溺愛弁護士の裏の顔 〜僕はあなたを信じます

波木真帆

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言葉にならない

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ー真琴、今大丈夫?

あれから数日。
ちょうど仕事を終えて、自宅に上がってきたタイミングで兄さんから電話がかかってきた。
終わる時間を伝えているので、それを忠実に守ってかけてきてくれたんだろう。
こういうところ、やっぱり兄さんらしい。

ーうん。大丈夫だよ。

ー明後日の約束だけど、変更はない?

ーもちろん、僕も優一さんも楽しみにしてるよ。そういえば、兄さんの恋人さんは優一さんが一緒に来ることは知ってるの?

ー真琴が恋人を連れてくることは話してるけど、それが誰かは伝えてないよ。

ーそうなの? なんで?

ーえっ、なんでって……成瀬さんとの約束、だからかな。

ー約束? いつの間にそんな約束をしてたの?

ーこの前食事会をしようって話をした後で成瀬さんから連絡が来てね、その時に話したんだよ。

ーへぇーっ、そうなんだ……。

ーふふっ。真琴、今ヤキモチ妬いたでしょ?

ーえっ? ヤキモチ? そんなこと――

ー兄さんと成瀬さんだけが知ってる話があるってわかって、ちょっとモヤモヤしちゃったでしょ?

確かにそう思った。
だって兄さんだけ優一さんとの約束してるなんてずるいもん。

ーふふっ。心配しないでよ。兄さんの恋人も弁護士だからわかるんだよ。特殊な仕事だし、周りから伝えるより本人がちゃんと自己紹介するまで、何も言わない方がいいんだって。

それは、確かにそうかも……。

ー明後日、久しぶりに会えるから楽しみにしてるよ。場所は後でスマホに送っておくから。

そう言って電話は切れた。
その後すぐにメッセージを受信してお店の場所が書かれたURLが送られてきた。

「優一さん。明後日のお店の場所、ここみたいです」

お店の名前と場所が書かれたHPを見せると、

「ああ、わかった。ここ、いいお店だよ」

と教えてくれた。

「ここ、行ったことあるんですか?」

「ああ、個室でゆっくり話せるからもってこいの場所だな。料理もお酒も美味しいし、きっと真琴も楽しめるよ。そういえば、まだ真琴とお酒を飲んだことはなかったけれど、宮古島出身ならお兄さんも真琴もお酒は強いんじゃないのか?」

宮古島出身だというと、大抵の人はそう思うんだよね。
泡盛とかオトーリとかそういうのが強く見えるのかな。
僕は20歳になってすぐに兄さんと倉橋さんにお酒飲みに連れて行ってもらったけれど、あんまりたくさんは飲めなかったし。
泡盛や日本酒よりも僕はワインの方が美味しく感じたな。

「兄さんは好きでよく飲んでるみたいですけど、ものすごく強いわけじゃないと思いますよ。社長さんに連れられて西表のお店で飲んでるみたいですけど、酔っ払ってよく社長さんのお家に泊まっているみたいでしたし……」

「社長さんの家に? それは……」

「んっ? 何か気になりますか?」

「あっ、いや。恋人さんは心配だろうなと思ってね」

「確かにそうかも。そういえば、この前、兄さんから恋人ができたって話を聞いた時に、ふと思い浮かんだのが社長さんだったんです。もしかしたら、何かしらのきっかけで恋人になったりして……って思ってそう言ったら、思いっきり否定されてびっくりしちゃいました」

「それは……お兄さんも驚いただろう。そもそも、もう働き出して10年は経っているだろう? 今更恋人には進展しないんじゃないかな?」

「そういうものですか?」

「ああ、多分ね。そんな気持ちがあるならとっくに恋人になってると思うよ」

そっか……そういうものなんだ。

「まぁとにかく、明後日は美味しい料理とお酒を飲みながら楽しい時間を過ごそう」

「ふふっ。楽しみですね」



優一さんに選んでもらった服を着て、タクシーで銀座まで向かった。

「今日はタクシーだから、優一さんも飲めますね」

「ああ、せっかくのお兄さんとの食事会だからね」

「兄さんの恋人さんってどんな人だろう……なんかドキドキするなぁ」

「真琴……真琴の恋人は私だからな。あっちに心奪われないようにな」

冗談ぽく言いながらも、目は真剣な優一さんに

「ふふっ。何言ってるんですか。僕には優一さんだけですよ」

というと、優一さんは少し安心したように笑っていた。

タクシーの運転手さんに聞かれているかもとちょっと思ったけど、でもこういうのはちゃんとその都度伝えないといけないってわかったからいいんだ。
優一さんに変な勘違いされるのが一番嫌だもんね。


お店近くで車を降り、デート気分で銀座を歩きながらお店へと向かう。

「真琴、ここだぞ」

「ここ? お店って言われないとわからないですね」

「ふふっ。紹介でしか入れない店だからね。落ち着く店だよ」

ふぇーっ、そんな店……聞いたことあったけど、実際に見たのは初めてだ。
やっぱすごいな、東京って。

「ご予約のお名前、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「はい。砂川です」

「お待ち申し上げておりました。お連れさまもお部屋でお待ちになっていらっしゃいます。どうぞお部屋にご案内いたします」

丁寧な店員さんに個室の奥へと案内される。
ここの造りは独特で、部屋へ入る様子がどの部屋からも見えない造りになっているようだ。

お忍びで芸能人さんなんかが来そうなお店だな。
それくらいプライバシーに配慮されている。
とはいえ仕事の話はしないだろうけど、兄さんたちとゆっくり話せそうで安心するな。

「こちらでございます。お連れさまがお越しになりました」

扉を開けると、広い上り框が現れた。
僕たちと襖の奥に向かって声掛けをすると、店員さんはさっと扉から出て行った。

靴を脱ぎ襖を開け、久しぶりの兄さんの笑顔が見えて喜びの声を上げようとした瞬間、

「はっ? な――っ? えっ?」

兄さんの隣にいたイケメンさんが驚愕の表情で僕たちを見つめていた。
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