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番外編
香りの悪戯 <伊織&悠真Ver.> 9
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<side伊織>
――ごめんなさい、私は……
私の一世一代の告白を即座に断られてしまった。
くっ! 自分の思いを受け入れてもらえないことがこんなにも苦しいことだなんて思いもしなかった。
その上、私が勝手に思いを寄せてしまったがために、彼女を泣かせることになってしまって辛い。
彼女を抱きしめて落ち着かせてやりたいが私にはその資格もない。
涙を流す彼女を前に何もできずにいると、
「何か声が聞こえて……えっ? どうしたの? なんで泣いてるの?」
リビングから出てきた浅香さんが涙を流す彼女を見て、心配そうに駆け寄ってきた。
「安慶名さん、何があったんですか?」
「あ、あの……それは……」
「どうしたんだ? 伊織、ちゃんと説明しろ!」
どう話していいか困っていると続いて出てきた周平さんに詰め寄られてしまった。
「その、私が……不用意なことを言って彼女を傷つけて泣かせてしまったんです。すみません」
「伊織が? 傷つけて泣かせた? 本当なのか?」
「本当です。申し訳ありません」
早くこの場をおさめて彼女を安心させたくて頭を下げると、
「違うんです! 僕が、本当のことを言えなかったせいで……安慶名さんは悪くないんです!」
彼女が涙を流しながら私を庇ってくれた。
浅香さんはそんな彼女を見つめてゆっくりと周平さんに声をかけた。
「すみません、周平さん。僕、ちょっと話をしてから戻るので、安慶名さんとリビングで待っててもらえませんか?」
「ああ、そうだな。わかった。伊織、こっちに来るんだ」
周平さんに声をかけられ、私は一緒にリビングに入った。
ソファーに座るように促されて、私は失意のどん底に沈みながらも腰をかけた。
「彼女に不用意な言葉を言ったと話していたが、正直に何を言ったんだ?」
「その……彼女に、告白したんです」
「告白……好きになったのか? だが彼女は女性だろう? お前はゲイじゃなかったか?」
「はい。ずっとそう思って生きてきましたし、今でもそうだと思っています。でも、彼女は違うんです」
そう。彼女は特別なんだ。
彼女と一緒にいるだけで今まで感じたことのない感情が溢れてくる。
「彼女の身体に興奮したのか?」
「興奮しました。でも、彼女の身体というよりは、彼女自身にです。なんと説明したらわかってもらえるかわかりませんが、彼女だけが特別で……もし、彼女が男性として現れたとしても好きになったと自信をもって言えます。それくらい。特別な存在なんです」
「そうか……じゃあ、それは伊織の本能が選んだものかもしれないな」
「えっ? それって、どういう意味ですか?」
「実はな、彼女は……」
<side 悠真>
せっかく好きだと言ってもらえたのに、安慶名さんが好きになったのは女性の私。
だから気持ちを受け入れるわけにはいかない。
本当のことを早く言わなければいけないのに、怖くてそれもできない。
安慶名さんから嫌悪に満ちた表情を向けられるのが怖いんだ。
安慶名さんにしてみたら、今までお付き合いされた人もいなくてようやく告白した相手が実は男だったなんてトラウマでしかないだろう。
どうしていいかわからず、涙が止まらない。そこにリビングから敬介さんが出てきて泣いている私をみて駆け寄ってきた。
こんな状況を見れば安慶名さんが責められてしまう。
大人な安慶名さんは私が勝手に泣き出したのに全ての罪を被るように頭を下げてしまった。
「違うんです! 僕が、本当のことを言えなかったせいで……安慶名さんは悪くないんです!」
安慶名さんのせいにしたくなくて必死に告げると、敬介さんは私の気持ちを理解してくれたのか、安慶名さんと周平さんにリビングで待っててもらうように言ってくれた。
そして敬介さんと二人になって、私たちは敬介さんの部屋に戻った。
「それで何があったの?」
二人掛けのソファーに座り、優しく尋ねられて、私は安慶名さんが好きだと言ってくれたと正直に伝えた。
「安慶名さんが優しい人だって私も思っていて、安慶名さんに告白された瞬間、それが好きだってことだって気づいたんです。でも……安慶名さんが好きなのは、今の女性になった私なんです。男の私じゃないんです。だから、告白されて嬉しいのに、受け入れることはできない。だから悲しくなって……」
「そっか。それで泣いちゃったんだね」
「安慶名さんにとってもトラウマですよ。告白した相手が本当は男だなんて……。でもこのまま隠し通すこともできないし、話したら傷つけそうで……どうしていいかわからないんです」
「悠真くんは優しいね」
「えっ? そんなこと……」
そんなことない。だって、すぐに本当のことを言えなかった。
「優しいよ。どうやったら安慶名さんが傷つかないかそれを考えてるじゃない。悠真くんの方がずっとずっと傷ついたのに」
「私は傷ついてなんか……」
「だって、好きだと自覚してすぐに女性の自分相手に好きな人を奪われたわけでしょう? 傷つかないわけないよ。だから、その気持ちをちゃんと成仏させるためにも今から本当のことを言いに行こう! 悠真くんはいつだって周りに優しいけど、たまには自分を守らないといけないんだからね!」
「わ、わかりました」
敬介さんに押し切られるように、私は安慶名さんに告白することを決めた。
全てを話して、それで受け入れてもらえたら……そんな可能性は0に近いだろうけど、やらない後悔よりはやった方がずっといい。
