溺愛弁護士の裏の顔 〜僕はあなたを信じます

波木真帆

文字の大きさ
上 下
67 / 88
番外編

宮古島旅行  15

しおりを挟む
「ん……っ、ゆ、いちさん……っ」

ふふっ。
夢の中でも俺の名前を呼んでくれているのか。
嬉しいが、夢の中の自分に嫉妬してしまう自分がいる。

本当に、信じられないほどの狭量さに呆れてしまうな。

腕の中の真琴をギュッと抱きしめて、少しでも夢の中の真琴に俺の存在を訴えかけると、真琴は俺の胸元に擦り寄ってきて、嬉しそうに俺の匂いを嗅ぐとふわっと笑顔を浮かべた。

この顔を見られただけで満足だな。
これだけでさっきまでの嫉妬も消えてしまうのだから、本当に真琴に溺れてしまっている。

んっ? お義母さんたちか?
動いている気配がするな。

もう起きたのか。
流石農家をやっているだけのことはある。

とすればもうそろそろ朝食の支度に取り掛かったほうがいいかもしれない。

真琴はここに寝かせておこうか。
いや、目が覚めた時一人にするのは嫌だな。

気持ちよく寝ているところ起こすのは忍びないが、

「真琴……真琴……」

優しく耳元で声をかけてみた。

これで起きなければ仕方がない。
そう思っていたが、ゆっくりと真琴の瞼が開き、綺麗な黒目が俺の顔を映した。

「ゆ、いちさん……」

「真琴、おはよう」

「んっ」

チュッと唇を重ねると、真琴から甘い声が漏れた。
これだけでそのまま愛し合いたくなるが今日はそうもいかない。

「お義母さんたちがもう起きているみたいだから、朝食を作りに行こうと思うが真琴はここでもう少し寝ておくか?」

「ひとりで……?」

「ああ。でも用意が終わったらまた戻ってくるよ。どうする?」

「ううん……一緒に行く」

「無理しなくていいんだぞ。昨日、少し激しくしてしまったからな」

そういうと、真琴は昨晩のことを思い出したのか一気に顔を赤らめる。
何度身体を繋げてもいつもこんなふうに可愛らしい反応を見せてくれるんだからな。
本当に可愛すぎるんだ。

