11 / 40
誤解されたくない!
しおりを挟む
「ここが俺の部屋ね」
扉を開けて入ろうとすると、伊月くんの足が止まっている。
「どうかした?」
「あの、慎一さんの部屋に僕が入ってもいいんですか?」
「もちろん。そうしないと寝室に入れないし」
「あの、寝室って……」
「ああ、そっちから案内しないとね」
ここは二間続き。俺の部屋の奥に寝室にしている部屋がある。そこは廊下からは扉がないから、この寝室に入るには俺の部屋に入るしかない。
「こっちが寝室だよ」
部屋の奥の扉を開けて電気をつけると、
「わぁっ! 広いっ!!」
という伊月くんの声が聞こえた。
寝室だから、この部屋の中はほぼベッドで埋め尽くされている。身体が資本の仕事をしているというのもあるし、寝る時はのんびり寝たい。ただそれだけの理由でベッドはキングサイズを入れていた。
ここまで大きくなくてもよかったかなと思ったことはあったが、今考えれば伊月くんと一緒に寝るためだったのかもしれないとさえ思っている。
「だろう? だから、二人で寝ても十分寝られるから」
「えっ? あの、ここで僕も寝るんですか?」
「そうだよ。だから寝室だって話したろう?」
「あの、でも……僕の部屋が……」
「あそこにはベッドはなかっただろう?」
「えっ、あっ、確かに……」
「あの部屋はトイレが少し遠いんだ。伊月くんはまだ足が万全じゃないから、夜中にトイレに行きたくなった時に、足元が暗い中で歩き回ると危ないだろう? その点この寝室なら、トイレはすぐそこの扉を開けたらあるし、いつでも行けるよ。その方が安心だからね」
「あ、はい。そう、ですね……」
「だからここでゆっくり寝てもらっていいからね」
「は、はい……」
とってつけたような言い訳だったけれど、素直な伊月くんはなんとかここが寝室だと納得してくれたみたいだ。
ホッと胸を撫で下ろした瞬間、じっとベッドを見つめていた伊月くんが、
「あの、ちょっといいですか?」
と言い出した。
「どうかした? 何か気になることでもある?」
「あ、あの……この、広いベッド、なんですけど……」
「うん。広いから安心して寝られるよ」
「あの、そうじゃなくて……」
「んっ?」
「慎一さん……その、ずっと一人で寝てるんですか? もしかしたら他の人とか……」
「えっ……?」
思いがけない伊月くんの言葉に一瞬止まってしまった。
何を聞かれているのか、頭が追いつかなかったんだ。
けれど、伊月くんは俺が止まってしまったことで別の解釈をしたのか、
「やっぱり、そうですよね。それなら僕……ここでは、寝られません」
と言って、部屋から出て行こうとした。
「ちょっと、待って!」
頭よりも身体が先に反応して、咄嗟に伊月くんの腕を掴んだ。
「あの……」
「伊月くん、勘違いしないで欲しいんだ。俺……このベッドに誰かと寝たことは一度もないよ」
「えっ……そう、なんです、か?」
「ああ。この部屋どころか、自分の家に人を入れたことは一度もない。俺は自分の空間に他人を入れるのが落ち着かないんだ」
「あの、でも僕は……」
「伊月くんは、他人だと思ってないから」
「えっ?」
まだ早いのはわかっていた。でも、このまま伊月くんに勘違いされたままは絶対にしてはいけないと思った。
俺がこんなにも伊月くんのことを好きだって、知ってもらわないといけないんだ。
「伊月くんに誤解されたくないから、ちゃんと話すよ」
まだ何が何だかわからないと言いたげな表情のまま俺を見ている伊月くんの手を引いて、そのままベッドに腰をかけた。伊月くんも隣に座ってくれて俺の言葉を待ってくれているようだった。
「初めて、病院で伊月くんに会った時、可愛い子だなって思った。それからずっと好意を持ってたんだ」
「えっ……」
「でも、最初は早く事件を解決して、まず君を安心させたいっていう気持ちが大きくて……そのために必死になってた。そして、事件が解決したところでそこから伊月くんの気持ちを俺に向けてもらおうって考えだしたんだ。だって、その時に気持ちをぶつけても、10歳も年上で、出会ってそんなに時間も経ってない、そんな男からの好意なんて伊月くんを驚かせるどころか、怖がらせるかもしれないだろう?」
