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番外編
宮古島に行こう!
しおりを挟む突然始まりました宮古島旅行編。
不定期更新になりますが、楽しんでいただけると嬉しいです。
* * *
「あっ、兄さ~んっ! こっち、こっち!!」
「真琴っ!!」
真琴のお兄さんである悠真さんが上京してきたのに合わせて、久しぶりの4人での夕食を楽しもうということになり、俺と真琴は少し早い時間から待ち合わせ場所で待っていた。
チラチラと真琴を見つめてくる輩を威圧しながらしばらく待っていると、真琴が大きな声をあげて手を振り始めた。
その視線の先にはもちろん、お兄さんの姿。
隣には安慶名の姿も見える。
久しぶりの兄弟の対面を邪魔してはいけないと思いつつも、目を惹く可愛らしい兄弟の戯れに、さらに周りの視線を集めだしていた。
「おしゃべりは後にして、先に店に入ろうか」
さっと真琴の肩を抱き、声をかけると真琴は素直に頷いた。
安慶名も同じように悠真さんの肩を抱き、後をついてくる。
そこから少し歩いた場所が今日の店だ。
最近知った店だが、最初はなかなか行きづらい場所にある。
だからわざわざ待ち合わせをしたわけだが、次からは店で待ち合わせにできるだろう。
それくらい今回の店はかなり使い勝手のいい店だ。
完全個室で誰にも会うことのないこの造りは、可愛い真琴を誰にも見せずに済む。
その上、料理もサービスもいいし、いうことない。
外での食事にまだ緊張するという真琴も、部屋に入ると落ち着いた雰囲気に緊張がほくれていくのがわかった。
まるでどちらかの家にでも遊びに来たかのような空間に、ホッと一息つく真琴をみてやはりこの店にして間違い無いと思った。
安慶名たちに視線を向けると、あちらもどうやら同じような感想を抱いたらしい。
今日の店はここで正解だったようだ。
俺と安慶名はワインを、真琴と悠真さんは苺の香り漂うスパークリングワインをチョイスした。
久々の再会に乾杯をして、食事が始まった。
「わっ! これ、すごく美味しいっ!! 兄さんも食べてみて!」
「わぁ、本当に美味しい。伊織さん、これ……鴨、ですか?」
「ええ、そうですね。臭みもなくて美味しいローストですね」
「優一さんも食べてください。あーん」
「ああ、本当に美味しいな。真琴が食べさせてくれたから余計かな」
「ふふっ。優一さんったら」
俺たちが楽しく食事をしているのと同じように、安慶名と悠真さんも楽しそうに食べさせ合いながら、食事をしている。
ああ、やっぱりこの4人だとお互いに気を遣わないでいい。
それというのもやはり真琴と悠真さんが兄弟だからだというのが大きいだろう。
食事もひとしきり楽しんだ頃、
「ねぇ、真琴。近いうちに宮古島に帰らない?」
と悠真さんが話を切り出した。
「4人で一緒に宮古島に行こうって話をしていたでしょう? せっかくだからこうやって4人で集まった時に日程を考えておくのはどうかなって。伊織さんも成瀬さんもお忙しいでしょうけど、早めに計画したらなんとかなるかなと思って……成瀬さんはどうですか?」
「私なら、お二人の都合に合わせますよ。うちはもう一人弁護士もいますから、調整はしやすいですし。真琴も今はほとんど事務所で手伝ってもらっているので、私と一緒に休みを取るのも容易いですよ。なぁ、真琴」
「はい。僕は優一さんの予定通りに動けるから、兄さんと安慶名さんの都合に合わせられますよ」
「そうなんだ、よかった。じゃあ、伊織さん……」
「事前に悠真から話を聞いていたから、私と悠真とで予定を考えていたんだが、この3つの日程ならどれでも大丈夫だ。成瀬、お前はどれが一番都合がいい?」
そう言って見せられた中から、自分のスケジュールと予定を合わせて
「じゃあ、ここにしようか」
と決めた。
こうやって計画的に話を進められるのは実に効率がいい。
「じゃあ、今から母さんに電話して話しておくね」
「えっ? 今から、電話するの?」
「だって、こういうのは早い方がいいでしょう? 泊まるんだし、あっちの準備もいるだろうし」
「母さんたちに、優一さんのことも話をするの?」
「そりゃあもちろん! 突然4人で行ったらどんな関係なのかなってびっくりしちゃうでしょう?」
「そ、そうだよね……」
煮え切らない真琴の様子に、もしかして俺とのことを家族に知られたく無いのかと思ったが、
「こ、恋人ができたなんて……言うの、ドキドキしちゃうな。しかも優一さんみたいにかっこいい人が相手なんて……母さん、びっくりするだろうな」
とほんのり頬を染めながら俺を見つめてくる。
なんだ、ただ単純に紹介するのを照れているだけか……。
ふぅ……と安堵の息を漏らすと、俺の気持ちを全て理解したような顔で安慶名がニヤリと笑っていた。
成瀬、お前がそんな顔するなんてな
そう目で訴えてくる。
そんなことも俺もわかってる。
でも、真琴相手だと心配になるのも無理はないだろう?
