1 / 86
僕は何も知らない!
しおりを挟む
「あんたがうちの人をたらし込んでるっていうのはわかってるんだからね! 大体、男のくせにうちの旦那に手を出すなんて何考えてるの? 恥を知りなさいよ! ちょっと聞いてんの? この泥棒猫がっ!!」
バイト先のコンビニで仕事をしていると、頭から湯気を出しそうなほど真っ赤な顔をした女性が勢いよく入ってきた。
「いらっしゃいま――」
レジカウンターの中でいらっしゃいませと声をかけようとした僕を見て、自分の母親よりも年上そうな少しぽっちゃり目の女性が突然怒り狂った様子でレジ前へと詰め寄ってきて、さっきの言葉を浴びせかけてきた。
もちろん僕にはなんの覚えもない。
どう対処すればいいのかと悩んでいる間にも、周りから冷ややかな視線が投げつけられる。
『ねぇ、何これ修羅場ってやつ?』
『やばくない? あの人の旦那とあの子がデキてるってこと?』
『えー、まじで? 俺、ゲイって初めて見たわ』
『ってかさ、奥さんも可哀想じゃない? 若い女じゃなくて男に取られるとかさ。女のプライドズタズタじゃん』
『それなっ。まだ女との方がマシだよねぇ』
『でもさ、あの子ならワンチャンありかも』
『お前もゲイかよ』
『違うって。でも、あのこめっちゃ可愛いじゃん』
『ああ、確かにー』
『ああいう純粋そうな見た目の子の方が意外とエロい声出すんだよな』
『そうそう、わかるーっ!』
ゲラゲラと下品な笑い声が店内に響く中、僕が何も発さずにいると、
「ちょっとっ、あんた聞いてんの?」
と怒鳴られた。
こんなわけのわからない話に巻き込まれたくないと思いつつ、
「あの、どなたかとお間違えでは?」
と冷静を装って必死で答えた。
「はぁっ? ふざけてんの? しらばっくれるのもいい加減にしなさいよ! このっ!」
「わっ!!」
「きゃあっ!」
その女性は怒りに任せて持っていたカバンから僕のいるレジ台に向かってまだ中身の入ったペットボトルを投げつけてきて、僕は咄嗟に身構えたけれど、ペットボトルは後ろにあった電子レンジに当たりゴンっ! と大きな音を立てて落ちていった。
一緒にレジに入っていたレジの女の子があまりの恐怖に慌てて店長を呼びにバックヤードへ走っていった。
すぐさまバックヤードから駆け寄ってきた店長は事情も聞かないままに
「お客さま、こちらの店員が何かご迷惑をお掛けしたとか? 申し訳ございません」
と深々と謝罪を始めた。
そんなっ、店長が謝ったりしたら僕がこの女性の旦那さんを誑かしたとかいう冤罪を認めることになってしまうじゃないか!
「ちょ――っ、店長! ちゃんと話を聞いてください! このかたの勘違いなんです! 僕は何もやってません」
「うるさいっ! お前は黙ってろっ! 本当に至らない店員で申し訳ございません。どんなことでもお詫びさせていただきますのでどうか穏便にお願いいたします」
「あら、さすが店長だけあってあなたは物分かりいいじゃないの。いい? この店員はうちの旦那を誑かしてうちの貯金を貢がせてるのよ。そんな店員を雇ってていいと思ってるの? さっさとこんな泥棒猫辞めさせなさいよ!! 辞めさせないなら本社にクレーム入れるわよ!!」
「承知いたしました。すぐにこの者はクビにいたしますので本社に連絡だけは何卒お許しください!」
はぁっ? クビ?
そんなのひどすぎる!!
「店長!!! それはあんまりです!! 僕、ずっと真面目にやってきたじゃないですか!!」
「うるさいっ! こんな騒ぎ起こしたんだ、クビになるのは当たり前だろうが!」
「はっ。いい気味だわ! 言っとくけど、これで終わらせるつもりはないから、ちゃんと弁護士に相談してあんたを不貞行為で訴えるからね!」
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる女性にいい加減腹が立って僕は大声を上げた。
「あのっ! 証拠はあるんですか? 僕があなたの旦那さんと不貞を犯したっていう証拠が!」
ふん! あるわけないんだ!
だって、僕にそんな覚えなんてさらさらないんだから!
「何? 開き直って! 私の友達がしっかりと見てるのよ! あんたとうちの旦那が昨日、ラブホテルの前でイチャイチャと話をしてたって。そんなの言い逃れしようがないでしょ?」
はっ? ラブホ? イチャイチャって?
