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番外編
可愛い王子さま 3
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あっという間にテーブルの上にはたくさんの料理が並べられた。
「わぁっ! こんなにたくさん! でも、フレッド……ぼくこんなに食べられないよ」
「ははっ。そんな心配はいらない。食べきれない分は残したらいい。シュウは好きなものだけ食べればいいぞ」
「そんなこと……。フレッド、ダメだよ! いつかはフレッドも公爵さまになるんだから、そんな贅沢していたら領民さんたちがフレッドについてきてくれなくなるよ!」
「――っ! シュウ……」
「あっ、ごめんなさい……つい」
「いや、その通りだな。私の方が間違っていた」
シュンとしちゃったフレッドになんて言ったらいいのかと悩んでいると、
「僭越ではございますが、お皿をいくつかお持ちしますのでシュウさまのお召し上がりになる分だけ、先にお取りください。残ったものは私どもでありがたく頂戴いたします」
と声をかけてくれた。
「いいんですか?」
「はい。勤務中でお昼がまだな者もおりますので、フレデリックさまからとお伝えすれば喜びます」
にっこりと笑顔を浮かべながら優しい提案をしてくれてすごく嬉しかった。
ぼくは早速たくさんの料理の中から取り分けてもらい、あとは運んでもらった。
「こ、こんなに少なくて足りるのか?」
「十分すぎるくらいです」
「そうか、ならいいがゆっくり食べてくれ」
「じゃあ、ぼくこれから食べたい!」
そう言って美味しそうな魚を示しながらアーンと口を開けたけれど、いつまで経っても口に入ってこない。
「あれ? 食べさせてくれないの?」
「えっ――!」
真っ赤になって目を丸くするフレッドの姿に、僕は大事なことを思い出した。
「あっ! ごめんなさいっ、ついうっかりいつもの癖で……」
「いつもの、癖?」
「ちゃんと自分で食べるからね」
「いや、いい! 私が食べさせる!」
「えっ? でも……」
「いいんだ。ほら、これが食べたいんだっただろう?」
フレッドがフォークにお魚を乗せて差し出してくれる。
いいのかな……と思いながら口を開けると、
「くっ――!」
なぜかずっと真っ赤な顔で食べさせてくれた。
「うーん、美味しいっ!」
やっぱりここの料理はいつ食べても美味しいなぁ。
それからもずっとフレッドは真っ赤な顔をしつつも、料理を全て食べさせてくれた。
「ありがとう、フレッド。すごく美味しかった」
「それはよかった。あの……シュウ。その、それよりも、いつも誰に……」
「えっ?」
「あ、いや。なんでもない。なんでもないんだ」
不思議に思いながらも、食器を下げにきてくれたブライアンさんに
「とても美味しかったです。ごちそうさまでした。シェフさん達にも美味しかったって伝えてください」
というと、ものすごく驚いた顔をしていた。
「あの、何か?」
「あ、いえ。失礼いたしました。ありがたきお言葉、必ずシェフに申し伝えます」
そう言ってにっこりと笑顔を見せてくれた。
「このあとは部屋で何をして過ごそうか」
フレッドにそう言われて考えようとした時、ブライアンさんが申し訳なさそうに口を開いた。
「フレデリックさま。申し訳ございません。実は、アレクサンダーさまが少し予定を早められて、先ほどパブリックスクールからお帰りになりまして……」
「なに? 兄上が?」
「はい。それでアーノルドさまがフレデリックさまもご一緒に中庭でお茶をと仰っておられまして……」
「はぁーっ。父上のお誘いなら、断るわけにはいかないな……」
あからさまにがっかりした表情を見せているフレッドに驚きつつも、そういえば、この世界でのフレッドは両親にもあまり好かれてなかったって言ってたっけ。
