溺愛弁護士の裏の顔 〜僕はあなたを信じます

波木真帆

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番外編

そして悪事は暴かれる  <side優一>

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優一視点を読みたいと仰っていただけたので早速書いてみました。
ちなみに楠田の名前が出てきますが、為雄→ダメ男からつけてます(笑)
年の瀬にクズでダメ男の話で申し訳ないですが、楽しんでいただけると嬉しいです。


  *   *   *

<side優一>

今日は怒涛の一日だった。
真琴に怖い目に遭わせてしまったのは申し訳なかったが、この家に連れてくることもできたし、それに一緒に風呂に入り、真琴の肌も堪能できた上にキスまでできた。

大学の学食で初めて真琴の姿を見かけた時には、ここまでうまくいくとは思っていなかった。
兄さんみたい・・・・・・というのを免罪符のように使ってきたが、自分のテリトリーに連れ込んだ以上、もう二度と真琴を手放すつもりはない。

真琴を狙っていたあのコンビニの店長も無事に警察に捕まったし、出てきても真琴にはもう会えない。
なんせ俺が真琴のそばにいるのだから、あんな男に近づけさせることなどないからだ。

その点に関しては何も心配はないが、気になるのは、真琴を狙っていたもう一人の存在。

真琴があの喫茶店でぽろっと漏らしたOB訪問の件。
もし、今日真琴が店長からのバイト要請を断って、そのOBとやらのところに素直に行っていたらどうなったか……。
もちろん、本当に後輩のために尽力しようと思っていた可能性がないわけではないが、なんとなく気になる。
そして、この予感が外れたことは一度もない。

これはしっかりと調査する必要がありそうだ。

真琴が眠ったのを確認して、スマホを借りる。
電話でやりとりしていたようだから、履歴を見ればわかるだろう。

発信履歴で出てきたのは< OB楠田さん>という名前。

これだな。
楠田……同じ桜城大学出身で、真琴より五年先輩と言っていたな。
ストレートか、浪人か、はたまた留年かで年齢は変わってくるが、少なくとも俺の知っている名前の中に楠田と言うのはない。

訪問先の会社を聞いておけばよかったな、くそっ。

だが、真琴と同じ経済学部出身なら、教授に問い合わせればすぐにわかるだろう。

翌日、真琴を部屋で留守番をさせ事務所で依頼人を待っている間に、経済学部の教授である志良堂教授に連絡を入れた。
志良堂教授には大学時代直接教わったことはないが、友人の安慶名伊織の養父であったことから知り合いになり卒業後も変わらずに連絡を取り合っている。
たまに調査を依頼されることもあって、関係は良好だ。

ー教授、成瀬です。今お時間よろしいですか?

ーああ、ちょうど休憩時間だったよ。それよりもどうした? 成瀬くんから電話なんて珍しいな。

ーはい。今日はちょっと早々にお伺いしたいことがあってお電話差し上げました。教授は楠田という学生の名前に覚えはありませんか?

ーうん? 楠田……そんな学生いたかな? 少なくとも私と皐月のゼミにはいなかったが、経済学部の学生か?

ーそうかと思ってご連絡したのですが、教授がご存知ないとなるともしかしたら別の学部という可能性もありますね……。

ーそうか、わかった。すぐに調べて折り返そう。

ーお手数をおかけして申し訳ありません。

ーいやなに、気にしないでいい。君にはいつも世話になっているからな。すぐに掛け直すからちょっと待っていてくれ。

そう言って電話はきれたが、ものの数分で電話が折り返された。

ー教授、早いですね。もうわかったんですか?

ーああ。10年以上前だが商学部に補欠入学した学生に楠田と言うのがいたそうだよ。松下まつしたくんのゼミでね。それでなんとか卒業させてもらえたらしい。

ー松下教授ですか。なるほど。

松下教授のゼミは、留年を重ねる成績不良者の最後の砦だと言われていて、松下教授の与える五百枚にも及ぶ論文を手書きで書き写したら卒論の単位を取れることで有名だ。

だが、これでわかった。
そこにいたやつが、真琴が希望する会社に正当な理由で勤められるわけがない。
これは確実に裏がありそうだ。

ー志良堂教授、ありがとうございます。助かりました。

ーいや、大したことはしていないから気にしないでいい。また何かあれば連絡してくれ。すぐに力になろう。

ーはい。ありがとうございます。

電話を切り、俺はすぐに調査を始めた。
シンに調査させると一時間も経たないうちにすぐに情報が集まった。

楠田くすだ為雄ためお
桜城大学商学部を補欠合格し、留年を繰り返し七年で卒業。
卒業後は父親のコネで<ツィムトテック>に入社。
現在は役職なしの30歳。

OBであることを笠に桜城大学の学生訪問を率先して受け入れ、入社後五年間で受け入れた学生は15人。
しかし、その後その学生たちすべてが入社試験を受けていないどころかエントリーもしていない。