「でも……ひとりは、いやです……」

「ふふっ。そうか。なら、一緒に行こうか」

まだ力の入っていない真琴を抱き起こし、さっと着替えをさせると柔らかなブランケットに包み、抱きかかえた。

「キッチンの椅子に大人しく座ってるんだぞ」

「はーい」

素直な真琴を連れて、キッチンへと向かうと

「あら、二人とも早いのね。おはよう」

と声をかけられた。

「おはようございます、お義母さん」

「あ、あの……かあさん、おはよう」

「ふふ。朝からごちそうさま」

お義母さんは俺たちの様子を見ても驚きもしない。
それどころか仲がいいのを喜んでくれているようにさえ思う。

自分の息子に男の恋人ができたことにも動じず、しかもこうやって仲良くしているところを見ても喜んでくれるとは……本当に寛大なんだな。

そんな反応をしてくれて感謝せずにはいられない。
今日はたっぷりと恩返しも兼ねて働かないとな。

「私は少し畑を見てくるわね。台所も冷蔵庫も好きなように使ってくれていいから。30分くらいで戻ってくるわ」

「はい。ありがとうございます。気をつけて」

「ええ、ありがとう」

お義母さんを見送って、真琴を椅子に座らせて冷蔵庫の中をみていると、安慶名がキッチンにやってきた。

「成瀬、早いな」

「ああ、安慶名も――って、悠真さんもおはようございます」

「は、はい。こんな格好ですみません」

「悠真、気にすることはないですよ。ほら、真琴くんもここにいますから」

安慶名の言葉に悠真さんは少しホッとしたように笑った。

「お義母さん、今畑に行っているけれど30分くらいで戻ってくるみたいだ」

「そうか、それなら今から準備したらちょうどいいな」

「ああ、俺はフレンチトーストの準備をするから先にオムレツ作っていいぞ」

「わかった」

男二人で、しかも体格のいい俺たちだからやりにくいかと思いきや、そこは流石に親友と呼べる存在だけあって、阿吽の呼吸で手早く済ませる。

オムレツを作りながらささっとスープまで作り終えた安慶名を見ながら、俺もフレンチトーストとサラダを仕上げた。

「さぁ、悠真。食事の支度ができましたよ」

「わぁー、今日も美味しそうです。伊織さんのオムレツはすごく美味しいから、真琴も気にいると思うよ」

「優一さんのフレンチトーストもすっごく美味しいよ! ねぇ、優一さん」

「ふふっ。ありがとう」

それぞれの恋人に褒められて、俺たちは朝からご満悦だ。

畳間にあるテーブルに全てを並べ、真琴を抱き上げて座らせるとちょうどお義母さんとお祖母さんが手を洗って畳間にやってきた。
よし、ちょうどいいタイミングだったな。

「あ、おかえりなさい」

「あら、美味しそう!」

「本当にまるでお店みたいだねぇ」

「母さん、ばあちゃん、あったかいうちに食べよう」

「ふふっ。はいはい。じゃあ、新しい孫たちの手料理を食べさせてもらおうかね」

孫たち……そう言われるだけで嬉しい。
安慶名もきっと同じ思いだろう。

お祖母さんは安慶名のオムレツから、お義母さんは俺の作ったフレンチトーストにまず手をつけた。

「んー、このオムレツはすごく美味しいさぁ。ふわふわでおばあさんでも食べやすいさぁね」

「お口にあって嬉しいです」

安慶名の一番の得意料理だと言っていたからな。
褒められて嬉しそうだ。

「んー、このフレンチトーストもとっても美味しいわ。このレシピ、ぜひ教えてちょうだい」

「はい。喜んで」

お義母さんの言葉が嬉しくてそっと真琴に視線を向けると真琴も嬉しそうに笑っていた。
なんだか家族としても絆が深まった気がする。

楽しい会話をしながら、あっという間に朝食を食べ終え、安慶名と片付けも終わらせた。

「さぁ、じゃあ畑に行きましょうか」

そう誘われたが、今の真琴は広いマンゴー畑を歩くのは無理かもしれない。
俺から畑を手伝うと話をしたのに、申し訳ないが真琴には休んでいてもらおうか。

「真琴、ここで休んでいたほうがいい」

「ええー、でも一緒に畑に行きたいです」

「だが……」

「ふふ。中に休憩スペースがあるの。悠真と真琴はそこで収穫したマンゴーにシールをつけてもらおうかしら。それなら動かないし、できるでしょう?」

お義母さんからの提案に全てが見透かされていることがわかった。
やはり母親だな。
真琴と悠真さんの体調は全てお見通しというわけだ。

お義母さんの提案に喜んで乗らせてもらい、みんなで畑に向かう。
広々としたビニールハウスのマンゴー畑がいくつもあって、これを普段二人でしているのが驚くほどだ。

真琴と悠真さんを休憩スペースに座らせて、俺たちはお義母さんと一緒に畑の中に進んでいく。

「こうなっているのを収穫していって」

白い袋をかけられたマンゴーが自然に袋の中に落下しているものを収穫するらしい。
なるほど。
こちらでもいだりするわけじゃないんだな。

「自然に落下するまで熟成させたほうが甘くて美味しくなるのよ」

「なるほど、そういうものなんですね」

それにしてもマンゴーひとつひとつに袋をかけるのもかなりの重労働だろう。
次は袋がけの時に手伝いにくるのもいいかもしれない。

安慶名と手分けをして、袋の中に落下しているマンゴーを収穫しカゴに入れていく。
あっという間にカゴいっぱいになったマンゴーを真琴たちのもとに持っていくと、慣れた手つきで
<砂川農園>のシールを貼り付けていく。

「このシール、可愛いな。なんだか真琴に似ていないか?」

「さすが成瀬さん。これ、社長が考えてくれたんですよ。マンゴーと可愛い天使のシール。今ではうちの農園のシールだってすぐにわかるんで人気になっているみたいです」

また倉橋さんか……。
本当にこの家の至る所に倉橋さんを感じるな。

それくらい悠真さんとこの家をずっと守ってくれていたということなんだろうな。
少し嫉妬してしまうのは仕方のないことなのかもしれない。
しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...