いやいや、そんなところ行った覚えも誰かと話した覚えも何もないけど……。
「ほら、急に黙り出した。図星刺されて焦ってるんでしょう!」
「知りません! そんなところ行ったことはおろか、歩いた覚えもありません!」
「しらばっくれないでよ! この手前のはあんたでしょ? 写真だってあるんだから言い逃れはできないわよ!」
目の前に突きつけられたスマホの画像は確かにラブホっぽいホテルの前で話をしている二人が写ってるけど、手前にいる人って、後ろ姿しか写ってない。
これじゃ僕かどうかなんてわからないし、なんの証拠にはならない。
「顔、全然写ってないじゃないですか! こんなんで証拠だなんてよく言えますね」
「――っ、何よ、馬鹿にしてっ!」
カアッと顔を真っ赤にした女性が腕を振りかぶったのが見えて殴られると思った僕は、目を瞑り腕で顔をガードしたけれど、なんの衝撃もない。
「くっ――! ちょっと離しなさいよ!」
苦しげな女性の声に恐る恐る腕を下ろして目を開けると、スーツ姿の長身の男性が僕を殴ろうとしていた女性の腕を掴み、
「暴力は犯罪ですよ」
と穏やかに、かつ冷静に声をかけていた。
バイト先のコンビニで仕事をしていると、頭から湯気を出しそうなほど真っ赤な顔をした女性が勢いよく入ってきた。
「いらっしゃいま――」
レジカウンターの中でいらっしゃいませと声をかけようとした僕を見て、自分の母親よりも年上そうな少しぽっちゃり目の女性が突然怒り狂った様子でレジ前へと詰め寄ってきて、さっきの言葉を浴びせかけてきた。
もちろん僕にはなんの覚えもない。
どう対処すればいいのかと悩んでいる間にも、周りから冷ややかな視線が投げつけられる。
『ねぇ、何これ修羅場ってやつ?』
『やばくない? あの人の旦那とあの子がデキてるってこと?』
『えー、まじで? 俺、ゲイって初めて見たわ』
『ってかさ、奥さんも可哀想じゃない? 若い女じゃなくて男に取られるとかさ。女のプライドズタズタじゃん』
『それなっ。まだ女との方がマシだよねぇ』
『でもさ、あの子ならワンチャンありかも』
『お前もゲイかよ』
『違うって。でも、あのこめっちゃ可愛いじゃん』
『ああ、確かにー』
『ああいう純粋そうな見た目の子の方が意外とエロい声出すんだよな』
『そうそう、わかるーっ!』
ゲラゲラと下品な笑い声が店内に響く中、僕が何も発さずにいると、
「ちょっとっ、あんた聞いてんの?」
と怒鳴られた。
こんなわけのわからない話に巻き込まれたくないと思いつつ、
「あの、どなたかとお間違えでは?」
と冷静を装って必死で答えた。
「はぁっ? ふざけてんの? しらばっくれるのもいい加減にしなさいよ! このっ!」
「わっ!!」
「きゃあっ!」
その女性は怒りに任せて持っていたカバンから僕のいるレジ台に向かってまだ中身の入ったペットボトルを投げつけてきて、僕は咄嗟に身構えたけれど、ペットボトルは後ろにあった電子レンジに当たりゴンっ! と大きな音を立てて落ちていった。
一緒にレジに入っていたレジの女の子があまりの恐怖に慌てて店長を呼びにバックヤードへ走っていった。
すぐさまバックヤードから駆け寄ってきた店長は事情も聞かないままに
「お客さま、こちらの店員が何かご迷惑をお掛けしたとか? 申し訳ございません」
と深々と謝罪を始めた。
そんなっ、店長が謝ったりしたら僕がこの女性の旦那さんを誑かしたとかいう冤罪を認めることになってしまうじゃないか!
「ちょ――っ、店長! ちゃんと話を聞いてください! このかたの勘違いなんです! 僕は何もやってません」
「うるさいっ! お前は黙ってろっ! 本当に至らない店員で申し訳ございません。どんなことでもお詫びさせていただきますのでどうか穏便にお願いいたします」
「あら、さすが店長だけあってあなたは物分かりいいじゃないの。いい? この店員はうちの旦那を誑かしてうちの貯金を貢がせてるのよ。そんな店員を雇ってていいと思ってるの? さっさとこんな泥棒猫辞めさせなさいよ!! 辞めさせないなら本社にクレーム入れるわよ!!」
「承知いたしました。すぐにこの者はクビにいたしますので本社に連絡だけは何卒お許しください!」
はぁっ? クビ?
そんなのひどすぎる!!
「店長!!! それはあんまりです!! 僕、ずっと真面目にやってきたじゃないですか!!」
「うるさいっ! こんな騒ぎ起こしたんだ、クビになるのは当たり前だろうが!」
「はっ。いい気味だわ! 言っとくけど、これで終わらせるつもりはないから、ちゃんと弁護士に相談してあんたを不貞行為で訴えるからね!」
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる女性にいい加減腹が立って僕は大声を上げた。
「あのっ! 証拠はあるんですか? 僕があなたの旦那さんと不貞を犯したっていう証拠が!」
ふん! あるわけないんだ!
だって、僕にそんな覚えなんてさらさらないんだから!
「何? 開き直って! 私の友達がしっかりと見てるのよ! あんたとうちの旦那が昨日、ラブホテルの前でイチャイチャと話をしてたって。そんなの言い逃れしようがないでしょ?」
はっ? ラブホ? イチャイチャって?
いやいや、そんなところ行った覚えも誰かと話した覚えも何もないけど……。
「ほら、急に黙り出した。図星刺されて焦ってるんでしょう!」
「知りません! そんなところ行ったことはおろか、歩いた覚えもありません!」
「しらばっくれないでよ! この手前のはあんたでしょ? 写真だってあるんだから言い逃れはできないわよ!」
目の前に突きつけられたスマホの画像は確かにラブホっぽいホテルの前で話をしている二人が写ってるけど、手前にいる人って、後ろ姿しか写ってない。
これじゃ僕かどうかなんてわからないし、なんの証拠にはならない。
「顔、全然写ってないじゃないですか! こんなんで証拠だなんてよく言えますね」
「――っ、何よ、馬鹿にしてっ!」
カアッと顔を真っ赤にした女性が腕を振りかぶったのが見えて殴られると思った僕は、目を瞑り腕で顔をガードしたけれど、なんの衝撃もない。
「くっ――! ちょっと離しなさいよ!」
苦しげな女性の声に恐る恐る腕を下ろして目を開けると、スーツ姿の長身の男性が僕を殴ろうとしていた女性の腕を掴み、
「暴力は犯罪ですよ」
と穏やかに、かつ冷静に声をかけていた。
415
お気に入りに追加
1,269
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる