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番外編
願いが叶うお菓子 <前編>
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可愛いリクエストをいただいたので書いてみました。
まだ過去のオランディアにいる設定になっています。
久しぶりにアンドリュー&トーマ、そしてブルーノたちが出てきます。
楽しんでいただけると嬉しいです。
* * *
「ねぇ、柊。これ、今日のお土産だよ」
お父さんとアンドリューさまは、朝から王都にほど近い街に視察に行っていた。
その度にお父さんは美味しそうなものを見つけると、お土産に買ってきてくれるんだ。
「わぁーっ、ありがとう! 今日のはどんなお菓子なの?」
「ふふっ。それがね、<願いが叶うお菓子>なんだって」
「願いが叶うお菓子? 何それ?」
「わからないけど、試食で食べさせてもらったら、チョコクッキーって感じで美味しかったよ」
「へぇー、そうなんだ。美味しそう」
不思議なネーミングのお菓子が気になりつつも、ご当地菓子とか不思議な名前とかも多いしなと納得していたぼくはフレッドと食べる時にはそのことはすっかり忘れてしまっていた。
「シュウ、これは?」
「お父さんからのお土産だよ。美味しそうでしょ?」
「ああ、そういえば今日は視察に行かれていたな。ならば、これで夜のお茶にしようか」
「うん」
ここのところ、フレッドと一緒にお菓子とジュース、そしてフレッドはワインを飲みながらのんびりと過ごすのが定番になっている。
サヴァンスタックのお屋敷のあの秘密の部屋で、二人でそんな夜を過ごしていたことを思い出しながら、今日も楽しい夜のひとときを過ごした。
甘いお菓子とジュースを楽しんだあとは、フレッドとの愛の時間。
キスに始まって、全身を愛撫され、そのまま最奥でフレッドを受け止める。
身体の奥に熱い蜜を感じながら、ぼくはいつものように眠りについた。
そして、いつもと同じように朝を迎えるはずだった。
けれど……。
* * *
「ーーーっ!!!」
いつものように目覚め、腕の中に抱きしめているはずのシュウに目覚めの口づけを贈ろうとすると、私の腕の中には小さな赤子の姿があった。
あまりの衝撃に大声をあげそうになったのを必死に押し留め、私は今の状況を理解しようと努めた。
この赤子は一体誰なんだ? それにシュウは? 私のシュウは一体どこに行ったのだ?
シュウが寝ているはずのベッドにはシュウの姿は見る影もない。
まさか、寝ている間によからぬ輩に連れ去られたとでもいうのか?
いや、落ち着け。
そんなはずはない。
部屋の前には騎士達が守っているし、シュウのそばには私がいる。
私からシュウを奪い取ろうとする者の気配に気づかないわけがない。
だが、どうしてシュウがいないのだ?
それにこの赤子は一体……?
そう考えて、私は一つの仮説に辿り着いた。
まさか……いや、まさかな……。
私は必死に心を落ち着かせながら、そっと赤子の頸にかかる髪を避けた。
「――っ!!!」
そこには小さいながらもはっきりと見える五芒星があった。
間違いない。
この赤子はシュウだ。
だが、どうしてこんなことに?
神に愛されているシュウのことだ。
もしかしたらまた何か神の意図でもあるのだろうか?
とにかく、アンドリュー王とトーマ王妃には話しておく必要があるだろう。
着替えのために、腕の中にいる赤子のシュウからそっと離れようとすると、
「ふぇ……っ、ふぇ……っ」
と今まで気持ちよさそうに眠っていたシュウが泣き始めた。
これはまずいっ!!
