南国特有のスコールが初恋を連れてきてくれました

波木真帆

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番外編

もう一つの出会い  8

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すみません(汗)完結は次回持ち越しになりました。
楽しんでいただけると嬉しいです♡

  *   *   *


「十分くらいで着くから、適当に座ってて」

スタスタとなれた様子で運転席に向かう倉橋さんを見送って、私は右側の窓際に腰を下ろした。

私が座ったのを確認してからゆっくりと船が動き出す。船舶免許を持っていた父と船釣りに何度か行ったことはあるけれど、それも遠い昔。しかもその時の船とは比べ物にならないほど豪華な船で緊張してしまう。

ツアーで訪れた人たちもきっと私と同じような思いを抱えているだろうな。

そんなことを考えているうちにあっという間に船は島に到着した。本当に近い。
船着場にボートが停泊し、倉橋さんが運転席を離れた。

「さぁ、降りるよ」

「は、はい」

客室から出ると、途端にさっきまでとは違う空気に包まれる。

「わっ!!」

島全部が薄靄がかかっているように見えて、思わず声を上げてしまった。

「もしかして、砂川くんは何かを感じる方?」

「えっ、それって……霊的な何かですか?」

「違う、違う。霊じゃなくて、言うならば神、かな」

「神、ですか?」

「ああ、あのお宝を見たらきっと、砂川くんもここが神に守られた島だとわかるよ。きっとそれを感じたんだろうからね」

もしかしてこの薄靄のことを言っているんだろうか?
あの話ぶりからすると、きっと倉橋さんには見えているんだろうけれど、もしかしてこれは他の人には見えないものなんだろうか?
こんなにも私の目には映っているのに?

不思議に思いながら、ボートから降りると

「こっちだよ」

と声をかけられる。

ずっと先まで道が繋がっているのが見えて、これは倉橋さんの作ったものだとわかった。ツアー客のために最低限の道を確保しつつ、この道の他には手を加えられている形跡がない。自然を守るためと言っていたのはこういうところにも現れているらしい。

倉橋さんについて歩いている最中も、珍しい虫や蝶が寄ってきて感動してしまうが、きっとあの二人が一緒なら大騒ぎしているだろう。

「ふふっ」

「どうした?」

思わず大騒ぎしているのを想像して笑ってしまったのを気づかれてしまったがここで隠し事をして倉橋さんが自分のことを笑われたと勘違いさせてしまってはいけない。
だから正直にこの一人旅を決行することになった経緯について話をした。

「二人が虫や蛇が苦手だって知っていたから、それを理由にして断ったんです。今、虫が寄ってきたのを見て今一緒にいたら大騒ぎしてただろうなって思ったらおかしくなって……」

「ははっ。砂川くんもやるな。でもどちらも選ばないで正解だったよ。きっと二人はよからぬことを考えていただろうからな」

「よからぬこと、ですか? それって……」

「ああ、目的の場所に着いたぞ!」

「う、わぁーっ!!」

言葉の意味がわからなくて尋ねようとしたけれど、目の前に広がる美しい湖にもうそんなこと気にする余裕もなく見入ってしまっていた。

「まだこれからだよ」

「これから?」

綺麗な湖に太陽の光が反射してなんとも言えない美しさを見せてくれているのに、まだ何かあるの?
不思議に思いながらも美しい湖から目を離さずに見つめていると、

「ほら、来たぞ!」

という倉橋さんの声と同時に、湖面がゆっくりと様相を変えていく。

「――っ!!」

水の揺らぎが幾重にも色を変えていって言葉にできないくらいに美しい。見たことはないけれど、空を彩るオーロラよりも色鮮やかなこの湖面が美しいのではないかと思ってしまうくらいだ。

私の語彙力では到底表せそうにない美しさにただただ見入ってしまう。

「今回も綺麗だな。本当に一つとして同じ姿を見せない。だから来るたびに感動するんだ」

今日の感動を上回る感動なんてもう有り得なさそうなのに、確かめてみたいと思ってしまう自分がいる。

それからどれくらい見つめていただろうか。しばらくして、湖面はまた透明に戻っていった。その姿もまた美しい。

「砂川くん、どうだった?」

「言葉が出ないです……」

「そうだろう。私もね、ここを見つけたのは本当に偶然だったんだ。初めてこの島に足を踏み入れた時、何かに引き寄せられるような感覚を覚えてここを見つけたんだよ。その時に今の現象を見たが、それからは毎回現れるわけではなく、偶然が引き起こす現象なんだとわかり、今ではこの現象が現れる日を計算してほぼ間違いなく見つけられるようになったんだ。日に数回現れることもあって、今日も午後にもう一度見られるんだが、この時間の方がより強い現象を得られるとわかったから、この時間に連れてきたんだ。君を泊めて正解だったな」

ああ、倉橋さんはこの島に存在すべき人なんだろう。そして、倉橋さんがこの島を守るように倉橋さん自身もこの島に守られているのかもしれない。さっき見えた薄靄は私にもその資格を与えられたと言うことなんじゃないかな。そう思うとなんだか納得してしまう。そうだとしたら、私の気持ちはもう決まった。

「ありがとうございます……。あの、倉橋さんの会社に採用していただけるってお話……まだ生きてますか?」

「――っ、ああ、もちろんだよ。どうかな?」

「ぜひ、採用していただきたいです」

「そうか! ありがとう!!」

「その代わりと言っていいのかわからないんですが……」

「ああ、なんでも言ってくれ」

「年に一度でいいので、ここに案内していただけませんか? 今日のこの感動を一生忘れたくないんです」

「砂川くん……わかったよ。約束しよう。君を毎年必ずここに案内しよう。もちろん、君に大切な相手ができたらその人も一緒に」

「えっ? 大切な相手なんて……」

できるはずがない……そう思ったけれど、倉橋さんに笑顔で見つめられて、私はその言葉を飲み込んだ。

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