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番外編
香りの悪戯 <伊織&悠真Ver.> 12
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<side周平>
伊織に大事な話があるという悠真くんを部屋に残し、私は敬介と共に部屋を出た。
そして、敬介の部屋に入りこれからのことを考えた。
「敬介、さっき悠真くんがスコーンと手作りの薔薇ジャムを食べたと話していたな?」
「はい。ここに来てまだそれしか食べてません」
「その薔薇ジャムを作った本人と連絡が取りたい。できるか?」
「えっ、あ、はい。それは兄さんに聞けばわかると思いますが、すぐに連絡したほうがいいですか?」
仕事中に連絡をするのは申し訳ないが、時間が経ちすぎると最悪な場合も考えられる。
ここはすぐにでも連絡を取ったほうがいい。
「悪いが、そうしてくれ。もし、取らないなら直接会いに行ってくる。つながったらすぐに私に代わってくれ」
「わ、わかりました」
私の様子にこれはただ事ではないと理解したのだろう。
敬介はすぐにスマホを取り出して連絡を取ってくれた。
仕事中だろうが、敬介からの連絡なら十中八九取る知成さんだ。
案の定すぐに電話がつながったようだ。
ーあ、兄さん。今、大丈夫? うん、ちょっと周平さんが兄さんと話がしたくて……うん。いいかな? じゃあ代わるね。
敬介から渡されたスマホを取るとあちらから声が聞こえてきた。
ーもしもし。
ーお仕事中に申し訳ありません。
ーいや、ちょうど休憩中だったから構わない。それより君が私に話とはなんだ?
ーその、知成さんが頂いた薔薇ジャムのことなんです。
ー薔薇ジャム? ホームスティをしていたグランヴィエ家から送ってもらったものだがそれか?
ーはい。そうです。それが手作りだと伺ったのですが本当ですか?
ーああ。あちらの庭に咲いている花びらを使って作られたものだと聞いている。市場には出回らないかなり貴重なもので出来てすぐのものを送ってもらっている。それがどうかしたのか?
ーその薔薇ジャムを作った方と直接お話がしたいのですが、連絡先をお教えいただけませんか?
ーそれは構わないが、私には話せないことか?
ー全てが終わったら必ずご報告させていただきます。ですから今は……。
ーそうか、わかった。
知成さんも大きな仕事に関わる人だ。
今はまだ外部に漏らせない状況だとわかってくれたのだろう。すぐに連絡先を教えてくれた。
お礼を言って電話を切り、私はすぐにその連絡先に電話をかけた。
今の時間ならイギリスは朝だから起きてはいるだろう。
なんとか話ができれば……という願いが届いたのか、電話がつながった。
知成さんの名前を出し、薔薇ジャムを作った人の話が聞きたいという旨を伝えると、あちらにも何か感じるものがあったのかすぐにその人に繋いでくれた。
快活そうな女性の声に少し気後れしつつも、私はこれまでの現状を伝えた。
ー女性の姿に変化? それは本当なのかしら?
ーはい。それでどうしたらそれを元に戻せるのか伺いたくてご連絡差し上げました。
ーそう言われても……そもそもあのローズジャムには人の身体を変化させるような力はないの。
ーですが、それ以外に理由がわからないのです。
ーもしかしたら、その彼はローズジャムを食べる前にヒビスクスを口にしたんじゃないかしら?
ーヒビスクス?
ーええ。稀にローズとヒビスクスを口にすると身体が反応を起こすことがあるの。どちらも魔法を持っているのよ。
ー魔法、ですか?
突然のファンタジーな内容に理解に苦しむが、イギリスという土地柄もあるのだろう。
それを簡単に否定はできない。
ーその、魔法とやらの効果を失わせるのは何か方法でもあるのですか?
ーそれなら、昔から決まってるわ。
ーえっ?
