溺愛弁護士の裏の顔 〜僕はあなたを信じます

波木真帆

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番外編

宮古島旅行  7

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もう終わらせるのを諦めたようです(笑)
もうしばらく続きますが楽しんでいただけると嬉しいです♡


  *   *   *



「同じタイミングだったな」

「ああ、そうだな」

微かだが、真琴と同じく頬が赤い。

やっぱり安慶名も同じか。
まぁ、あんなに可愛らしい姿を見せられて我慢できる方がおかしいな。

二人っきりになったらキスの一つや二つ、恋人なら当然だ。

「真琴の浴衣、よく似合ってる」

「ふふっ。この前まではちょっと子どもっぽかったけど、母さん……今回は優一さんに合わせてくれたのかな。兄さんの帯も安慶名さんの浴衣と色が合ってるじゃない」

「うん、こういうところがお揃いってなんか楽しいよね」

部屋を出てすぐに二人と会った時は恥ずかしそうにしていた真琴も、浴衣の話を振られたらすぐにいつもの真琴に戻る。
兄弟というのはさすがだな。


「母さん、ばあちゃん、着替えてきたよ」

真琴の声に二人が振り向くとそのまま嬉しそうな表情に変わっていった。

「まぁまぁ、よく似合ってるさぁ。こっちにきて並んでゆっくり見せてちょうだい」

言われたように真琴と悠真さんを間に入れて四人で並んで見せると、

「ああ、お義母さん……目の保養になりますね」

「ふふっ。そうだねぇ。やっぱり安慶名さんは正崇せいしゅうによく似ているさーね。成瀬さんも正篤せいとくさんの若い時にそっくりさぁ」

お祖母さんが安慶名よりも俺の方を嬉しそうに見つめる姿に、じんわりと心が温かくなる。
それほど亡くなった旦那さん・正篤さんを愛していたのだろう。
死に別れてかなりの年月が経った今でもなお……。
それほど愛が続くのは幸せなことだな。

俺も真琴と随分と歳が離れている。
年齢順にいえば、確実に真琴を残して死ぬんだろう。
それでも真琴はずっと俺を思い続けてくれたら幸せだな。


「夕食の準備をしておくから、暗くなり始めたら帰っておいで」

「はーい」

用意されていた下駄を履き、外に出ると軽快な笛の音に心が躍る。

懐かしいな。
昔、田舎の祖父母の家に行った時を思い出す。

「まだこんなに明るいのにお祭り始まっているんだな」

「こっちのお祭りは長いのでこのまま夜遅くまでずーっとやってるんですよ」

「えっ、でもさっき暗くなったら帰るって言ってなかったか?」

真琴に尋ねると、隣にいた悠真さんが教えてくれた。

「この辺は街灯が少ないんで、夜になると本当に真っ暗で危ないんです。だから、父さんたちには暗くなったら外を出歩いちゃいけないっていっつも言われてて、いつも暗くなり始めたら帰ることにしてたんですよ。もういい加減大人なんで暗くなっても大丈夫だと思うんですけど、母さんたちにとっては私たちはいつまで経っても子どもなんでしょうね」

「ああ、確かにこの辺は暗くなりそうですね」

周りを見渡しても街灯の類が一切ない。
だからこそ星もよく見えるんだろうが、真琴と悠真さんが夜に二人で浴衣で外を歩くなんて、狼どもの格好の餌食だ。
お義母さんたちの教えを守る二人で本当によかった。