アレクお義兄さまは変わらずに優しかったみたいだけど……。
「フレッド……そのお茶会、ぼくも一緒に行っちゃダメかな?」
「えっ? シュウも一緒に? それは……」
「邪魔はしないから、フレッドの隣に居させてもらえたら嬉しいんだけど……」
「私の隣に居てくれるのか?」
「? ぼくはフレッドの横にしか居ないつもりだけど?」
どこの誰かもわからないぼくが一緒にいるのはやっぱりダメなのかな……。
「フレデリックさま。せっかくシュウさまがそう仰ってくださっているのですから、ご一緒に行かれたらいかがでしょう?」
「だが、シュウのことはなんと説明する?」
「何も説明せずともよろしいかと。ただフレデリックさまのお友達だとお話になったらそれ以上はアーノルドさまは何も仰らないでしょう」
「……そうだな。ブライアンがそう言ってくれるのならそうしよう。じゃあ、シュウ。一緒に行ってくれるか?」
「わぁーっ! やったぁ!」
「――っ!!!」
フレッドがそう言ってくれたのが嬉しくて抱きつくと、なぜか突っ立ったまま固まってしまって背中に手も回してくれなかった。
いつもならぼくが抱きついたら大きな身体で包み込んでくれるのにと思ったけれど、そういえばこのフレッドは10歳なんだったと思い出して、慌てて離れた。
「フレッド、ごめんね。重かった?」
「い、いや。そんなことはない」
「そう? いつもは大きな身体に包み込まれているから、僕と同じくらいの身長ってなんだか不思議な気がするなぁ」
「えっ……それは――」
「んっ? 何か言った?」
「いや、なんでもない。シュウ、中庭に行くぞ」
急に怖い顔になったフレッドに手を引かれて、ぼくは懐かしいあの中庭に向かった。
* * *
なんとか昂りがおさまったところに、シュウの食事が次々と運ばれてきた。
シュウの好みがわからないから、たくさん作ってくるようにと頼んだのだ。
その中からシュウが食べたいものだけ食べればいい。
そういうと、シュウは私を叱りつけた。
「フレッド、ダメだよ! いつかはフレッドも公爵さまになるんだから、そんな贅沢していたら領民さんたちがフレッドについてきてくれなくなるよ!」
こんなに真剣に叱りつけられたのはいつぶりだろう。
シュウが私のことをこんなにも思ってくれていることがたまらなく嬉しい。
シュウにいいところを見せようと思っていた自分の浅はかさを詫びると、シュウも怒って申し訳ないと謝ってくれた。
この事態をどう収拾しようかと思っていると、ブライアンがシュウの食べたい分だけ取り分けたら使用人達で分けて食べるから問題ないと言ってくれた。
ブライアンの機転のおかげでシュウに幻滅されずに済んだようで助かった。
シュウが望むままに食事をとりわけたが、驚くほど少ない。
私の食事の3分の1にも満たないかもしれないその量に驚くが、シュウが無理をしている様子は見えない。
本当に17歳なのかと心配になるが、また後で食事をさせればいいかとシュウのいう通りにしておいた。
シュウが食事をするところを堪能しようと思っていると、シュウは魚料理を指さしてこれがいいと言い、私に向かって口をアーンと開けてみせた。
ど、どういうことだ?
シュウが開いた口からは可愛いピンク色の舌が見える。
あの舌に絡みついたらどんな声を聞かせてくれるだろう……。
そんないやらしい妄想が頭に浮かんでしまって、どうすることもできずただ見つめるしかできない。
すると、シュウはキョトンとした顔で食べさせてくれないのかと言い出した。
私が驚くと、シュウは何かに気付いたのか、
「ついうっかりいつもの癖で……」
と溢した。
いつもの癖、ということはシュウにいつも食事を食べさせている相手がいるということだ。
この可愛らしいシュウにいつも食事を……。
そう考えるだけで見も知らぬその相手への嫉妬が湧き上がってくる。
そいつに負けたくない!
