有能な調査員は健気で不憫なかわい子ちゃんを甘やかしたい!

波木真帆

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最高の幸せ

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「伊月くんが入院したばかりの頃に、砂川くんの知り合いだと言って事故の話を聞きにきた人を覚えている?」

「はい。あの、弁護士さんですよね?」

「そうそう。あの人、成瀬優一さんって言って、同じ大学の一年先輩なんだよ。医学部在学中に司法試験に合格して、今は弁護士として働いている人でね。俺も大学で獣医師の勉強をしながら司法試験の勉強をしていたから、ダブルライセンスの話を聞きたくて医学部まで声をかけに行ったんだ」

「ダブルライセンス……慎一さんも成瀬さんもすごい人なんですね……」

「いやいや、成瀬さんはともかく俺は大したことないよ」

純粋に褒められることに少し照れてしまってそう言ったけれど、伊月くんは尊敬の眼差しで俺を見つめてくれて嬉しかった。

医学部専用の図書館にいたユウさんに俺が声をかけにいった時、一瞬冷ややかな表情を向けられて身体がゾクっとしたのを覚えている。それでも臆する事なく、ダブルライセンスの話をするとさっきまでの冷ややかな表情が一変してホッとした。

ちゃんと話を聞こうと言ってくれて近くの『ミモザ』という喫茶店に案内されて、そこでダブルライセンスの話から、この大学に行き着くまでの過程を話すと「俺と同じだな」と笑ってくれたのが印象的だった。ユウさんも俺と同じく、人に好意を持たれることに辟易していたようだ。

学部は違うし、ユウさんは一つ先輩だけどそれからはかなり頻繁にあっていたと思う。そのおかげで俺たち二人に寄ってくるものは格段に減った。ユウさんの助言のおかげで在学中に司法試験に合格し、大学六年次には無事に獣医師の国家試験にも合格し大学を卒業して今度は司法修習に行き、目まぐるしい日々を過ごしていた。

ユウさんはユウさんで大学卒業後は医師として二年間臨床研修を受け、その後一年間司法修習を受け現在は弁護士として働いている。

「俺は大学卒業して司法修習を終えてからは、獣医師として動物病院で雇われで働いてたんだけど、成瀬さんが独立して法律事務所を開いた時に声をかけてもらったんだ」

「えっ? 弁護士さんとして、ですか?」

「うーん、弁護士としてでも俺は働けるけど、声をかけてもらったのは、伊月くんと出会った時のように調査員として、かな」

「調査員、って……」

「わかりやすく言えば探偵ってことかな」

「探偵……」

「うん。表立って調査できないところに入り込んで裏事情を探るのが仕事。そういう時に弁護士の資格を持っていると調査しやすくてね、成瀬さんの声かけに乗ったんだ」

「でも、せっかく獣医師さんとして働いていたのに……慎一さんはそれでよかったんですか?」

まぁ、そう思うのが普通だろうな。調査員や探偵なんて言ったら陰で働くって感じだろうし。

「俺にはブリーダーになるって夢があるって言っただろう? それを実現させるための人脈作りとかしたかったし、時間にゆとりのある働き方は俺にとっても好都合だったし、それに……」

「それに?」

「伊月くんや砂川くんみたいに、困っているのに法律ではまだ手を出せない状況の子たちを守れるように証拠を集めて、悪い奴を捕まえて罪を償わせるのは良いことだって思ったんだ。元々、成瀬さんが俺に調査員という仕事を頼んできたのも困っている人を助けたいっていう思いからだからね。そのために俺の力が必要だっていうなら、助けになりたかったんだ」

「慎一さん……でも、危なくないんですか? 僕……慎一さんに怪我はしてほしくないです」

「ありがとう、でも大丈夫。そんなヘマはしないよ。俺には伊月くんっていう大事な存在ができたから絶対に危ない目には遭わないよ」

「約束ですよ……」

「ああ、約束だ。でも俺は、調査員の仕事をしてよかったって思ってるんだよ」

「どうして?」

「だって、そのおかげで伊月くんに会えたんだから……」

「慎一さん……」

俺が怪我をすることを心配してくれたんだろう。少し潤んだ目で見上げられてキスがしたくてたまらなくなった。

キスしてもいい? そんな無粋なことを聞きたくない。きっと伊月くんなら許してくれる。そんな気がした。

「伊月くん……」

ゆっくりと顔を近づけると、スッと伊月くんの目が閉じていく。許してもらえたのが嬉しくて、俺はそのまま伊月くんの小さくて形のいい唇に自分のそれをそっと重ねた。

一瞬、伊月くんの身体がピクッと震えたけれど、嫌がっている感じはない。

「んっ……」

それどころか伊月くんの口から甘い吐息が漏れる。それが何よりも可愛い。
伊月くんが俺とのキスを望んでくれていると思うと嬉しくて、俺はたっぷりと伊月くんの唇を堪能した。
流石に最初から舌まで入れるのは憚られたけれど、それでも伊月くんの柔らかな下唇を何度も喰み、その度に伊月くんから可愛い声が漏れて、俺は最高の幸せを感じていた。
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