イケメンスパダリ社長は僕の料理が気に入ったようです

波木真帆

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驚きの事実

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「その……奴に触れられたりはしなかったんだな?」

「はい。その前に直己さんが助けに来てくれたので……」

「悠木に診察されるのはどうだ?」

「……まだ少し、怖いです……けど、頑張り、ます……」

だっていつまでもこうしているわけにもいかないし、診察受けなきゃ診断書も出してもらえない。
頑張るしかないんだ。

「うーん……佳都くん、俺だったらどうだ? 怖いか?」

「えっ? 直己さん? 直己さんは、怖くないです……」

そう答えたけど、直己さんだったらってどういう意味?

「わかった。おーい、悠木!」

いや、僕が何もわかっていないんだけど……。


直己さんが外に向かって声をかけると先生が隣の部屋からやってきてカーテン越しに声をかける。

「どうした? 大丈夫か?」

「悪いが、俺が診察する。お前が書き留めてくれないか?」

「ああ、そういうことか。わかった。カルテ持ってくるから待っててくれ」

パタパタと先生が隣の部屋へと戻る足音が聞こえる。

「これでいいだろう?」

「あの、直己さんが診察って……?」

「ふふっ。私はこれでも医学部を出てるんだ。医師国家試験にも合格してるし研修期間も含めて3年は医者をしていたから診察くらいはできるぞ」

「えっ、でも……直己さんって……IT関係のって?」

「ああ、医療関係のIT企業なんだ。電子カルテを管理するソフトウェアとか最先端医療機器の開発とかを主にやっている。医師免許を持っていた方が医者目線で考えられるからな、医療系のIT企業は医師免許を持っている者が結構多いんだ」