その一心で、私はシュウに食事を食べさせ続けた。
私の差し出したフォークで美味しそうに食べてくれるシュウに滾りながらも、あっという間に食事を終えた。
一体いつもは誰に食べさせてもらっているのか……そう聞きたかったけれど、聞く勇気が持てずなんとか誤魔化した。
シュウは不思議そうにしながらも、美味しかったとブライアンに味の感想を告げ、シェフにお礼まで言っていた。
高位貴族に生まれながら、使用人にお礼まで言えるシュウに驚きが隠せない。
ブライアンもこんなふうに美味しかった、ありがとうなどと言われたことはないだろう。
ブライアンの驚きの表情がそれを顕著に物語っていた。
シュウは一体何者なのだろう。
その疑問が私の頭の中で蠢いていた。
「わぁっ! こんなにたくさん! でも、フレッド……ぼくこんなに食べられないよ」
「ははっ。そんな心配はいらない。食べきれない分は残したらいい。シュウは好きなものだけ食べればいいぞ」
「そんなこと……。フレッド、ダメだよ! いつかはフレッドも公爵さまになるんだから、そんな贅沢していたら領民さんたちがフレッドについてきてくれなくなるよ!」
「――っ! シュウ……」
「あっ、ごめんなさい……つい」
「いや、その通りだな。私の方が間違っていた」
シュンとしちゃったフレッドになんて言ったらいいのかと悩んでいると、
「僭越ではございますが、お皿をいくつかお持ちしますのでシュウさまのお召し上がりになる分だけ、先にお取りください。残ったものは私どもでありがたく頂戴いたします」
と声をかけてくれた。
「いいんですか?」
「はい。勤務中でお昼がまだな者もおりますので、フレデリックさまからとお伝えすれば喜びます」
にっこりと笑顔を浮かべながら優しい提案をしてくれてすごく嬉しかった。
ぼくは早速たくさんの料理の中から取り分けてもらい、あとは運んでもらった。
「こ、こんなに少なくて足りるのか?」
「十分すぎるくらいです」
「そうか、ならいいがゆっくり食べてくれ」
「じゃあ、ぼくこれから食べたい!」
そう言って美味しそうな魚を示しながらアーンと口を開けたけれど、いつまで経っても口に入ってこない。
「あれ? 食べさせてくれないの?」
「えっ――!」
真っ赤になって目を丸くするフレッドの姿に、僕は大事なことを思い出した。
「あっ! ごめんなさいっ、ついうっかりいつもの癖で……」
「いつもの、癖?」
「ちゃんと自分で食べるからね」
「いや、いい! 私が食べさせる!」
「えっ? でも……」
「いいんだ。ほら、これが食べたいんだっただろう?」
フレッドがフォークにお魚を乗せて差し出してくれる。
いいのかな……と思いながら口を開けると、
「くっ――!」
なぜかずっと真っ赤な顔で食べさせてくれた。
「うーん、美味しいっ!」
やっぱりここの料理はいつ食べても美味しいなぁ。
それからもずっとフレッドは真っ赤な顔をしつつも、料理を全て食べさせてくれた。
「ありがとう、フレッド。すごく美味しかった」
「それはよかった。あの……シュウ。その、それよりも、いつも誰に……」
「えっ?」
「あ、いや。なんでもない。なんでもないんだ」
不思議に思いながらも、食器を下げにきてくれたブライアンさんに
「とても美味しかったです。ごちそうさまでした。シェフさん達にも美味しかったって伝えてください」
というと、ものすごく驚いた顔をしていた。
「あの、何か?」
「あ、いえ。失礼いたしました。ありがたきお言葉、必ずシェフに申し伝えます」
そう言ってにっこりと笑顔を見せてくれた。
「このあとは部屋で何をして過ごそうか」
フレッドにそう言われて考えようとした時、ブライアンさんが申し訳なさそうに口を開いた。
「フレデリックさま。申し訳ございません。実は、アレクサンダーさまが少し予定を早められて、先ほどパブリックスクールからお帰りになりまして……」
「なに? 兄上が?」
「はい。それでアーノルドさまがフレデリックさまもご一緒に中庭でお茶をと仰っておられまして……」
「はぁーっ。父上のお誘いなら、断るわけにはいかないな……」
あからさまにがっかりした表情を見せているフレッドに驚きつつも、そういえば、この世界でのフレッドは両親にもあまり好かれてなかったって言ってたっけ。
アレクお義兄さまは変わらずに優しかったみたいだけど……。
「フレッド……そのお茶会、ぼくも一緒に行っちゃダメかな?」
「えっ? シュウも一緒に? それは……」
「邪魔はしないから、フレッドの隣に居させてもらえたら嬉しいんだけど……」
