16 / 88
全部僕のために
しおりを挟む
「それでも君のことを忘れられずにいたんだけど、それからしばらくしてだったかな。あのコンビニで働いていた君を見つけたのは。びっくりしたけど、あの時学食で一緒にいた田淵くんが元々あのコンビニで働いていたのは知っていたから、最初は、きっと彼に誘われてあのコンビニでバイトするようになったと思ったんだ。でも、それから友達の姿は見かけないのに、真琴くんの姿はよく見かけるようになって、それが気になって仕方がなかったんだ。ねぇ、真琴くん……田淵くんの代わりに君が働くようになった経緯を聞いてもいいかな?」
「あの……田淵くんが、仕事帰りに事故に遭って、僕お見舞いに行ったんです。そうしたら、店長に代わりを連れてこないなら這ってでも来いって言われてて……それで僕が……」
「それ、気づかなかった?」
「えっ? 何がですか?」
「田淵くんが事故に遭ったのは必然だよ。田淵くんを轢いたのは店長のあの男なんだ」
「――っ、そんなっ」
店長が田淵くんを?
事故にあった田淵くんを心配もせず、あんなに罵ったりして酷い人だとは思っていたけど……まさか自分がその加害者だったなんて……。
本当なら酷過ぎて言葉にならない。
「事後報告で悪いが、実は……真琴くんの知り合いだと言って、田淵くんに会いに行ったんだ。そこで彼から事故の話を聞いた。明らかに不審な点が多くて、個人的に調査を入れたんだよ。そうしたら、田淵くんを轢いて走り去った車に店長のあの男が写っている映像が見つかった。それで、あの男が田淵くんを利用して真琴くんをあのコンビニで働かせるように仕向けたんじゃないかって思ったんだよ」
「僕を働かせるために? どうしてですか?」
「推測の域に過ぎないが、おそらくあの男は田淵くんと一緒にいる君をみて好意を持った。近づくには自分のテリトリーであるコンビニで働かせるのが一番だが、君が入ってくる保証はない。だが、田淵くんの代わりに入らせれば君は田淵くんのために、あの男がどんな無理を言ってきても仕事に入っただろう? そこを狙ったんだ」
「店長が……僕に好意?」
あまりの気味悪さに、身体が震える。
それに気づいた優一さんが、僕の背中を優しく撫でてくれる。
「ごめん、怖がらせるつもりはなかったんだが……。それを知ってから、君がバイトに入る時はこっそり護衛がてら見守っていたんだよ。君が帰るのをつけ狙っていることもあったから、間に入ってあの男の視界から君を消したりもしていたんだ」
「えっ、じゃあ……優一さんがずっと僕を守ってくれてたってことですか?」
「引いただろう? 身も知らない奴に守られてたなんて」
「そんなことっ! 僕、優一さんが守ってくれていたなんて全然知らなくて……。でも、優一さんが守ってくれてなかったら今頃どうなってたことか……そう思ったら、怖くて……」
怖くて震えが止まらない。
すると、抱きしめられている腕が強くなって優一さんの鼓動がすぐ近くで聞こえてホッとする。
「大丈夫、これからも私が真琴くんを必ず守るよ」
これほど心強い言葉はないだろうな。
そう思えるくらい、安心した。
「あの、今日のあの女性は……」
「ああ、今日のあの女性が乗り込んできた件は、偶然だ。あの男が仕組んだことじゃない。だが、あれに便乗して真琴くんをあそこから辞めさせることができてホッとしたんだ。あの女性がやったことは決して許されることじゃないが、真琴くんが辞められたことは感謝してる」
そうなんだ……。
もしかしたら、あの人もグルなのかも……なんて一瞬思ってしまったけど、それは違ったみたい。
でも、本当にあの人があの店長の本性を引き出してくれたからさっさと辞めることができたんだ。
もちろん、それは優一さんのおかげそのものだけど。
「真琴くんがあんな辞め方したから、あの男が絶対に動くと思ってね。絶対に真琴くんの家に向かうことは想定内だったから、懇意にしている刑事を呼び出して急いで家に向かったんだ。確実に逮捕できる証拠が欲しくて、君を一人で帰らせて怖い目に遭わせてしまった。しかも怪我までさせてしまって……本当に申し訳なかった」
「でも……ずっとついててくれたんですよね? だから、助けてくれたんでしょう?」
