イケメンスパダリ社長は僕の料理が気に入ったようです

波木真帆

文字の大きさ
上 下
9 / 64

手伝いと忘れ物

しおりを挟む
バタバタとお弁当を食べ終え、僕たち3人は揃ってゼミ教室へと向かった。

「佳都、レポート書けた?」

「うん、卒論のテーマ決めのレポートだったからいくつかの候補から何にしようか悩んだけど、なんとか一つに絞ったよ」

「ええーっ、マジで? 俺なんかテーマがなかなか思い浮かばなくなってようやくやっと一つ捻り出したっていうのに。佳都、やっぱすごいな」

「ふふっ。そんな事ないよ、翔太もちゃんとテーマ決まったんだからさ」

「まぁ、教授からのダメ出しがなければな」

ゼミ教室で教授から呼ばれるのを待っていると、助手の平野さんがやってきて

「次、佐倉くん。奥の部屋に入って」

と声をかけられ、翔太と七海ちゃんに

「じゃあ行ってくるね」

と言って席を立った。

「こっちだよ」

「――っ!」

そう案内されるときに平野さんにそっと肩を抱かれてゾワッと全身に悪寒が走ったような気がした。

「あ、ありがとうございます」

急いで平野さんから離れて奥の部屋に入ると、平野さんは踵を返して元の教室へと戻っていった。
今のなんだったんだろう……。

「佐倉くん、どうした? 入りなさい」

僕が入り口の前で平野さんの帰っていった方向をじっと見ていると、教授から声をかけられ慌てて教授にレポートを渡し、対面に置かれている椅子に座った。

「ふむ、君はこのテーマかね?」

「はい。このほかにもいくつかテーマを考えていたんですが、日本経済を語るならこのテーマが面白いと思いました」

「うーん、まぁいいか。難しいテーマだが佐倉くんならやれるだろう。指摘ポイントも実に良く書けているし、卒論を読むのが楽しみだな。資料が足りなければ、私の部屋にある資料を使っていいから。自由に持って行きなさい」

「はい。ありがとうございます」

「次は夏川なつかわくんに声かけてくれ」

「はい。わかりました」

よかった、テーマ認めてもらえて。
僕はウキウキしながらゼミ教室へと戻った。

「佳都、どうだった?」

「ふふっ。OKだったよ」

笑顔で親指立てながらバッチリ! と合図しながらそういうと、

「ええーつ! マジか、よかったじゃん!!」

と喜んでくれた。

「次、翔太だって。頑張って!!」

「お、おお。よしっ! 頑張ってくるよ!!」

翔太は手に持っていたレポートを振りながら、鼻息荒く奥の部屋へと進んでいった。

それからしばらく経って戻ってきた翔太は必死にアピールしたようだけど、もう少し突っ込んだものにしたほうがいいとダメ出しがあったってぼやいてた。
七海ちゃんは余裕でオッケーをもらったみたいで、改善レポート手伝うから一緒に頑張ろう! と翔太を慰めてあげていたよ。
ふふっ。七海ちゃんってやっぱり優しいな。