「私の隣に居てくれるのか?」
「? ぼくはフレッドの横にしか居ないつもりだけど?」
どこの誰かもわからないぼくが一緒にいるのはやっぱりダメなのかな……。
「フレデリックさま。せっかくシュウさまがそう仰ってくださっているのですから、ご一緒に行かれたらいかがでしょう?」
「だが、シュウのことはなんと説明する?」
「何も説明せずともよろしいかと。ただフレデリックさまのお友達だとお話になったらそれ以上はアーノルドさまは何も仰らないでしょう」
「……そうだな。ブライアンがそう言ってくれるのならそうしよう。じゃあ、シュウ。一緒に行ってくれるか?」
「わぁーっ! やったぁ!」
「――っ!!!」
フレッドがそう言ってくれたのが嬉しくて抱きつくと、なぜか突っ立ったまま固まってしまって背中に手も回してくれなかった。
いつもならぼくが抱きついたら大きな身体で包み込んでくれるのにと思ったけれど、そういえばこのフレッドは10歳なんだったと思い出して、慌てて離れた。
「フレッド、ごめんね。重かった?」
「い、いや。そんなことはない」
「そう? いつもは大きな身体に包み込まれているから、僕と同じくらいの身長ってなんだか不思議な気がするなぁ」
「えっ……それは――」
「んっ? 何か言った?」
「いや、なんでもない。シュウ、中庭に行くぞ」
急に怖い顔になったフレッドに手を引かれて、ぼくは懐かしいあの中庭に向かった。
* * *
なんとか昂りがおさまったところに、シュウの食事が次々と運ばれてきた。
シュウの好みがわからないから、たくさん作ってくるようにと頼んだのだ。
その中からシュウが食べたいものだけ食べればいい。
そういうと、シュウは私を叱りつけた。
「フレッド、ダメだよ! いつかはフレッドも公爵さまになるんだから、そんな贅沢していたら領民さんたちがフレッドについてきてくれなくなるよ!」
こんなに真剣に叱りつけられたのはいつぶりだろう。
シュウが私のことをこんなにも思ってくれていることがたまらなく嬉しい。
シュウにいいところを見せようと思っていた自分の浅はかさを詫びると、シュウも怒って申し訳ないと謝ってくれた。
この事態をどう収拾しようかと思っていると、ブライアンがシュウの食べたい分だけ取り分けたら使用人達で分けて食べるから問題ないと言ってくれた。
ブライアンの機転のおかげでシュウに幻滅されずに済んだようで助かった。
シュウが望むままに食事をとりわけたが、驚くほど少ない。
私の食事の3分の1にも満たないかもしれないその量に驚くが、シュウが無理をしている様子は見えない。
本当に17歳なのかと心配になるが、また後で食事をさせればいいかとシュウのいう通りにしておいた。
シュウが食事をするところを堪能しようと思っていると、シュウは魚料理を指さしてこれがいいと言い、私に向かって口をアーンと開けてみせた。
ど、どういうことだ?
シュウが開いた口からは可愛いピンク色の舌が見える。
あの舌に絡みついたらどんな声を聞かせてくれるだろう……。
そんないやらしい妄想が頭に浮かんでしまって、どうすることもできずただ見つめるしかできない。
すると、シュウはキョトンとした顔で食べさせてくれないのかと言い出した。
私が驚くと、シュウは何かに気付いたのか、
「ついうっかりいつもの癖で……」
と溢した。
いつもの癖、ということはシュウにいつも食事を食べさせている相手がいるということだ。
この可愛らしいシュウにいつも食事を……。
そう考えるだけで見も知らぬその相手への嫉妬が湧き上がってくる。
そいつに負けたくない!
その一心で、私はシュウに食事を食べさせ続けた。
私の差し出したフォークで美味しそうに食べてくれるシュウに滾りながらも、あっという間に食事を終えた。
一体いつもは誰に食べさせてもらっているのか……そう聞きたかったけれど、聞く勇気が持てずなんとか誤魔化した。
シュウは不思議そうにしながらも、美味しかったとブライアンに味の感想を告げ、シェフにお礼まで言っていた。
高位貴族に生まれながら、使用人にお礼まで言えるシュウに驚きが隠せない。
ブライアンもこんなふうに美味しかった、ありがとうなどと言われたことはないだろう。
ブライアンの驚きの表情がそれを顕著に物語っていた。
シュウは一体何者なのだろう。
その疑問が私の頭の中で蠢いていた。
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