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兄さんが幸せなら……
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「もうこんな時間か。そろそろお開きにするか?」
「ああ、そうだな」
「成瀬はタクシーだろう? もう呼んでおくか?」
「いや、俺たち今日はイリゼホテルに部屋を取ってるから」
「ああ、そうなのか。じゃあ俺たちと一緒だな」
「そうか、じゃあ一緒にホテルまで行くか」
優一さんは当然のように安慶名さんとそんな話をしているけれど、僕は何にも聞いてない。
「えっ? あの……優一さん、今日お泊まりなんですか?」
「ああ。真琴を驚かせようと思って内緒にしていたんだ。たまにはホテルに泊まるのもいいだろう?」
「でも、着替えとか……」
「それなら心配ない。宿泊予定の部屋に荷物を送っておいたからな」
「そう、なんですね……」
すごい……あまりにも用意周到で驚くしかできない。
茫然と優一さんを見つめていると、
「真琴……私と泊まるのはいやか?」
不安そうな目で尋ねられた。
「えっ……そんな、いやだなんて! あまりにも突然でびっくりしただけです」
「そうか。なら、よかった」
にっこりと微笑む優一さんに向かって、安慶名さんが少し嬉しそうに口を開いた。
「本当に、お前変わったな。人間らしくなった」
「自分でもそう思うよ。真琴と出会えて、やっと感情が揺れ動くってことを知ったしな」
「ははっ。それはすごいな。お前の感情を揺れ動かす存在が現れるとはな。大学時代のお前見てたら誰も想像もつかないぞ」
「確かにそうだな。でも、それは安慶名もだろ? お前、大学の時は毎日のように告白されても能面のような表情で断り続けてたじゃないか。安慶名には一生恋人はできないと思って心配してたんだぞ」
「ちょ――っ、成瀬! 余計なこと話すなよ」
焦ったように兄さんに
「悠真、あの……私はそんなにモテないですし、毎日なんて告白されてないですから。成瀬が大袈裟に話してるだけですよ」
というと、兄さんはにっこりと笑った。
「ふふっ。伊織さん、そんなに慌てなくて大丈夫ですよ。私の伊織さんがモテる人だってわかってますし、それに……どれだけ他の人がいても、私だけを見ていてくださるのでしょう?」
「――っ、悠真……っ。ええ、その通りです。私は悠真以外には心が動きませんから。私の心も感情もあなたのものです」
安慶名さんが嬉しそうに兄さんを抱きしめる。
その表情から本当に兄さんのことを愛おしく思っているのがわかって、僕は本当に嬉しかった。
「真琴……寂しいか?」
「えっ? どうしてですか?」
「真琴を愛してくれているお兄さんに恋人ができて、寂しいんじゃないかと思って」
「うーん、僕といる時とは全然違う蕩けるような甘い表情をしている幸せいっぱいの兄さんを見てると、そりゃあちょっとは寂しいなと思いますけど……でも、自分の幸せそっちのけでいつも僕のことばかり考えてきた兄さんが、一緒にいて幸せになれる人を見つけたのは素直に嬉しいと思いますよ。僕も、優一さんみたいな素敵な人と出会えて幸せなんで、同じタイミングで大事な人に出会えてよかったなって思ってます。しかも、優一さんと安慶名さんが仲良しさんだなんて……これから一緒に旅行とか遊びに行ったりとか楽しめそうじゃないですか?」
「安慶名と旅行? まぁ、そうだな。真琴とお兄さんが一緒なら……それは、楽しいかもしれないな……」
「でしょう? あっ、じゃあ今度、僕たちの実家がある宮古島に一緒に行きませんか?」
「えっ? 宮古島の真琴の実家に?」
「はい。母さんやおばあちゃんにも優一さんを紹介したいし。それにうちのマンゴーを優一さんに食べて欲しいです。ねぇ、兄さん! どう思う?」
僕は喜び勇んで兄さんに声をかけた。
「えっ? 何? 何の話?」
「だから、今度4人で実家に帰りたいって話。兄さんも母さんやおばあちゃんに安慶名さんを紹介したいでしょう?」
「それはもちろん! 近いうちに紹介したいなとは思ってたけれど……」
「なら、そうしよう! 4人で帰ろうよ。部屋なら僕たちの部屋もあるから泊まれるし」
「うん……そうだね。伊織さんは、どうですか? 私の実家に来ていただけますか?」
「もちろん! こちらからお願いしたいくらいですよ。なぁ、成瀬もそうだろう?」
安慶名さんはすっかり乗り気みたいだ。
兄さんが嬉しそう。
優一さんはどうかな?
