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心ときめく
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<side真守>
『真守宛に招待状と荷物が届いているぞ』
『僕宛に? 誰だろう……』
イギリスで明さんと生活するようになって三年。
家ではもうすっかり英語だけの生活になっている。
僕に連絡してくる人といえば限られている。
最初の頃はあの弁護士の成瀬さんから、何度か書類が届いたりしていたけれどそれは父さんたちのことに関することだったから、僕はほとんどサインするばかりで、あとは明さんがやり取りをしてくれていた。
あとは父さんの会社を引き継いでくれた佐山さんとは、あれからも交流が続いている。
父さんのことを尊敬してくれていた佐山さんは、父さんたちの月命日はいつもお墓参りに行ってくれているらしい。
明さんは父さんたちのお墓もイギリスにしてくれようとしたけれど、生前に父さんが母さんと二人のためのお墓を作っていたのを知ってお位牌だけイギリスに運んでくれたんだ。
日本にある父さんたちのお墓の管理を佐山さんが率先して引き受けてくれた。
月命日にはいつも佐山さんからメッセージが送られてきて、綺麗に掃除されたお墓と父さんたちが好きだったものがお供えされていて、僕はいつも嬉しく思っていた。
成瀬さんの元に伸吾が現れて、僕の今の住所を教えてくれと騒いだらしいけれどすぐに警察を呼ばれてからは音沙汰もなくなったらしい。
それ以外は僕がイギリスに行ったことすら知らないから連絡も取ることもないし、僕宛の荷物にはなんの心当たりもなかった。
誰だろうと不思議に思いながら、招待状を開けると確かに僕の名前が綺麗な英字で書かれていた。
『すごい、直筆だ……』
丁寧で優しい雰囲気のあるその字に思わず見惚れてしまう。
英語でも綺麗な字ってときめくものだよね。
「えっ……うそっ!」
思いがけない人からの招待状に僕は思わず日本語を叫んでしまった。
『マモル? 大丈夫?』
『あ、うん。ごめんなさい。びっくりしちゃって……』
『誰からの招待状だったの?』
『それが……』
招待状の差出人はセオドア・グランヴィエ。
あのグランヴィエ一族の総帥だ。
グランヴィエ一族といえば、イギリス国民で知らない人はいない。
おそらく王室と同じくらいの知名度を持っているくらいの人だ。
イギリス経済のほとんどの業種に関わっているものすごい一族で、その総帥といえば僕から見たら雲の上の存在とでもいう人だ。
そんな人がわざわざ直筆で僕に招待状を?
何かの間違いじゃないのかな?
そう思って何度も何度も見返すけれど、招待状に書かれているのは
<マモル・ワクラ>
確かに僕の名前だ。
しかも、一緒に送ったその衣装で出席してほしいって書かれている。
恐る恐る大きな箱を開けると、
「わぁっ! すごいっ!!」
中からはどこからどう見ても上質なタキシードが入っていた。
汚さないように気をつけながら取り出した服を自分に当ててみると、なぜかサイズもピッタリ。
『明さん……どうしたらいいですか?』
そう言って招待状を見せながら、このタキシードに目をやると
『真守、せっかくのご招待だ。受けるしかないだろう?』
『でも……』
『ふふっ。大丈夫。私とアロンも招待を受けているんだ。だから三人で行こう』
『あ、そうなんですね。はい、わかりました』
明さんとアロンも一緒だと聞いてホッとする。
こんな正式なパーティーに招待だなんてびっくりしたけれど、せっかくの機会だ。
楽しませてもらおう。
そう思いながら、僕はまっさらなタキシードを見て心をときめかせていた。
<sideセオドア>
とうとうパーティー当日。
今までパーティーをこんなにも待ち侘びた日はなかったな。
私が仕立てたあのタキシードはマモルに似合っただろうか……。
考えてみれば、誰かに服を贈ったのは初めてのことだな。
あの時は躊躇いもせずにマモルに服を贈ることしか考えていなかったが、私の仕立てた服を着てここに来る……そう思うだけでなぜか興奮してしまう。
『なんだ? セオドア、やけに落ち着かないな』
『そんなことはない。お前もこんなところで私と話していないで、美しい女性方と話をしてきたらどうだ? お前がこのパーティーをしたいと言い出したのだろう?』
