有能な調査員は健気で不憫なかわい子ちゃんを甘やかしたい!

波木真帆

文字の大きさ
上 下
12 / 40

なんでも話すよ

しおりを挟む
「これで、俺たち……恋人になったから、一緒に寝てくれるよね?」

「そう確認されると、ちょっと恥ずかしいです」

「でも大事なことだから……」

嫌だと言われても、この温もりを知ってしまった後はもう離すつもりはない。ただ、伊月くんの口から聞きたいだけだ。

「はい。一緒に、寝たいです……」

「よかった」

「あの、でも……」

「でも?」

「その、僕……なんていうか、その……恋人同士の、何も、知らなくて……」

「えっ? 何もって……」

伊月くんの言わんとしていることを確認したくて聞き返すと、一気に伊月くんの顔が真っ赤に染まっていく。

「伊月くん、それって……」

やっぱりそういうこと・・・・・・なのかと顔を覗き込んで確認しようとすると、

「やっ、恥ずかしい……っ」

と言いながら、俺の胸で顔を隠す。

「くっ――!!」

その仕草が何よりも可愛すぎるんだけど。これが計算じゃないとわかっているから余計に可愛くてたまらない。

俺はたまらず腕の中の伊月くんを優しく抱きしめた。

「心配しないでいいよ」

「でも……」

「大丈夫、俺も初めてだから」

「えっ?」

俺の言葉にびっくりしたように顔をあげた伊月くんは、まだ頬が赤い上に目がほんのり潤んでものすごく可愛い。もうこのまま押し倒したいくらいだが、そこは必死に自制した。

「あの、初めてって……本当、ですか?」

「ああ、伊月くんに嘘は言わない。本当だよ」

これは誓って嘘じゃない。もちろん、今までの人生でモテなかったとは言わない。むしろ周りと比べてもモテていた方だと思う。学生時代は何度も告白されたし、バレンタインはもちろん、誕生日を調べられて山ほどプレゼントを贈られたこともある。けれど、直接渡されたものや名前が書かれていたものは全てつっかえしてきたし、差出人がわからないもの、特に手作りのものは悪いけど全部処分した。

少しくらい人の好意を受ければ……なんて言ってる奴もいたけど、なんとも思っていないやつに好かれたって、迷惑なだけだ。俺に面と向かって告白してくるやつのほとんどは、読モやってるとか芸能事務所にスカウトされたとか、自分の顔やスタイルに自信のあるやつばっかりだったけど、正直言って、誰とも付き合いたいとか思えなかったし、一度でいいから抱いて欲しいと言われた日には気持ち悪くて引いた。

その時から俺は自分に好意を持つ人を絶対に目に入れないようにした。自分から好意を持つこともなかったし、興味を持つこともなかった。一人で勉強するのも楽だったし、それでいいと思っていた。

「今まで伊月くん以外に好きになった人がいないんだ。だから誰とも付き合ったことないよ。告白したのだって、伊月くんが初めてだよ」

「慎一さん……」

「安心した?」

「はい……」

「よかった。初めて同士、ゆっくり進んでいこう」

俺の言葉に伊月くんはほっとしたように頷いた。

俺は本当に初めてだけど、何も知らないと言っていた伊月くんと違って知識だけは豊富にある。伊月くんのどこに触れたら感じてくれるか、可愛い顔を見せてくれるか多分すぐにわかるはずだけど、今は伊月くんを安心させたい。

なんと言っても同棲初日だ。いきなりガツガツいって怖がらせたくない。まずは一緒に風呂に入って触れ合うことを始めた方がいいだろう。谷垣くんからもらった入浴剤もあるし、あれで距離を縮めていけばいい。伊月くんが恥ずかしがっても、もう俺たちは恋人同士だ。恋人になったら一緒に風呂に入るのは当然だといえば、信じてくれるだろう。

そう考えれば、今、このタイミングで恋人になったのはよかったかもしれないな。

「ねぇ、伊月くん。他に気になることある? さっきも言ったけど、俺は伊月くんにはすべて本当のことしか話さないから、なんでも聞いてくれていいよ」

「あ、それじゃあ……ちょっと聞いてもいいですか?」

「ああ。なんでも聞いて」

「慎一さんのお仕事って、なんですか? あのコンビニの本社で働いているわけじゃないんですよね?」

「そっか、それを話さないといけなかったな。うん、あれは別の仕事。今の本業は獣医師だよ」

「えっ? 獣医師、さんですか?」

思っても見ない俺の回答に驚きの表情を見せる伊月くんが可愛い。

「うん。と言っても、雇われで週に二日しか働いてないけどね」

「そうなんですか?」

「ああ、獣医師は本当になりたいものになる布石のようなものなんだよ」

「本当になりたいもの?」

「俺はブリーダーになりたくて、今は準備を整えているところなんだ。もうすぐそれが完成するんだよ」

俺はこれまでのことを伊月くんに話すことにした。

犬が好きだった俺は自分が育てた子たちを大切に育ててくれる人に届けたいと思っていて、そのために必要なすべての資格を取るために桜城大学に進学した。
獣医学部に入り獣医師の勉強をしながら、法律にも詳しくなりたくてせっかくなら司法試験を受けようと思って法学部の聴講をしながら勉強していたところに、同じように医学部在籍中に司法試験に受かった人がいると噂を聞いて会いにいった。そこで出会ったのが、ユウさんだった。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。 叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……? エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...