「そんなことっ!」
「伊月くんは優しいから俺の気持ちを無下にはしないと思ったけど、それじゃ嫌だったんだ。一緒に暮らす事は了承してくれたから、退院するまでの二ヶ月で俺が一緒にいることに慣れてもらったらいいなって思ってた。この家で一緒に暮らすと決まって伊月くんの部屋を整えている時、部屋にベッドを入れようか、ものすごく悩んだ。でも、欲が出た。せっかく一緒の家にいるのに、別々で寝るなんて耐えられないって思ったんだ」
「慎一、さん……」
「トイレがどうとか、いろいろ理由はつけたけど、もちろんその理由もあるけど、本当のところは伊月くんと離れたくなかっただけなんだ。でも誓って、このベッドに誰も寝かせたことはない。本当なんだ、信じてほしい」
10歳も年上の男が大学生の男の子に縋り付くなんてみっともないだろう。けど、そんなプライドなんて捨ててしまっていいくらいに、この誤解だけは解きたかった。あまりの情けなさに俯いていると、スッと動いた彼の小さな手が俺の手に重なった。
「――っ、伊月くん!」
「僕……慎一さんのこと、信じます」
「ほ、本当に?」
「はい。だから、ちゃんと言ってください……」
「えっ?」
「僕のこと、好きだって……言ってください……」
「――っ!! 伊月くん!」
ああ、もう俺は何をしてるんだ。言い訳することばっかりに夢中で肝心な言葉を告げてないなんて……。
俺は深呼吸をして伊月くんの目をまっすぐに見つめた。
「伊月くん、俺は君が好きだ。恋人になってほしい!」
「僕でよかったら、喜んで……」
「――っ!! 伊月くん!!」
「わっ!!」
あまりの嬉しさに伊月くんを抱きしめると、伊月くんは驚きながらも、俺の腕の中にいてくれた。
ああ、この温もりがずっと欲しかったんだ。
扉を開けて入ろうとすると、伊月くんの足が止まっている。
「どうかした?」
「あの、慎一さんの部屋に僕が入ってもいいんですか?」
「もちろん。そうしないと寝室に入れないし」
「あの、寝室って……」
「ああ、そっちから案内しないとね」
ここは二間続き。俺の部屋の奥に寝室にしている部屋がある。そこは廊下からは扉がないから、この寝室に入るには俺の部屋に入るしかない。
「こっちが寝室だよ」
部屋の奥の扉を開けて電気をつけると、
「わぁっ! 広いっ!!」
という伊月くんの声が聞こえた。
寝室だから、この部屋の中はほぼベッドで埋め尽くされている。身体が資本の仕事をしているというのもあるし、寝る時はのんびり寝たい。ただそれだけの理由でベッドはキングサイズを入れていた。
ここまで大きくなくてもよかったかなと思ったことはあったが、今考えれば伊月くんと一緒に寝るためだったのかもしれないとさえ思っている。
「だろう? だから、二人で寝ても十分寝られるから」
「えっ? あの、ここで僕も寝るんですか?」
「そうだよ。だから寝室だって話したろう?」
「あの、でも……僕の部屋が……」
「あそこにはベッドはなかっただろう?」
「えっ、あっ、確かに……」
「あの部屋はトイレが少し遠いんだ。伊月くんはまだ足が万全じゃないから、夜中にトイレに行きたくなった時に、足元が暗い中で歩き回ると危ないだろう? その点この寝室なら、トイレはすぐそこの扉を開けたらあるし、いつでも行けるよ。その方が安心だからね」
「あ、はい。そう、ですね……」
「だからここでゆっくり寝てもらっていいからね」
「は、はい……」
とってつけたような言い訳だったけれど、素直な伊月くんはなんとかここが寝室だと納得してくれたみたいだ。
ホッと胸を撫で下ろした瞬間、じっとベッドを見つめていた伊月くんが、
「あの、ちょっといいですか?」
と言い出した。
「どうかした? 何か気になることでもある?」
「あ、あの……この、広いベッド、なんですけど……」
「うん。広いから安心して寝られるよ」
