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裏の顔
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「私は……弁護士以外にもう一つ、調査員という仕事をしているんだ」
「調査、員? あの、それって……」
「わかりやすく言えば……探偵、かな」
「探偵……」
「弁護士という職業柄、いろんなところに人脈もあって、調査もしやすい。探偵にはうってつけだな」
思いがけない優一さんの言葉に僕は驚きが止まらなかった。
「あ、あの……それって、氷室さんや翼さんも知ってるんですか?」
「ああ。もちろん。そもそも、私が調査員になったきっかけは翼くんのためだったんだ」
「翼さんの……?」
「まぁ、正確に言えば、氷室のためかな……。私と氷室が弁護士としてある弁護士事務所に勤めていた頃、依頼に来たのが翼くんで氷室が担当になった。詳しい内容に関しては守秘義務があるから話せないけど、その時、翼くんはとんでもない男に付き纏われていて、命の危険もあったんだ。ただ相手の男はかなりのやり手でなかなか法律に触れるようなミスを犯さなくて……このまま翼くんが訴えても負けるのは明らかだったんだ」
あの翼さんにそんなことが……。
怖かっただろうな。
「男への恐怖にどんどん衰弱していく翼くんを前にしても、法律を犯していない以上何の手出しもできなくて……氷室に手を貸して欲しいと頼まれたんだ。それで、私はいろんな人脈を辿って、その男が確実に落ちる情報を手に入れた。そのおかげでその男を社会的に抹さ……いや、排除することができて、翼くんとも引き離すことができた。あの時の翼くんのように困っている人の手助けになれたらと思って、弁護士という仕事の傍らで調査員という仕事を始めることにしたんだ」
優一さんの根幹にあるのは誰かを助けたいという気持ちなんだろうな。
だから、翼さんも今、幸せになれたんだ。
「あの、じゃあ……河北さんは?」
「河北くんは……その、調査員の方の仲間なんだ。元々、あのコンビニの本社の上層部の人からの依頼を受けてあのコンビニを調査していたんだよ」
「コンビニを調査、ですか?」
「コンビニというよりはあの男だな。詳しいことは言えないが、色々と問題行動が上がってきていたからね。企業側から手渡された事前書類に田淵くんの名前があって驚いたよ。その時は田淵くんと真琴のことは大学で出会って知っていたからね。あの男の好みが真琴にぴったりだとわかって、何かしら田淵くんを使って真琴を引き入れようとするんじゃないかと思って、思惑を全て明かすためにしばらく河北くんには本社からのアルバイトということで働いてもらいながら内偵調査をやってもらっていた。河北くんから連絡をもらって真琴の帰り道なんかは駆けつけていた」
「えっ、じゃあ……優一さんがあの時、僕を助けてくれたのは……」
「河北くんから連絡をもらってすぐに駆けつけたんだ」
「あの、じゃあ……今日河北さんと一緒にいたのは?」
「あれは別の調査報告を受けていたんだ。怪しげなところでこっそり2人っきりで話すより、意外とああいう場所の方が他人は気にしないものだからね」
そう、だったんだ……。
ものすごく親密そうだったし……僕よりももしかしたら仲がいいのかも……なんて思っちゃった。
「どうした? 河北くんが気になるか?」
「えっ? そんなことはないですけど……」
「だが、随分と河北くんを気にしているようだな」
「そうじゃなくて……僕、優一さんと河北さんが知り合いだなんて思いもしなかったから、今日あのお店で2人で会っているのをみて……もしかしたら、優一さんは本当は河北さんが好きだったんだじゃないかって思ったりして……」
「はっ? 私が、河北くんを……?」
「はい。すごく親しそうだったから……それで、2人でいるのみたくないって思ったら、苦しくなってきちゃって……」
あの時のことを思い出すと今でも少し胸が苦しくなる。
それくらい僕には、お似合いに見えたんだ。
「真琴……っ、バカだな。私には真琴だけだって言っているだろう? 信じられないか?」
「ちが――っ、ただ僕が……自分に自信がないだけです――わっ!」
優一さんにギュッと抱きしめられて驚いた。
「真琴……勘違いさせるようなことをして私が悪かった。だが、これだけはわかっていてくれ。私には真琴だけだって。誰とどこで何をしていても、真琴のことだけを大切に思ってる」
「優一さん……」
「真琴……よく聞いてくれ。調査員という仕事は、昼間だけじゃない。河北くん……シンというんだが、シンだけじゃなく、場合によっては私が内偵に入る場合も多々ある。今までは昼間はシンに、夜は私が内偵に入っていたんだ。真琴が怪我をしている間は調査がなかったから、事なきを得たが、これから夜の内偵が入る場合もある。もし、真琴が嫌だというなら、調査員の仕事はこれ限りで辞めてもいいと思ってる。弁護士の仕事だけでも十分満足できる生活はできるから問題ない。全てを知ってもらった上で、真琴の意見が聞きたいんだ。真琴、どう思う?」
そう言われて、一瞬答えに悩んだ。
でも、
――あの時の翼くんのように困っている人の手助けになれたらと思って……。