数人ならまだしも、OB訪問までした学生がエントリーさえしていないのは流石に奇妙だ。
やはり奴には何か裏があることは間違いない。

シンにOB訪問をした学生に接触してもらうか。

あのコンビニの事件が終わった後で本当に良かった。
早速で悪いが引き続き調査を続行するように連絡を入れると了解! とすぐに返ってきた。

翌日にはシンから調査結果が来ていたが、酷い内容に虫唾が走る。
奴はOB訪問してきた学生を食事に誘い、睡眠薬を飲ませてレイプした挙句、写真や動画を撮って口止めしていた。
しかも気の弱そうな学生ばかりを狙って犯行に及んでいる。
どうりで入社試験を受けないはずだ。

あの時真琴がもし訪問の方を選んでいたら、この被害者たちの中にいたかもしれないと思うと腑が煮え繰り返る思いがする。

真琴があの言葉を漏らさなければ調査することもなかったし、こうして悪事が暴かれたことは結果的によかったのだろう。

当の本人は現在名古屋支社に長期出張らしい。
シンがその宿泊先もすべて情報を集めてくれていた。
今は真琴と一緒でなかなか動けない俺の代わりにすべてを集めてくれて本当に助かる。

今のうちにあいつがぐうの音も言えないようにありとあらゆる証拠を用意しておこうか。

ああいうやつは手元に証拠を置きたがる。
それなら、絶対に決定的な証拠をパソコンに残しているはずだ。

俺はすぐに奴のスケジュールを調べて、偶然を装ってシンを接触させた。
BARを数軒回り酔わせて宿泊先に送り届け、部屋に置いていた奴のパソコンのデータをすべてUSBに落とした。
もちろんシンの痕跡は何一つ残していない。
あまりにも上手くいきすぎて怖いくらいだ。

そのUSBを受け取るために事務所近くのカフェでシンと会っていたところを真琴に見られて、俺が調査員をしていることを話すことになったが調査の内容を見られたわけではないから問題はない。

それからは真琴が寝てからデータの解析をする日々が続いたが、数日かけてすべての被害者を特定した。

仕事の合間を縫って彼らに直接会いにいき、最初こそ口を閉ざしていたものの、他にも被害者がたくさんいてみんなで訴えるつもりであること。
決して周りには知られないようにすることを約束すると、みんな堰を切ったように被害の内容を話してくれた。

こちらには十分な証拠が揃っているから確実に勝つというとようやく安堵の表情を浮かべたり、泣き出す者もいた。
きっとこの数年間辛く苦しい日々を過ごしたことだろう。

一人500万、計7500万の慰謝料を求めることを約束し、被害者全員からの書類を受け取った。
それを踏まえて奴の実家に内容証明郵便を送り、長期出張を終えて戻ってきた日の夕方、磐石の布陣で奴が会社から出てきたところで声をかけた。

最初こそ訝しんでいたが、弁護士だと名乗り、被害者からの依頼だというとすぐに顔色が変わった。

何もしてないと逃げようとしたが、逃すはずがない。

奴のパソコンから拝借した証拠写真を取り出して見せてやるとすぐに認めた。

助けてくれと縋り付いてくるが、助けるわけがないだろう。

一人500万、計7500万の示談金を含めた慰謝料を払うか、警察に被害届を出すか二択を迫ったが、流石に7500万の支払いを即決できるわけもなかった。
だが、ちょうどいいタイミングで実家から電話があったようで奴の顔色はみるみる青褪めていった。

奴の弱点は父親というくらい、父親に恐怖心があるらしい。
しかも父親は体裁を気にするタイプで息子が警察に捕まったとなれば、もう生きてはいけないだろう。
どんなことをしてでも慰謝料を支払ってくれるはずだとわかっていた。
だから実家宛に内容証明郵便を送ったんだ。

期限は一週間だったが、それから数日も経たないうちに慰謝料7500万がそれぞれの被害者に500万ずつ振り込まれた。

本当に振り込まれるとは思っていなかったのかお礼の電話が相次ぎ、彼らから弁護士報酬として1割の50万ずついただくことにした。

弁護士報酬としては安すぎる破格の金額だが、真琴を守れただけでそれでいい。
今回の弁護士報酬としてもらったものは俺の代わりに動いてくれたシンに全額渡し、ようやく肩の荷が降りた。

今日はたっぷりと真琴と愛しあおうか。
いや、いつものことだと笑われそうだな。

真琴、愛してるよ。
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