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二人で出かけよう
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「あ、あの……着替え、ました……」
伊月くんの着替えに見入っていると、少し恥じらいながら声をかけてくる。
「よく似合ってるよ。可愛くて見惚れてた」
「そんな……っ」
伊月くんにはちゃんと言葉にしないと勘違いさせてしまったら困るからな。でも、正直に俺の気持ちを伝えると照れるのが可愛い。
「じゃあ、出かけようか」
「は、はい」
「あ、伊月くんは足がまだ万全じゃないから疲れたらすぐにいうんだよ」
「はい。わかりました」
「じゃあ、行こうか」
さっと伊月くんの隣に立ち、腰に手を回して寄り添うと
「えっ、あの……このままいくんですか?」
と驚きの声をあげる。
「もちろん。言っただろう? 伊月くんはまだ万全じゃないんだ。それに俺たちは恋人同士なんだからくっついてもおかしくないだろう? それとも俺が隣にいると困る?」
「困るなんてそんなことっ! でも僕なんかが隣にいたら、慎一さんが変に思われませんか?」
「思われないし、そもそも周りの目なんて気にしないよ。俺は伊月くんの隣にいたい。ただそれだけだ」
「慎一さん……」
俺の言葉に納得してくれたのか、伊月くんは俺から離れようともせず寄り添ったまま歩いてくれた。
準備しておいた新しい靴を履かせると、
「わぁっ、この靴。履いてないみたいに軽いです」
と笑顔を見せる。本当にかわいいな、この子は。
「よかった。足の形通りに作ってるから靴擦れもしないはずだよ。でも痛くなったら我慢しないですぐにいうんだよ」
「足の形通りに……。あの、それっていつの間に……」
「言ってなかった? 転院した時にいろいろ検査しただろう? その時についでに測っておいたんだ。二ヶ月あったから余裕で作ってもらえたよ。伊月くんは足を怪我したんだし、ぴったり合ったものを履かないと足に負担がかかるからね」
「そういうもの、ですか?」
「ああ。俺は獣医だけど、人間の身体についても一般人よりはわかっているつもりだよ。だから、伊月くんは心配しないで俺が用意したものを履いてくれるだけでいいんだ。ねっ」
「は、はい」
俺のいうことはいつだって素直に聞いてくれる。この調子で全て俺のいうことは正しいと思ってくれたらいい。
きっとユウさんも砂川くんにそうしているだろうしな。
伊月くんを連れてエレベーターに乗り込み、玄関に向かう前に俺はコンシェルジュの元に向かった。
「おはようございます。甲斐さま」
もう名前を呼んでくれて構わないと連絡していたから、大園くんはいつものように声をかけてきた。
「ああ、大園くん。おはよう。君に紹介しておこう。彼は田淵くん。一緒に暮らすことになったから、よろしく」
「はい。田淵さまでございますね。私、このマンションのコンシェルジュの大園と申します。何なりとご用件をお申し付けください」
「えっ、は、はい。あの田淵伊月です。こちらこそどうぞよろしくお願いします」
コンシェルジュには横柄な態度を取るものも多いらしいが、伊月くんはやはりそういう奴らとは違うな。
「大園くん、伊月くんの指紋認証用の登録を頼むよ」
「承知しました。こちらにどうぞ」
伊月くんを連れて、大園くんのデスクに向かい、機械に手のひらを乗せ登録をする。俺がセキュリティコードと指紋認証を新たにしないと登録は完了できないから、勝手に登録はできない。安全性はバッチリだ。
「これで、あのエレベータホールも開けられるし、このマンションの中にある施設もいつでも使用できるよ」
「施設、ですか?」
「ああ。トレーニングルームやプール、レストラン、Barにシアタールーム、カラオケやビリヤードなんかもあるかな」
「えっ……そんなにあるんですか?」
「うん。どの施設もお金はいらないから気にしないでいいよ。もちろんレストランもね」
「レストランも、ですか?」
「そう。食べにいくだけじゃなくて部屋にデリバリーしてもらうこともできるから、お腹が空いたらいつでも頼んでいいよ。なんでも無料だから」
実際は施設費は管理費に組み込まれているため、使用してもしなくても住居者の管理費で賄われているが、レストランやBarの飲食代の支払いは必要だ。それでも通常の半額程度とかなりリーズナブルになっているが、伊月くんの場合はオーナー権限で全て無料になるようにしてある。そこまで説明する必要はないから、これで問題はないだろう。
もし、砂川くんが遊びにきて客用の部屋で過ごした時も好きな料理や飲み物を、大園くんがレストランから受け取って運んでくれるから安心だ。
他の施設はこのマンションの入居者も使用できるが、俺と伊月くんが使う施設はオーナー専用施設で他の入居者は入れないようになっている。だから伊月くんを一人で行かせることもできるが、伊月くんの性格を考えるとおそらく一人では行かないだろう。
「他の施設も今度一緒に行ってみよう」
「は、はい。慎一さんと一緒なら楽しそうです」
その答えに大園くんが笑顔を見せる。どうやらこれだけでもう伊月くんがどんな子かはわかっただろう。
「じゃあ、大園くん。出かけてくるよ」