「佳都、これからどうするんだ?」

「今から、ちょこっと夕食の買い物して帰ろうかなって思ってるけど翔太は?」

「俺は七海と図書館で本借りてから帰るよ。レポート書き直さないといけないから」

「そっか。でも次はOKが出るよ、頑張って!」

「ああ、サンキュー」

荷物を片付けてゼミ室を出ようとすると、

「あ、佐倉くんちょっといいかな?」

と助手の平野さんから声をかけられた。

「は、はい。なんでしょう?」

さっきのことが甦ってきてちょっと気味悪く感じたけれど

「悪いが、教授の部屋の机にある資料を綺麗に並べて資料室に戻しておいてほしいんだ」

といつものように冷静に頼まれてやっぱりさっきのは僕の気のせいなのかと思った。

そっと教室の時計を見ると、4時前。
資料整理は教授から何度か頼まれたことがあるし、うーん、急げば夕食の支度には間に合うかな。

「わかりました」

「じゃあ、頼むよ。教授の部屋の鍵を開けているから」

平野さんは僕の肩をポンと叩いてゼミ室から出ていった。
叩かれた肩がゾワゾワする。

おかしいな、今までこんなふうに感じたことはなかったのにな。

「ねぇ、佳都くん。資料相当たくさんあったよ、あれ1人だと2時間はかかるはず。
今日もお兄ちゃんち行くんでしょう? 私も手伝うよ」

七海ちゃんはそう言ってくれたけれど、レポートの再提出は明日まで。
翔太も七海ちゃんにいてほしいだろうし、僕の手伝いをお願いするなんて申し訳なさすぎる。

「大丈夫だよ、遅くなりそうだったら直己さんに連絡しておくから」

「そう? でも、無理しないでね」

「佳都、俺たちも終わったら手伝いに行くから」

「うん、ありがとう」

僕は翔太と七海ちゃんに手を振って、教授の部屋に向かった。

中に入ると、思っていた以上の資料が机の上に山積みになっている。

はぁーーっ、七海ちゃんが言ってた通りものすごい量だな。
でも文句言っている暇はないし、さっさと始めよう。

資料を一つずつチェックして五十音順に並べていくだけでも途方もない作業だったけれど、これを資料室に戻すまでだもんな。
資料室ってここから結構遠いんだよなぁ。

ふぅとため息を零しながら、ふと壁と見上げるともう夕方の6時前になっている。
うそっ、もうこんな時間!
直己さんにメッセージ送っとかなきゃ!

僕は慌ててカバンを探りスマホを取り出そうとしたけれど、どこをどう探してもスマホが見当たらない。

「えっ? なんでっ? 僕、どこかに置いてきちゃった?」

大学についてからの行動を冷静に思い出してみるけれど、そういえば大学についてからは一度もスマホに触れていない。

ということは……直己さんちに忘れてきたんだ。

ああ、もう……、何やってるんだか。
教授の部屋にある電話を借りて連絡しようにも、そもそも番号を覚えてないし。

こうなったらさっさと終わらせるしかないよね。

僕は必死になって残りの資料を並べ終え、それを段ボールに入れて台車に乗せ教授の部屋を出た。

普段は使ってはいけないけれど、教授のお手伝いとかでは認められているエレベーターに台車を乗せ、資料室のある4階へと向かうと誰もいないせいか真っ暗で少し不気味に見える。

急いでパチっと廊下の電気を点け、奥にある資料室まで台車を押していき扉を開いた。
奥まで永遠にも続いているようにも見える棚を見ながらはぁっとため息が漏れる。

でも、ため息吐いてても仕方がない。
段ボールから資料を取り出し、順番に棚へと戻していく。
並べていた分、楽ではあるけれど量が多いことに変わりはない。

ようやく段ボールの底が見え、最後の資料を棚に並べ終わった時には

「やっと、おわった……」

と声を漏らしてしまった。

忘れ物がないかをチェックして部屋を出ようと扉に向かったと同時にカチャリと扉が開いた。

一瞬ビクッとしてしまったけれど、

「ああ、佐倉くん。もう終わったのか?」

と声をかけてきたのが平野さんだと気づき、ホッとした。

「はい。なんとか急いだので終わりました」

「そうか、まだまだかかると踏んで戻ってきたんだが、よかったよ。間に合って……」

「えっ? それってどういう――んんっ!!!」

聞き返そうとした瞬間、口を手で押さえられ

「静かにしろっ!!」

と凄みのある声で脅されながらそのまま壁に押し当てられた。
平野さんはポケットから紐を取り出すと、ものすごい力で僕の両手首を片手で頭の上に掴み上げ、

「いいか、声を出したらすぐに殺すぞ!」

と言うと、口を押さえていた手を離したと思ったら瞬く間に掴んでいた僕の両手を紐で縛り上げた。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...