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番外編

もう一つの出会い  4

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今回で終わらせるつもりでしたが長くなりそうなので次回50話で終わりを目指します。
楽しんでいただけると嬉しいです♡

  *   *   *


「どうだった?」

「はい。とっても興味深くて楽しかったです」

「そうか、それなら案内した甲斐があったな」

「あの……倉橋社長」

「そんなに堅苦しくしなくていいよ。砂川くんはまだ大学生なんだから。それでどうかした? 何か気になることがあるのなら、なんでも聞いてくれていいよ」

優しい笑顔を向けられて、ホッとする。

「はい。あの、倉橋さんは桜城大学のOBですよね?」

「よく知ってるな」

「イギリスの経済学の雑誌に掲載されていた論文拝読しました。素晴らしかったです」

「まさかここで褒められるとは思わなかったな。もしかして、砂川くんは与那嶺教授を知っているかな?」

「えっ? 与那嶺教授は私のゼミの教授です」

「そうか、やっぱりな」

「やっぱり?」

倉橋さんの言葉に引っ掛かりを覚えて鸚鵡返しすると、

「私のゼミの志良堂教授と与那嶺教授は高校の先輩後輩の仲らしくてね、同郷なこともあってよく連絡を取り合うそうなんだよ。先日、志良堂教授と呑んだ時に、琉桜りゅうおう大学始まって以来の才子がうちのゼミにいると興奮気味に話していたと教えてもらったんだ。おそらくそれは砂川くんのことだろう?」

と言われてしまった。

「そんな……っ、私以外にも優秀な学生はいっぱいいますよ」

「そんな謙遜しなくてもいいよ。砂川くんがどれだけ優秀かは話をしていればすぐにわかるからね。いやぁ、砂川くんと出会えてラッキーだったな」

「ラッキー? どういうことですか?」

「砂川くんをうちの会社に採用したいということだよ」

「えっ? そんなっ、いいんですか?」

「こちらから入ってほしいとお願いしたいくらいだよ。まだどこにも内定は決まってない?」

「はい。まだ沖縄で就職するか本土に行こうか迷っていたところだったので……」

「それなら本当にちょうどよかった。砂川くんみたいな優秀な学生なら就活を始めたらすぐに内定をもらえただろうからな。卒業後はぜひうちで働いてもらえないか?」

倉橋さんの論文を見て、こんなすごい人と一緒に仕事ができたらと夢を見ていた。
正直言って、その憧れの存在である倉橋さんが手かげたここの仕事にはかなり興味がある。
まさかその人に誘われるなんて……願ってもないチャンスだ。

でも慣れない西表島での生活に順応できるかどうか……。
同じ島でも宮古島とここでは全く違うし。

「えっと、あの……」

「悪い。人生の大きな決断をここですぐにしろというのは酷なことだな。とりあえず観光に案内しよう。その間に考えてくれたらいい」

そうだ。
まだ私はこの島を何も知らない。
それなのに、順応できるかなんてそんなこと考えるのもおかしい。

「はい。よろしくお願いします」

倉橋さんは早速私を連れて外に出て、おそらく社用車ではなさそうな格好良い車に乗せてもらい、倉橋さん自ら島内を巡ってくれた。
もちろんこんなのは申し込んだ観光ツアーには入っていない。
西表島は人が住んでいる地区を離れると一気に自然にあふれる。

「昼間でもイリオモテヤマネコが出ることはあるからね、ここのあたりはゆっくり走るよ」

倉橋さんはこの自然をそのまま受け入れている感じがする。
だからこそ観光ツアー会社を作ったのかもしれない。

「こんなに特別に案内してくださって申し訳ないです」

「いや、私も下心があるからね」

「えっ?」

「ははっ。この島のいいところを見せてまわれば砂川くんが就職を希望してくれるかもしれないだろう?」

冗談ぽく言いながらも、私にこの島の美しい場所を余すところなく見せてくれる。

「今日の宿は西表? それとも石垣で考えてる?」

「ツアー終わったら石垣に戻ろうと思ってたんですけど、ホテルは今の時期はすぐ取れると言われたので、まだ取ってません」

「そうか、なら今日は私の家に泊まればいい」

「えっ? 倉橋さんのご自宅、ですか?」

「ああ。だが心配しなくていい。同じ敷地内にある離れを貸すから、そこは鍵もかかるし、風呂もトイレもあるから問題ないよ」

「でもそこまで甘えるわけには……」

「明日の朝から、連れていきたい場所があるんだ。今からでも良いんだが、明日の朝の方がベストタイミングだと思う」

「それって、どこですか?」

「それは明日のお楽しみだよ。うちに泊まってくれるね?」

倉橋さんが連れて行ってくれるというのなら、ここで帰るのは勿体無い気がした。

「それじゃあ、お邪魔します」

気づけば私の口はそう伝えてしまっていた。
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