私は気合を入れて、敬介さんと一緒に部屋を出た。
――ごめんなさい、私は……
私の一世一代の告白を即座に断られてしまった。
くっ! 自分の思いを受け入れてもらえないことがこんなにも苦しいことだなんて思いもしなかった。
その上、私が勝手に思いを寄せてしまったがために、彼女を泣かせることになってしまって辛い。
彼女を抱きしめて落ち着かせてやりたいが私にはその資格もない。
涙を流す彼女を前に何もできずにいると、
「何か声が聞こえて……えっ? どうしたの? なんで泣いてるの?」
リビングから出てきた浅香さんが涙を流す彼女を見て、心配そうに駆け寄ってきた。
「安慶名さん、何があったんですか?」
「あ、あの……それは……」
「どうしたんだ? 伊織、ちゃんと説明しろ!」
どう話していいか困っていると続いて出てきた周平さんに詰め寄られてしまった。
「その、私が……不用意なことを言って彼女を傷つけて泣かせてしまったんです。すみません」
「伊織が? 傷つけて泣かせた? 本当なのか?」
「本当です。申し訳ありません」
早くこの場をおさめて彼女を安心させたくて頭を下げると、
「違うんです! 僕が、本当のことを言えなかったせいで……安慶名さんは悪くないんです!」
彼女が涙を流しながら私を庇ってくれた。
浅香さんはそんな彼女を見つめてゆっくりと周平さんに声をかけた。
「すみません、周平さん。僕、ちょっと話をしてから戻るので、安慶名さんとリビングで待っててもらえませんか?」
「ああ、そうだな。わかった。伊織、こっちに来るんだ」
周平さんに声をかけられ、私は一緒にリビングに入った。
ソファーに座るように促されて、私は失意のどん底に沈みながらも腰をかけた。
「彼女に不用意な言葉を言ったと話していたが、正直に何を言ったんだ?」
「その……彼女に、告白したんです」
「告白……好きになったのか? だが彼女は女性だろう? お前はゲイじゃなかったか?」
「はい。ずっとそう思って生きてきましたし、今でもそうだと思っています。でも、彼女は違うんです」
そう。彼女は特別なんだ。
彼女と一緒にいるだけで今まで感じたことのない感情が溢れてくる。
「彼女の身体に興奮したのか?」
「興奮しました。でも、彼女の身体というよりは、彼女自身にです。なんと説明したらわかってもらえるかわかりませんが、彼女だけが特別で……もし、彼女が男性として現れたとしても好きになったと自信をもって言えます。それくらい。特別な存在なんです」
「そうか……じゃあ、それは伊織の本能が選んだものかもしれないな」
「えっ? それって、どういう意味ですか?」
「実はな、彼女は……」
<side 悠真>
せっかく好きだと言ってもらえたのに、安慶名さんが好きになったのは女性の私。
だから気持ちを受け入れるわけにはいかない。
本当のことを早く言わなければいけないのに、怖くてそれもできない。
安慶名さんから嫌悪に満ちた表情を向けられるのが怖いんだ。
安慶名さんにしてみたら、今までお付き合いされた人もいなくてようやく告白した相手が実は男だったなんてトラウマでしかないだろう。
どうしていいかわからず、涙が止まらない。そこにリビングから敬介さんが出てきて泣いている私をみて駆け寄ってきた。
こんな状況を見れば安慶名さんが責められてしまう。
大人な安慶名さんは私が勝手に泣き出したのに全ての罪を被るように頭を下げてしまった。
「違うんです! 僕が、本当のことを言えなかったせいで……安慶名さんは悪くないんです!」
安慶名さんのせいにしたくなくて必死に告げると、敬介さんは私の気持ちを理解してくれたのか、安慶名さんと周平さんにリビングで待っててもらうように言ってくれた。
そして敬介さんと二人になって、私たちは敬介さんの部屋に戻った。
「それで何があったの?」
二人掛けのソファーに座り、優しく尋ねられて、私は安慶名さんが好きだと言ってくれたと正直に伝えた。
「安慶名さんが優しい人だって私も思っていて、安慶名さんに告白された瞬間、それが好きだってことだって気づいたんです。でも……安慶名さんが好きなのは、今の女性になった私なんです。男の私じゃないんです。だから、告白されて嬉しいのに、受け入れることはできない。だから悲しくなって……」
「そっか。それで泣いちゃったんだね」
「安慶名さんにとってもトラウマですよ。告白した相手が本当は男だなんて……。でもこのまま隠し通すこともできないし、話したら傷つけそうで……どうしていいかわからないんです」
「悠真くんは優しいね」
「えっ? そんなこと……」
そんなことない。だって、すぐに本当のことを言えなかった。
「優しいよ。どうやったら安慶名さんが傷つかないかそれを考えてるじゃない。悠真くんの方がずっとずっと傷ついたのに」
「私は傷ついてなんか……」
「だって、好きだと自覚してすぐに女性の自分相手に好きな人を奪われたわけでしょう? 傷つかないわけないよ。だから、その気持ちをちゃんと成仏させるためにも今から本当のことを言いに行こう! 悠真くんはいつだって周りに優しいけど、たまには自分を守らないといけないんだからね!」
「わ、わかりました」
敬介さんに押し切られるように、私は安慶名さんに告白することを決めた。
全てを話して、それで受け入れてもらえたら……そんな可能性は0に近いだろうけど、やらない後悔よりはやった方がずっといい。
私は気合を入れて、敬介さんと一緒に部屋を出た。
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