すぐにギュッと抱きしめると、シュウは可愛らしい笑顔を浮かべながら私の胸に擦り寄って気持ちよさそうに眠り始めた。
ああっ……なんて可愛いんだ。
赤子がこんなにも可愛いとは……。
いや、違うな。
シュウだから可愛いのだ。
だが、どうしようか……。
こんな夜着の姿のまま、アンドリュー王とトーマ王妃の前に出るわけにはいかない。
迷った末に私は寝室のベルを鳴らし、ブルーノを呼ぶことにした。
寝室の扉の外から、
「ブルーノでございます。何かございましたか?」
と心配そうな声が聞こえてくる。
ベルの鳴らし方でいつもとは違うと気づいたのだろう。
さすが、ブルーノだな。
できるだけ赤子のシュウを起こさないように、小声で
「ブルーノ、悪いが静かに入ってきてくれ。決して大声を出すな」
と忠告すると、
「承知いたしました」
と声が聞こえ、扉がゆっくりと開きそっと中に入ってきた。
「フレデリックさま。シュウさまがお熱でもお出しになりましたか?」
蚊の鳴くような小さな声でこちらを窺うブルーノに、そっと腕の中にいる赤子のシュウを見せると、
「――っ!!!!」
口に手を当て、必死に声を抑えながら驚愕していた。
「驚いたか? そうだろう、私も驚いた」
「あ、あのフレデリックさま……この赤子は……」
「シュウだ。シュウの身体にある痣と同じものがこの子にもあった」
「なんと……シュウさまが……」
驚きすぎて声が出ない様子のブルーノに、
「シュウがこのような姿になったことを、陛下とトーマ王妃にこの事実を報告せねばならぬ。悪いが、着替えの間だけシュウを抱いていてくれないか? 少しでも離れると泣いてしまうのだ」
と頼むと、ブルーノは嬉しそうに微笑んだ。
「まさか……この歳で赤子を腕に抱けるとは……しかも、トーマさまのお子さまを……」
感慨深そうに赤子のシュウを見つめる。
そうだな。
ブルーノはアンドリュー王の子を待ち望んでいたはずだ。
トーマ王妃を伴侶に選んだことでその夢は一生叶わなくなってしまった。
シュウがトーマ王妃の子だとわかって、一番喜んでいたのはブルーノだったかもしれない。
それが今度は赤子のシュウを世話できるとあって、喜ばないわけがないな。
「ブルーノ、頼む」
私は腕の中にいるシュウを優しくブルーノに手渡した。
「ふぇ……っ」
シュウは一瞬泣き声を上げ始めたが、
「ああ、よしよし。シュウさま……じいが抱いておりますぞ」
今まで聞いたことのないような優しい声でブルーノがあやすと、途端に泣き止んで見せた。
「ああ、なんて可愛らしい御子でございましょう」
このたった数秒でシュウは完全にブルーノの気持ちを捉えたようだ。
嬉しそうなブルーノの横で、私は急いで着替えを済ませ、ブルーノからシュウを受け取ろうと思ったがあまりにも嬉しそうな姿に言い出しにくく
「陛下とトーマ王妃に報告に向かうぞ。ブルーノ、そのまま抱いていてくれ」
というと、
ブルーノは満面の笑みでついてきた。
<王と王妃の間>の扉を叩き、
「アルフレッドにございます。火急の用件がございまして伺いました」
と声をかけると、ゆっくりと扉が開いた。
「アルフレッド、どうした? こんなに早く。まさかシュウに何事かあったのではあるまいな?」
「実はそのまさかでございまして……とりあえず中に入れていただいてもよろしいでしょうか?」
「な――っ! 中に入れっ!! それで何があったんだ?」
慌てたように私の腕を引っ張り中に入れてくれたアンドリュー王に
「とにかく、まずは落ち着いてくださいませ。決して大声は出さないようにお願いいたします」
と声をかけると、アンドリュー王は深呼吸をして頷いた。
「ブルーノ」
後ろからついてきたブルーノに声をかけ、ブルーノが抱いているシュウを見せるのと同時に
「この赤子はシュウでございます。今朝、目覚めたらこのような姿になっておりまして……」
と説明をつけた。
「――っ!!! なんとっ――」
あまりの驚きに声をあげそうになりながら、必死に口を抑えるアンドリュー王の姿に思わず笑ってしまう。
まぁ驚くのも無理はない。
まさか一晩にして人間が赤子に変わるとは夢にも思わないからな。
「この赤子がシュウ……。ああ、だが面影がある。確かにこの子はシュウだな。ああ、なんて可愛らしいのだ。ブルーノ、私にも抱かせてくれ」
「フレデリックさま、宜しゅうございますか?」
「ああ、もちろんだ」
私の言葉にブルーノは嬉しそうにシュウをアンドリュー王に預けた。
「おお、可愛らしいな。それになんて柔らかいのだ。赤子とはこんなにも小さいのか……」
そう。
この小さな命を守ってあげたい……そんな気持ちにさせられる。
愛しい我が子を抱くように、アンドリュー王の顔が優しい。
シュウはいつもの姿でも、そして赤子の姿でも皆を幸せにするのだな。
「それにしてもなぜこんなことになったのだ?」
「それが何もわからないのでございます。昨夜寝るまではいつもと変わらずでしたが、目覚めたらこの姿になっておりまして……」
「そうか……。とりあえず、トーマを起こしてこよう。昨夜は少し寝るのが遅かったものでな。まだ寝ているのだよ。寝起きのトーマに会わせたくはないが緊急事態だから仕方がない。少し待っていてくれ」
シュウを私に預け、そう言って寝室に向かうアンドリュー王の背中を見ながら、きっと昨夜は我々と同じように愛を確かめ合っていたのだろうと推測できた。
まさか、トーマ王妃まで赤子になっているということはないだろうな?
