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彼を安心させたい!
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「君が勤めていたあのコンビニ、アルバイトもなかなか定着しないし、内部から店長へのかなり苦情が上がってきていてね、ずっと調査はしているんだがなかなか詳しい実態が上がってこないから、私が内偵調査に入ることになったんだ。特に田淵くん、君への当たりが強いと聞いていたから心配していたんだが、一足遅く君に怪我をさせてしまって申し訳ない」
「い、いえ。僕のこの怪我は関係ないですから……」
「いや。関係大有りだよ」
「えっ? まさか……」
「ああ。君を撥ねたのはおそらくあの店長だろう。君をコンビニから遠ざけたい理由があったのかもしれない。何か心当たりはないか?」
私の問いかけに田淵くんの顔色がさーっと変わった。
「す、砂川くんが……もしかしたら、砂川くんが目的なのかもしれないです」
「砂川くん?」
さっき来ていた子だな。田淵くんの代わりにコンビニで働くという話になっていたはずだ。
「はい。僕の大学の友人で、何度かコンビニに来て、僕がアルバイトを終わるのを待ってくれていたことがあって、その時に店長から根掘り葉掘り聞かれていたんです。一人暮らしなのかとか、恋人はいるかとか、アルバイトはしてないのかとか……個人情報なんで勝手に話せませんって断ってたんですけど、どこから調べたのか、砂川くんがアルバイトをしてないって情報をどこからか突き止めたみたいで、うちのコンビニで働くように説得しろって何度も言われてて、ずっと断ってたんですけど……さっき、店長がきて話してた時に、砂川くんが来て、僕の代わりにコンビニで働くことになってしまって……ああっ! どうしよう! 砂川くんに何かあったら……」
そうか。田淵くんを辞めさせて代わりに砂川くんを働かせてそばに置かせるのが狙いだったか……。というか、もしかしてこの砂川くんがユウさんの気になっている子なんじゃ? これはすぐにでも対策を立てないとやばいかもしれないな。
「大丈夫、心配しないでいい。砂川くんが働いている時間は私も見守ることにするから。決して店長と二人っきりにはさせないよ」
「あの、くれぐれもお願いします! 僕、砂川くんには本当にお世話になってて……」
「君たちは大学で知り合ったの?」
「はい。僕、三浪してやっと桜城大学に入ったんですけど、ずっと田舎に住んでいたからなかなか馴染めなくて……その上、クラスの子はほとんど年下ばかりでいっつも一人で行動してたんです。入学して1ヶ月くらいそんな状態だったんですけど、学食で隣いい? って声をかけてきてくれたのが砂川くんで……。すごく優しく話を聞いてくれるから、ついついいろんな愚痴こぼしちゃって……田舎生まれだから、馬鹿にされてそうだって言ったら、砂川くん、自分は宮古島出身だからもっと田舎だよって田淵くんは同じ関東だから僕にしてみたら都会の人だよって言ってくれて……すごく嬉しかったんです。年上だからって敬語は嫌だって言ったら、本当に友達みたいに話してくれて……砂川くんと出会ってから大学に行くのも楽しくなったんです」
「そうか、いい出会いだったんだな」
俺の言葉に田淵くんは嬉しそうに頷く。その笑顔になぜか胸の奥が熱くなるのを感じた。
「それなのに、僕のせいで……砂川くんに迷惑かけちゃって……店長に何かされたらどうしよう……。店長の砂川くんを見る目がすごく怖くて……本当に心配なんです」
だから、さっきも注意してたんだな。砂川くんの顔は見ていないが、店長があれだけ執着しているところを見ると、それに田淵くんがこんなにも心配するところを見ると、相当美人なんだろうな。
「わかった。大丈夫だから、私に任せてくれ。田淵くんは何も心配せずに怪我を治すことだけ考えていたらいい」
「河北さん……」
少し潤んだ目で見上げられると、ドキドキする。俺、まさかこの子に惹かれてるのか? いや、今はそれよりもこれを解決する方が先だ。心の中で深呼吸をして必死に冷静になる。
「これから早速調査に入るから、私との話は誰にも言わないように。もちろん、砂川くんにもね」
「えっ、砂川くんにも内緒ですか?」
「ああ、守れるかな?」
「わかりました。あの、河北さん……本当にお願いします」
「ああ、任せてくれ! それから、この病室には店長は入れないようにしておくから安心してくれ」
俺は田淵くんの頭を優しく撫でると病室を出て、急いでユウさんに電話をかけた。
ーどうだった?
ー命には別状なさそうですが、大変なことになりました。
ーどうした?
ーあの、ユウさんの気になっている子って、砂川くんっていうんじゃないですか?
ーなんでそれを?
ー実は、病室にあの店長が来て怪我をしてバイトに来られないなら代わりを用意しろ、用意できないなら這ってでも来いと
田淵くんに怒鳴りつけている最中に、砂川くんが見舞いに来て、店長と鉢合わせしたんです。それで田淵くんの代わりに砂川くんが明日からバイトに入ることになってしまって……。
ーなんだとっ!!! シン、すぐに戻ってきてくれ! 対策を立てるぞ!!
ーは、はい。
こんなに慌てたユウさんは初めてだ。惹かれてると言っていたけど、これは惹かれてるなんてもんじゃない。本気なんだ、砂川くんに。これは相当頑張らないといけないな。
翌日、あんな一方的にバイトをやらされることになったにも関わらず、砂川くんは約束通り履歴書を持ってコンビニにやってきた。荷物棚の陰から、砂川くんの顔を見てニヤリと不敵な笑みを浮かべる店長の顔を見て、田淵くんの心配は本物だったとわかった。店長が砂川くんの履歴書をさっと机に置き、彼との話に夢中になっている間にこっそり偽物の履歴書と変えておいた。
あんなやつに砂川くんの個人情報を知られるわけにはいかないからな。まぁ、これで当分の間は誤魔化せるだろう。その間になんとか解決しないとな。
ユウさんは砂川くんが出勤の日はスケジュールを合わせてこっそりと見守っているようだ。そんなことをしなくてもユウさんが真正面から告白をすれば、砂川くんもOKしそうなものだがやはり年齢や性別がネックなのだろうか?
犯罪者相手ならガンガン突き進んでいくのに、砂川くんに対してはそうもいかないらしい。やはりユウさんも恋愛に関してはただの男になってしまうようだな。
砂川くんは店長からの無茶な仕事にも精一杯取り組んでいて、本当に健気で可愛らしい。それも全て田淵くんのためなのだろう。
「田淵くん、体調はどう?」
「あっ、河北さん。今日もお見舞いに来てくださってありがとうございます」
「いや、気にしないで。あ、これ。お土産のプリンだよ。ここのが美味しいって聞いたから」
「わぁ、いつもいつもありがとうございます! 自分じゃ動けないので、甘いもの食べたくても買いに行けなくて……」
「看護師さんに頼んだら買ってきてもらえるんじゃないか?」
「はい。でも忙しそうだから、わざわざ買ってきてもらうのは申し訳なくて……」
ああ、こういう子なんだよな。周りに気遣いができて……砂川くんといい、この子といい本当に健気で真面目ないい子だ。今時の大学生にしては珍しいくらいだな。
「田淵くん、優しいんだな。じゃあ、私が毎日甘いもの持ってくるから楽しみにしてて」
「えっ、僕……そんなつもりじゃ……」
「わかってるよ。私がしたいだけだから、遠慮しないで。それよりも何か変わったことはなかった?」
「あ、あの……砂川くんの知り合いだっていう人が来られて、事故の話を聞かれました」
ユウさんか……よほど砂川くんが心配なんだな。後で情報を共有しとかないとな。
「それで?」
「その人、弁護士バッジをつけていらしたので、もしかしたら砂川くんが弁護士さんに相談したのかもと思って、聞かれるままに全部話しちゃったんですけど……後で、大丈夫だったかと気になってしまって……」
「ああ、それなら大丈夫。心配しないでいいよ」
「本当ですか?」
「ああ。砂川くんと、そして君を守るために私が手配したんだ」
「河北さんが……ありがとうございます」
「いや、前もって教えなくてごめん。驚いただろう?」
「いえ、でもその方が聞かれるままに話せたのでよかったです」
「それならよかった。もうすぐ解決すると思うからもうしばらく待ってて」
「はい。本当にありがとうございます」
友達を危険に晒しているのに自分が動けないって相当辛いだろうな。早く田淵くんを安心させてやりたい。
