上 下
36 / 86

裏の顔

しおりを挟む
「私は……弁護士以外にもう一つ、調査員という仕事をしているんだ」

「調査、員? あの、それって……」

「わかりやすく言えば……探偵、かな」

「探偵……」

「弁護士という職業柄、いろんなところに人脈もあって、調査もしやすい。探偵にはうってつけだな」

思いがけない優一さんの言葉に僕は驚きが止まらなかった。

「あ、あの……それって、氷室さんや翼さんも知ってるんですか?」

「ああ。もちろん。そもそも、私が調査員になったきっかけは翼くんのためだったんだ」

「翼さんの……?」

「まぁ、正確に言えば、氷室のためかな……。私と氷室が弁護士としてある弁護士事務所に勤めていた頃、依頼に来たのが翼くんで氷室が担当になった。詳しい内容に関しては守秘義務があるから話せないけど、その時、翼くんはとんでもない男に付き纏われていて、命の危険もあったんだ。ただ相手の男はかなりのやり手でなかなか法律に触れるようなミスを犯さなくて……このまま翼くんが訴えても負けるのは明らかだったんだ」

あの翼さんにそんなことが……。
怖かっただろうな。

「男への恐怖にどんどん衰弱していく翼くんを前にしても、法律を犯していない以上何の手出しもできなくて……氷室に手を貸して欲しいと頼まれたんだ。それで、私はいろんな人脈を辿って、その男が確実に落ちる情報を手に入れた。そのおかげでその男を社会的に抹さ……いや、排除することができて、翼くんとも引き離すことができた。あの時の翼くんのように困っている人の手助けになれたらと思って、弁護士という仕事の傍らで調査員という仕事を始めることにしたんだ」

優一さんの根幹にあるのは誰かを助けたいという気持ちなんだろうな。
だから、翼さんも今、幸せになれたんだ。


「あの、じゃあ……河北さんは?」

「河北くんは……その、調査員の方の仲間なんだ。元々、あのコンビニの本社の上層部の人からの依頼を受けてあのコンビニを調査していたんだよ」

「コンビニを調査、ですか?」

「コンビニというよりはあの男だな。詳しいことは言えないが、色々と問題行動が上がってきていたからね。企業側から手渡された事前書類に田淵くんの名前があって驚いたよ。その時は田淵くんと真琴のことは大学で出会って知っていたからね。あの男の好みが真琴にぴったりだとわかって、何かしら田淵くんを使って真琴を引き入れようとするんじゃないかと思って、思惑を全て明かすためにしばらく河北くんには本社からのアルバイトということで働いてもらいながら内偵調査をやってもらっていた。河北くんから連絡をもらって真琴の帰り道なんかは駆けつけていた」

「えっ、じゃあ……優一さんがあの時、僕を助けてくれたのは……」

「河北くんから連絡をもらってすぐに駆けつけたんだ」

「あの、じゃあ……今日河北さんと一緒にいたのは?」

「あれは別の調査報告を受けていたんだ。怪しげなところでこっそり2人っきりで話すより、意外とああいう場所の方が他人は気にしないものだからね」

そう、だったんだ……。
ものすごく親密そうだったし……僕よりももしかしたら仲がいいのかも……なんて思っちゃった。

「どうした? 河北くんが気になるか?」

「えっ? そんなことはないですけど……」

「だが、随分と河北くんを気にしているようだな」

「そうじゃなくて……僕、優一さんと河北さんが知り合いだなんて思いもしなかったから、今日あのお店で2人で会っているのをみて……もしかしたら、優一さんは本当は河北さんが好きだったんだじゃないかって思ったりして……」

「はっ? 私が、河北くんを……?」

「はい。すごく親しそうだったから……それで、2人でいるのみたくないって思ったら、苦しくなってきちゃって……」

あの時のことを思い出すと今でも少し胸が苦しくなる。
それくらい僕には、お似合いに見えたんだ。

「真琴……っ、バカだな。私には真琴だけだって言っているだろう? 信じられないか?」

「ちが――っ、ただ僕が……自分に自信がないだけです――わっ!」

優一さんにギュッと抱きしめられて驚いた。

「真琴……勘違いさせるようなことをして私が悪かった。だが、これだけはわかっていてくれ。私には真琴だけだって。誰とどこで何をしていても、真琴のことだけを大切に思ってる」

「優一さん……」

「真琴……よく聞いてくれ。調査員という仕事は、昼間だけじゃない。河北くん……シンというんだが、シンだけじゃなく、場合によっては私が内偵に入る場合も多々ある。今までは昼間はシンに、夜は私が内偵に入っていたんだ。真琴が怪我をしている間は調査がなかったから、事なきを得たが、これから夜の内偵が入る場合もある。もし、真琴が嫌だというなら、調査員の仕事はこれ限りで辞めてもいいと思ってる。弁護士の仕事だけでも十分満足できる生活はできるから問題ない。全てを知ってもらった上で、真琴の意見が聞きたいんだ。真琴、どう思う?」

そう言われて、一瞬答えに悩んだ。
でも、

――あの時の翼くんのように困っている人の手助けになれたらと思って……。

そう話していた優一さんのあの思いを失わせたくない。
とすれば答えは一つだ。
しおりを挟む
感想 68

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...