「ああ。だが、本当はあいつが君に怪我をさせる前に捕まえたかったんだ。あれは私の失態だ。だから、私が君の世話をするのは当然なんだよ。だから、治るまでしっかりと世話をさせてくれ」
「あの、じゃあ……この下着は……」
「履歴書を出した時点であの男に住所が知られているから危ないだろうと思ってね。もしかしたら君をこの家に泊めることがあるかもしれないと思って用意していたんだ」
「そっか……じゃあ、全部僕のために……」
僕のことを思ってくれてただけでもびっくりなのに、僕が知らないところでこんなにも守ってくれていたなんて……。
どうしよう……なんだかものすごく嬉しい。
「真琴くん……本当はもっと、私のことを知ってもらってから伝えるつもりだったんだけど……言わないままそばにいるわけにはいかないから。私の気持ちを聞いてほしい……」
優一さんの真剣な表情に僕は息を呑んだ。
「学食で君を見かけて一瞬で心惹かれた。男同士だし、一回り以上も年上でそもそも恋愛対象にすらならないかもしれないと思いながらも、どうしても君のことを諦められなかった。真琴くんのことが好きなんだ。これから少しずつでもいい。私のことを考えてくれないか?」
手が震えてる……。
こんなにすごい弁護士さんで、自信に漲っているような人が僕なんかにこんなに手を震わせて思いを伝えてくれるなんて……。
人を好きになるなんて今までそんなことなかったから、男同士とか年上とかあんまりよくわからないけど、でも……優一さんといられるなら、僕はそれがいい。
初めてこんなふうに面と向かって好きだって言われたな……。
初めての人がこんなに素敵な人だなんて思いもしなかった。
でも……すごく嬉しい。
「あ、あの……僕、誰かを好きになったこととかなくて……だから、よくわからないんですけど、優一さんから……好きだって言ってもらえて、すごく嬉しいです……だから、これからそばにいて……優一さんが好きな気持ちをいっぱい伝えてくれたら、僕も……わかるかも……」
「真琴くん、それって……」
「優一さんのそばにいさせてください……」
「――っ! ああっ、ずっとそばにいてくれ!」
今まで聞いたことのないような優一さんの興奮しきった声を嬉しく感じながら、僕はしばらくの間、優一さんに抱きしめられ続けた。
「あの……田淵くんが、仕事帰りに事故に遭って、僕お見舞いに行ったんです。そうしたら、店長に代わりを連れてこないなら這ってでも来いって言われてて……それで僕が……」
「それ、気づかなかった?」
「えっ? 何がですか?」
「田淵くんが事故に遭ったのは必然だよ。田淵くんを轢いたのは店長のあの男なんだ」
「――っ、そんなっ」
店長が田淵くんを?
事故にあった田淵くんを心配もせず、あんなに罵ったりして酷い人だとは思っていたけど……まさか自分がその加害者だったなんて……。
本当なら酷過ぎて言葉にならない。
「事後報告で悪いが、実は……真琴くんの知り合いだと言って、田淵くんに会いに行ったんだ。そこで彼から事故の話を聞いた。明らかに不審な点が多くて、個人的に調査を入れたんだよ。そうしたら、田淵くんを轢いて走り去った車に店長のあの男が写っている映像が見つかった。それで、あの男が田淵くんを利用して真琴くんをあのコンビニで働かせるように仕向けたんじゃないかって思ったんだよ」
「僕を働かせるために? どうしてですか?」
「推測の域に過ぎないが、おそらくあの男は田淵くんと一緒にいる君をみて好意を持った。近づくには自分のテリトリーであるコンビニで働かせるのが一番だが、君が入ってくる保証はない。だが、田淵くんの代わりに入らせれば君は田淵くんのために、あの男がどんな無理を言ってきても仕事に入っただろう? そこを狙ったんだ」
「店長が……僕に好意?」
あまりの気味悪さに、身体が震える。
それに気づいた優一さんが、僕の背中を優しく撫でてくれる。
「ごめん、怖がらせるつもりはなかったんだが……。それを知ってから、君がバイトに入る時はこっそり護衛がてら見守っていたんだよ。君が帰るのをつけ狙っていることもあったから、間に入ってあの男の視界から君を消したりもしていたんだ」