「い、いえ。僕のこの怪我は関係ないですから……」
「いや。関係大有りだよ」
「えっ? まさか……」
「ああ。君を撥ねたのはおそらくあの店長だろう。君をコンビニから遠ざけたい理由があったのかもしれない。何か心当たりはないか?」
私の問いかけに田淵くんの顔色がさーっと変わった。
「す、砂川くんが……もしかしたら、砂川くんが目的なのかもしれないです」
「砂川くん?」
さっき来ていた子だな。田淵くんの代わりにコンビニで働くという話になっていたはずだ。
「はい。僕の大学の友人で、何度かコンビニに来て、僕がアルバイトを終わるのを待ってくれていたことがあって、その時に店長から根掘り葉掘り聞かれていたんです。一人暮らしなのかとか、恋人はいるかとか、アルバイトはしてないのかとか……個人情報なんで勝手に話せませんって断ってたんですけど、どこから調べたのか、砂川くんがアルバイトをしてないって情報をどこからか突き止めたみたいで、うちのコンビニで働くように説得しろって何度も言われてて、ずっと断ってたんですけど……さっき、店長がきて話してた時に、砂川くんが来て、僕の代わりにコンビニで働くことになってしまって……ああっ! どうしよう! 砂川くんに何かあったら……」
そうか。田淵くんを辞めさせて代わりに砂川くんを働かせてそばに置かせるのが狙いだったか……。というか、もしかしてこの砂川くんがユウさんの気になっている子なんじゃ? これはすぐにでも対策を立てないとやばいかもしれないな。
「大丈夫、心配しないでいい。砂川くんが働いている時間は私も見守ることにするから。決して店長と二人っきりにはさせないよ」
「あの、くれぐれもお願いします! 僕、砂川くんには本当にお世話になってて……」
「君たちは大学で知り合ったの?」
「はい。僕、三浪してやっと桜城大学に入ったんですけど、ずっと田舎に住んでいたからなかなか馴染めなくて……その上、クラスの子はほとんど年下ばかりでいっつも一人で行動してたんです。入学して1ヶ月くらいそんな状態だったんですけど、学食で隣いい? って声をかけてきてくれたのが砂川くんで……。すごく優しく話を聞いてくれるから、ついついいろんな愚痴こぼしちゃって……田舎生まれだから、馬鹿にされてそうだって言ったら、砂川くん、自分は宮古島出身だからもっと田舎だよって田淵くんは同じ関東だから僕にしてみたら都会の人だよって言ってくれて……すごく嬉しかったんです。年上だからって敬語は嫌だって言ったら、本当に友達みたいに話してくれて……砂川くんと出会ってから大学に行くのも楽しくなったんです」
「そうか、いい出会いだったんだな」
俺の言葉に田淵くんは嬉しそうに頷く。その笑顔になぜか胸の奥が熱くなるのを感じた。
「それなのに、僕のせいで……砂川くんに迷惑かけちゃって……店長に何かされたらどうしよう……。店長の砂川くんを見る目がすごく怖くて……本当に心配なんです」
だから、さっきも注意してたんだな。砂川くんの顔は見ていないが、店長があれだけ執着しているところを見ると、それに田淵くんがこんなにも心配するところを見ると、相当美人なんだろうな。
「わかった。大丈夫だから、私に任せてくれ。田淵くんは何も心配せずに怪我を治すことだけ考えていたらいい」
「河北さん……」
少し潤んだ目で見上げられると、ドキドキする。俺、まさかこの子に惹かれてるのか? いや、今はそれよりもこれを解決する方が先だ。心の中で深呼吸をして必死に冷静になる。
「これから早速調査に入るから、私との話は誰にも言わないように。もちろん、砂川くんにもね」
「えっ、砂川くんにも内緒ですか?」
「ああ、守れるかな?」
「わかりました。あの、河北さん……本当にお願いします」
「ああ、任せてくれ! それから、この病室には店長は入れないようにしておくから安心してくれ」
俺は田淵くんの頭を優しく撫でると病室を出て、急いでユウさんに電話をかけた。
ーどうだった?
