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全部僕のために

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「それでも君のことを忘れられずにいたんだけど、それからしばらくしてだったかな。あのコンビニで働いていた君を見つけたのは。びっくりしたけど、あの時学食で一緒にいた田淵くんが元々あのコンビニで働いていたのは知っていたから、最初は、きっと彼に誘われてあのコンビニでバイトするようになったと思ったんだ。でも、それから友達の姿は見かけないのに、真琴くんの姿はよく見かけるようになって、それが気になって仕方がなかったんだ。ねぇ、真琴くん……田淵くんの代わりに君が働くようになった経緯を聞いてもいいかな?」

「あの……田淵くんが、仕事帰りに事故に遭って、僕お見舞いに行ったんです。そうしたら、店長に代わりを連れてこないなら這ってでも来いって言われてて……それで僕が……」

「それ、気づかなかった?」

「えっ? 何がですか?」

「田淵くんが事故に遭ったのは必然だよ。田淵くんを轢いたのは店長のあの男なんだ」

「――っ、そんなっ」

店長が田淵くんを?
事故にあった田淵くんを心配もせず、あんなに罵ったりして酷い人だとは思っていたけど……まさか自分がその加害者だったなんて……。
本当なら酷過ぎて言葉にならない。

「事後報告で悪いが、実は……真琴くんの知り合いだと言って、田淵くんに会いに行ったんだ。そこで彼から事故の話を聞いた。明らかに不審な点が多くて、個人的に調査を入れたんだよ。そうしたら、田淵くんを轢いて走り去った車に店長のあの男が写っている映像が見つかった。それで、あの男が田淵くんを利用して真琴くんをあのコンビニで働かせるように仕向けたんじゃないかって思ったんだよ」

「僕を働かせるために? どうしてですか?」

「推測の域に過ぎないが、おそらくあの男は田淵くんと一緒にいる君をみて好意を持った。近づくには自分のテリトリーであるコンビニで働かせるのが一番だが、君が入ってくる保証はない。だが、田淵くんの代わりに入らせれば君は田淵くんのために、あの男がどんな無理を言ってきても仕事に入っただろう? そこを狙ったんだ」

「店長が……僕に好意?」

あまりの気味悪さに、身体が震える。
それに気づいた優一さんが、僕の背中を優しく撫でてくれる。

「ごめん、怖がらせるつもりはなかったんだが……。それを知ってから、君がバイトに入る時はこっそり護衛がてら見守っていたんだよ。君が帰るのをつけ狙っていることもあったから、間に入ってあの男の視界から君を消したりもしていたんだ」

「えっ、じゃあ……優一さんがずっと僕を守ってくれてたってことですか?」

「引いただろう? 身も知らない奴に守られてたなんて」

「そんなことっ! 僕、優一さんが守ってくれていたなんて全然知らなくて……。でも、優一さんが守ってくれてなかったら今頃どうなってたことか……そう思ったら、怖くて……」

怖くて震えが止まらない。
すると、抱きしめられている腕が強くなって優一さんの鼓動がすぐ近くで聞こえてホッとする。

「大丈夫、これからも私が真琴くんを必ず守るよ」

これほど心強い言葉はないだろうな。
そう思えるくらい、安心した。

「あの、今日のあの女性は……」

「ああ、今日のあの女性が乗り込んできた件は、偶然だ。あの男が仕組んだことじゃない。だが、あれに便乗して真琴くんをあそこから辞めさせることができてホッとしたんだ。あの女性がやったことは決して許されることじゃないが、真琴くんが辞められたことは感謝してる」

そうなんだ……。
もしかしたら、あの人もグルなのかも……なんて一瞬思ってしまったけど、それは違ったみたい。
でも、本当にあの人があの店長の本性を引き出してくれたからさっさと辞めることができたんだ。
もちろん、それは優一さんのおかげそのものだけど。

「真琴くんがあんな辞め方したから、あの男が絶対に動くと思ってね。絶対に真琴くんの家に向かうことは想定内だったから、懇意にしている刑事を呼び出して急いで家に向かったんだ。確実に逮捕できる証拠が欲しくて、君を一人で帰らせて怖い目に遭わせてしまった。しかも怪我までさせてしまって……本当に申し訳なかった」

「でも……ずっとついててくれたんですよね? だから、助けてくれたんでしょう?」

「ああ。だが、本当はあいつが君に怪我をさせる前に捕まえたかったんだ。あれは私の失態だ。だから、私が君の世話をするのは当然なんだよ。だから、治るまでしっかりと世話をさせてくれ」

「あの、じゃあ……この下着は……」

「履歴書を出した時点であの男に住所が知られているから危ないだろうと思ってね。もしかしたら君をこの家に泊めることがあるかもしれないと思って用意していたんだ」

「そっか……じゃあ、全部僕のために……」

僕のことを思ってくれてただけでもびっくりなのに、僕が知らないところでこんなにも守ってくれていたなんて……。
どうしよう……なんだかものすごく嬉しい。

「真琴くん……本当はもっと、私のことを知ってもらってから伝えるつもりだったんだけど……言わないままそばにいるわけにはいかないから。私の気持ちを聞いてほしい……」

優一さんの真剣な表情に僕は息を呑んだ。

「学食で君を見かけて一瞬で心惹かれた。男同士だし、一回り以上も年上でそもそも恋愛対象にすらならないかもしれないと思いながらも、どうしても君のことを諦められなかった。真琴くんのことが好きなんだ。これから少しずつでもいい。私のことを考えてくれないか?」

手が震えてる……。

こんなにすごい弁護士さんで、自信に漲っているような人が僕なんかにこんなに手を震わせて思いを伝えてくれるなんて……。

人を好きになるなんて今までそんなことなかったから、男同士とか年上とかあんまりよくわからないけど、でも……優一さんといられるなら、僕はそれがいい。

初めてこんなふうに面と向かって好きだって言われたな……。
初めての人がこんなに素敵な人だなんて思いもしなかった。
でも……すごく嬉しい。

「あ、あの……僕、誰かを好きになったこととかなくて……だから、よくわからないんですけど、優一さんから……好きだって言ってもらえて、すごく嬉しいです……だから、これからそばにいて……優一さんが好きな気持ちをいっぱい伝えてくれたら、僕も……わかるかも……」

「真琴くん、それって……」

「優一さんのそばにいさせてください……」

「――っ! ああっ、ずっとそばにいてくれ!」

今まで聞いたことのないような優一さんの興奮しきった声を嬉しく感じながら、僕はしばらくの間、優一さんに抱きしめられ続けた。

 
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