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驚きの対面
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「ランチに予約している店があるんだ。ここから近いからそろそろ行こうか」
「えっ、予約しないと入れないようなお店ですか?」
「当日行っても空きがあれば入れるけど並ぶのは時間が勿体無いからね。時間は有効に使わないと」
「あ、そうですね」
ユウさんが予約してくれた店は一見の客はまず受け入れてもらえないが、常連になればいつ行っても多少の待ち時間はあれど都合をつけてもらえる店だ。
伊月くんは今日、俺と店に行くことであの店からはかなりのV.I.Pとして扱われることになるだろう。
なんせ、俺が尽くしている相手だからな。同じようにユウさんが砂川くんを連れていけば、砂川くんもV.I.Pとして扱われるようになる。あの店の店員は誰を優先しなければいけない相手かをしっかり見極められるから安心して連れて行けるんだ。
その店はこのホテルからそこまで離れていない。
さっき会計の時にこっそりスマホを見ると、ユウさんから部屋に入ったら連絡をくれとメッセージが届いていたから俺たちが入ってから来るつもりなのだろう。伊月くんがどれくらい驚くか楽しみだな。
「ここだよ」
「えっ? ここが、お店ですか?」
「わかりにくいから穴場なんだ」
「わぁー、すごいです!」
この店の存在を知らなければ簡単に通り過ぎてしまうようなその入り口を教えると、驚きと共に喜びの表情を見せてくれる。こんな純粋で素直な反応がとてつもなく可愛い。
中に入ると、すぐにこの店の女将がやってきて、
「お待ちしておりました。お部屋にご案内いたします」
とすぐに俺たちを連れて行ってくれる。伊月くんは名前も言わずにすぐに案内してくれたことに驚いているようだが、この店では至極当然のことだ。全ての常連客の顔も名前もきちんと覚えてくれている。だから伊月くんのように大切な存在を連れてくることができるんだ。
「こちらでございます」
仕事関係の話で特に内密な話をするときに、たまに二人で来る店だが、今日案内された部屋がいつもよりも広いのは伊月くんと砂川くんが一緒だからだろう。
伊月くんを先に部屋に入らせて、掘り炬燵の席の上座に並んで座る。二人で並んで座っても緊張しているのか、特に気にするそぶりはなくてホッとする。上座はいつもならユウさんが座る場所だが、今日はあくまでも伊月くんの快気祝い。この場所に座っていて問題はないだろう。
「ここって、すごく大人な雰囲気のお店ですね。僕……緊張してきました」
「緊張するのは最初だけだよ。料理を食べればすぐに気にいるし、この雰囲気も楽しくなるよ」
そんな言葉をかけながら、伊月くんにみられないようにこっそりとユウさんにメッセージを送る。
するとそれから5分もかからないうちに襖の向こうから
「失礼致します」
と女将の声が聞こえた。伊月くんはきっと料理の注文をとりにきたとでも思っているだろう。
「はい。どうぞ」
声をかけるとスーッと襖が開き、二人の姿が俺たちの眼前に晒された。
「「えっ?」」
伊月くんと砂川くんの目があった途端、二人は見つめあったまま固まってしまった。想像もしてなかったものに出会った時に、人はこんな反応をするんだと初めて知った気がする。
「あ、田淵くん? どうして、ここに?」
「砂川くんこそ、どうして? えっ? どういうこと?」
二人とも大きな目がこぼれ落ちそうなくらいの驚きの表情を浮かべ、何が起こっているのかわからない様子だ。
「真琴、とりあえず中に入ろう」
「えっ、あ、はい――わっ!!」」
あまりの驚きに足が動かない様子の砂川くんをユウさんはさっと抱きかかえて、そのまま俺たちの向かいに腰を下ろした。
「えっと、あの……これって、どういうことですか?」
砂川くんはまだ理解が追いついていないようで俺と伊月くんの顔を何度も見ながら、ユウさんに尋ねた。
「シンを紹介するって言っただろう? だからこの店に来たんだ」
そうか、ユウさんはそう言って砂川くんを連れ出したのか。
「それはわかりましたけど、どうしても田淵くんも?」
「それはシンから説明があるだろう。なぁ、シン」
楽しそうな表情を浮かべ俺に説明を促す姿は、普段のユウさんからは想像もつかない。
俺は隣に座る伊月くんの肩を抱き、隙間がないほどピッタリと寄り添わせながら笑顔を見せた。
「砂川くん、驚かせて悪いけど伊月くんは俺の恋人なんだ。今日は君にそれを伝えたくて連れてきたんだよ」
「えーーーっ!!」
これ以上ないほどの驚きっぷりにこちらも大笑いしてしまいそうになる。
だが、俺の隣にいる伊月くんは驚きの連続にまだ混乱しているようだった。
「あ、あの……しん、いちさん……これって、どういうことですか?」
「伊月くんにもちゃんと紹介するね。俺の前にいる人が仕事仲間のユウさん。病室で一度会ったことがあるよね?」
「は、はい」
「あの事件をきっかけにユウさんと砂川くんは付き合いだしたそうだよ」
「えーーーっ!! そ、それって、この方が砂川くんの恋人さんってことですか?」
「そう。俺たちと一緒だよ」
ようやく理解したらしい伊月くんは目の前の砂川くんをしばらく見つめていたかと思ったら、
