溺愛弁護士の裏の顔 〜僕はあなたを信じます

波木真帆

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よくわからない思い

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抱き上げられて、そのまま脱衣所へと連れて行かれる。
用意してあったもこもこの大きなバスタオルに包まれ、

「ちょっとここで待ってて」

とソファーに下ろされた。

その間に、優一さんはサッとバスローブを羽織った。
綺麗な筋肉のついた背中とお尻がローブに隠れていくのを目の当たりにして

「わぁっ!」

と思わず声が出た。

「んっ? どうかした?」

「いえ……なんか、映画を見てるみたいだなと思って……」

「映画?」

「バスローブを日常で着ている人、初めて見ました」

「ははっ。ああ、なるほどね。確かに映画でよく見るな。バスローブ、羽織ってワイン飲んでるとこ」

笑いながら、きゅっとバスローブの紐を縛ると僕の目の高さまで腰を落として髪を拭いてくれた。

サッとドライヤーを手に取ると、流れるような手つきで髪を乾かしてくれる。

わぁ……っ、人に髪を乾かしてもらうなんてなんて贅沢な時間なんだろう。

「さぁ、これでよしっ」

すっかりサラサラになった髪を綺麗に整えられ、着替えを手渡される。

「着替えも手伝う?」

「えっ? そ、それは……大丈夫です」

「ふふっ。じゃあ、私も着替えてくるから終わったら呼んで。無理は絶対にしないように。いいね」

「は、はい」

僕の返事に優一さんはにっこり笑って、脱衣所から出て行った。

バスタオルをとって、渡された着替えを見ると綺麗な下着も入っていた。

これって新品?
もしかして……翼さん用だったり?

翼さんもこうやって優一さんと一緒にお風呂に入ったりしているんだろうか?

いやいや、氷室さんとお付き合いしているんだから流石にお風呂は一緒じゃないよね?

でも……あんなに仲が良いし、家族同然の付き合いで翼さんも優一さんのこと、お兄さんみたいに思ってるんだったら……あり得るかも。

だから、いつでも入れるように……泊まれるように……下着も着替えも準備してあるんじゃ、ないのかな……?

じゃあ、これも……翼さんの服、ってこと?

なんだろう……このモヤモヤ。
ちゃんと着替えが用意されてて嬉しいはずなのに。
翼さんのじゃないかと思うだけでなんでこんなふうに思っちゃうんだろう……。

僕は手の中にある着替えをギュッと抱きしめながら考えを巡らせていると、

「着替え終わった?」

と扉の外から声が聞こえた。

「――っ、あ、いえっ、やっ――じゃなくて、だ、大丈夫ですっ」

焦って何がなんだかわからないままに喋ると、

「真琴くん、どうしたの? 開けるよ?」

心配そうな声と共に扉が開いた。

「あ――っ」

「まだ着替えてなかった? 足が痛くて着替えられなかった?」

「そ、そんなことないです……。すみません、モタモタしてしまって……」

「ふふっ。気にしないでいいよ。やっぱり着替えを手伝おう」

「えっ……っ」

焦っている間に僕の手から下着を取ると、足首に触れないようにサッと足を通され

「ちょっとだけ、腰浮かせられるかな?」

と声がかけられた。

慌てて腰を上げると、するりと下着が穿かされる。

「とりあえずこれでバスタオルは外せるね」

にっこりと笑ってバスタオルを取られ、気づけば僕はすっかり着替えを終えていた。

「これでいい。じゃあ行こうか」

軽々と抱き上げられ、脱衣所を出るとふわりと漂ってきた匂いが鼻腔をくすぐる。

「あれ? なんだか、良い匂いがします」

「ふふっ。よくわかったね。食事を用意しておいたんだ」

「ええっ、すごいっ!!」

「元々今日はビーフシチューにしようと思って、昨日から仕込んでおいたからね。今日は温めるだけだから大したことないよ。ここに座って待ってて」

そう言ってダイニングテーブルにそっと僕を下ろすと、優一さんはキッチンへと入っていった。

この席から優一さんの姿がよく見える。
無駄のない動きに、いつもこうやって料理を作っているんだなとすぐにわかる。

翼さんも……こうやって優一さんを見ながら、料理ができるのを待ってたりするのかな……?
この広いテーブルも一緒に食事をするためだったり……?

いや、だから翼さんには氷室さんっていう恋人がいるんだから!

だったら、翼さんじゃない別の人が……ってことも考えられるよね。
そうだよ。
新品の下着を見たから勝手に男の恋人を想像しちゃってたけど、優一さんは女性の恋人がいるのかも……。

そう思って、辺りを見回したけれど女性っぽいものは何も置かれていない。
さっきの脱衣所にも優一さんが使うようなものしか置かれてなかった……。
じゃあ、やっぱり恋人は男性?

ああ、もうよくわからなくなってきた。

「――とくん? 真琴くん?」

「――っ、あ、はい。ごめんなさいっ」

「いや、良いんだけど。さっきから話しかけてもずっと険しい表情で俯いていたから気になって……。どうかした? 気になることがあるなら私に話してくれないか?」

優一さんは火を消すと、サッと僕の隣に腰を下ろした。

「何かあった? さっきから様子がおかしいよね? 足の痛みが強くなった?」

僕、こんなに優しい人を心配させて何やってるんだろう?
優一さんに申し訳なさが募る。

「私のこと、兄さんみたい・・・・・・だと言ってくれただろう? 自分ひとりで悩まずに私にも教えてくれないか?」

兄さんみたい……。
そうだ、僕がそう言ったんだ。

だから、優一さんに恋人がいたって気にするようなことじゃないのに……。
今日の僕はいろんなことが起こりすぎておかしくなっちゃってるんだな。
きっとそうだ。

なら、ちゃんと正直に打ち明けなきゃ!

「あの……下着が……」

「んっ? 下着? サイズが合わなかった?」

「や――っ、違くて……っ、その……誰のために買ったのかなって……」

「えっ?」

「優一さんには他にも一緒にお風呂に入ったりするような、相手がいるのかなって……髪を乾かしてあげたり、料理をふるまったりする相手がいるのかなって思ったら……なんとなく、気になってきて……」

「真琴くん……」

「ごめんなさい、僕……今日ちょっとおかしいんです。なんかいろんなこと考えてずっとモヤモヤしてて……あのっ、気にしないで――わっ!!!」

話をしながら、自分がよくわからないことを言っているなと思って、慌てて謝っていたら急に僕は優一さんの腕の中に閉じ込められていた。
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