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番外編
内偵調査3
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翌日、あんな一方的にバイトをやらされることになったにも関わらず、砂川くんは約束通り履歴書を持ってコンビニにやってきた。
荷物棚の陰から、砂川くんの顔を見てニヤリと不敵な笑みを浮かべる店長の顔を見て、田淵くんの心配は本物だったとわかった。
店長が砂川くんの履歴書をさっと机に置き、彼との話に夢中になっている間にこっそり偽物の履歴書と変えておいた。
あんなやつに砂川くんの個人情報を知られるわけにはいかないからな。
まぁ、これで当分の間は誤魔化せるだろう。
その間になんとか解決しないとな。
ユウさんは砂川くんが出勤の日はスケジュールを合わせてこっそりと見守っているようだ。
そんなことをしなくてもユウさんが真正面から告白をすれば、砂川くんもOKしそうなものだがやはり年齢や性別がネックなのだろうか。
犯罪者相手ならガンガン突き進んでいくのに、砂川くんに対してはそうもいかないらしい。
やはりユウさんも恋愛に関してはただの男になってしまうようだな。
砂川くんは店長からの無茶な仕事にも精一杯取り組んでいて、本当に健気で可愛らしい。
それも全て田淵くんのためなのだろう。
「田淵くん、体調はどう?」
「あっ、河北さん。今日もお見舞いに来てくださってありがとうございます」
「いや、気にしないで。あ、これ。お土産のプリンだよ。ここのが美味しいって聞いたから」
「わぁ、いつもいつもありがとうございます! 自分じゃ動けないので、甘いもの食べたくても買いに行けなくて……」
「看護師さんに頼んだら買ってきてもらえるんじゃないか?」
「はい。でも忙しそうだから、わざわざ買ってきてもらうのは申し訳なくて……」
ああ、こういう子なんだよな。
周りに気遣いができて……砂川くんといい、この子といい本当に健気で真面目ないい子だ。
今時の大学生にしては珍しいくらいだな。
「ふふっ。田淵くん、優しいんだな。じゃあ、私が毎日甘いもの持ってくるから楽しみにしてて」
「えっ、僕……そんなつもりじゃ……」
「ふふっ。わかってるよ。私がしたいだけだから、遠慮しないで。それよりも何か変わったことはなかった?」
「あ、あの……砂川くんの知り合いだっていう人が来られて、事故の話を聞かれました」
ユウさんか……よほど砂川くんが心配なんだな。
後で情報を共有しとかないとな。
「それで?」
「その人、弁護士バッジをつけていらしたので、もしかしたら砂川くんが弁護士さんに相談したのかもと思って、聞かれるままに全部話しちゃったんですけど……後で、大丈夫だったかと気になってしまって……」
「ああ、それなら大丈夫。心配しないでいいよ」
「本当ですか?」
「ああ。砂川くんと、そして君を守るために私が手配したんだ」
「河北さんが……ありがとうございます」
「いや、前もって教えなくてごめん。驚いただろう?」
「いえ、でもその方が聞かれるままに話せたのでよかったです」
「それならよかった。もうすぐ解決すると思うからもうしばらく待ってて」
「はい。本当にありがとうございます」
友達を危険に晒しているのに自分が動けないって相当辛いだろうな。
早く田淵くんを安心させてやりたい。
時折、店長がフラッと店からいなくなることがある。
それは決まって砂川くんがシフトが終わった後。
そう、砂川くんの後をつけているのだ。
だが、その辺も抜かりはない。
ユウさんが奴と砂川くんの間に入り、こっそりと視界から消しているから途中で砂川くんの姿を見失っているのだ。
何度やってもうまくいかない、奴のそんな苛立ちが目に見えてわかるようになった。
そしてとうとう奴は痺れを切らしたのか、砂川くんを休日に無理やり仕事にこさせた。
いつもなら、客の少ない時間帯。
砂川くんを裏の仕事に呼び出して、手を出そうと思っていたんだろう。
しかし、奴の目論見はある女性の登場で脆くも崩れ去った。
コンビニに押しかけてきた初の女性はあろうことか、自分の旦那と砂川くんが不倫関係にあると騒ぎ出したのだ。
その日は急遽砂川くんが奴に呼び出されていたため、あいにく俺とは時間がかぶっておらず、その場には居合わせることはできなかった。
いや、多分それも計算して奴は砂川くんを呼び出していたんだろう。
奴にとって本社からバイトに来ている俺は邪魔でしかないからな。
だが、店内に盗聴器とカメラを仕掛けていたため、その映像と音声はリアルタイムで私のところに流れてきていた。
すぐにユウさんに連絡をすると、ユウさんは急いでコンビニに向かい大騒ぎをしている店内に侵入した。
女は昨日もラブホテルに砂川くんが旦那といたのを目撃して証拠写真まであると騒ぎ立てていたが、それが嘘だということは私にもユウさんにもわかっていた。
しかし、奴の方は砂川くんが不倫していると信じ込んで少し興味が冷めてしまったのかもしれない。
なんせ奴の狙いは何の手垢もなさそうな純粋な子。
男の匂いのつく子はいらないというわけだ。
勘違いしたまま、奴は女の要求通りに砂川くんをクビにすると言い切った。
その言質をとったところでユウさんが砂川くんを助けに入り、すぐに不倫などしていないと誤解を解き、砂川くんの名誉を守った。
奴は慌てて首を撤回しようとしたが、もうすでに後の祭り。
ユウさんは砂川くんを連れ、店を後にした。
