長と征哉くんがくるから、応接室に移動しようか」
「ここで会うんじゃないの?」
「食事が届くからそこに移動するんだ」
「わぁー、みんなでお弁当だね! せいやくん、どんな人かなー」
私が征哉くんと呼ぶものだから、一花もせいやくんと呼んでしまっているが、本人から何か呼び名を指定してくれるだろう。
『貴船のおじちゃま』も『みちこちゃん』もどちらもお二人の意向のままだからな。
本当に一花は誰からでも可愛がられる可愛い子だ。
「じゃあ、一花。行こうか」
抱っこして連れて行こうとすると、
「パパと一緒に歩きたい!」
と言ってくれるが、きっと久しぶりに会う貴船会長にまだ赤ちゃんのままだと思われたくないのだろう。
そんなところが垣間見れて実に楽しい。
一花の手をとって一緒にエレベーターに乗り込み、ここより五階下に降り、応接室に向かった。
「なんだかドキドキしちゃうね」
「一花にとって征哉くんは初めて会う人だからな。だが、緊張することはない。いつも通り元気に挨拶したらいいからな」
「はーい。ねぇ、パパー。このウサギ耳、可愛いから見えるようにしたほうがいいかな? そのほうがウサギだってわかっていいかも」
「パパはどちらでも可愛いと思うが、一花の綺麗な髪が見えたほうがいいんじゃないか?」
「そうかなー? じゃあ、そうするー!」
ウサギ耳のフードを被ればもちろん可愛いから見せびらかせたいと思う。
だが、そんな可愛い姿を他の誰にも見せたくないのも同じくらい思うんだ。
それが可愛い子どもを持つ父心とでもいうのか。
とりあえずは、一花の可愛いウサギ耳姿を貴船会長と征哉くんに見せることは阻止できたな。
一花と二人で待っていると、扉を叩く音が聞こえる。
きた!!
「どうぞ」
と声をかけると、ゆっくりと扉が開いた。
「いや、ご無沙汰しておりましたな、櫻葉さん」
「いえ、こちらこそご無沙汰ばかりで。今日はお越しいただき恐縮です」
「急に息子を連れてきてしまい、申し訳ない。息子がどうしても櫻葉さんに挨拶をしておきたいと申すものでな」
「いえ。私も今日は息子を同伴しておりますので同じですよ」
「おお、可愛らしい子がいると思ったら、一花くんだったか」
「貴船のおじちゃま。こんにちはー」
「すっかり大きくなって、お兄ちゃんになったな」
ぺこりと頭を下げて挨拶をする可愛い一花の姿に、貴船会長は眦を下げている。
「隣のせいやくんもこんにちはー」
「すみません、私が征哉くんと呼んでいたもので」
「いやいや可愛い子に呼ばれて息子も喜んでおります。ほら、征哉。櫻葉会長と御子息に挨拶しないか」
そう言って、前に押し出された彼は一花を見つめたまま微動だにしない。
長身で目鼻立ちの整った容姿の彼は、私が知っている征哉くんよりもさらに凛々しく成長していた。
「征哉っ」
「あっ、はい。失礼いたしました。櫻葉会長、ご無沙汰しております。おかげさまで無事に司法修習を終え、四月から父の元で学ぶこととなりました」
「ははっ。征哉くんのような素晴らしい御子息が跡継ぎで実に羨ましい。うちの一花にも征哉くんのようになって欲しいものですよ」
「いやいや、一花くんのような可愛らしい息子さんで羨ましいのはこちらですよ。一花くん、征哉を頼むよ」
「はーい。せいやくん。一花も今度から一年生になるの! よろしくね」
一花の方から手を差し出すとは珍しい。
いつもは人見知りで私や麻友子の後ろに隠れているというのに。
一花の差し出した手を握るのに、征哉くんはその場にしゃがみ込んで一花と目線を合わせてくれた。
それだけでも優しい男だ。
「一花くん、私も社会人一年生だから同じだな。よろしく。私のことは好きに呼んでくれていいよ」
「ふふっ。おんなじ? ねー、じゃあ、せいくんって呼んでいい?」
「ああ、いいよ。私は一花と呼んでいいかな?」
そう言って優しく手を握ると、一花は嬉しそうに
「うん、いいよ。せいくん」
と笑った。
その二人の幸せそうな表情になんともいえない感情が込み上げてきて心配になってしまう。
「い、一花。挨拶も終わったし、そろそろお昼にしようか。美味しい食事が来ているぞ」
「わぁー、ご飯!」
いつもの笑顔で私を見てくれてホッとして、
「じゃあ一花。おいで」
と手を取ろうとすると、
「一花。せいくんとご飯食べたい!」
と言い出した。
「いや、征哉くんも困るだろう。なぁ征哉くん」
「いえ。私は構いません。一花、一緒に食べようか」
「わぁーい!!」
征哉くんは一花の手を握り、そのままテーブルに進んで行った。
私は茫然としてその姿を見送るしかできない。
ハッと我に返り、貴船会長に目を向けると貴船会長もまた茫然と二人の様子をみつめている、
「貴船会長っ、どうかされましたか?」
「あっ、いえ。うちの征哉があのような態度を見せるのは初めてで驚いてしまいました」
「というと?」
「お恥ずかしい限りですが、征哉は今まで誰にも興味を持ったことがないのです。もちろん、女性とのお付き合いも私の知る限り皆無です。それどころかそういうことから避けていた節があるというのに、一花くんへのあの態度に驚いてしまいまして……。もしかしたら、いや……まさか……」
貴船会長が言わんとしていることが伝わってきて、私もまさかという気持ちを隠せない。
とはいえ、一花はまだ幼い子どもだ。
かたや25歳の征哉くんの相手には決してならない……はずだ。
そうは思ってみても、あっという間に膝に乗せ、楽しそうにしている二人を見ると、無理やりに引き離してはいけないような気持ちにさせられる。
もしかしたら、私が今日会社に連れてきたのが、運命の始まりだったのか……。
「櫻葉さん、今は見守るだけでしょうな。大丈夫です、うちの征哉は弁護士の資格を持っています。一花くんがどれだけ可愛くても法を犯すようなことは絶対にしませんから安心してください」
そうだな、今は貴船会長の言葉を信じるしかないか。
私たちは仲睦まじい二人を見ながら、そう願うしかなかった。
それから十年以上の時が流れて、一花が十八の誕生日を迎えた日。
一花は征哉くんの伴侶となった。
大勢の祝福を浴びながら……。
* * *
幸せな一花と家族の様子を楽しんでいただけたでしょうか。
短編予定だったので最後は早足になりましたが、もし需要があれば、征哉side、一花sideなんかも書いていけたらいいなと思っています。
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