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番外編

もう一つの出会い  6

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「んっ……」

どうやらあのまま眠ってしまっていたらしい。

倉橋さんとの出会いから、夜まで思いがけないことの連続で疲れてしまっていたのかもしれない。

腕につけていた時計を見ると、まだ朝の四時。

この時期の西表島の日の出は大体六時前後だから、外は真っ暗だ。
その分、今頃外は月と星の光が綺麗に見えるだろうな。

もう一眠りしようかとも思ったけれど、ぐっすり寝たせいか、眠気はどこかへ行ってしまったみたい。

せっかくだからお風呂に入らせてもらおうか。
私は持ってきたリュックの中から着替えを取り出し、お風呂場に向かった。


「えっ……? これって、もしかして五右衛門風呂?」

宮古島にある実家は、お風呂好きな祖父と父のために改装をして今でこそ広いお風呂になっているけれど、私が小学生の時にはここと同じく五右衛門風呂だった。だから入り方がわからないわけではない。

でも十年ぶりか。懐かしい。
母や父、幼い真琴と一緒に入った時のことを思い出しながら、近づくと

「あれ……違う……」

見た目は五右衛門風呂そのものなのに、中身は最新式のお風呂だとわかる。

もしかしたら、これも倉橋さんがしている仕事の一つなのだろうか? そう考えると面白い。

早く浴槽に入りたいけれど、髪と身体を洗ってからだ。

お風呂場に用意されていたシャンプーを使おうか悩んだものの、倉橋さんの家のものならという安心感があり髪を洗わせてもらうと、その滑らかな質感に驚く。

「うわっ、これすごい!」

那覇のアパートで使っているシャンプーはいろんなドラッグストアを巡って、ようやく見つけたオーガニックのもの。他のと比べると割高だけど、一人暮らしを始めてすぐに節約のために買った安いものを使って頭皮が赤く腫れてしまった。祖母も母も真琴もよく似た体質をしていて、市販のものはなかなか受け付けない。
実家では祖母の作った手作り石鹸で髪も身体も洗っていたけど、送ってもらうのも申し訳なくて割高なそれを使うしかなかった。
それでも調子の悪い時には赤くなることもあり、なかなか自分の体質にぴったりなものとは巡り会えずにいた。

それだけに、このシャンプーには驚かされた。
このシャンプー……どこで売っているんだろう? 教えてもらって母さんたちにも勧めよう。

同様にボディーソープも使い心地がいい。こんなにいいものに巡り会えただけでもここにきた甲斐があったと思えるくらいに、このシャンプーとボディーソープには感動してしまった。

朝から最高の気分で広々とした湯船に浸かり、贅沢を味わってお風呂を出た。

着替えを済ませ、時計を見るともう五時になろうとしていた
確か六時出発と言っていたから、もうあっちに顔を出してもいいかもしれない。

私は必要なものを斜めがけの小さなバッグに入れて、離れを出た。
リビングに明かりが見えてホッとする。やっぱり倉橋さんももう起きているみたいだ。

「おはようございます」

声をかけると、彼はパソコンを前にしてコーヒーを飲んでいた。
邪魔だったかもしれないと思ったけれど、

「ああ、おはよう。よく眠れた?」

と朝の五時とは思えない爽やかな笑顔を向けられる。

「はい。実はあのまますぐに寝てしまっていたみたいで四時に目が覚めました」

「そうか。疲れていたんだな」

「でも、朝からお風呂を頂いたのでスッキリしました。ありがとうございます」

「いや、それならよかった」

「あの、お風呂なんですが見た目が五右衛門風呂なのは何か意図するものがあるんですか?」

「ははっ、気づいた? 若いのに五右衛門風呂だなんてよく知っていたな」

「実家の改装をする前が五右衛門風呂だったので……」

「ああ、なるほど。そういうことか。あれも私が開発したんだ。海外向けにね。見た目だけでもああいうのは人気なんだ」

やっぱり目の付け所がいいんだろうな、この人は。人が望むもの、売れるものをよくわかっている。

「そういえば、あのシャンプーやボディーソープはどうだった?」

「はい! あれはもう最高です!」

「ははっ。じゃあ、君も肌が弱くて困っていたんだろう?」

「そうなんです!! あれ、どこで買えるんですか? 祖母や母にも教えてあげたいです」

「そうか、それなら私が送っておこう。あとで実家の住所を教えてくれ」

「えっ? どういう意味ですか?」

「あれも私が開発したもので、一般販売はしていないんだ」

「そうなんですか?」

「イリゼホテルの全ての客室に常備しているものだが、あとは私が認めた国内外の顧客向けにのみ販売しているくらいかな。だから砂川くんが気に入ったなら、これからは全て私が手配しよう」

「もしかして、ものすごく高価だったりしますか?」

いいものだということはよくわかっているけれど、そこまでの限定販売ならかなりの金額でないと採算は取れないだろう。あれだけ上質なものなら当然だ。

「いや、砂川くんが我が社で働いてくれるなら無料で準備しよう。君のところにも実家にもね」

「えっ? 無料って、そんなこと……」

「構わないよ。君が手に入るのならね」

「――っ!!!」

「ああ、勘違いしないでくれ。君に好意があるわけじゃない。純粋に社員としての君の力が欲しいだけだ。それだけの実力をきみは持っていると思っている」

倉橋さんの言葉に一瞬驚いたけれど、私の実力を認めてくれていることに関しては嬉しく思う自分がいた。
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