何も知らないノンケな俺がなぜかラブホでイケメン先輩に抱かれています

波木真帆

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ここって、もしかして……

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「かなり激しくなってきたな」

「もう前も全然見えないですね、どうします?」

「そうだな、このまま走って事故でも起こしたらまずいな。ちょっとどこかに停めて小降りになるまで待つか」

「はい。でも……この辺何もないですよ」


俺は葉月はづき亮太りょうた。飲料メーカーに勤める会社員3年目の25歳。
助手席でどこか停められる場所がないか探してくれているのは、俺の直属の上司でトップ営業マンの八神やがみ悠亮ゆうすけさん。30歳。

休日であるはずの今日は郊外にある大型ショッピングモールで開催された、新商品の試飲イベントに駆り出されて座る暇もないほど忙しかった。
だけど、頑張ったおかげか試飲イベントは大盛況で、かなりの契約数を取れそうだ。
疲れ果てていても、成績がついてくると疲れも吹き飛んでしまう。
それが営業マンというものだ。

イベントの後片付けまで手伝って、ようやく車に乗り込んだのはかなり遅い時間になっていた。
休日出勤だからそのまま直帰していいことになっているけれど、まずは八神先輩を家に送ってからだ。

先輩にナビをしてもらいながら、高速までの近道である山道を走っている途中、運の悪いことにゲリラ豪雨に遭遇してしまった。

ものの数分でワイパーをMAXで動かしても何の威力も発揮しないほどの豪雨になってしまい、普段行き慣れてない山道だということも重なって、どうすることもできなくなっていた。

「この大雨だと土砂崩れに巻き込まれかねない。とりあえずこの山道から出よう。抜けたところに建物があるようだからそこの駐車場に一時避難させてもらおうか」

「はい。わかりました。ナビをお願いします」

先輩にナビを任せてゆっくりゆっくり車を走らせ、ようやく山道を抜けることができた。
豪雨で視界が悪い中、うっすら建物っぽいのが見える。

「先輩、建物ってあれですか?」

「ああ、そうだな。あれだ」

「よかった、屋根付きの駐車場ですよ。少し高台だし、雨水が流れ混んでくることはなさそうですね」

「あ、ああ。そうだな」

先輩の歯切れの悪い答えに一瞬、あれ? と思ったけれど、今は車を安全に止めることのほうが大事だ。
駐車場を進み、ようやく奥の方に一台分のスペースがあるのを見つけて車を止めた。

「よかった、ギリギリ一台空いてましたね。このまま駐車場で小降りになるまで待ちましょう」

「いや、ここは車を止めたらすぐに中に入らないといけないんだよ」

「えっ? ここって何かのお店なんですか?」

「お店といえば、お店だが……」

「あっ、じゃあ。ちょうどいいですね。俺、トイレ我慢してたんですよ。それにちょっとお腹空きませんか? なんか食べ物とか売ってたりしないですかね」

「トイレと食べ物ならあるはずだよ」

「やった、じゃあすぐ行きましょう! 鞄取りますか?」

「ああ、頼む」

俺は手を伸ばし、自分の鞄と先輩の鞄を後部座席から取り運転席から外に出た。

駐車場には照明がないようで薄暗くあまりよく見えない。
車を止めたすぐ隣に階段があり、その先に扉が見える。
どうやらここから中のお店に入れるらしい。
こんなお店の形態、初めてだな。

「先輩、せっかくだからついでにここにも営業かけてみますか?」

「んっ? ああ、まぁ、今度な。今日は疲れているだろう?」

「そうですね。じゃあ、入りましょうか」

階段を上り、扉を開けようとドアノブを回したけれど鍵がかかっているみたいで入れない。

「先輩、ここ定休日かもしれないですね。どうします?」

「大丈夫だよ、ちょっとそこどいて」

言われた通り、先輩に扉の前を譲ると先輩は扉の隣にあった機械を何やら操作し始めた。

何やってるんだろうと思っていると、扉の奥からガチャンと鍵が開く音が聞こえる。

「おお、開いたんですか? すごいですね、先輩。もしかしてここの常連ですか?」

「そんなわけないだろう。こんなの常識だ」

「常識、ですか?」

「いいから、中に入るぞ。ここで無駄話しているのをみられても厄介だからな」

「厄介?」

「ほら、入るぞ」

いまいち先輩の言っている意味がわからないまま、先輩に背中を押されるように扉の中に入った。
と同時にガチャンと鍵が閉まったような音が聞こえた。

なんだ、ここは?
室内を見回したいけれど一気に明るくなった室内に目がくらくらする。

ここは一体何のお店なんだろう?

「葉月? 大丈夫か?」

「あ、はい。ちょっと急に眩しくなったんで驚いただけです」

「とりあえず中に入ろう。トイレにも行きたいんだろう?」

「あっ、そうでした」

「トイレはあそこだ」

すぐ近くの扉を指さされて俺は急いでそのトイレに入った。

もう少しで危ないところだったな。
先輩の前で恥ずかしい姿を晒さなくてよかった。
最悪、外でしようと覚悟してたもんな。

ふぅ……。

ホッとひと息ついて手を洗い、トイレの外に出た。

「なんだ、ここ?」

すっかり明るい部屋に慣れために飛び込んできたのは、なんともいかがわしい雰囲気の漂う部屋。

「葉月? トイレから出たのか? こっちだぞ」

怪しげな雰囲気に驚きながら、先輩の声が聞こえた方に行くと

「えっ……」

部屋の中には俺が三人は寝れそうなほど大きな丸いベッド、そして、先輩が座っている二人がけのソファー。
そしてテレビと机が置いてあった。

「あの、先輩……もしかして、ここって……」

「ああ、もしかしなくてもラブホだな」

「うそっ!!」

「ははっ。お前、やっぱりわかってなかったのか?」

「わかるわけないですよ、ここらへん来たの、初めてですし」

「いやいや、山道のそばにある閉鎖的な建物って言ったら大体ラブホだろう。もしかして入ったことないのか?」

先輩がニヤリと笑って俺を見る。
確かに俺はラブホどころか、女性経験もないけど……。

「――っ!! べ、別にいいでしょう。それ、セクハラですよ」

「ああ、そうか。悪い、悪い。葉月は純情だな。ラブホの話だけでそんな顔を真っ赤にして」

「揶揄わないでください! あ、あの……入ったばっかりで申し訳ないんですけど、こんなとこ早く出ましょうよ。男二人でラブホとか、正直先輩も嫌でしょう?」

「お前、本当に知らないんだな」

「えっ? 知らないってどういう意味ですか?」

「ここは最低でも2時間経たないと鍵が開かないんだ」

「ええっ!!!」

うそっ!
じゃあ、このまま2時間も先輩とこの部屋に?

「まぁ、食事も頼めるし少し落ち着け。ほら、こっちに座れよ」

そう言って先輩は自分が座っているソファーの半分をポンポンと叩いた。
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