「あの、そうじゃなくて……」
「んっ?」
「慎一さん……その、ずっと一人で寝てるんですか? もしかしたら他の人とか……」
「えっ……?」
思いがけない伊月くんの言葉に一瞬止まってしまった。
何を聞かれているのか、頭が追いつかなかったんだ。
けれど、伊月くんは俺が止まってしまったことで別の解釈をしたのか、
「やっぱり、そうですよね。それなら僕……ここでは、寝られません」
と言って、部屋から出て行こうとした。
「ちょっと、待って!」
頭よりも身体が先に反応して、咄嗟に伊月くんの腕を掴んだ。
「あの……」
「伊月くん、勘違いしないで欲しいんだ。俺……このベッドに誰かと寝たことは一度もないよ」
「えっ……そう、なんです、か?」
「ああ。この部屋どころか、自分の家に人を入れたことは一度もない。俺は自分の空間に他人を入れるのが落ち着かないんだ」
「あの、でも僕は……」
「伊月くんは、他人だと思ってないから」
「えっ?」
まだ早いのはわかっていた。でも、このまま伊月くんに勘違いされたままは絶対にしてはいけないと思った。
俺がこんなにも伊月くんのことを好きだって、知ってもらわないといけないんだ。
「伊月くんに誤解されたくないから、ちゃんと話すよ」
まだ何が何だかわからないと言いたげな表情のまま俺を見ている伊月くんの手を引いて、そのままベッドに腰をかけた。伊月くんも隣に座ってくれて俺の言葉を待ってくれているようだった。
「初めて、病院で伊月くんに会った時、可愛い子だなって思った。それからずっと好意を持ってたんだ」
「えっ……」
「でも、最初は早く事件を解決して、まず君を安心させたいっていう気持ちが大きくて……そのために必死になってた。そして、事件が解決したところでそこから伊月くんの気持ちを俺に向けてもらおうって考えだしたんだ。だって、その時に気持ちをぶつけても、10歳も年上で、出会ってそんなに時間も経ってない、そんな男からの好意なんて伊月くんを驚かせるどころか、怖がらせるかもしれないだろう?」
「そんなことっ!」
「伊月くんは優しいから俺の気持ちを無下にはしないと思ったけど、それじゃ嫌だったんだ。一緒に暮らす事は了承してくれたから、退院するまでの二ヶ月で俺が一緒にいることに慣れてもらったらいいなって思ってた。この家で一緒に暮らすと決まって伊月くんの部屋を整えている時、部屋にベッドを入れようか、ものすごく悩んだ。でも、欲が出た。せっかく一緒の家にいるのに、別々で寝るなんて耐えられないって思ったんだ」
「慎一、さん……」
「トイレがどうとか、いろいろ理由はつけたけど、もちろんその理由もあるけど、本当のところは伊月くんと離れたくなかっただけなんだ。でも誓って、このベッドに誰も寝かせたことはない。本当なんだ、信じてほしい」
10歳も年上の男が大学生の男の子に縋り付くなんてみっともないだろう。けど、そんなプライドなんて捨ててしまっていいくらいに、この誤解だけは解きたかった。あまりの情けなさに俯いていると、スッと動いた彼の小さな手が俺の手に重なった。
「――っ、伊月くん!」
「僕……慎一さんのこと、信じます」
「ほ、本当に?」
「はい。だから、ちゃんと言ってください……」
「えっ?」
「僕のこと、好きだって……言ってください……」
「――っ!! 伊月くん!」
ああ、もう俺は何をしてるんだ。言い訳することばっかりに夢中で肝心な言葉を告げてないなんて……。
俺は深呼吸をして伊月くんの目をまっすぐに見つめた。
「伊月くん、俺は君が好きだ。恋人になってほしい!」
「僕でよかったら、喜んで……」
「――っ!! 伊月くん!!」
「わっ!!」
あまりの嬉しさに伊月くんを抱きしめると、伊月くんは驚きながらも、俺の腕の中にいてくれた。
ああ、この温もりがずっと欲しかったんだ。
777
お気に入りに追加
793
あなたにおすすめの小説
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる