上 下
34 / 68
番外編

運命

しおりを挟む
今連載中の
『溺愛弁護士の裏の顔 ~僕はあなたを信じます』につながる部分のお話です。
未読の方はそちらにも目を通していただくとわかりやすいかもしれません。


  *   *   *

西表島にある倉橋さんの会社の顧問弁護士を打診されたとき、心はすでに決まっていた。
それでもわざわざ西表島に出向いたのは、何かしらの力が働いていたとしか言いようがない。

私はその旅行で最愛を見つけた。

西表島に渡る前に、石垣島のホテルに宿泊した私のもとに現れた美しい男性……彼は倉橋さんの会社の社員だった。

社員といっても、忙しい倉橋さんの代理として社長を任されるほどの人材。
彼の物腰の柔らかさが私の心を癒してくれた。

彼と過ごす時間は実に穏やかで、私はすぐに心惹かれた。
元々男性しか好きになれない私と違って、彼はきっとノーマルだろう。
そう思っていたのに、彼は私を受け入れてくれた。

そして、この沖縄滞在の間に私たちは生涯を共に過ごす相手としてお互いを認識するようになった。

私にとって彼は初めて愛した人で、初めて繋がった相手。
そして、彼もまた私が初恋で、初めての相手だといってくれた。

そんな彼を残して、帰京するのは本当に心苦しかった。
だが、彼は西表に大事な仕事があり、私も東京で仕事がある。

身も心も繋がった今、彼と離れることは半身をもがれるような思いだが、これから先も一緒にいたいのなら手順を踏まなければいけない。

そう、勢いのままに行動してはいけないのだ。

泣く泣く彼と離れ、東京行きの飛行機に乗ろうとしたとき、倉橋さんに出会った。
私が最愛の彼と出会えたのも、そして、ゆくゆくは沖縄で生活できるように話を進めてくれたのも彼。

その彼に何かお礼をしたいと伝えると、彼は

――仕事柄情報収集が必要なケースが多々ありましてね。そんな時に、なかなかこれといった調査員に出会えずに困っているんですよ。金には糸目はつけないので、欲しい情報以上に調査してくださる方の伝手があれば……

といっていた。

彼は色々な事業に投資しているようだが、いつでも彼の目に狂いはない。
そんな彼が必要とする調査員ならかなりの実力が求められる。

きっと成瀬なら、倉橋さんのお眼鏡に適うだろうな。
そう確信して、倉橋さんに彼の名刺を渡した。

彼が本業の仕事の他にやっている裏の仕事専用の名刺。

この名刺は彼から、紹介したい客がいたら渡してくれと頼まれていたものだ。

――伊織の人の見る目を信頼しているから。

そういってくれた彼の信頼を裏切らないよう、私が信頼した相手しか渡したことはない。

きっと倉橋さんは彼に連絡するだろう。
その前に一度報告しておくか。

私に恋人ができたことも含めてな。


用事を終わらせ、東京の自宅に戻り宗一郎さんと皐月さんに恋人ができた報告をした。
私の相手が男性だったことも全く気にしていない様子の皐月さんには驚いたが、ホッとした。

その後、悠真に電話をかけようとして、先に成瀬に電話をかけた。
倉橋さんが成瀬に連絡する前にかけておいた方がいいと思ったのだ。

電話は3コールほど鳴って繋がった。

ー悪い、忙しかったか?

ーいや。少しなら大丈夫だ。どうした? 夜に電話なんか珍しいな。

ーああ、実は、お前のあの・・名刺を渡したんだ。だから先に連絡をと思って。

ーそうか。誰か、聞いてもいいか?

ーああ。俺が顧問弁護士をしている会社の社長で倉橋祐悟さんという方だ。

ー ――っ! そうか。それはまた偶然だな……。

ーんっ? どういう意味だ?

ーいや、こっちの話だ。それで、調査員を探してるって?

ーああ。彼はかなりのやり手だからな。いろんな情報を仕入れたいんだろう。

ーなるほどな。わかった、彼なら大丈夫だ。

ーあと、もう一つ……大事な報告があるんだが……。

ーどうした? もったいぶって……。

ーいや、実は……恋人、ができた……。

ーえっ? それは、驚いたな。お前が人を好きになったのか?

ーああ、俺も驚いてる。だが、彼に出会った瞬間、すぐに心惹かれたんだ。

ーへぇー。お前から惚気られるとは思ってなかったな。それでどんな人なんだ? 

ー実はさっき話した倉橋さんの会社の人なんだよ。偶然石垣で同じ宿に泊まることになってな。

ー…………そうか。なるほど……よかったな。

ーああ。いつか、お前と氷室にも紹介したいが、彼は西表に住んでるからなかなか難しくて……だが、いつかは必ず紹介するから。

ーああ、楽しみにしているよ。多分、すぐに会えると思うけどな……。

ーんっ? 今、なんていったんだ?

ーいや、なんでもない。おめでとう。

ーああ、ありがとう。じゃあ、倉橋さんの方は頼むな。

そういって電話を切った。

まさかその時には俺たちの間にすでに運命が繋がっていただなんて思いもしなかった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...