一瞬そんな思いがよぎったが、大丈夫だったようだ。
少し開いた扉の向こうから
「うーん、あんでぃー……まだ、はやいよ……いっしょに、ねよ…ぉ……」
と寝ぼけた声が聞こえる。
「トーマ、起きてくれ。シュウが大変なのだよ」
「んっ? シュウが?」
シュウの名前を出したら覚醒する辺り、やはり父なのだなと思う。
「何があったの?」
そう言いながら、寝室からアンドリュー王と共に出てきたトーマ王妃は全身に気だるい様子を放っていたが、必死にそこには気づかないようにした。
「トーマ王妃。おはようございます。朝早くから申し訳ありません。実は――」
「――――っ!!! どうしたの!! その赤ちゃんっ!!!」
トーマ王妃の大声に
「ふぇぇーーんっ!!」
驚いたシュウがとうとう大声で泣き出した。
まだ過去のオランディアにいる設定になっています。
久しぶりにアンドリュー&トーマ、そしてブルーノたちが出てきます。
楽しんでいただけると嬉しいです。
* * *
「ねぇ、柊。これ、今日のお土産だよ」
お父さんとアンドリューさまは、朝から王都にほど近い街に視察に行っていた。
その度にお父さんは美味しそうなものを見つけると、お土産に買ってきてくれるんだ。
「わぁーっ、ありがとう! 今日のはどんなお菓子なの?」
「ふふっ。それがね、<願いが叶うお菓子>なんだって」
「願いが叶うお菓子? 何それ?」
「わからないけど、試食で食べさせてもらったら、チョコクッキーって感じで美味しかったよ」
「へぇー、そうなんだ。美味しそう」
不思議なネーミングのお菓子が気になりつつも、ご当地菓子とか不思議な名前とかも多いしなと納得していたぼくはフレッドと食べる時にはそのことはすっかり忘れてしまっていた。
「シュウ、これは?」
「お父さんからのお土産だよ。美味しそうでしょ?」
「ああ、そういえば今日は視察に行かれていたな。ならば、これで夜のお茶にしようか」
「うん」
ここのところ、フレッドと一緒にお菓子とジュース、そしてフレッドはワインを飲みながらのんびりと過ごすのが定番になっている。
サヴァンスタックのお屋敷のあの秘密の部屋で、二人でそんな夜を過ごしていたことを思い出しながら、今日も楽しい夜のひとときを過ごした。
甘いお菓子とジュースを楽しんだあとは、フレッドとの愛の時間。
キスに始まって、全身を愛撫され、そのまま最奥でフレッドを受け止める。
身体の奥に熱い蜜を感じながら、ぼくはいつものように眠りについた。
そして、いつもと同じように朝を迎えるはずだった。
けれど……。
* * *
「ーーーっ!!!」
いつものように目覚め、腕の中に抱きしめているはずのシュウに目覚めの口づけを贈ろうとすると、私の腕の中には小さな赤子の姿があった。
あまりの衝撃に大声をあげそうになったのを必死に押し留め、私は今の状況を理解しようと努めた。
この赤子は一体誰なんだ? それにシュウは? 私のシュウは一体どこに行ったのだ?
