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番外編
可愛いあの子を手に入れるために……
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優一が真琴を初めて見つけた時のお話が読みたいというリクエストをいただいたので書いてみました。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
医学生だった頃、お世話になった教授から久しぶりに連絡があった。
この教授は、俺が大学時代に卒業試験と医師国家試験の合間に、気分転換に書いていた論文に共感してくれて、俺が卒業後もずっとその研究を続けていた。
今回、それが実を結び世界的に有名な学術誌で発表されることとなり、研究の発起人である俺の承諾書を取りたいとのことだった。いくら研究自体が教授の手柄だとしても俺の論文を元にしているから承諾が必要となり、それがなければ後々盗作騒ぎになってしまう。そんなトラブルを避けるためにもこうした承諾書は必要なのだ。
そんな理由で俺は久しぶりに桜城大学に足を運んだ。
これが卒業して初めてというわけではない。
これまでにも何度かこのような承諾書の依頼や、学生たちへの特別講座などを頼まれて数回足を運んだことがあるが、学生たちからの余計なアプローチだけが面倒臭い。
数年ぶりの大学訪問に懐かしさを感じながらも、さっさと今日の目的を終わらせた。
「成瀬くん、助かったよ」
「いえ、力になれたのならよかったです」
「よかったら昼食を一緒にどうかね?」
「ありがとうございます。でもこの後用事が入っていますのでお気持ちだけいただきます」
「そうか、相変わらず忙しくしているのだな。聞いているぞ、刑事・民事を問わずに未だ無敗だそうだな。君が医師ではなく弁護士の道を選んだのは勿体無いと思ったが、その決断は正しかったようだな」
最後まで医師になることを勧めてくれた教授だったが、ようやく認めてくれたようでホッとする。
「ああ、そうだ。経済学部の棟にある学食に今、美味しいコーヒーマシンが入ってるよ。テイクアウトできるから寄っていくといい。食事の代わりに奢らせてくれ」
帰ろうとする俺に教授が千円札を一枚渡してきた。
昼食も断ったし、これ以上断るのも悪い気がしてそこはありがたく受け取った。
喉も乾いていたしちょうどいい。
教授と別れ、医学部棟から経済学部棟に向かった。
ここはあまり足を踏み入れたことはないが、学食の場所は知っている。
今の時間はそこまで人が多くなくて助かる。
できるだけ騒がれないように俯きながら教授の言っていたコーヒーマシンに向かっていると、
「んー! 美味しいね」
「うん。やっぱりAランチいいね!」
となんとも可愛らしい声が聞こえてきた。
いつもならそんな声に耳を傾けることなどないのだが、その時はなぜかその声の主が気になって顔を上げ探してしまった。
するとコーヒーマシンから少し離れた窓際の席で楽しそうに食事をしている子たちが見えた。
可愛らしい黒髪の男の子の姿が目に入ったその瞬間、全身の毛が逆立つような初めての感覚に襲われた。
なんだ? これは……。
自分でも何が何だかわからないが、その可愛い男の子から目が離せない。
私は一体どうしてしまったんだ?
私が悩んでいる間も彼らは俺に気づく様子もなく、ただ楽しそうに食事を続けていた。
「田淵くん、半分こ」
「うん。砂川くん。こっちも半分こ!」
Aランチのセットはメインについてくるミニハンバーグかミニコロッケを選ぶことができる。
それを半分ずつして食べているんだろう。
おそらく冷凍だろうそのおかずを二人で分け合って、美味しそうに食べている姿がたまらなく可愛い。
――初めて翼をみた時、全身を雷に貫かれるような衝撃を感じたよ。それでわかったんだ、翼が俺の運命の相手だって……
――絢斗と初めて目があった瞬間、今まで感じたことのない不思議な感覚に襲われたんだ。これは絶対に逃してはいけないと思ったよ。
氷室と磯山先生から以前そんな話を聞いたことがあった。
さっきの感覚がそれと同じものだとするのなら、もしかして彼が私の運命の相手なのか?
