有能な調査員は健気で不憫なかわい子ちゃんを甘やかしたい!

波木真帆

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誤解されたくない!

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「ここが俺の部屋ね」

扉を開けて入ろうとすると、伊月くんの足が止まっている。

「どうかした?」

「あの、慎一さんの部屋に僕が入ってもいいんですか?」

「もちろん。そうしないと寝室に入れないし」

「あの、寝室って……」

「ああ、そっちから案内しないとね」

ここは二間続き。俺の部屋の奥に寝室にしている部屋がある。そこは廊下からは扉がないから、この寝室に入るには俺の部屋に入るしかない。

「こっちが寝室だよ」

部屋の奥の扉を開けて電気をつけると、

「わぁっ! 広いっ!!」

という伊月くんの声が聞こえた。

寝室だから、この部屋の中はほぼベッドで埋め尽くされている。身体が資本の仕事をしているというのもあるし、寝る時はのんびり寝たい。ただそれだけの理由でベッドはキングサイズを入れていた。

ここまで大きくなくてもよかったかなと思ったことはあったが、今考えれば伊月くんと一緒に寝るためだったのかもしれないとさえ思っている。

「だろう? だから、二人で寝ても十分寝られるから」

「えっ? あの、ここで僕も寝るんですか?」

「そうだよ。だから寝室だって話したろう?」

「あの、でも……僕の部屋が……」

「あそこにはベッドはなかっただろう?」

「えっ、あっ、確かに……」

「あの部屋はトイレが少し遠いんだ。伊月くんはまだ足が万全じゃないから、夜中にトイレに行きたくなった時に、足元が暗い中で歩き回ると危ないだろう? その点この寝室なら、トイレはすぐそこの扉を開けたらあるし、いつでも行けるよ。その方が安心だからね」

「あ、はい。そう、ですね……」

「だからここでゆっくり寝てもらっていいからね」

「は、はい……」

とってつけたような言い訳だったけれど、素直な伊月くんはなんとかここが寝室だと納得してくれたみたいだ。
ホッと胸を撫で下ろした瞬間、じっとベッドを見つめていた伊月くんが、

「あの、ちょっといいですか?」

と言い出した。

「どうかした? 何か気になることでもある?」

「あ、あの……この、広いベッド、なんですけど……」

「うん。広いから安心して寝られるよ」

「あの、そうじゃなくて……」

「んっ?」

「慎一さん……その、ずっと一人で寝てるんですか? もしかしたら他の人とか……」

「えっ……?」

思いがけない伊月くんの言葉に一瞬止まってしまった。
何を聞かれているのか、頭が追いつかなかったんだ。

けれど、伊月くんは俺が止まってしまったことで別の解釈をしたのか、

「やっぱり、そうですよね。それなら僕……ここでは、寝られません」

と言って、部屋から出て行こうとした。

「ちょっと、待って!」

頭よりも身体が先に反応して、咄嗟に伊月くんの腕を掴んだ。

「あの……」

「伊月くん、勘違いしないで欲しいんだ。俺……このベッドに誰かと寝たことは一度もないよ」

「えっ……そう、なんです、か?」

「ああ。この部屋どころか、自分の家に人を入れたことは一度もない。俺は自分の空間に他人を入れるのが落ち着かないんだ」

「あの、でも僕は……」

「伊月くんは、他人だと思ってないから」

「えっ?」

まだ早いのはわかっていた。でも、このまま伊月くんに勘違いされたままは絶対にしてはいけないと思った。
俺がこんなにも伊月くんのことを好きだって、知ってもらわないといけないんだ。

「伊月くんに誤解されたくないから、ちゃんと話すよ」

まだ何が何だかわからないと言いたげな表情のまま俺を見ている伊月くんの手を引いて、そのままベッドに腰をかけた。伊月くんも隣に座ってくれて俺の言葉を待ってくれているようだった。

「初めて、病院で伊月くんに会った時、可愛い子だなって思った。それからずっと好意を持ってたんだ」

「えっ……」

「でも、最初は早く事件を解決して、まず君を安心させたいっていう気持ちが大きくて……そのために必死になってた。そして、事件が解決したところでそこから伊月くんの気持ちを俺に向けてもらおうって考えだしたんだ。だって、その時に気持ちをぶつけても、10歳も年上で、出会ってそんなに時間も経ってない、そんな男からの好意なんて伊月くんを驚かせるどころか、怖がらせるかもしれないだろう?」

「そんなことっ!」

「伊月くんは優しいから俺の気持ちを無下にはしないと思ったけど、それじゃ嫌だったんだ。一緒に暮らす事は了承してくれたから、退院するまでの二ヶ月で俺が一緒にいることに慣れてもらったらいいなって思ってた。この家で一緒に暮らすと決まって伊月くんの部屋を整えている時、部屋にベッドを入れようか、ものすごく悩んだ。でも、欲が出た。せっかく一緒の家にいるのに、別々で寝るなんて耐えられないって思ったんだ」

「慎一、さん……」

「トイレがどうとか、いろいろ理由はつけたけど、もちろんその理由もあるけど、本当のところは伊月くんと離れたくなかっただけなんだ。でも誓って、このベッドに誰も寝かせたことはない。本当なんだ、信じてほしい」

10歳も年上の男が大学生の男の子に縋り付くなんてみっともないだろう。けど、そんなプライドなんて捨ててしまっていいくらいに、この誤解だけは解きたかった。あまりの情けなさに俯いていると、スッと動いた彼の小さな手が俺の手に重なった。

「――っ、伊月くん!」

「僕……慎一さんのこと、信じます」

「ほ、本当に?」

「はい。だから、ちゃんと言ってください……」

「えっ?」

「僕のこと、好きだって……言ってください……」

「――っ!! 伊月くん!」

ああ、もう俺は何をしてるんだ。言い訳することばっかりに夢中で肝心な言葉を告げてないなんて……。
俺は深呼吸をして伊月くんの目をまっすぐに見つめた。

「伊月くん、俺は君が好きだ。恋人になってほしい!」

「僕でよかったら、喜んで……」

「――っ!! 伊月くん!!」

「わっ!!」

あまりの嬉しさに伊月くんを抱きしめると、伊月くんは驚きながらも、俺の腕の中にいてくれた。
ああ、この温もりがずっと欲しかったんだ。
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