ー命には別状なさそうですが、大変なことになりました。
ーどうした?
ーあの、ユウさんの気になっている子って、砂川くんっていうんじゃないですか?
ーなんでそれを?
ー実は、病室にあの店長が来て怪我をしてバイトに来られないなら代わりを用意しろ、用意できないなら這ってでも来いと
田淵くんに怒鳴りつけている最中に、砂川くんが見舞いに来て、店長と鉢合わせしたんです。それで田淵くんの代わりに砂川くんが明日からバイトに入ることになってしまって……。
ーなんだとっ!!! シン、すぐに戻ってきてくれ! 対策を立てるぞ!!
ーは、はい。
こんなに慌てたユウさんは初めてだ。惹かれてると言っていたけど、これは惹かれてるなんてもんじゃない。本気なんだ、砂川くんに。これは相当頑張らないといけないな。
翌日、あんな一方的にバイトをやらされることになったにも関わらず、砂川くんは約束通り履歴書を持ってコンビニにやってきた。荷物棚の陰から、砂川くんの顔を見てニヤリと不敵な笑みを浮かべる店長の顔を見て、田淵くんの心配は本物だったとわかった。店長が砂川くんの履歴書をさっと机に置き、彼との話に夢中になっている間にこっそり偽物の履歴書と変えておいた。
あんなやつに砂川くんの個人情報を知られるわけにはいかないからな。まぁ、これで当分の間は誤魔化せるだろう。その間になんとか解決しないとな。
ユウさんは砂川くんが出勤の日はスケジュールを合わせてこっそりと見守っているようだ。そんなことをしなくてもユウさんが真正面から告白をすれば、砂川くんもOKしそうなものだがやはり年齢や性別がネックなのだろうか?
犯罪者相手ならガンガン突き進んでいくのに、砂川くんに対してはそうもいかないらしい。やはりユウさんも恋愛に関してはただの男になってしまうようだな。
砂川くんは店長からの無茶な仕事にも精一杯取り組んでいて、本当に健気で可愛らしい。それも全て田淵くんのためなのだろう。
「田淵くん、体調はどう?」
「あっ、河北さん。今日もお見舞いに来てくださってありがとうございます」
「いや、気にしないで。あ、これ。お土産のプリンだよ。ここのが美味しいって聞いたから」
「わぁ、いつもいつもありがとうございます! 自分じゃ動けないので、甘いもの食べたくても買いに行けなくて……」
「看護師さんに頼んだら買ってきてもらえるんじゃないか?」
「はい。でも忙しそうだから、わざわざ買ってきてもらうのは申し訳なくて……」
ああ、こういう子なんだよな。周りに気遣いができて……砂川くんといい、この子といい本当に健気で真面目ないい子だ。今時の大学生にしては珍しいくらいだな。
「田淵くん、優しいんだな。じゃあ、私が毎日甘いもの持ってくるから楽しみにしてて」
「えっ、僕……そんなつもりじゃ……」
「わかってるよ。私がしたいだけだから、遠慮しないで。それよりも何か変わったことはなかった?」
「あ、あの……砂川くんの知り合いだっていう人が来られて、事故の話を聞かれました」
ユウさんか……よほど砂川くんが心配なんだな。後で情報を共有しとかないとな。
「それで?」
「その人、弁護士バッジをつけていらしたので、もしかしたら砂川くんが弁護士さんに相談したのかもと思って、聞かれるままに全部話しちゃったんですけど……後で、大丈夫だったかと気になってしまって……」
「ああ、それなら大丈夫。心配しないでいいよ」
「本当ですか?」
「ああ。砂川くんと、そして君を守るために私が手配したんだ」
「河北さんが……ありがとうございます」
「いや、前もって教えなくてごめん。驚いただろう?」
「いえ、でもその方が聞かれるままに話せたのでよかったです」
「それならよかった。もうすぐ解決すると思うからもうしばらく待ってて」
「はい。本当にありがとうございます」
友達を危険に晒しているのに自分が動けないって相当辛いだろうな。早く田淵くんを安心させてやりたい。
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