『ああ、確かにそうなんだが……パッと見ても心踊るような相手は見当たらないんだ。せっかくイギリスにまできたと言うのに、このままだと婚約者を見つけられそうにはないな』
私の隣で大きなため息をついているのは、ヨーロッパにある小さな国の王子・ラミロ。
彼が留学で私の学校にやってきたのがきっかけで仲良くなった。
いわば親友とも言える人物だ。
小さな国とはいえ、豊かな自然と資源を持つ彼の国はヨーロッパでもかなり裕福なのだ。
だが、彼も私と同じく30を超えても結婚相手が見つからず……と言うより、本人に結婚の意思がないのだが、いい加減周りから身を固める様にと言われ、私にこの出会いの場を頼んできたのだ。
本国では彼が王子だと騒がれすぎて、ゆっくりとお互いを知る時間すら与えられないからだろう。
その点イギリスではそこまで彼の知名度があるわけではない。
ゆっくりと結婚相手を探せると喜んでいたはいいが、あまり積極的に動こうとしないのはここにきている女性たちが私のそばにいる彼をどこかの御曹司だと思って、ギラギラと狙っていることに気づいたからだろうか。
まぁ、こんなにも一方的に狙われれば萎えてしまうのも無理はないな。
『まぁ、まだ時間はたっぷりある。焦らずとも良いか』
そんな話をしていると、入り口のあたりが騒めいたのを感じた。
なんだ? 誰か特別な者でも現れたか?
声が上がりそうな主要なメンバーはもう皆来ているはずだが……。
「――っ!!!」
入り口を緊張した様子で歩く彼……。
間違いない!
彼がマモルだ。
私の仕立てた服を見間違えるわけがない。
なんと美しいんだ……。
あそこだけ光り輝いて異次元の世界のようだ。
手足が長くスタイルの良い身体を包んでいるのが私の仕立てたタキシードだというだけで昂ってくる。
この感情は一体なんだ?
『おい、セオドア。なんだ、あの美人は――あ、おいっ!!』
そんなラミロの声を背中で受けながら、私は一目散に彼の元に駆け寄った。
『真守宛に招待状と荷物が届いているぞ』
『僕宛に? 誰だろう……』
イギリスで明さんと生活するようになって三年。
家ではもうすっかり英語だけの生活になっている。
僕に連絡してくる人といえば限られている。
最初の頃はあの弁護士の成瀬さんから、何度か書類が届いたりしていたけれどそれは父さんたちのことに関することだったから、僕はほとんどサインするばかりで、あとは明さんがやり取りをしてくれていた。
あとは父さんの会社を引き継いでくれた佐山さんとは、あれからも交流が続いている。
父さんのことを尊敬してくれていた佐山さんは、父さんたちの月命日はいつもお墓参りに行ってくれているらしい。
明さんは父さんたちのお墓もイギリスにしてくれようとしたけれど、生前に父さんが母さんと二人のためのお墓を作っていたのを知ってお位牌だけイギリスに運んでくれたんだ。
日本にある父さんたちのお墓の管理を佐山さんが率先して引き受けてくれた。
月命日にはいつも佐山さんからメッセージが送られてきて、綺麗に掃除されたお墓と父さんたちが好きだったものがお供えされていて、僕はいつも嬉しく思っていた。
成瀬さんの元に伸吾が現れて、僕の今の住所を教えてくれと騒いだらしいけれどすぐに警察を呼ばれてからは音沙汰もなくなったらしい。
それ以外は僕がイギリスに行ったことすら知らないから連絡も取ることもないし、僕宛の荷物にはなんの心当たりもなかった。
誰だろうと不思議に思いながら、招待状を開けると確かに僕の名前が綺麗な英字で書かれていた。
『すごい、直筆だ……』
丁寧で優しい雰囲気のあるその字に思わず見惚れてしまう。
英語でも綺麗な字ってときめくものだよね。
「えっ……うそっ!」
思いがけない人からの招待状に僕は思わず日本語を叫んでしまった。
『マモル? 大丈夫?』
『あ、うん。ごめんなさい。びっくりしちゃって……』
『誰からの招待状だったの?』
『それが……』
招待状の差出人はセオドア・グランヴィエ。
あのグランヴィエ一族の総帥だ。
グランヴィエ一族といえば、イギリス国民で知らない人はいない。
おそらく王室と同じくらいの知名度を持っているくらいの人だ。
イギリス経済のほとんどの業種に関わっているものすごい一族で、その総帥といえば僕から見たら雲の上の存在とでもいう人だ。
そんな人がわざわざ直筆で僕に招待状を?
何かの間違いじゃないのかな?
そう思って何度も何度も見返すけれど、招待状に書かれているのは
<マモル・ワクラ>
確かに僕の名前だ。
しかも、一緒に送ったその衣装で出席してほしいって書かれている。
恐る恐る大きな箱を開けると、
「わぁっ! すごいっ!!」
中からはどこからどう見ても上質なタキシードが入っていた。
汚さないように気をつけながら取り出した服を自分に当ててみると、なぜかサイズもピッタリ。
『明さん……どうしたらいいですか?』
そう言って招待状を見せながら、このタキシードに目をやると
『真守、せっかくのご招待だ。受けるしかないだろう?』
『でも……』
『ふふっ。大丈夫。私とアロンも招待を受けているんだ。だから三人で行こう』
『あ、そうなんですね。はい、わかりました』
明さんとアロンも一緒だと聞いてホッとする。
こんな正式なパーティーに招待だなんてびっくりしたけれど、せっかくの機会だ。
楽しませてもらおう。
そう思いながら、僕はまっさらなタキシードを見て心をときめかせていた。
<sideセオドア>
とうとうパーティー当日。
今までパーティーをこんなにも待ち侘びた日はなかったな。
私が仕立てたあのタキシードはマモルに似合っただろうか……。
考えてみれば、誰かに服を贈ったのは初めてのことだな。
あの時は躊躇いもせずにマモルに服を贈ることしか考えていなかったが、私の仕立てた服を着てここに来る……そう思うだけでなぜか興奮してしまう。
『なんだ? セオドア、やけに落ち着かないな』
『そんなことはない。お前もこんなところで私と話していないで、美しい女性方と話をしてきたらどうだ? お前がこのパーティーをしたいと言い出したのだろう?』
『ああ、確かにそうなんだが……パッと見ても心踊るような相手は見当たらないんだ。せっかくイギリスにまできたと言うのに、このままだと婚約者を見つけられそうにはないな』
私の隣で大きなため息をついているのは、ヨーロッパにある小さな国の王子・ラミロ。
彼が留学で私の学校にやってきたのがきっかけで仲良くなった。
いわば親友とも言える人物だ。
小さな国とはいえ、豊かな自然と資源を持つ彼の国はヨーロッパでもかなり裕福なのだ。
だが、彼も私と同じく30を超えても結婚相手が見つからず……と言うより、本人に結婚の意思がないのだが、いい加減周りから身を固める様にと言われ、私にこの出会いの場を頼んできたのだ。
本国では彼が王子だと騒がれすぎて、ゆっくりとお互いを知る時間すら与えられないからだろう。
その点イギリスではそこまで彼の知名度があるわけではない。
ゆっくりと結婚相手を探せると喜んでいたはいいが、あまり積極的に動こうとしないのはここにきている女性たちが私のそばにいる彼をどこかの御曹司だと思って、ギラギラと狙っていることに気づいたからだろうか。
まぁ、こんなにも一方的に狙われれば萎えてしまうのも無理はないな。
『まぁ、まだ時間はたっぷりある。焦らずとも良いか』
そんな話をしていると、入り口のあたりが騒めいたのを感じた。
なんだ? 誰か特別な者でも現れたか?
声が上がりそうな主要なメンバーはもう皆来ているはずだが……。
「――っ!!!」
入り口を緊張した様子で歩く彼……。
間違いない!
彼がマモルだ。
私の仕立てた服を見間違えるわけがない。
なんと美しいんだ……。
あそこだけ光り輝いて異次元の世界のようだ。
手足が長くスタイルの良い身体を包んでいるのが私の仕立てたタキシードだというだけで昂ってくる。
この感情は一体なんだ?
『おい、セオドア。なんだ、あの美人は――あ、おいっ!!』
そんなラミロの声を背中で受けながら、私は一目散に彼の元に駆け寄った。
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