そう、だったんだ……。
すごっ。
ただの社長さんというだけじゃなくて、お医者さんでもあるならそりゃあ女性にもモテるよね。
七海ちゃんが心配するはずだ。

「綾城、カルテ持ってきたぞ」

「ああ、じゃあ今から診察するから」

カーテンの外にいる先生に向かってそういうと、今度は僕に優しい声で

「佳都くん、いい?」

と尋ねてくれた。

僕が緊張しながら頷くと、直己さんは僕を膝から下ろし、向かい合わせに座らせた。

直己さんに見守られる中、ゆっくりとジャケットを脱ぎビリビリに破かれたシャツも脱いで半裸になった。

「痛いところはある?」

「手首が痛いのと、あと……ちょっと背中が痛いです」

「背中? 見せてもらうよ」

直己さんはクルッと僕を後ろ向きに座らせた。

「――っ! これは、ひどいな……少し触るよ」

「――った!」

と息を詰まらせながら、直己さんが背中にそっと触れるとビリビリっと痛みが走り思わず声が漏れた。

「どうした?」

先生の心配そうな声が聞こえる中、直己さんは冷静に

「悠木、背中に手のひらサイズの打撲痕有り」

と先生に告げる。

「手のひらサイズ? 結構広いな」

「ああ、佳都くん。これはいつ付いたかわかるか?」

「あの……多分、床に押し倒された時……床にあった資料に背中をぶつけた気がします……」

「確かに床に資料がたくさん転がってたな、あそこは」

直己さんは少し考え込んだ様子を見せながら、その他の場所も診察して行き、手首を縛られてできた痣と背中の打撲、あとは左のふくらはぎに少し擦過傷を見つけた。

「悠木、それで診断書出してくれ」

「わかった。すぐに書くから、ちょっと待っててくれ」

先生が足早に隣の部屋へと向かうのをききながら、僕はビリビリになったシャツを持ち、これを着るべきかどうか悩んでいた。

正直いうと、平野さんに引き裂かれたシャツなんか着たくないけど、僕に素肌で自分のジャケットなんて直己さんも着られたくないだろうし。

どうしよう……。

「佳都くん、そのシャツどうするつもりだ?」

「えっ? あの……着ようか悩んでて……」

「そんなの着るなっ! 着なくていい!」

そう言いながら僕からシャツをとりあげ、さっき脱いだジャケットを僕に着せた。

「ごめんなさい、素肌にジャケット着るのは直己さんが嫌かなと思って……それで……」

「ああ、そうだったのか。君の考えも聞かずに悪かった。佳都くんが着てくれるなら、私は何も気にしないよ」

「ありがとうございます。じゃあ、お借りしますね。クリーニングして返すので安心してください」

「私は何も気にしないって言っただろう? そのままでいいよ。なっ」

優しく頭を撫でられて僕は小さく頷いた。

「綾城、診断書かけたぞ」

「ああ、わかった。佳都くん、外に出られそうか?」

「あ、はい。もう大丈夫です」

「そうか、なら行こう」

直己さんはなんの躊躇いもなく僕を抱き抱えると、カーテンを開け先生の待つ隣の部屋へと向かった。

「これ、湿布と擦過傷の軟膏出しておいたから患部につけておいてくれ。あと、これが診断書だ」

「ああ、ありがとう」

先生から湿布と軟膏を処方してもらい、渡してもらった診断書を丁寧に受け取ると直己さんは

「時間外に悪かったな。助かったよ」

と先生にお礼を言っていた。

「いや、緊急事態だ、気にするな。これからも何かあるなら時間外でも構わないぞ」

「ああ、その時は頼む」

「じゃあ、佳都くん。またな」

「あの、悠木先生……ありがとうございました」

「――っ! あ、ああ。いや、お大事に」

「行くぞ、佳都くん」

僕が笑顔で悠木先生にお礼を言うと、挨拶もそこそこに直己さんが立ち上がり、僕を抱きかかえたまま診察室を出ようとした。
その時、先生が

「綾城」

と声をかけると、直己さんはさっと振り返った。

頑張れよ・・・・

ニヤリと笑みを浮かべる先生に直己さんは

「ああ、手強いけどな」

と言って、にこやかな笑顔を向けると足早に診察室を出て、病院の玄関へと向かった。

今のやりとり、なんだったんだろう?
仕事かな?


直己さんが玄関を出ると、すぐにさっきの車が玄関へとやってきて運転手さんがさっと扉を開けてくれた。
直己さんは僕を抱きかかえたままスッと後部座席に乗り込んだ。

運転手さんが乗り込むとすぐに

「私のマンションに行ってくれ」

と声をかけると、そのまま車は動き出した。

「すぐに着くからな」

「はい。あの、僕……自分で座れますよ」

「何言ってるんだ。背中をぶつけてるんだから普通に座ったら痛みが酷くなるだろう?
だから治るまではこれでいいんだ」

そういえば、そうか……。
ちょっと直己さんの手が触れただけであんなに痛かったんだもんな。
背中つけて座ったら痛いかも。

「あ、じゃあ……よろしくお願いします」

そう頼むと直己さんは少し嬉しそうに

「ああ、任せておけ」

と笑顔を見せてくれた。


マンションに着き、田之上さんが車のドアを開けてくれてロビーへと入ると、

「綾城さま、七海さまが2時間ほど前にこちらに来られまして連絡をいただきたいと仰っておられました」

と直己さんに言っていた。

そうだ、直己さんが七海ちゃんに僕のことを聞いたって言ってたから、連絡の取れない僕を心配してくれているんだろう。
七海ちゃんにも、きっと翔太にも迷惑と心配をかけちゃったな。


「そうか、ありがとう。あと、大丈夫だとは思うが、佳都くんを訪ねて誰か来ても必ず追い返してくれ」

「畏まりました」

直己さんは田之上さんにそれだけ頼むと足早にエレベーターと進んだ。

部屋につき、抱きかかえたままさっと靴を脱がせてくれて、僕を大きなクッションで固定しながらリビングのソファーに横向きに寝かせてくれた。
背中に当たらないようにという配慮だろうけど、そんな優しさが嬉しい。

「先にちょっと着替えてくるから、待っていてくれ」

「はい」

僕の返事を聞いてから、直己さんは急いで自分の部屋へと向かった。
そっと時計を見れば、もう10時近くになっている。
仕事帰りできっとお腹も空いているだろうに……僕のせいで迷惑をかけてしまったな。

しばらく経って直己さんが部屋着に着替えて戻ってきた。
部屋着って言ってもすごくかっこいいんだけど。

「お待たせ。今、食事を頼んだから、届く前に先に佳都くんもさっとシャワーを浴びて着替えようか。
さっぱりした方がいいだろう」

「はい。ありがとうございます」

ゆっくりと起きあがろうとすると、すぐに直己さんの手が差し伸べられる。
背中に負担を与えないようにゆっくりと起き上がらせてくれて本当に優しい。

そっか。
お医者さんなんだもんな。
さすが、対処に慣れてると言うことかな。
そう思っていると、

「さぁ、行こうか」

と軽々と抱きかかえられて、連れていかれる。

「えっ? ど、どこに?」

「ふふっ。シャワー浴びるって言ったろ?」

「いや、それはわかってるんですけど……あの、1人で大丈夫ですよ」

「何言ってるんだ? 昨日湯船で立ちくらみをして危うく溺れかけていただろう?
今日は背中を怪我しているし、シャワーにするとはいえ1人での入浴は危ないんだ。
私が医師として・・・・・付き添った方が安心だろう?」

医師として……そう言われれば、断ることなんてできない。
お医者さんに恥ずかしがるなんておかしいもんね。

僕は直己さんに

「あの……お願いします……」

としか、返せなかった。
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