「でも今日は少しくらい遅くなっても大丈夫でしょう? だって優一さんが一緒だもん」

「ふふっ。そうだね。伊織さんが一緒なら怖くないですね」

「「――っ!!!」」

この兄弟はサラッと無自覚に煽ってくる。
やっぱりこの二人はよく似ている。

「今日は絶対に俺から離れるなよ」

「ふふっ。はーい」

真琴がギュッと抱きついてくる。
浴衣を通して真琴の温もりを感じる。
ああ、浴衣……最高だ。


「うわぁーっ、懐かしいっ!」

「兄さん、昔のままだね」

「うん。あっ! 伊織さん、あっちっ!」

「悠真、ちょっと待って」

楽しそうに駆けていく悠真さんとしっかり手を繋いだままの安慶名を見送る。

「悠真さん、なんだかいつもと違うな」

「ふふっ。なんか兄さんってお祭りが異常に好きみたいで、僕よりもこどもっぽくなるんですよ」

「そうなのか、意外だな」

「あっ、やっぱり射的に行ってる」

「射的?」

「はい。僕が兄さんと初めて二人でお祭りに来た時、射的の景品で出てたちっちゃなクマのキーホルダーがどうしても欲しいってせがんで……もらってきたお小遣いの全部をはたいて取ってくれたんです」

「それってもしかして……」

「ああ、はい。そうです。あれ、ですね……」

真琴がいつもカバンに入れていた、家の鍵をつけているキーホルダー。
確かに可愛いクマがついていた。
少し黒ずんでいるそれを大切にしているなと思っていたが、まさかここでの景品だったとは……。

「もういいよ、って何度も言ったんですけど一生懸命取ってくれて……最後、はいって渡された時はすごく嬉しかったな。これは一生大切にしなきゃって子ども心にそう思いましたよ。あれからお祭りに来るたびに射的で景品欲しいのない? って聞いてくれたけど、まだ全財産はたいちゃったら大変だから、その後ねだったことはなかったな……」

「真琴、俺たちも射的に行こうか」

「えっ?」

「真琴が欲しいものをなんでも取ってやるよ」

そういうと俺は真琴の手を取り、安慶名と悠真さんがいる射的に向かった。

「安慶名、どれ狙ってるんだ?」

「悠真があれが欲しいって言ってくれたから」

そう言って射的用の銃でさし示したのは、真琴のとよく似たクマのキーホルダー。

「お前が取れなかったら俺が悠真さんにプレゼントしてやろうか」

「そんなことはさせないよ。見てろっ」

引き金を引いたと同時にポンと大きな音が鳴り、それはそのまま目的のキーホルダーを当て、下に転げ落ちた。

「大当たり~!!」

「わぁーっ!! すごいっ、伊織さんっ!!」

悠真さんは嬉しそうにその場で飛び跳ねたと思ったら、そのまま安慶名に抱きついた。

その可愛い様子にギャラリーがどんどん増えてきている。
まるで祭りにきている人全てがこの店に集まっているかのような人気っぷりだ。

「お兄さん、まだあと二発残ってるよ」

「これ、残りを彼にやってもらってもいいですか?」

「えっ? そうだな。お兄さん、上手だから景品いっぱい取られると困っちゃうし、特別に代わってもいいよ」

「ありがとうございます」

屋台の店主にお礼をいうと、安慶名は俺に射的銃を渡した。

「真琴くんにいいところ見せろよ」

ぼそっと俺に聞こえるように呟くとニヤリと笑った。
こういうところは氷室とよく似ている。

だが、射的には自信がある。

「真琴、何が欲しい?」

「えっ、じゃあ……僕、あのウサギの絵が書いてある箱がいいです」

真琴が指差したのは、比較的大きな箱。
普通なら取るのは容易ではない。
しかも、安慶名が使った後でコルクは後二発。

「わかった」

そういうと俺は手を伸ばし、銃を構えた。
この箱のどこにあたれば、箱が落ちるかはわかっている。

グッと引き金を引くとポンと音を立ててコルクが飛び出した。
一見外れたと思うような軌道を描くがそれも計算のうち。

コルクは箱の端にあたり、バランスを崩してそのまま落下した。

「――っ、お、おお、あたり~っ!」

「わぁーっ!! 優一さん、すごいっ!!!」

喜ぶ真琴の向こうで店主は信じられないといった様子を見せながらも、か細い声をあげていた。
足取り重く箱を取ると、少し震える手で俺に渡してくれた。

「これ、落とした人初めてですよ。何者ですか?」

「ふふっ。ただの観光客ですよ」

そう返した後ろで安慶名が笑いを必死に押し殺していたのがわかった。
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