「真琴、私もぜひ行かせてくれ。真琴の生まれ育った場所を私に教えて欲しい」
「わぁーっ、はい。もちろんです!」
「よかった」
優一さんは嬉しそうに僕を抱きしめながら、
「じゃあ、安慶名。あとで日程を調整しよう」
と声をかけると、
「ああ、そうだな。じゃあ、そろそろホテルに向かうか。悠真、行きましょうか」
と兄さんの手を優しく取って立ち上がった。
今日の食事代は兄さんと安慶名さんが支払ってくれたみたいだ。
「次、4人で会うときは支払いは任せてくれ」
「ああ、わかったよ。その時は頼む」
こうして驚きで始まった食事会は無事に終わった。
「ああ、そうだな」
「成瀬はタクシーだろう? もう呼んでおくか?」
「いや、俺たち今日はイリゼホテルに部屋を取ってるから」
「ああ、そうなのか。じゃあ俺たちと一緒だな」
「そうか、じゃあ一緒にホテルまで行くか」
優一さんは当然のように安慶名さんとそんな話をしているけれど、僕は何にも聞いてない。
「えっ? あの……優一さん、今日お泊まりなんですか?」
「ああ。真琴を驚かせようと思って内緒にしていたんだ。たまにはホテルに泊まるのもいいだろう?」
「でも、着替えとか……」
「それなら心配ない。宿泊予定の部屋に荷物を送っておいたからな」
「そう、なんですね……」
すごい……あまりにも用意周到で驚くしかできない。
茫然と優一さんを見つめていると、
「真琴……私と泊まるのはいやか?」
不安そうな目で尋ねられた。
「えっ……そんな、いやだなんて! あまりにも突然でびっくりしただけです」
「そうか。なら、よかった」
にっこりと微笑む優一さんに向かって、安慶名さんが少し嬉しそうに口を開いた。
「本当に、お前変わったな。人間らしくなった」
「自分でもそう思うよ。真琴と出会えて、やっと感情が揺れ動くってことを知ったしな」
「ははっ。それはすごいな。お前の感情を揺れ動かす存在が現れるとはな。大学時代のお前見てたら誰も想像もつかないぞ」
「確かにそうだな。でも、それは安慶名もだろ? お前、大学の時は毎日のように告白されても能面のような表情で断り続けてたじゃないか。安慶名には一生恋人はできないと思って心配してたんだぞ」
「ちょ――っ、成瀬! 余計なこと話すなよ」
焦ったように兄さんに
「悠真、あの……私はそんなにモテないですし、毎日なんて告白されてないですから。成瀬が大袈裟に話してるだけですよ」
というと、兄さんはにっこりと笑った。
「ふふっ。伊織さん、そんなに慌てなくて大丈夫ですよ。私の伊織さんがモテる人だってわかってますし、それに……どれだけ他の人がいても、私だけを見ていてくださるのでしょう?」
「――っ、悠真……っ。ええ、その通りです。私は悠真以外には心が動きませんから。私の心も感情もあなたのものです」
安慶名さんが嬉しそうに兄さんを抱きしめる。
その表情から本当に兄さんのことを愛おしく思っているのがわかって、僕は本当に嬉しかった。
「真琴……寂しいか?」
「えっ? どうしてですか?」
「真琴を愛してくれているお兄さんに恋人ができて、寂しいんじゃないかと思って」
「うーん、僕といる時とは全然違う蕩けるような甘い表情をしている幸せいっぱいの兄さんを見てると、そりゃあちょっとは寂しいなと思いますけど……でも、自分の幸せそっちのけでいつも僕のことばかり考えてきた兄さんが、一緒にいて幸せになれる人を見つけたのは素直に嬉しいと思いますよ。僕も、優一さんみたいな素敵な人と出会えて幸せなんで、同じタイミングで大事な人に出会えてよかったなって思ってます。しかも、優一さんと安慶名さんが仲良しさんだなんて……これから一緒に旅行とか遊びに行ったりとか楽しめそうじゃないですか?」
「安慶名と旅行? まぁ、そうだな。真琴とお兄さんが一緒なら……それは、楽しいかもしれないな……」
「でしょう? あっ、じゃあ今度、僕たちの実家がある宮古島に一緒に行きませんか?」
「えっ? 宮古島の真琴の実家に?」
「はい。母さんやおばあちゃんにも優一さんを紹介したいし。それにうちのマンゴーを優一さんに食べて欲しいです。ねぇ、兄さん! どう思う?」
僕は喜び勇んで兄さんに声をかけた。
「えっ? 何? 何の話?」
「だから、今度4人で実家に帰りたいって話。兄さんも母さんやおばあちゃんに安慶名さんを紹介したいでしょう?」
「それはもちろん! 近いうちに紹介したいなとは思ってたけれど……」
「なら、そうしよう! 4人で帰ろうよ。部屋なら僕たちの部屋もあるから泊まれるし」
「うん……そうだね。伊織さんは、どうですか? 私の実家に来ていただけますか?」
「もちろん! こちらからお願いしたいくらいですよ。なぁ、成瀬もそうだろう?」
安慶名さんはすっかり乗り気みたいだ。
兄さんが嬉しそう。
優一さんはどうかな?
「真琴、私もぜひ行かせてくれ。真琴の生まれ育った場所を私に教えて欲しい」
「わぁーっ、はい。もちろんです!」
「よかった」
優一さんは嬉しそうに僕を抱きしめながら、
「じゃあ、安慶名。あとで日程を調整しよう」
と声をかけると、
「ああ、そうだな。じゃあ、そろそろホテルに向かうか。悠真、行きましょうか」
と兄さんの手を優しく取って立ち上がった。
今日の食事代は兄さんと安慶名さんが支払ってくれたみたいだ。
「次、4人で会うときは支払いは任せてくれ」
「ああ、わかったよ。その時は頼む」
こうして驚きで始まった食事会は無事に終わった。
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