ー愛する人の力よ。愛し合えば身体は元に戻るはずよ。
ー愛し合うって……
ーふふっ。それは野暮な質問だわ。
その言葉に、それがそういう意味だとすぐにわかった。
だが、伊織はゲイだ。
いくら本能で悠真くんを愛しているとしても、女性の身体の悠真くんにそこまで深く欲情できるものか……。
着替えの時に身体に興奮したと言っていたが、もうすでに男だと理解しているだろう伊織が、二度も興奮できるかどうか……。
これは厄介なことになった。
とりあえず話してみるしかない。
電話の相手にお礼を言って電話を切ると、私は敬介を連れて事実を話すために二人のいるリビングに向かった。
部屋に入ると、すぐに伊織がやってきた。
「悠真」
呼び捨てになっているのを聞いて二人の気持ちが通じ合ったことを知った。
それならなおさらこの話を受け入れられるかどうか……。
それは二人に賭けるしかないか。
私は意を決して二人に元に戻れる方法を話した。
伊織に大事な話があるという悠真くんを部屋に残し、私は敬介と共に部屋を出た。
そして、敬介の部屋に入りこれからのことを考えた。
「敬介、さっき悠真くんがスコーンと手作りの薔薇ジャムを食べたと話していたな?」
「はい。ここに来てまだそれしか食べてません」
「その薔薇ジャムを作った本人と連絡が取りたい。できるか?」
「えっ、あ、はい。それは兄さんに聞けばわかると思いますが、すぐに連絡したほうがいいですか?」
仕事中に連絡をするのは申し訳ないが、時間が経ちすぎると最悪な場合も考えられる。
ここはすぐにでも連絡を取ったほうがいい。
「悪いが、そうしてくれ。もし、取らないなら直接会いに行ってくる。つながったらすぐに私に代わってくれ」
「わ、わかりました」
私の様子にこれはただ事ではないと理解したのだろう。
敬介はすぐにスマホを取り出して連絡を取ってくれた。
仕事中だろうが、敬介からの連絡なら十中八九取る知成さんだ。
案の定すぐに電話がつながったようだ。
ーあ、兄さん。今、大丈夫? うん、ちょっと周平さんが兄さんと話がしたくて……うん。いいかな? じゃあ代わるね。
敬介から渡されたスマホを取るとあちらから声が聞こえてきた。
ーもしもし。
ーお仕事中に申し訳ありません。
ーいや、ちょうど休憩中だったから構わない。それより君が私に話とはなんだ?
ーその、知成さんが頂いた薔薇ジャムのことなんです。
ー薔薇ジャム? ホームスティをしていたグランヴィエ家から送ってもらったものだがそれか?
ーはい。そうです。それが手作りだと伺ったのですが本当ですか?
ーああ。あちらの庭に咲いている花びらを使って作られたものだと聞いている。市場には出回らないかなり貴重なもので出来てすぐのものを送ってもらっている。それがどうかしたのか?
ーその薔薇ジャムを作った方と直接お話がしたいのですが、連絡先をお教えいただけませんか?
ーそれは構わないが、私には話せないことか?
ー全てが終わったら必ずご報告させていただきます。ですから今は……。
ーそうか、わかった。
知成さんも大きな仕事に関わる人だ。
今はまだ外部に漏らせない状況だとわかってくれたのだろう。すぐに連絡先を教えてくれた。
お礼を言って電話を切り、私はすぐにその連絡先に電話をかけた。
今の時間ならイギリスは朝だから起きてはいるだろう。
なんとか話ができれば……という願いが届いたのか、電話がつながった。
知成さんの名前を出し、薔薇ジャムを作った人の話が聞きたいという旨を伝えると、あちらにも何か感じるものがあったのかすぐにその人に繋いでくれた。
快活そうな女性の声に少し気後れしつつも、私はこれまでの現状を伝えた。
ー女性の姿に変化? それは本当なのかしら?
ーはい。それでどうしたらそれを元に戻せるのか伺いたくてご連絡差し上げました。
ーそう言われても……そもそもあのローズジャムには人の身体を変化させるような力はないの。
ーですが、それ以外に理由がわからないのです。
ーもしかしたら、その彼はローズジャムを食べる前にヒビスクスを口にしたんじゃないかしら?
ーヒビスクス?
ーええ。稀にローズとヒビスクスを口にすると身体が反応を起こすことがあるの。どちらも魔法を持っているのよ。
ー魔法、ですか?
突然のファンタジーな内容に理解に苦しむが、イギリスという土地柄もあるのだろう。
それを簡単に否定はできない。
ーその、魔法とやらの効果を失わせるのは何か方法でもあるのですか?
ーそれなら、昔から決まってるわ。
ーえっ?
ー愛する人の力よ。愛し合えば身体は元に戻るはずよ。
ー愛し合うって……
ーふふっ。それは野暮な質問だわ。
その言葉に、それがそういう意味だとすぐにわかった。
だが、伊織はゲイだ。
いくら本能で悠真くんを愛しているとしても、女性の身体の悠真くんにそこまで深く欲情できるものか……。
着替えの時に身体に興奮したと言っていたが、もうすでに男だと理解しているだろう伊織が、二度も興奮できるかどうか……。
これは厄介なことになった。
とりあえず話してみるしかない。
電話の相手にお礼を言って電話を切ると、私は敬介を連れて事実を話すために二人のいるリビングに向かった。
部屋に入ると、すぐに伊織がやってきた。
「悠真」
呼び捨てになっているのを聞いて二人の気持ちが通じ合ったことを知った。
それならなおさらこの話を受け入れられるかどうか……。
それは二人に賭けるしかないか。
私は意を決して二人に元に戻れる方法を話した。
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