「くそっ、あいつ。俺のを持って行きやがった。あいつは俺のなのに……」
ぶつぶつと文句を言い続ける奴の声が盗聴器から流れてきていた。
荷物棚の陰から、砂川くんの顔を見てニヤリと不敵な笑みを浮かべる店長の顔を見て、田淵くんの心配は本物だったとわかった。
店長が砂川くんの履歴書をさっと机に置き、彼との話に夢中になっている間にこっそり偽物の履歴書と変えておいた。
あんなやつに砂川くんの個人情報を知られるわけにはいかないからな。
まぁ、これで当分の間は誤魔化せるだろう。
その間になんとか解決しないとな。
ユウさんは砂川くんが出勤の日はスケジュールを合わせてこっそりと見守っているようだ。
そんなことをしなくてもユウさんが真正面から告白をすれば、砂川くんもOKしそうなものだがやはり年齢や性別がネックなのだろうか。
犯罪者相手ならガンガン突き進んでいくのに、砂川くんに対してはそうもいかないらしい。
やはりユウさんも恋愛に関してはただの男になってしまうようだな。
砂川くんは店長からの無茶な仕事にも精一杯取り組んでいて、本当に健気で可愛らしい。
それも全て田淵くんのためなのだろう。
「田淵くん、体調はどう?」
「あっ、河北さん。今日もお見舞いに来てくださってありがとうございます」
「いや、気にしないで。あ、これ。お土産のプリンだよ。ここのが美味しいって聞いたから」
「わぁ、いつもいつもありがとうございます! 自分じゃ動けないので、甘いもの食べたくても買いに行けなくて……」
「看護師さんに頼んだら買ってきてもらえるんじゃないか?」
「はい。でも忙しそうだから、わざわざ買ってきてもらうのは申し訳なくて……」
ああ、こういう子なんだよな。
周りに気遣いができて……砂川くんといい、この子といい本当に健気で真面目ないい子だ。
今時の大学生にしては珍しいくらいだな。
「ふふっ。田淵くん、優しいんだな。じゃあ、私が毎日甘いもの持ってくるから楽しみにしてて」
「えっ、僕……そんなつもりじゃ……」
「ふふっ。わかってるよ。私がしたいだけだから、遠慮しないで。それよりも何か変わったことはなかった?」
「あ、あの……砂川くんの知り合いだっていう人が来られて、事故の話を聞かれました」
ユウさんか……よほど砂川くんが心配なんだな。
後で情報を共有しとかないとな。
「それで?」
「その人、弁護士バッジをつけていらしたので、もしかしたら砂川くんが弁護士さんに相談したのかもと思って、聞かれるままに全部話しちゃったんですけど……後で、大丈夫だったかと気になってしまって……」
「ああ、それなら大丈夫。心配しないでいいよ」
「本当ですか?」
「ああ。砂川くんと、そして君を守るために私が手配したんだ」
「河北さんが……ありがとうございます」
「いや、前もって教えなくてごめん。驚いただろう?」
「いえ、でもその方が聞かれるままに話せたのでよかったです」
「それならよかった。もうすぐ解決すると思うからもうしばらく待ってて」
「はい。本当にありがとうございます」
友達を危険に晒しているのに自分が動けないって相当辛いだろうな。
早く田淵くんを安心させてやりたい。
時折、店長がフラッと店からいなくなることがある。
それは決まって砂川くんがシフトが終わった後。
そう、砂川くんの後をつけているのだ。
だが、その辺も抜かりはない。
ユウさんが奴と砂川くんの間に入り、こっそりと視界から消しているから途中で砂川くんの姿を見失っているのだ。
何度やってもうまくいかない、奴のそんな苛立ちが目に見えてわかるようになった。
そしてとうとう奴は痺れを切らしたのか、砂川くんを休日に無理やり仕事にこさせた。
いつもなら、客の少ない時間帯。
砂川くんを裏の仕事に呼び出して、手を出そうと思っていたんだろう。
しかし、奴の目論見はある女性の登場で脆くも崩れ去った。
コンビニに押しかけてきた初の女性はあろうことか、自分の旦那と砂川くんが不倫関係にあると騒ぎ出したのだ。
その日は急遽砂川くんが奴に呼び出されていたため、あいにく俺とは時間がかぶっておらず、その場には居合わせることはできなかった。
いや、多分それも計算して奴は砂川くんを呼び出していたんだろう。
奴にとって本社からバイトに来ている俺は邪魔でしかないからな。
だが、店内に盗聴器とカメラを仕掛けていたため、その映像と音声はリアルタイムで私のところに流れてきていた。
すぐにユウさんに連絡をすると、ユウさんは急いでコンビニに向かい大騒ぎをしている店内に侵入した。
女は昨日もラブホテルに砂川くんが旦那といたのを目撃して証拠写真まであると騒ぎ立てていたが、それが嘘だということは私にもユウさんにもわかっていた。
しかし、奴の方は砂川くんが不倫していると信じ込んで少し興味が冷めてしまったのかもしれない。
なんせ奴の狙いは何の手垢もなさそうな純粋な子。
男の匂いのつく子はいらないというわけだ。
勘違いしたまま、奴は女の要求通りに砂川くんをクビにすると言い切った。
その言質をとったところでユウさんが砂川くんを助けに入り、すぐに不倫などしていないと誤解を解き、砂川くんの名誉を守った。
奴は慌てて首を撤回しようとしたが、もうすでに後の祭り。
ユウさんは砂川くんを連れ、店を後にした。
「くそっ、あいつ。俺のを持って行きやがった。あいつは俺のなのに……」
ぶつぶつと文句を言い続ける奴の声が盗聴器から流れてきていた。
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