そう話していた優一さんのあの思いを失わせたくない。
とすれば答えは一つだ。
「調査、員? あの、それって……」
「わかりやすく言えば……探偵、かな」
「探偵……」
「弁護士という職業柄、いろんなところに人脈もあって、調査もしやすい。探偵にはうってつけだな」
思いがけない優一さんの言葉に僕は驚きが止まらなかった。
「あ、あの……それって、氷室さんや翼さんも知ってるんですか?」
「ああ。もちろん。そもそも、私が調査員になったきっかけは翼くんのためだったんだ」
「翼さんの……?」
「まぁ、正確に言えば、氷室のためかな……。私と氷室が弁護士としてある弁護士事務所に勤めていた頃、依頼に来たのが翼くんで氷室が担当になった。詳しい内容に関しては守秘義務があるから話せないけど、その時、翼くんはとんでもない男に付き纏われていて、命の危険もあったんだ。ただ相手の男はかなりのやり手でなかなか法律に触れるようなミスを犯さなくて……このまま翼くんが訴えても負けるのは明らかだったんだ」
あの翼さんにそんなことが……。
怖かっただろうな。
「男への恐怖にどんどん衰弱していく翼くんを前にしても、法律を犯していない以上何の手出しもできなくて……氷室に手を貸して欲しいと頼まれたんだ。それで、私はいろんな人脈を辿って、その男が確実に落ちる情報を手に入れた。そのおかげでその男を社会的に抹さ……いや、排除することができて、翼くんとも引き離すことができた。あの時の翼くんのように困っている人の手助けになれたらと思って、弁護士という仕事の傍らで調査員という仕事を始めることにしたんだ」
優一さんの根幹にあるのは誰かを助けたいという気持ちなんだろうな。
だから、翼さんも今、幸せになれたんだ。
「あの、じゃあ……河北さんは?」
「河北くんは……その、調査員の方の仲間なんだ。元々、あのコンビニの本社の上層部の人からの依頼を受けてあのコンビニを調査していたんだよ」
「コンビニを調査、ですか?」
「コンビニというよりはあの男だな。詳しいことは言えないが、色々と問題行動が上がってきていたからね。企業側から手渡された事前書類に田淵くんの名前があって驚いたよ。その時は田淵くんと真琴のことは大学で出会って知っていたからね。あの男の好みが真琴にぴったりだとわかって、何かしら田淵くんを使って真琴を引き入れようとするんじゃないかと思って、思惑を全て明かすためにしばらく河北くんには本社からのアルバイトということで働いてもらいながら内偵調査をやってもらっていた。河北くんから連絡をもらって真琴の帰り道なんかは駆けつけていた」
「えっ、じゃあ……優一さんがあの時、僕を助けてくれたのは……」
「河北くんから連絡をもらってすぐに駆けつけたんだ」
「あの、じゃあ……今日河北さんと一緒にいたのは?」
「あれは別の調査報告を受けていたんだ。怪しげなところでこっそり2人っきりで話すより、意外とああいう場所の方が他人は気にしないものだからね」
そう、だったんだ……。
ものすごく親密そうだったし……僕よりももしかしたら仲がいいのかも……なんて思っちゃった。
「どうした? 河北くんが気になるか?」
「えっ? そんなことはないですけど……」
「だが、随分と河北くんを気にしているようだな」
「そうじゃなくて……僕、優一さんと河北さんが知り合いだなんて思いもしなかったから、今日あのお店で2人で会っているのをみて……もしかしたら、優一さんは本当は河北さんが好きだったんだじゃないかって思ったりして……」
「はっ? 私が、河北くんを……?」
「はい。すごく親しそうだったから……それで、2人でいるのみたくないって思ったら、苦しくなってきちゃって……」
あの時のことを思い出すと今でも少し胸が苦しくなる。
それくらい僕には、お似合いに見えたんだ。
「真琴……っ、バカだな。私には真琴だけだって言っているだろう? 信じられないか?」
「ちが――っ、ただ僕が……自分に自信がないだけです――わっ!」
優一さんにギュッと抱きしめられて驚いた。
「真琴……勘違いさせるようなことをして私が悪かった。だが、これだけはわかっていてくれ。私には真琴だけだって。誰とどこで何をしていても、真琴のことだけを大切に思ってる」
「優一さん……」
「真琴……よく聞いてくれ。調査員という仕事は、昼間だけじゃない。河北くん……シンというんだが、シンだけじゃなく、場合によっては私が内偵に入る場合も多々ある。今までは昼間はシンに、夜は私が内偵に入っていたんだ。真琴が怪我をしている間は調査がなかったから、事なきを得たが、これから夜の内偵が入る場合もある。もし、真琴が嫌だというなら、調査員の仕事はこれ限りで辞めてもいいと思ってる。弁護士の仕事だけでも十分満足できる生活はできるから問題ない。全てを知ってもらった上で、真琴の意見が聞きたいんだ。真琴、どう思う?」
そう言われて、一瞬答えに悩んだ。
でも、
――あの時の翼くんのように困っている人の手助けになれたらと思って……。
そう話していた優一さんのあの思いを失わせたくない。
とすれば答えは一つだ。
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