シュウが寝ているはずのベッドにはシュウの姿は見る影もない。
まさか、寝ている間によからぬ輩に連れ去られたとでもいうのか?
いや、落ち着け。
そんなはずはない。
部屋の前には騎士達が守っているし、シュウのそばには私がいる。
私からシュウを奪い取ろうとする者の気配に気づかないわけがない。
だが、どうしてシュウがいないのだ?
それにこの赤子は一体……?
そう考えて、私は一つの仮説に辿り着いた。
まさか……いや、まさかな……。
私は必死に心を落ち着かせながら、そっと赤子の頸にかかる髪を避けた。
「――っ!!!」
そこには小さいながらもはっきりと見える五芒星があった。
間違いない。
この赤子はシュウだ。
だが、どうしてこんなことに?
神に愛されているシュウのことだ。
もしかしたらまた何か神の意図でもあるのだろうか?
とにかく、アンドリュー王とトーマ王妃には話しておく必要があるだろう。
着替えのために、腕の中にいる赤子のシュウからそっと離れようとすると、
「ふぇ……っ、ふぇ……っ」
と今まで気持ちよさそうに眠っていたシュウが泣き始めた。
これはまずいっ!!
すぐにギュッと抱きしめると、シュウは可愛らしい笑顔を浮かべながら私の胸に擦り寄って気持ちよさそうに眠り始めた。
ああっ……なんて可愛いんだ。
赤子がこんなにも可愛いとは……。
いや、違うな。
シュウだから可愛いのだ。
だが、どうしようか……。
こんな夜着の姿のまま、アンドリュー王とトーマ王妃の前に出るわけにはいかない。
迷った末に私は寝室のベルを鳴らし、ブルーノを呼ぶことにした。
寝室の扉の外から、
「ブルーノでございます。何かございましたか?」
と心配そうな声が聞こえてくる。
ベルの鳴らし方でいつもとは違うと気づいたのだろう。
さすが、ブルーノだな。
できるだけ赤子のシュウを起こさないように、小声で
「ブルーノ、悪いが静かに入ってきてくれ。決して大声を出すな」
と忠告すると、
「承知いたしました」
と声が聞こえ、扉がゆっくりと開きそっと中に入ってきた。
「フレデリックさま。シュウさまがお熱でもお出しになりましたか?」
蚊の鳴くような小さな声でこちらを窺うブルーノに、そっと腕の中にいる赤子のシュウを見せると、
「――っ!!!!」
口に手を当て、必死に声を抑えながら驚愕していた。
「驚いたか? そうだろう、私も驚いた」
「あ、あのフレデリックさま……この赤子は……」
「シュウだ。シュウの身体にある痣と同じものがこの子にもあった」
「なんと……シュウさまが……」
驚きすぎて声が出ない様子のブルーノに、
「シュウがこのような姿になったことを、陛下とトーマ王妃にこの事実を報告せねばならぬ。悪いが、着替えの間だけシュウを抱いていてくれないか? 少しでも離れると泣いてしまうのだ」
と頼むと、ブルーノは嬉しそうに微笑んだ。
「まさか……この歳で赤子を腕に抱けるとは……しかも、トーマさまのお子さまを……」
感慨深そうに赤子のシュウを見つめる。
そうだな。
ブルーノはアンドリュー王の子を待ち望んでいたはずだ。
トーマ王妃を伴侶に選んだことでその夢は一生叶わなくなってしまった。
シュウがトーマ王妃の子だとわかって、一番喜んでいたのはブルーノだったかもしれない。
それが今度は赤子のシュウを世話できるとあって、喜ばないわけがないな。
「ブルーノ、頼む」
私は腕の中にいるシュウを優しくブルーノに手渡した。
「ふぇ……っ」
シュウは一瞬泣き声を上げ始めたが、
「ああ、よしよし。シュウさま……じいが抱いておりますぞ」
今まで聞いたことのないような優しい声でブルーノがあやすと、途端に泣き止んで見せた。
「ああ、なんて可愛らしい御子でございましょう」
このたった数秒でシュウは完全にブルーノの気持ちを捉えたようだ。
