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一帆の思い

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<side佐山一帆>

彼と目が合った瞬間、今まで感じたことのない衝撃を感じた。

何が起こったのかもわからなくて目が離せなかったけれど、自分がなんのために呼ばれたのかを必死に思い出して、正面に視線を向けた。

和倉さんが私のことを説明してくれている間もずっと彼からの視線を感じていた。
そっちに目を向けたい。
彼と目を合わせたい。
そんな思いを感じながらも今はただ自分のやるべきことをしなければ。

グランヴィエ一族の総帥であるセオドアさまに真守くんを助けることができたことを褒められて、少し嬉しくなる自分がいた。
私が真守くんのためになれたことが嬉しかったんだ。

そんな思いが表情に出てしまったのか、突然彼から

『なぜ、君はこんな遠くまで来て、マモルを守ろうとしたのか聞いてもいいか?』

と尋ねられて驚いてしまう。

彼の瞳に見つめられると隠し事などできない。
でもこんなことを話してもいいのだろうかと不安になり、和倉さんに視線を向けると和倉さんは彼らにならと言って私と真守くんの関係を説明してくれた。

私が実は、真守くんの実の父である智春さんの子どもで、真守くんとは異母兄弟なのだと。

母が自分の気持ちを優先するばかりに過ちを犯して生まれた子どもが私。
母は後悔をしていたのだろう。
死ぬ間際に己の罪と父の名前を残して亡くなった。

母を失った悲しみと共に、私はこれから母の罪を償って生きていこう。
そう思った。

けれど、私が突然現れて母の罪を償うために父のもとで働きたい、
そんなことを言ったところで信じてもらえるだろうか。

なんせ父は私が存在していることも知らないのだ。
突然現れてあからさまに敵意を向けられることが怖くて、父に会うのは憚られた。

それでも己の罪を悔いて亡くなった母の思いを無駄にできず、私は意を決して父に会いに行った。

叩き出されたって文句は言えない。
そんな覚悟だったのに、父はすぐに私の話を信用してくれた。

そして、私を父の会社に入社させてくれたのだ。
父はすでに家庭を持っていて、その人との間に可愛い息子も生まれていた。

血のつながり上は弟だけれど、自分がそんな名乗りを上げられないこともわかっていた。
けれど、父は現在の奥さん・雪乃さんだけには私の存在を打ち明けてくれていた。
雪乃さんは私を疎むこともせずに、優しく接してくれたことが何よりも救いだった。

私は父と雪乃さん、そして真守くんを一生守っていこう。
そう心に決め、必死に父のもとで働いた。

それから数年は幸せな日々だった。
仕事も充実して、父の仕事が軌道に乗るのが楽しかった。

それなのに、あの事故は一瞬でその幸せな日々を奪った。

まだ中学生だった真守くんは事故でただ一人生き残って憔悴しきっていた。
病院のベッドに寝かされた両親の亡骸を前に離れようとせず、ずっと泣いている姿が今でも目に焼き付いている。

こんな時こそ私が頑張らないと!

何かあったら必ず連絡するようにと父から言われていた雪乃さんのお兄さんにまず連絡を取った。
イギリスからすぐに飛んできてくれると言ってくれたあの言葉は本当に心強かった。
お兄さんが来るまで私が必死に繋ぎ止めておこう。
そんな思いで、父と雪乃さんの葬儀の手配を進めた。

まさか父が私を後継者に指名してくれているとは思いもしなかったけれど、一番の心配だった真守君は雪乃さんのお兄さんに引き取られてイギリスに行ったのだから、今の私にできるのは父の残した会社を守るだけ。

父と父が信頼していた社員さんのおかげで会社は順風満帆だった。
たった一つの懸念を残しては。

それは真守くんの従兄弟である伸吾の存在。
父の兄弟の子どもだ。
言ってみれば私とも従兄弟にあたるのだが、そのことを伸吾は知らない。

伸吾は幼い時から真守くんに執着していたと父から聞いていた。
それでも従兄弟同士手出しなどはしないと思っていたが、父と雪乃さんの葬儀が終わって、真守くんがイギリスに行くことに決まった時、理性を失った伸吾は真守くんに襲いかかった。

すぐに取り押さえられ警察に連れて行かれたものの、すぐに出てきた。
それからだ。
私に付き纏うようになったのは。

毎日会社前に現れては真守くんの居場所を聞いてくる。

それを必死に隠しながらなんとか三年過ごしてきたが、

――これ以上何も教えないのなら、お前を俺のものにしてやる。お前は真守に似ているからな。

そう吐き捨てて、私に襲いかかってきた。

会社の人間が現れて伸吾は逃げていったが、あまりの恐怖に体の震えが止まらなかった。

いつか真守くんを探し出すかもしれない。
そして今私が感じたような恐怖を真守くんが感じたら?

そう思うと怖くて、私は成瀬さんに相談した。

彼の作戦に乗り、わざと真守くんの居場所を伸吾に聞かせるように仕向けた。
そうして、伸吾がイギリスに向かったのを確認して、私もイギリスに飛んだのだ。

彼の作戦が功を奏し、伸吾は無事にロンドン市警に捕まったらしい。
けれど、真守くんには恐怖を与えてしまったようだ。

ただ、彼にはその恐怖から守ってくれる素晴らしい恋人の存在があった。
それを知って、私の肩の荷がスッと軽くなった気がしたんだ。

私はセオドアさまたちの前で自分の思いをぶつけた。
真守くんを守るためにこれまで過ごしてきたのだと。

『マモルなら其方が母親違いとはいえ、兄弟だと知れば喜ぶのではないか?』

セオドアさまはそうおっしゃってくれたけれど、私は伝えるつもりはない。
だって、真守くんにしてみれば騙されたような気分にさせられるだろう。

そんな思いはさせたくなかった。
けれど、そんな会話を真守くんに聞かれてしまったんだ。

自分が兄と名乗ることはしない。
そう決めていたけれど、真守くんは私が兄だと知ると喜んでくれた。

それがあまりにも嬉しくて、私は真守くんを腕に抱きしめた。
真守くんもまた涙を流しながら私に抱きついてくれた。

ああ、この温もりは父と初めて会った時、抱きしめてくれたあの温かさに似ている。
これが家族の温もりなんだろう。

その幸せを噛み締めていた瞬間、突然大きなものに包み込まれた。
家族の温もりとは違う、でも安心する大きな身体。
そして、優しい匂い。
その全てにドキドキしていた私を抱きしめていたのは、彼だった。
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