俺の天使に触れないで  〜隆之と晴の物語〜

波木真帆

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打ち合わせの日 <side晴>

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週末を隆之さんの自宅で穏やかに過ごした僕は、リュウールへと向かうための服に着替えるためにクローゼットを開けていた。

金曜日にうけた腕の痛みは、隆之さんが何度かテーピングを巻き直してくれて痛みも落ち着いたのか、クローゼットを開けるのに右腕を使ってもなんの痛みも感じなかった。
今日先生に診せたらもう大丈夫って言われるだろうなと思うと少しホッとした。

ここ最近出かける時は隆之さんがコーディネートを考えてくれていたけれど、今日は僕の感性で選んで着てくれと言われている。

田村さんが見つけてくれた本来の僕の姿をリュウールに見せたいのだというのが理由らしい。

ここ、最近隆之さんのコーディネートに慣れていたから以前の服装は自分でも子どもっぽく感じてしまう。
でもそれが自分なのだから仕方ないと言い聞かせて、クローゼットから洋服を探し、あーでもない、こーでもないと朝から悩んでいた。

ようやく着替えた今日のコーディネートは、白の無地半袖Tシャツに水色の麻素材の半袖シャツ、そしてベージュのスキニーパンツを合わせてみた。

着替えを終え、ドキドキしながらリビングへと向かった。

「隆之さん、どうですか?」

ちょっと恥ずかしくなって、おずおずと中へ進むと隆之さんは僕を見て微動だにしなかった。

「やっぱりちょっと子どもっぽ過ぎましたか?」

着替えてきた方がいいかな?
やっぱり隆之さんに選んでもらおうかな?

そんなことを思っていると、

「いや、晴。よく似合ってるよ。似合い過ぎて見惚れていた」

と褒めてくれた。

嬉しくなって、

「隆之さんのネクタイも選びましょうか?」

と尋ねたら、嬉しそうに笑って僕の手をとって寝室へと連れて行った。

僕のシャツとお揃いの水色のネクタイを選ぶと、

「晴とお揃いだな」

ってニコニコしながら、ネクタイを結んでいた。

今日はそのまま、リュウール本社で打ち合わせだ。
リュウールへと向かう車内もずっと、隆之さんに聞こえてしまうのではと思うほど心臓のドキドキが止まらない。

「ふぅーーー」

深呼吸をしていると、赤信号の時に隆之さんがそっと手を握ってくれて、

「大丈夫だよ。俺がついてるから」

と言ってくれた。
その言葉に僕は緊張が解けるのを感じた。

初めて入るリュウール本社は化粧品会社だけあって、ロビーに入った瞬間仄かに薔薇の香りが漂っていた。

この臭いがキツすぎると嫌悪感を植え付けてしまうものだろうけれど、この仄かに匂う薔薇の香りは絶妙なところを押さえているようで、心が和らぐような優雅さに良い印象を植え付ける。
リュウールに来た人はきっとこの匂いに癒され、虜となっていることだろう。

受付で隆之さんが担当者との打ち合わせの件を伝えると、受付の女性はニコニコの笑顔で隆之さんに対応していた。
僕は少し離れた場所で2人のやりとりを眺めていた。

やっぱり隆之さん、人気あるな。
あれだけ格好いいんだもん、当たり前だよね。
そんな隆之さんが僕を好きだと言ってくれるなんて今でも信じられないもん。

ふと、先日小蘭堂の会議室で隆之さんとキスをした時のことを思い出してしまい、自分の顔が真っ赤になるのを感じた。

いけない、いけない。
思い出さないようにしないと。

手で顔を仰いでいると、受付の女性との話が終わったのか隆之さんがこっちへ向かって歩いてきていた。

「晴? どうした? 空調が暑かったか? 顔が赤い」

隆之さんが当たり前のように僕の変化に気づき、僕の頬に手をやるのを受付の女性が驚きつつも晴に少し睨みをきかせているのがみえた。

ああ、きっと隆之さんのファンなんだろうな。
僕みたいなのが隆之さんにお世話してもらってるから怒っているのかもしれない。

「ううん、大丈夫です」

慌てて隆之さんの手を避けようとしたが、隆之さんはそんなのお構い無しといった様子で、僕の頭を優しく撫でてくれた。

「何かおかしなことを考えてるのかもしれないが、俺は晴のことしか見えてないからな。俺には晴だけだと言ったろう?」

そんなことを耳元で囁かれて、晴は顔の赤みがまた復活しそうな気がした。
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