「はい。行ってらっしゃいませ」
大園くんに見送られ、俺は伊月くんを連れて駐車場に向かった。
伊月くんの着替えに見入っていると、少し恥じらいながら声をかけてくる。
「よく似合ってるよ。可愛くて見惚れてた」
「そんな……っ」
伊月くんにはちゃんと言葉にしないと勘違いさせてしまったら困るからな。でも、正直に俺の気持ちを伝えると照れるのが可愛い。
「じゃあ、出かけようか」
「は、はい」
「あ、伊月くんは足がまだ万全じゃないから疲れたらすぐにいうんだよ」
「はい。わかりました」
「じゃあ、行こうか」
さっと伊月くんの隣に立ち、腰に手を回して寄り添うと
「えっ、あの……このままいくんですか?」
と驚きの声をあげる。
「もちろん。言っただろう? 伊月くんはまだ万全じゃないんだ。それに俺たちは恋人同士なんだからくっついてもおかしくないだろう? それとも俺が隣にいると困る?」
「困るなんてそんなことっ! でも僕なんかが隣にいたら、慎一さんが変に思われませんか?」
「思われないし、そもそも周りの目なんて気にしないよ。俺は伊月くんの隣にいたい。ただそれだけだ」
「慎一さん……」
俺の言葉に納得してくれたのか、伊月くんは俺から離れようともせず寄り添ったまま歩いてくれた。
準備しておいた新しい靴を履かせると、
「わぁっ、この靴。履いてないみたいに軽いです」
と笑顔を見せる。本当にかわいいな、この子は。
「よかった。足の形通りに作ってるから靴擦れもしないはずだよ。でも痛くなったら我慢しないですぐにいうんだよ」
「足の形通りに……。あの、それっていつの間に……」
「言ってなかった? 転院した時にいろいろ検査しただろう? その時についでに測っておいたんだ。二ヶ月あったから余裕で作ってもらえたよ。伊月くんは足を怪我したんだし、ぴったり合ったものを履かないと足に負担がかかるからね」
「そういうもの、ですか?」
「ああ。俺は獣医だけど、人間の身体についても一般人よりはわかっているつもりだよ。だから、伊月くんは心配しないで俺が用意したものを履いてくれるだけでいいんだ。ねっ」
「は、はい」
俺のいうことはいつだって素直に聞いてくれる。この調子で全て俺のいうことは正しいと思ってくれたらいい。
きっとユウさんも砂川くんにそうしているだろうしな。
伊月くんを連れてエレベーターに乗り込み、玄関に向かう前に俺はコンシェルジュの元に向かった。
「おはようございます。甲斐さま」
もう名前を呼んでくれて構わないと連絡していたから、大園くんはいつものように声をかけてきた。
「ああ、大園くん。おはよう。君に紹介しておこう。彼は田淵くん。一緒に暮らすことになったから、よろしく」
「はい。田淵さまでございますね。私、このマンションのコンシェルジュの大園と申します。何なりとご用件をお申し付けください」
「えっ、は、はい。あの田淵伊月です。こちらこそどうぞよろしくお願いします」
コンシェルジュには横柄な態度を取るものも多いらしいが、伊月くんはやはりそういう奴らとは違うな。
「大園くん、伊月くんの指紋認証用の登録を頼むよ」
「承知しました。こちらにどうぞ」
伊月くんを連れて、大園くんのデスクに向かい、機械に手のひらを乗せ登録をする。俺がセキュリティコードと指紋認証を新たにしないと登録は完了できないから、勝手に登録はできない。安全性はバッチリだ。
「これで、あのエレベータホールも開けられるし、このマンションの中にある施設もいつでも使用できるよ」
「施設、ですか?」
「ああ。トレーニングルームやプール、レストラン、Barにシアタールーム、カラオケやビリヤードなんかもあるかな」
「えっ……そんなにあるんですか?」
「うん。どの施設もお金はいらないから気にしないでいいよ。もちろんレストランもね」
「レストランも、ですか?」
「そう。食べにいくだけじゃなくて部屋にデリバリーしてもらうこともできるから、お腹が空いたらいつでも頼んでいいよ。なんでも無料だから」
実際は施設費は管理費に組み込まれているため、使用してもしなくても住居者の管理費で賄われているが、レストランやBarの飲食代の支払いは必要だ。それでも通常の半額程度とかなりリーズナブルになっているが、伊月くんの場合はオーナー権限で全て無料になるようにしてある。そこまで説明する必要はないから、これで問題はないだろう。
もし、砂川くんが遊びにきて客用の部屋で過ごした時も好きな料理や飲み物を、大園くんがレストランから受け取って運んでくれるから安心だ。
他の施設はこのマンションの入居者も使用できるが、俺と伊月くんが使う施設はオーナー専用施設で他の入居者は入れないようになっている。だから伊月くんを一人で行かせることもできるが、伊月くんの性格を考えるとおそらく一人では行かないだろう。
「他の施設も今度一緒に行ってみよう」
「は、はい。慎一さんと一緒なら楽しそうです」
その答えに大園くんが笑顔を見せる。どうやらこれだけでもう伊月くんがどんな子かはわかっただろう。
「じゃあ、大園くん。出かけてくるよ」
「はい。行ってらっしゃいませ」
大園くんに見送られ、俺は伊月くんを連れて駐車場に向かった。
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