「えっ、じゃあ……優一さんがずっと僕を守ってくれてたってことですか?」
「引いただろう? 身も知らない奴に守られてたなんて」
「そんなことっ! 僕、優一さんが守ってくれていたなんて全然知らなくて……。でも、優一さんが守ってくれてなかったら今頃どうなってたことか……そう思ったら、怖くて……」
怖くて震えが止まらない。
すると、抱きしめられている腕が強くなって優一さんの鼓動がすぐ近くで聞こえてホッとする。
「大丈夫、これからも私が真琴くんを必ず守るよ」
これほど心強い言葉はないだろうな。
そう思えるくらい、安心した。
「あの、今日のあの女性は……」
「ああ、今日のあの女性が乗り込んできた件は、偶然だ。あの男が仕組んだことじゃない。だが、あれに便乗して真琴くんをあそこから辞めさせることができてホッとしたんだ。あの女性がやったことは決して許されることじゃないが、真琴くんが辞められたことは感謝してる」
そうなんだ……。
もしかしたら、あの人もグルなのかも……なんて一瞬思ってしまったけど、それは違ったみたい。
でも、本当にあの人があの店長の本性を引き出してくれたからさっさと辞めることができたんだ。
もちろん、それは優一さんのおかげそのものだけど。
「真琴くんがあんな辞め方したから、あの男が絶対に動くと思ってね。絶対に真琴くんの家に向かうことは想定内だったから、懇意にしている刑事を呼び出して急いで家に向かったんだ。確実に逮捕できる証拠が欲しくて、君を一人で帰らせて怖い目に遭わせてしまった。しかも怪我までさせてしまって……本当に申し訳なかった」
「でも……ずっとついててくれたんですよね? だから、助けてくれたんでしょう?」
「ああ。だが、本当はあいつが君に怪我をさせる前に捕まえたかったんだ。あれは私の失態だ。だから、私が君の世話をするのは当然なんだよ。だから、治るまでしっかりと世話をさせてくれ」
「あの、じゃあ……この下着は……」
「履歴書を出した時点であの男に住所が知られているから危ないだろうと思ってね。もしかしたら君をこの家に泊めることがあるかもしれないと思って用意していたんだ」
「そっか……じゃあ、全部僕のために……」
僕のことを思ってくれてただけでもびっくりなのに、僕が知らないところでこんなにも守ってくれていたなんて……。
どうしよう……なんだかものすごく嬉しい。
「真琴くん……本当はもっと、私のことを知ってもらってから伝えるつもりだったんだけど……言わないままそばにいるわけにはいかないから。私の気持ちを聞いてほしい……」
優一さんの真剣な表情に僕は息を呑んだ。
「学食で君を見かけて一瞬で心惹かれた。男同士だし、一回り以上も年上でそもそも恋愛対象にすらならないかもしれないと思いながらも、どうしても君のことを諦められなかった。真琴くんのことが好きなんだ。これから少しずつでもいい。私のことを考えてくれないか?」
手が震えてる……。
こんなにすごい弁護士さんで、自信に漲っているような人が僕なんかにこんなに手を震わせて思いを伝えてくれるなんて……。
人を好きになるなんて今までそんなことなかったから、男同士とか年上とかあんまりよくわからないけど、でも……優一さんといられるなら、僕はそれがいい。
初めてこんなふうに面と向かって好きだって言われたな……。
初めての人がこんなに素敵な人だなんて思いもしなかった。
でも……すごく嬉しい。
「あ、あの……僕、誰かを好きになったこととかなくて……だから、よくわからないんですけど、優一さんから……好きだって言ってもらえて、すごく嬉しいです……だから、これからそばにいて……優一さんが好きな気持ちをいっぱい伝えてくれたら、僕も……わかるかも……」
「真琴くん、それって……」
「優一さんのそばにいさせてください……」
「――っ! ああっ、ずっとそばにいてくれ!」
今まで聞いたことのないような優一さんの興奮しきった声を嬉しく感じながら、僕はしばらくの間、優一さんに抱きしめられ続けた。
385
お気に入りに追加
1,326
あなたにおすすめの小説
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる