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なんでも話すよ
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「これで、俺たち……恋人になったから、一緒に寝てくれるよね?」
「そう確認されると、ちょっと恥ずかしいです」
「でも大事なことだから……」
嫌だと言われても、この温もりを知ってしまった後はもう離すつもりはない。ただ、伊月くんの口から聞きたいだけだ。
「はい。一緒に、寝たいです……」
「よかった」
「あの、でも……」
「でも?」
「その、僕……なんていうか、その……恋人同士の、何も、知らなくて……」
「えっ? 何もって……」
伊月くんの言わんとしていることを確認したくて聞き返すと、一気に伊月くんの顔が真っ赤に染まっていく。
「伊月くん、それって……」
やっぱりそういうことなのかと顔を覗き込んで確認しようとすると、
「やっ、恥ずかしい……っ」
と言いながら、俺の胸で顔を隠す。
「くっ――!!」
その仕草が何よりも可愛すぎるんだけど。これが計算じゃないとわかっているから余計に可愛くてたまらない。
俺はたまらず腕の中の伊月くんを優しく抱きしめた。
「心配しないでいいよ」
「でも……」
「大丈夫、俺も初めてだから」
「えっ?」
俺の言葉にびっくりしたように顔をあげた伊月くんは、まだ頬が赤い上に目がほんのり潤んでものすごく可愛い。もうこのまま押し倒したいくらいだが、そこは必死に自制した。
「あの、初めてって……本当、ですか?」
「ああ、伊月くんに嘘は言わない。本当だよ」
これは誓って嘘じゃない。もちろん、今までの人生でモテなかったとは言わない。むしろ周りと比べてもモテていた方だと思う。学生時代は何度も告白されたし、バレンタインはもちろん、誕生日を調べられて山ほどプレゼントを贈られたこともある。けれど、直接渡されたものや名前が書かれていたものは全てつっかえしてきたし、差出人がわからないもの、特に手作りのものは悪いけど全部処分した。
少しくらい人の好意を受ければ……なんて言ってる奴もいたけど、なんとも思っていないやつに好かれたって、迷惑なだけだ。俺に面と向かって告白してくるやつのほとんどは、読モやってるとか芸能事務所にスカウトされたとか、自分の顔やスタイルに自信のあるやつばっかりだったけど、正直言って、誰とも付き合いたいとか思えなかったし、一度でいいから抱いて欲しいと言われた日には気持ち悪くて引いた。
その時から俺は自分に好意を持つ人を絶対に目に入れないようにした。自分から好意を持つこともなかったし、興味を持つこともなかった。一人で勉強するのも楽だったし、それでいいと思っていた。
「今まで伊月くん以外に好きになった人がいないんだ。だから誰とも付き合ったことないよ。告白したのだって、伊月くんが初めてだよ」
「慎一さん……」
「安心した?」
「はい……」
「よかった。初めて同士、ゆっくり進んでいこう」
俺の言葉に伊月くんはほっとしたように頷いた。
俺は本当に初めてだけど、何も知らないと言っていた伊月くんと違って知識だけは豊富にある。伊月くんのどこに触れたら感じてくれるか、可愛い顔を見せてくれるか多分すぐにわかるはずだけど、今は伊月くんを安心させたい。
なんと言っても同棲初日だ。いきなりガツガツいって怖がらせたくない。まずは一緒に風呂に入って触れ合うことを始めた方がいいだろう。谷垣くんからもらった入浴剤もあるし、あれで距離を縮めていけばいい。伊月くんが恥ずかしがっても、もう俺たちは恋人同士だ。恋人になったら一緒に風呂に入るのは当然だといえば、信じてくれるだろう。
そう考えれば、今、このタイミングで恋人になったのはよかったかもしれないな。
「ねぇ、伊月くん。他に気になることある? さっきも言ったけど、俺は伊月くんにはすべて本当のことしか話さないから、なんでも聞いてくれていいよ」
「あ、それじゃあ……ちょっと聞いてもいいですか?」
「ああ。なんでも聞いて」
「慎一さんのお仕事って、なんですか? あのコンビニの本社で働いているわけじゃないんですよね?」
「そっか、それを話さないといけなかったな。うん、あれは別の仕事。今の本業は獣医師だよ」
「えっ? 獣医師、さんですか?」
思っても見ない俺の回答に驚きの表情を見せる伊月くんが可愛い。
「うん。と言っても、雇われで週に二日しか働いてないけどね」
「そうなんですか?」
「ああ、獣医師は本当になりたいものになる布石のようなものなんだよ」
「本当になりたいもの?」
「俺はブリーダーになりたくて、今は準備を整えているところなんだ。もうすぐそれが完成するんだよ」
俺はこれまでのことを伊月くんに話すことにした。
犬が好きだった俺は自分が育てた子たちを大切に育ててくれる人に届けたいと思っていて、そのために必要なすべての資格を取るために桜城大学に進学した。
獣医学部に入り獣医師の勉強をしながら、法律にも詳しくなりたくてせっかくなら司法試験を受けようと思って法学部の聴講をしながら勉強していたところに、同じように医学部在籍中に司法試験に受かった人がいると噂を聞いて会いにいった。そこで出会ったのが、ユウさんだった。
