有能な調査員は健気で不憫なかわい子ちゃんを甘やかしたい!

波木真帆

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家に帰ろう

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「伊月くんはまだ学校には来れないんだよね?」

「うん。お医者さんからはあと一ヶ月くらいは安静にしてた方がいいって言われてるんだ。でも慎一さんが家で講義を受けられるようにしてくれたから大丈夫」

「そっか。じゃあ、レポートとか書くときは一緒にやろう。いつでもメッセージとか電話とかしてね」

「うん! ありがとう。真琴くん」

もうすっかり名前呼びに慣れた様子の二人だが、そろそろお開きの時間だ。
でもこれからよく四人で集まるようになるのをわかっているからか、特に寂しいとかいうのはなさそうだ。

「うちのゲストルームは真琴くんとユウさんならいつでも大歓迎だから、好きな時にきてくれていいよ」

「シンさん。ありがとうございます」

ずっと河北さんと呼ばれていたのが、シンさんに変わってなんとなくむず痒い感じだが、偽名よりはずっといい。

「じゃあ出ようか」

俺たちが話をしている間に、ユウさんが支払いを済ませてくれたようだ。
俺も半額払うつもりだったが、今日は伊月の快気祝いだから出させてくれと言われて甘えることにした。

ユウさんも伊月が事故に遭い怪我をしてしまったことは少なからず責任を感じているようだったからな。
まぁ、悪いのは全てあいつなんだが、もっと早く行動を起こしておけばという後悔もあるのかもしれない。

だが、俺と伊月の関係はあの事故をきっかけにうまく進んだと言っても過言ではないから、あの事故の全てが悪いものだったとは思いたくない。

伊月は怪我をして痛い思いをしたのは事実だが、谷垣くんという親友と出会うきっかけにもなったのだしきっと伊月はよかったと思っているはずだ。

砂川くんともこうしてゆっくり話せたことで仲も深まったし、今日の食事会は実り多いものとなったな。
例のURLはもうすでにユウさんが俺のスマホに送ってくれているし、楽しみでたまらない。

店をでて駐車場に向かうと、ユウさんたちも同じところに車を置いていたらしい。
てっきりあの店の駐車場に止めていたのかと思っていた。きっとあの店に行く前にどこかに立ち寄っていたのだろう。

「伊月くんとシンさんが乗ってきた車はどれ?」

「えーっと、あ、あれかな」

「わぁー、まるっとして可愛い!」

真琴くんが俺の車を褒めた途端、ユウさんの眉がぴくっと動いた。きっとそれに気づいたのは俺だけだっただろう。
あれだけ他人には無関心だったのに、砂川くんが相手だと本当に信じられないくらい狭量だな。

でも必死にそれを隠して、

「真琴。あの車が欲しいなら買おうか」

と笑顔で声をかける。

「えっ? そんな、買うだなんて! 僕は優一さんと一緒に乗る車が一番好きです。今日の車もお家にあるものも全部好きですよ」

「そうか。それならいい」

真琴くんの言葉に一気にユウさんの表情が緩む。本当に砂川くんが絡むといつものユウさんじゃないみたいだ。

でもきっと俺もそうなんだろうな。
伊月が可愛いと言えばなんとしてでもそれを手に入れたいと思うし、伊月が好きだと言えばどんなものにだって妬いてしまうだろう。

俺もユウさんもかなり年下の子に翻弄されていると言えばそうなのだろうが、それが運命の相手なのだから体裁など構ってはいられない。なんせ伊月と離れてしまったら生きている意味などなくなってしまうのだから。そんなもので伊月の気持ちを留めていられるのなら安いものだ。

「じゃあ、シン。また連絡するから」

「はい。今日はご馳走さまでした」

すると、俺の言葉に続くようにすぐに伊月も

「ご馳走さまでした」

と頭を下げた。ユウさんはそんな伊月に笑顔を見せて、

「退院おめでとう」

と声をかけ、一足早く駐車場を出ていった。

どうやら本気で伊月はユウさんに気に入られたようだな。

「伊月、行こうか」

「はい」

ほんのりと頬を染めたのは、俺が呼び捨てで呼んだからだろう。本当に可愛い。

助手席に座らせ、シートベルトをつけてやりながら、チュッと唇を重ねた。

「んっ! えっ?」

まさかされるとは夢にも思っていなかったようで、目を丸くしていたが食事会の間中、キスしたくてたまらなかった。

「やっと二人っきりになれたから」

「慎一さん……」

「嫌だった?」

「嫌だなんて! びっくりしただけで……嬉しかったです。僕もしたいなって思ってました」

「――っ!!」

もう可愛すぎて抑えられない。

「ごめん、このあとドライブでもって思ってたけど、帰っていいかな?」

「えっ? もちろんいいですけど、どうかしたんですか?」

「伊月が可愛すぎるから我慢できないんだ。早く家で二人になりたい」

「――っ、慎一さん……」

「いい?」

「はい。僕も、二人になりたいです」

頬をさらに赤らめながら見上げられたら、もうひとたまりもなかった。

俺は急いで運転席にまわり、安全運転ながらも気持ちは急いでマンションに帰った。
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