「砂川くん! おめでとう!!」
と言いながらほんのり涙を浮かべていた。
「えっ、予約しないと入れないようなお店ですか?」
「当日行っても空きがあれば入れるけど並ぶのは時間が勿体無いからね。時間は有効に使わないと」
「あ、そうですね」
ユウさんが予約してくれた店は一見の客はまず受け入れてもらえないが、常連になればいつ行っても多少の待ち時間はあれど都合をつけてもらえる店だ。
伊月くんは今日、俺と店に行くことであの店からはかなりのV.I.Pとして扱われることになるだろう。
なんせ、俺が尽くしている相手だからな。同じようにユウさんが砂川くんを連れていけば、砂川くんもV.I.Pとして扱われるようになる。あの店の店員は誰を優先しなければいけない相手かをしっかり見極められるから安心して連れて行けるんだ。
その店はこのホテルからそこまで離れていない。
さっき会計の時にこっそりスマホを見ると、ユウさんから部屋に入ったら連絡をくれとメッセージが届いていたから俺たちが入ってから来るつもりなのだろう。伊月くんがどれくらい驚くか楽しみだな。
「ここだよ」
「えっ? ここが、お店ですか?」
「わかりにくいから穴場なんだ」
「わぁー、すごいです!」
この店の存在を知らなければ簡単に通り過ぎてしまうようなその入り口を教えると、驚きと共に喜びの表情を見せてくれる。こんな純粋で素直な反応がとてつもなく可愛い。
中に入ると、すぐにこの店の女将がやってきて、
「お待ちしておりました。お部屋にご案内いたします」
とすぐに俺たちを連れて行ってくれる。伊月くんは名前も言わずにすぐに案内してくれたことに驚いているようだが、この店では至極当然のことだ。全ての常連客の顔も名前もきちんと覚えてくれている。だから伊月くんのように大切な存在を連れてくることができるんだ。
「こちらでございます」
仕事関係の話で特に内密な話をするときに、たまに二人で来る店だが、今日案内された部屋がいつもよりも広いのは伊月くんと砂川くんが一緒だからだろう。
伊月くんを先に部屋に入らせて、掘り炬燵の席の上座に並んで座る。二人で並んで座っても緊張しているのか、特に気にするそぶりはなくてホッとする。上座はいつもならユウさんが座る場所だが、今日はあくまでも伊月くんの快気祝い。この場所に座っていて問題はないだろう。
「ここって、すごく大人な雰囲気のお店ですね。僕……緊張してきました」
「緊張するのは最初だけだよ。料理を食べればすぐに気にいるし、この雰囲気も楽しくなるよ」
そんな言葉をかけながら、伊月くんにみられないようにこっそりとユウさんにメッセージを送る。
するとそれから5分もかからないうちに襖の向こうから
「失礼致します」
と女将の声が聞こえた。伊月くんはきっと料理の注文をとりにきたとでも思っているだろう。
「はい。どうぞ」
声をかけるとスーッと襖が開き、二人の姿が俺たちの眼前に晒された。
「「えっ?」」
伊月くんと砂川くんの目があった途端、二人は見つめあったまま固まってしまった。想像もしてなかったものに出会った時に、人はこんな反応をするんだと初めて知った気がする。
「あ、田淵くん? どうして、ここに?」
「砂川くんこそ、どうして? えっ? どういうこと?」
二人とも大きな目がこぼれ落ちそうなくらいの驚きの表情を浮かべ、何が起こっているのかわからない様子だ。
「真琴、とりあえず中に入ろう」
「えっ、あ、はい――わっ!!」」
あまりの驚きに足が動かない様子の砂川くんをユウさんはさっと抱きかかえて、そのまま俺たちの向かいに腰を下ろした。
「えっと、あの……これって、どういうことですか?」
砂川くんはまだ理解が追いついていないようで俺と伊月くんの顔を何度も見ながら、ユウさんに尋ねた。
「シンを紹介するって言っただろう? だからこの店に来たんだ」
そうか、ユウさんはそう言って砂川くんを連れ出したのか。
「それはわかりましたけど、どうしても田淵くんも?」
「それはシンから説明があるだろう。なぁ、シン」
楽しそうな表情を浮かべ俺に説明を促す姿は、普段のユウさんからは想像もつかない。
俺は隣に座る伊月くんの肩を抱き、隙間がないほどピッタリと寄り添わせながら笑顔を見せた。
「砂川くん、驚かせて悪いけど伊月くんは俺の恋人なんだ。今日は君にそれを伝えたくて連れてきたんだよ」
「えーーーっ!!」
これ以上ないほどの驚きっぷりにこちらも大笑いしてしまいそうになる。
だが、俺の隣にいる伊月くんは驚きの連続にまだ混乱しているようだった。
「あ、あの……しん、いちさん……これって、どういうことですか?」
「伊月くんにもちゃんと紹介するね。俺の前にいる人が仕事仲間のユウさん。病室で一度会ったことがあるよね?」
「は、はい」
「あの事件をきっかけにユウさんと砂川くんは付き合いだしたそうだよ」
「えーーーっ!! そ、それって、この方が砂川くんの恋人さんってことですか?」
「そう。俺たちと一緒だよ」
ようやく理解したらしい伊月くんは目の前の砂川くんをしばらく見つめていたかと思ったら、
「砂川くん! おめでとう!!」
と言いながらほんのり涙を浮かべていた。
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