「そう確認されると、ちょっと恥ずかしいです」
「でも大事なことだから……」
嫌だと言われても、この温もりを知ってしまった後はもう離すつもりはない。ただ、伊月くんの口から聞きたいだけだ。
「はい。一緒に、寝たいです……」
「よかった」
「あの、でも……」
「でも?」
「その、僕……なんていうか、その……恋人同士の、何も、知らなくて……」
「えっ? 何もって……」
伊月くんの言わんとしていることを確認したくて聞き返すと、一気に伊月くんの顔が真っ赤に染まっていく。
「伊月くん、それって……」
やっぱりそういうことなのかと顔を覗き込んで確認しようとすると、
「やっ、恥ずかしい……っ」
と言いながら、俺の胸で顔を隠す。
「くっ――!!」
その仕草が何よりも可愛すぎるんだけど。これが計算じゃないとわかっているから余計に可愛くてたまらない。
俺はたまらず腕の中の伊月くんを優しく抱きしめた。
「心配しないでいいよ」
「でも……」
「大丈夫、俺も初めてだから」
「えっ?」
俺の言葉にびっくりしたように顔をあげた伊月くんは、まだ頬が赤い上に目がほんのり潤んでものすごく可愛い。もうこのまま押し倒したいくらいだが、そこは必死に自制した。
「あの、初めてって……本当、ですか?」
「ああ、伊月くんに嘘は言わない。本当だよ」
これは誓って嘘じゃない。もちろん、今までの人生でモテなかったとは言わない。むしろ周りと比べてもモテていた方だと思う。学生時代は何度も告白されたし、バレンタインはもちろん、誕生日を調べられて山ほどプレゼントを贈られたこともある。けれど、直接渡されたものや名前が書かれていたものは全てつっかえしてきたし、差出人がわからないもの、特に手作りのものは悪いけど全部処分した。
少しくらい人の好意を受ければ……なんて言ってる奴もいたけど、なんとも思っていないやつに好かれたって、迷惑なだけだ。俺に面と向かって告白してくるやつのほとんどは、読モやってるとか芸能事務所にスカウトされたとか、自分の顔やスタイルに自信のあるやつばっかりだったけど、正直言って、誰とも付き合いたいとか思えなかったし、一度でいいから抱いて欲しいと言われた日には気持ち悪くて引いた。
その時から俺は自分に好意を持つ人を絶対に目に入れないようにした。自分から好意を持つこともなかったし、興味を持つこともなかった。一人で勉強するのも楽だったし、それでいいと思っていた。
「今まで伊月くん以外に好きになった人がいないんだ。だから誰とも付き合ったことないよ。告白したのだって、伊月くんが初めてだよ」
「慎一さん……」
「安心した?」
「はい……」
「よかった。初めて同士、ゆっくり進んでいこう」
俺の言葉に伊月くんはほっとしたように頷いた。
俺は本当に初めてだけど、何も知らないと言っていた伊月くんと違って知識だけは豊富にある。伊月くんのどこに触れたら感じてくれるか、可愛い顔を見せてくれるか多分すぐにわかるはずだけど、今は伊月くんを安心させたい。
なんと言っても同棲初日だ。いきなりガツガツいって怖がらせたくない。まずは一緒に風呂に入って触れ合うことを始めた方がいいだろう。谷垣くんからもらった入浴剤もあるし、あれで距離を縮めていけばいい。伊月くんが恥ずかしがっても、もう俺たちは恋人同士だ。恋人になったら一緒に風呂に入るのは当然だといえば、信じてくれるだろう。
そう考えれば、今、このタイミングで恋人になったのはよかったかもしれないな。
「ねぇ、伊月くん。他に気になることある? さっきも言ったけど、俺は伊月くんにはすべて本当のことしか話さないから、なんでも聞いてくれていいよ」
「あ、それじゃあ……ちょっと聞いてもいいですか?」
「ああ。なんでも聞いて」
「慎一さんのお仕事って、なんですか? あのコンビニの本社で働いているわけじゃないんですよね?」
「そっか、それを話さないといけなかったな。うん、あれは別の仕事。今の本業は獣医師だよ」
「えっ? 獣医師、さんですか?」
思っても見ない俺の回答に驚きの表情を見せる伊月くんが可愛い。
「うん。と言っても、雇われで週に二日しか働いてないけどね」
「そうなんですか?」
「ああ、獣医師は本当になりたいものになる布石のようなものなんだよ」
「本当になりたいもの?」
「俺はブリーダーになりたくて、今は準備を整えているところなんだ。もうすぐそれが完成するんだよ」
俺はこれまでのことを伊月くんに話すことにした。
犬が好きだった俺は自分が育てた子たちを大切に育ててくれる人に届けたいと思っていて、そのために必要なすべての資格を取るために桜城大学に進学した。
獣医学部に入り獣医師の勉強をしながら、法律にも詳しくなりたくてせっかくなら司法試験を受けようと思って法学部の聴講をしながら勉強していたところに、同じように医学部在籍中に司法試験に受かった人がいると噂を聞いて会いにいった。そこで出会ったのが、ユウさんだった。
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