だが、あの子は現役の大学生。入学したばかりだとすればまだ18歳。
35の俺と比べたら17歳も違う。たとえ22歳だとしても13歳も年下だ。
磯山先生と緑川教授でさえ、年の差は10歳。
こんな年の離れたおじさんに声をかけられても正直いい気持ちはしないだろう。
あんなにもいい子を困らせたくない。
出会うのが遅すぎた……。その言葉に尽きる。
とはいえ、俺が大学生ならあの子は小学生。どっちにしてもすれ違う運命か……。
諦めた方がいいか……。
俺はその気持ちを封印するためにも急いでその場から立ち去った。
けれど、その日から何日経っても彼への想いが消えることはなかった。
いや、それどころかあの子への思いは増すばかり。
「はぁーーっ」
「五回目」
「はっ?」
「お前がため息をついた回数だよ。何かあったのか? お前が落ち込むなんて初めてじゃないか?」
無意識に彼を思って吐いていたため息を氷室に気づかれてしまったが、何もいうつもりはない。
「何もないよ」
「何もないわけないだろう。この前桜城大学に行った日から明らかにおかしいぞ」
「――っ!!」
「まぁ、無理には聞かないが何かあったら相談してくれ。これでも俺はお前の親友のつもりだぞ」
「あ、ああ。ありがとう」
そう言いつつも、誰にも言わないつもりだったし、何も行動しないつもりだった。
あの日、あの子の姿をあんな場所で見つけるまでは……。
そして、可愛いあの子を手中におさめるための日々が始まった。
楽しんでいただけると嬉しいです♡
* * *
医学生だった頃、お世話になった教授から久しぶりに連絡があった。
この教授は、俺が大学時代に卒業試験と医師国家試験の合間に、気分転換に書いていた論文に共感してくれて、俺が卒業後もずっとその研究を続けていた。
今回、それが実を結び世界的に有名な学術誌で発表されることとなり、研究の発起人である俺の承諾書を取りたいとのことだった。いくら研究自体が教授の手柄だとしても俺の論文を元にしているから承諾が必要となり、それがなければ後々盗作騒ぎになってしまう。そんなトラブルを避けるためにもこうした承諾書は必要なのだ。
そんな理由で俺は久しぶりに桜城大学に足を運んだ。
これが卒業して初めてというわけではない。
これまでにも何度かこのような承諾書の依頼や、学生たちへの特別講座などを頼まれて数回足を運んだことがあるが、学生たちからの余計なアプローチだけが面倒臭い。
数年ぶりの大学訪問に懐かしさを感じながらも、さっさと今日の目的を終わらせた。
「成瀬くん、助かったよ」
「いえ、力になれたのならよかったです」
「よかったら昼食を一緒にどうかね?」
「ありがとうございます。でもこの後用事が入っていますのでお気持ちだけいただきます」
「そうか、相変わらず忙しくしているのだな。聞いているぞ、刑事・民事を問わずに未だ無敗だそうだな。君が医師ではなく弁護士の道を選んだのは勿体無いと思ったが、その決断は正しかったようだな」
最後まで医師になることを勧めてくれた教授だったが、ようやく認めてくれたようでホッとする。
「ああ、そうだ。経済学部の棟にある学食に今、美味しいコーヒーマシンが入ってるよ。テイクアウトできるから寄っていくといい。食事の代わりに奢らせてくれ」
帰ろうとする俺に教授が千円札を一枚渡してきた。
昼食も断ったし、これ以上断るのも悪い気がしてそこはありがたく受け取った。
喉も乾いていたしちょうどいい。
教授と別れ、医学部棟から経済学部棟に向かった。
ここはあまり足を踏み入れたことはないが、学食の場所は知っている。
今の時間はそこまで人が多くなくて助かる。
できるだけ騒がれないように俯きながら教授の言っていたコーヒーマシンに向かっていると、
「んー! 美味しいね」
「うん。やっぱりAランチいいね!」
となんとも可愛らしい声が聞こえてきた。
いつもならそんな声に耳を傾けることなどないのだが、その時はなぜかその声の主が気になって顔を上げ探してしまった。
するとコーヒーマシンから少し離れた窓際の席で楽しそうに食事をしている子たちが見えた。
可愛らしい黒髪の男の子の姿が目に入ったその瞬間、全身の毛が逆立つような初めての感覚に襲われた。
なんだ? これは……。
自分でも何が何だかわからないが、その可愛い男の子から目が離せない。
私は一体どうしてしまったんだ?
私が悩んでいる間も彼らは俺に気づく様子もなく、ただ楽しそうに食事を続けていた。
「田淵くん、半分こ」
「うん。砂川くん。こっちも半分こ!」
Aランチのセットはメインについてくるミニハンバーグかミニコロッケを選ぶことができる。
それを半分ずつして食べているんだろう。
おそらく冷凍だろうそのおかずを二人で分け合って、美味しそうに食べている姿がたまらなく可愛い。
――初めて翼をみた時、全身を雷に貫かれるような衝撃を感じたよ。それでわかったんだ、翼が俺の運命の相手だって……
――絢斗と初めて目があった瞬間、今まで感じたことのない不思議な感覚に襲われたんだ。これは絶対に逃してはいけないと思ったよ。
氷室と磯山先生から以前そんな話を聞いたことがあった。
さっきの感覚がそれと同じものだとするのなら、もしかして彼が私の運命の相手なのか?
だが、あの子は現役の大学生。入学したばかりだとすればまだ18歳。
35の俺と比べたら17歳も違う。たとえ22歳だとしても13歳も年下だ。
磯山先生と緑川教授でさえ、年の差は10歳。
こんな年の離れたおじさんに声をかけられても正直いい気持ちはしないだろう。
あんなにもいい子を困らせたくない。
出会うのが遅すぎた……。その言葉に尽きる。
とはいえ、俺が大学生ならあの子は小学生。どっちにしてもすれ違う運命か……。
諦めた方がいいか……。
俺はその気持ちを封印するためにも急いでその場から立ち去った。
けれど、その日から何日経っても彼への想いが消えることはなかった。
いや、それどころかあの子への思いは増すばかり。
「はぁーーっ」
「五回目」
「はっ?」
「お前がため息をついた回数だよ。何かあったのか? お前が落ち込むなんて初めてじゃないか?」
無意識に彼を思って吐いていたため息を氷室に気づかれてしまったが、何もいうつもりはない。
「何もないよ」
「何もないわけないだろう。この前桜城大学に行った日から明らかにおかしいぞ」
「――っ!!」
「まぁ、無理には聞かないが何かあったら相談してくれ。これでも俺はお前の親友のつもりだぞ」
「あ、ああ。ありがとう」
そう言いつつも、誰にも言わないつもりだったし、何も行動しないつもりだった。
あの日、あの子の姿をあんな場所で見つけるまでは……。
そして、可愛いあの子を手中におさめるための日々が始まった。
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