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隠し事は無しで

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「伊月くん」

「真琴くん」

「ふふっ。やっぱりこっちがいいね」

「うん。こっちがいい」

少し照れながら初めてお互いに名前を呼び合う姿が可愛すぎて、俺もユウさんも釘付けになっていた。

「シン。あとでそっちの映像も頼む」

「ユウさんのもお願いしますね」

「ああ、わかってる」

この店の個室にはいろんな角度から部屋の様子が高性能カメラで撮影されていて、入室してきた時から部屋を出るまでの全てが記憶され、会計時に伝えられるURLから自分と同伴者一名の情報とパスワードを入力すると情報を入れた人物の映像がメインになるようにAIによって自動的に編集された映像ができ、それを自分のスマホやパソコンで確認でき保存できる。

即ち、俺の映像には俺と伊月くんがメインになるように、ユウさんがもらった映像にはユウさんと砂川くんがメインになるように編集された映像が振り分けられるということだ。

伊月くん視点からの映像ももちろん可愛いだろうが、砂川くん視点からの伊月くんも手に入れたいと思ってしまうのは当然だろう。ユウさんも同じだから俺に頼んできたんだ。

今まではここで二人で食事をとっても、映像は単なる記録というか何かあった時の証拠映像くらいで一応保存していたにすぎなかったし、特に必要なければ保存することなく映像を消去したこともあるが、今日のは最高のお宝映像。絶対に逃すわけにはいかない。

二人が対面して驚いているところはもちろん、食事をしているところも、二人でデザートを選んでいるところも、さっきの名前で呼びたいと話をしたのも、二人で照れながら名前で呼び合うところも全てが貴重な映像だ。

帰って伊月くんとの楽しい時間を過ごしたあと、忘れずに保存しておくとしよう。

「じゃあ、そろそろ今日はお開きにしようか」

「あ、ちょっと最後に大事な話があって……」

「シン、どうした?」

「砂川くんにちゃんと自己紹介してなかったので……」

「ああ、そうだったな」

砂川くんが伊月くんと楽しそうに話をしていた時に、俺のことを河北さんと呼んでいるのが聞こえた。
伊月くんもそれにピクッと反応していたが、自分からは何も言わなかった。きっと俺のことを考えてくれたんだろう。
俺は砂川くんがユウさんの恋人になった以上は、みんなで一緒にやっていくのも当然だと思っているから本名を偽るつもりもなかったが、二人の話を遮ってまで声をかけるのもどうかと思っていたんだ。

結局二人が可愛すぎて、俺の名前を伝える場合ではなくなってしまったが、ここで言わずに帰るわけにはいかない。

「自己紹介って……僕、河北さんのこと知ってますよ。シンさんですよね」

「ああ、それは間違い無いんだけど実は苗字が違うんだ。砂川くんとあの店で会った時は、偽名を使って潜入捜査をしていたから、砂川くんに本名を伝えるわけにはいかなかったんだよ。でも、これから四人で過ごすことが多くなるから、いつまでも偽名のままでいるわけにはいかないから、今日伝えようと思っていたんだ。騙しててごめんね」

「いえ、そんな……」

「あ、あの、真琴くん! 慎一さんは真琴くんを騙そうと思ったわけじゃなくて守るために頑張ってて! だからっ」

俺のことを必死で守ろうとしてくれるのがものすごく嬉しい。嬉しすぎて、つい心の声が漏れてしまった。

「伊月……ありがとう」

「し、慎一さん……今、なんて……?」

「あ、ごめん。俺のこと守ってくれたのが嬉しくてつい……。呼び捨て、嫌だった?」

「ううん。嬉しいです! 僕、慎一さんにずっと伊月って呼ばれたかったんです」

「そうか! よかった!!」

伊月の言葉が嬉しくて、伊月を抱きしめると

「続きは二人っきりになってからやってくれ」

とユウさんの声が聞こえた。

「あっ!」
「――っ!」

あまりにも伊月が可愛すぎて周りが見えなくなってたな。

伊月は恥ずかしそうに俺から離れようとするが、離すはずもない。

「いいよ。伊月はここにいて」

「は、はい」

真っ赤な顔をしながらも俺が頼むと素直に留まってくれた。

「話は元に戻すけど、そういうわけで俺は河北じゃなくて、本当は『甲斐』っていうんだ。甲斐慎一」

「ああ、だからシンさんなんですね」

「そう。これからも仕事によっては偽名を使うこともあるから、砂川くんはユウさんと同じようにシンと呼んでくれたらいいよ」

「わかりました」

ようやくこの四人の中に隠し事は無くなったな。
伊月を見ると、ホッとしたように笑顔を見せてくれた。
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