なんてったって一回り以上も若い、しかも誰の視線も釘付けにしてしまうような子なんだ。
俺は真琴を失ったら生きていけないだろう。
それくらい心から真琴を愛しているんだ。
「じゃあ、電話かけますね」
そういうと、悠真さんはスマホを取り出し、電話をかけた。
俺たちにも聞こえるようにスピーカーにしてくれるあたり、家族が絶対に俺たちのことを否定しないと思ってくれているんだろうな。
ーもしもし、悠真?
ーあっ、母さん。今、大丈夫?
ーああ。大丈夫だよ。どうしたの? 今日は東京に行ってるんでしょう?
ーそう。真琴と一緒にいるから、母さんに電話したんだよ。
ーああ。そうなの。わざわざありがとうねぇ。
ーそれでね、母さんにちょっと報告したいことがあって……。
ーどうしたの?
ーあのね、僕と真琴に大切な人ができたんだ。それで、母さんたちに紹介したくて4人で宮古島に行こうと思ってるんだけど、予定はどうかな?
ーえっ? 大切な人って……それは、結婚相手ってことなの?
ーうん。気持ちの上ではそうだよ。でも、結婚はできないんだ。
ーそれってどういうこと?
ーあのね、驚かないで聞いて欲しいんだけど……僕と真琴の相手、男の人なんだ……。
ーえっ? 男、の人……。
電話の奥で絶句している様子が目に浮かぶようだ。
もしかして会いたく無いと言われたりするだろうか……。
ドキドキしながら、反応を待っていると、一瞬の静寂の後に
ーなんだ。そんなことを心配していたの?
と優しい声が聞こえてきた。
ーえっ?
ー結婚できない相手だなんていうから、人様の相手に手を出したとか人の道から外れたようなことをしたのかと思ってびっくりしたわ。悠真がそんなことをするとは思ってないから、余計にびっくりしたじゃない。男の人だろうが、なんだろうが悠真と真琴が選んだ相手に間違いはないわ。喜んで歓迎するから、4人でいらっしゃい。ばあちゃんにも話しておくわ。
ー母さん……ありがとう。
涙ぐむ悠真さんの隣から、安慶名が声をあげた。
ー初めまして。お義母さん。悠真さんとおつきあいさせていただいています、安慶名伊織と申します。この度はご歓迎くださるそうで誠にありがとうございます。
ーまぁまぁ、丁寧なご挨拶をありがとう。伊織さん、素敵なお声ね。安慶名さんと仰るの? もしかして沖縄の方かしら?
ーはい。本島出身です。
ーあら、そうなのね。それもご縁なのかしらね。
ー悠真さんを決して不幸にはしませんので、どうぞご安心ください。
ーふふっ。はいはい。お声だけで信頼できる方だとわかるわ。悠真を選んでくださってありがとう。
ーいえ、そんな……。私の方が悠真さんに選んでいただいたと思っています。
ーふふっ。お会いできるのを楽しみにしているわ。
ーはい。ありがとうございます。
ー母さん、僕、真琴だけど……。
ーあら、真琴。真琴にも素敵な人ができたのね。よかったわ。
ーうん、僕……今、本当に幸せなんだ。
真琴が俺に笑顔を向けてくれる。
少し涙を潤ませている姿にグッとくる。
ー初めまして。お義母さん。私、真琴さんとおつきあいさせていただいています、成瀬優一と申します。
ーまぁまぁ、こちらの方も素敵な声をしているのね。ふふっ。声だけで男前さんだとわかるわ。
ーお褒めいただき恐縮です。
ー成瀬さん、真琴はまだまだ子どもで大変でしょうけど、末長くお付き合いくださいね。
ーもちろんです。一生大切にします。
ーふふっ。真琴も悠真も幸せなのね。よかったわ。宮古島でお会いできるのを楽しみにしているわ。
ーはい。ありがとうございます。
ーあっ、一つだけ質問いいかしら?
ーはい。どうぞ何なりと。
ー成瀬さん、身長はおいくつ?
ーはっ? し、身長ですか?
てっきり真琴を養うだけの力があるのかとかそういった類のことを聞かれると思っていただけに、拍子抜けしてしまった。
ーあ、あの……180cmです。
ーあら、身長も高くていらっしゃるのね、先程の伊織さんはどうかしら?
ーあの、彼も私と同じくらいです。
ーそうなのね。うちの子たちは小柄だから、大きな方に会うのは楽しみだわ。それじゃあ、17日からだったわね。楽しみにしているわ。
嬉しそうな声でそういうと、電話は切れてしまった。
最後に悠真さんに代わろうかと思っていたが仕方がないな。
「母さんったら、なんで身長なんて聞いたんだろう?」
「さあ? まぁでも楽しみにしてくれているみたいだから、よかったじゃない。兄さんと伊織さんは石垣島から宮古に向かうから、17日は宮古島の空港で待ち合わせね」
「うん、楽しみだね」
真琴の嬉しそうな顔を見ながら、今日の食事会は和やかなままに終わった。
考えてみれば宮古島に行くのは初めてだな。
安慶名とも遠出するのは初めてか。
なんだか不思議な旅になりそうだな。
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