溺愛弁護士の裏の顔 〜僕はあなたを信じます

波木真帆

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僕のヒーロー

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わっ、この人……僕のこと助けてくれたんだ……。

「何よ! あんたには関係ないでしょ! 大体この店員が不貞行為っていう罪を犯してるんだから私が殴ったって正当防衛ってやつでしょ。知らないの?」

「正当防衛ですか。ふっ。もし、彼が本当にあなたのご主人と不貞行為を犯していたとしてもそれは犯罪ではありませんし、それによりあなたが暴力を振るっていい理由にもなりません。もちろん正当防衛にも一切当たりません。そもそも、あなたが先ほど提示した彼が不貞行為をしていたという証拠は裁判では一切証拠にはなり得ませんね。今、実際に罪になるとすれば、公衆の面前で彼の名誉を傷つけているあなたの方ですよ。それに彼への傷害未遂もね」

「はぁ? 私が犯罪者だっていうの? ふざけないでよ! いい加減なこと言わないでちょうだい!」

「いい加減なことではないですよ。私は弁護士ですから」

「え――っ、べ、弁護士? うそ――っ」

穏やかな笑顔を浮かべながら、そうはっきりと言った彼のジャケットの襟にしっかりと弁護士バッチが付けられていた。
そのことに気づいた女性の表情は明らかに青褪めているのがわかる。

「ところで、そのスマホの画像を見る限り、この写真が撮られたのは昨日午後4時すぎとなってますが、彼はその時間ここでバイトをしていましたよ」

「えっ……」

「そうですよね? 店長」

「えっ、あっ――はい。確かに、昨日は彼は13時から21時までのシフトでした」

「うそ……っ、じゃあ……本当にこの子じゃないの?」

「少なくともその写真は彼ではありませんね」

彼が静かにそういうと、女性は一気に勢いを失った。

「なんなの……嘘でしょ……」

そう呟きながらそのまま帰ろうとする女性に、

「帰ろうとするのは勝手ですが、一言彼には詫びるべきでは? こんなに大勢の前であらぬ疑いをかけたのですよね? このままだと本当に名誉毀損で訴えられますよ」

と声をかけると、女性は悔しそうな表情をしながら、

「……すみません、でした……」

と聞こえるか聞こえないかわからないような小さな声でポツリと呟いて

「ほら、謝ったわよ! これでいいんでしょ? 大体似たような格好して紛らわしいのがいけないのよ! 私は何も悪くないわ!」

と大声で叫び、走って店を立ち去っていった。

ふぅ……と大きなため息をついたところで、隣にいた店長が

「はぁー、めんどっ。余計な揉め事持ってくんなよな」

とぼそっと呟いたのが聞こえ、僕はイラっとした。
思わず文句を言いそうになったところで、目の前にいた弁護士の彼が

「店長さん、失礼ですがあなたは守らなければいけない従業員の話を聞きもせずに、一方的に解雇を言い渡しましたよね? これは立派な違法行為ですよ」

とはっきりと言ってくれた。

「えっ、違法行為? いや、あれは……あの人の怒りを鎮めるために言っただけの冗談で……本当にクビにする気はなくて……ねぇ、わかるでしょ?」

「冗談、ねぇ……。店長さんはそう言ってるが、君……どうする?」

どうすると言われても、守ってくれようともせず、一方的にあの女性の言うことだけを聞いてさっさと僕をここから排除しようとした店長のことをこれから信用などできそうにない。

だって、また何かあっても助けてくれる気が全くしないのだから。

ほんの少しでも僕の言うことに耳を傾けてくれていたなら……そう思うと悔しさしか残らない。
もういいや。
ここで我慢して働き続ける意味もないし。

「すみませんが、このまま今日で辞めさせてもらいます」

「はぁっ? お前、マジで言ってんの? うちが人手不足だって知ってるだろ?」

僕の言葉に店長は怒りを滲ませている。
だけど、正直もうどうだっていい。

「知ってますよ。だから、僕はいつも店長の頼みを断らずにバイト時間も延長してサービス残業だってしてました。今日だって、以前から休みをお願いしていて休みの予定だったのに、昨日突然バイトに入ってくれって頼み込まれて……どうしても休みたかったのに、店長の頼みだからって仕方なく休日返上でバイトに来たんですよ! それなのに……店長は僕を守ってくれようともしなかったじゃないですかっ! そんな人の元でこれ以上働く気になんかなれません!」

「や――っ、だからそれは――っ」

「だそうですよ。あなたはクビにすると宣言した。彼も辞めたいと言っている。双方の意見が合意したのだから彼はここを辞めることができますね。言っときますがサービス残業は違法ですよ。たとえアルバイトであってもそれは変わりません。働いた分の賃金は彼に必ず支払ってくださいね。君、彼が払ってくれないようならすぐに私に言ってくれ。この場に居合わせたから最後まで責任もって君の弁護をするよ」

「はい。ありがとうございます」

「くっ――!」

僕は悔しがる店長をその場に残して、自分の荷物を取りにバックヤードへ向かった。

弁護士の彼がそのまま店長を引き留めておいてくれたから、店長に何も文句を言われることなく荷物をまとめることができた。

「じゃあ、お世話になりました。月末の給料振り込みよろしくお願いします」

そう言って頭を下げ、店長に何か言われる前に急いでコンビニを出た。
すると、すぐにさっき助けてくれた弁護士さんが僕の後を追うように店を出てきてくれて、

「少し話をしないか?」

と声をかけてくれた。

もちろん僕もお礼が言いたかったし、断る理由もない。

「はい。僕もお礼を言いたかったので声かけていただいて嬉しいです。あの、あっちに雰囲気が良くてコーヒーが美味しい喫茶店があるのでそこに行きませんか?」

「ふふっ。じゃあそこにしようか」

うわっ、隣に並んで歩くと余計に身長が高いのがわかる。
日に当たるとキラキラと光る髪は茶色みがかかってすごく綺麗。
もしかしたら彼はハーフ? クォーター?
一緒に並んでいては申し訳ないと思ってしまうほど、かっこいい。
少しワイルドな祐悟さんとはまた違うタイプのイケメンさんだ。

「どうかした?」

じっと見つめすぎてて声をかけられてしまった。
咄嗟になんでもないですしか言えなかったから、おかしな人だと思われてるかもしれない。
失敗しちゃったな。
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