嬉しそうなブルーノの横で、私は急いで着替えを済ませ、ブルーノからシュウを受け取ろうと思ったがあまりにも嬉しそうな姿に言い出しにくく
「陛下とトーマ王妃に報告に向かうぞ。ブルーノ、そのまま抱いていてくれ」
というと、
ブルーノは満面の笑みでついてきた。
<王と王妃の間>の扉を叩き、
「アルフレッドにございます。火急の用件がございまして伺いました」
と声をかけると、ゆっくりと扉が開いた。
「アルフレッド、どうした? こんなに早く。まさかシュウに何事かあったのではあるまいな?」
「実はそのまさかでございまして……とりあえず中に入れていただいてもよろしいでしょうか?」
「な――っ! 中に入れっ!! それで何があったんだ?」
慌てたように私の腕を引っ張り中に入れてくれたアンドリュー王に
「とにかく、まずは落ち着いてくださいませ。決して大声は出さないようにお願いいたします」
と声をかけると、アンドリュー王は深呼吸をして頷いた。
「ブルーノ」
後ろからついてきたブルーノに声をかけ、ブルーノが抱いているシュウを見せるのと同時に
「この赤子はシュウでございます。今朝、目覚めたらこのような姿になっておりまして……」
と説明をつけた。
「――っ!!! なんとっ――」
あまりの驚きに声をあげそうになりながら、必死に口を抑えるアンドリュー王の姿に思わず笑ってしまう。
まぁ驚くのも無理はない。
まさか一晩にして人間が赤子に変わるとは夢にも思わないからな。
「この赤子がシュウ……。ああ、だが面影がある。確かにこの子はシュウだな。ああ、なんて可愛らしいのだ。ブルーノ、私にも抱かせてくれ」
「フレデリックさま、宜しゅうございますか?」
「ああ、もちろんだ」
私の言葉にブルーノは嬉しそうにシュウをアンドリュー王に預けた。
「おお、可愛らしいな。それになんて柔らかいのだ。赤子とはこんなにも小さいのか……」
そう。
この小さな命を守ってあげたい……そんな気持ちにさせられる。
愛しい我が子を抱くように、アンドリュー王の顔が優しい。
シュウはいつもの姿でも、そして赤子の姿でも皆を幸せにするのだな。
「それにしてもなぜこんなことになったのだ?」
「それが何もわからないのでございます。昨夜寝るまではいつもと変わらずでしたが、目覚めたらこの姿になっておりまして……」
「そうか……。とりあえず、トーマを起こしてこよう。昨夜は少し寝るのが遅かったものでな。まだ寝ているのだよ。寝起きのトーマに会わせたくはないが緊急事態だから仕方がない。少し待っていてくれ」
シュウを私に預け、そう言って寝室に向かうアンドリュー王の背中を見ながら、きっと昨夜は我々と同じように愛を確かめ合っていたのだろうと推測できた。
まさか、トーマ王妃まで赤子になっているということはないだろうな?
一瞬そんな思いがよぎったが、大丈夫だったようだ。
少し開いた扉の向こうから
「うーん、あんでぃー……まだ、はやいよ……いっしょに、ねよ…ぉ……」
と寝ぼけた声が聞こえる。
「トーマ、起きてくれ。シュウが大変なのだよ」
「んっ? シュウが?」
シュウの名前を出したら覚醒する辺り、やはり父なのだなと思う。
「何があったの?」
そう言いながら、寝室からアンドリュー王と共に出てきたトーマ王妃は全身に気だるい様子を放っていたが、必死にそこには気づかないようにした。
「トーマ王妃。おはようございます。朝早くから申し訳ありません。実は――」
「――――っ!!! どうしたの!! その赤ちゃんっ!!!」
トーマ王妃の大声に
「ふぇぇーーんっ!!」
驚いたシュウがとうとう大声で泣き出した。
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