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番外編

ふたりの思い  <ゴードン&ハーヴィー> 前編

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途中で視点が変わります。
フレッドとシュウは出て来ません。



  *   *   *




隣を歩くゴードン辺境伯さま。
何も言わずにただひたすらテラスに向かっているけれど、彼の大きな手は僕の手をしっかりと握ってエスコートしてくれている。

研究者であった彼が辺境伯という身分を与えられ、国境の広大な領地を任された頃から隣国から我が国への侵入はほぼ無くなったと言われている。
サヴァンスタック公爵さまの見る目が素晴らしかったということなのだろう。
彼は研究中の事故で不老不死となり、その副作用として甚大な精力をも手に入れたと聞いたことがある。
だからこそ、伴侶が必要なのだ。

彼の甚大な精力を発散させることで、この国の平和を保つことができる大事な存在だ。
そう理解していたものの、まさか自分がその存在に推薦されるとは思ってもみなかった。

俺も彼の伴侶になることを了承すれば、おそらく長生きはできないだろう。
それは彼の今までの伴侶を見ればわかる。
早いもので半年、長いものでも10年持つことはないと聞いた。

けれど、自分の寿命と引き換えにきっとうちは子爵から伯爵に格上げしてもらえるかもしれない。
学校の成績だって、剣術だって、顔だって……何もかもが平凡な子爵家次男の俺が我が家に貢献できる最後のチャンスだろう。

でも彼は……?
これまでに公爵さまに推薦されるままに伴侶を迎えてきたようだから、俺が男でも平凡でも断ることはしないかもしれない。
でも……彼にとってそれが幸せなのか?

今日彼がこの場に現れたのだって、もっといい相手を探すためだったとしたら……?

俺なんか押し付けられてがっかりしているのかもしれない。
だから、何も言ってくれないんだ……。

彼のためには断った方がいいのかもしれない。
こんな若造に断られるなんて気持ちのいいものじゃ無いだろうけど、彼がみすみす不幸になるよりは全然良い。
父上や兄さんはがっかりするだろうけどな。

思わずはぁーーっと大きなため息が漏れた。
その瞬間、今まで止まることのなかった歩みが突然止まった。

  *   *   *


私に辺境伯という身分を与えてくれた公爵さまが王都へ向かう途中に行方不明になったという話はたちまちサヴァンスタックどころか、国内中に広まった。
国境沿いにある私の元へもその話が巡って来た時、悲観したのだ。
もちろん、公爵さまの安否を気遣ってはいたが、それ以上に私を不安に駆り立てたもの……それは私の伴侶の問題だ。

研究中に誤って薬を口にした私は、不老不死と引き換えに恐ろしいほどの性欲との闘いが始まった。
最初は山に迷い込んだ者たちを襲った。
私は溢れる蜜を吐き出し、そして彼らは私の欲に溺れ、数ヶ月、もしくは数年ののちに生き絶えていく。
相性が合わなかったのか数週間単位で相手を探し求め、襲うこともあった。
だからだろう、次第にこの山には近づくものがいなくなってしまった。

その時だった、公爵さまがこの地を開拓するためにやって来たのは……。
久しぶりに人間の姿を見て、欲に塗れていたはずの私が、彼には襲いかかることをしなかったのはその圧倒的な威圧感と確実にやられてしまう確信があったからだ。

溢れる性欲を抑えながら、彼に聞かれるままに答え続けていた私に、彼は辺境伯という身分を与え、そして定期的に伴侶を寄越してくれると約束してくれた。

半信半疑だった私の元に最初の伴侶がやってきて私は歓喜した。
それからというもの、伴侶を失った私の元にはひと月もしないうちに伴侶がやってきた。
しかも彼女たちは全て納得の上でやって来ていたのだ。
暴れたり嫌がったりということは一切ない。
その事実も私の心を平常にさせ得てくれていた。

そうやってこの15年、穏やかに過ごしていたのに……公爵さまがいなくなったら私はどうしたら良いのだろう。
またあの鬼のように人を攫うになってしまうのか……。

せめて公爵さまがお戻りになるまで今の伴侶が元気でいればいい……そう思っていたのだが、願いも虚しくしばらくして息を引き取った。

それから数ヶ月。
久しぶりに伴侶のいない時期を過ごし、だんだんと性欲が抑えられなくなってきたとき、公爵さまの帰還を知った。
そして、公爵さまがその間に伴侶を見つけられ、結婚披露パーティーをなさるという。
その招待状が届いた時はたまらない嬉しさに思わず声が出たものだ。

今は自分の欲は押しとどめて、今まで私に尽力してくださった公爵さまの幸せをお祝いに出かけたのだ。
公爵さまの伴侶は麗しく、そして何よりも公爵さまを愛していらっしゃるのが目に見えてわかった。
私にもこんな伴侶が欲しい……。
そう思いながら、公爵さまとご伴侶さまの元に挨拶に伺った私を見て、公爵さまはすぐに伴侶の話を出してくださったのだ。

やはり公爵さまは私のことをお忘れではなかったのだ。
幸せに身体を震わせていると、公爵さまは誰かをお呼びになった。

ワーグナー子爵。
聞いたことはあるが、それほど交流があるわけではない。
しかし、公爵さまはそこの次男を名指しで私の伴侶へと推薦されたのだ。

今までの伴侶とは確実に何かが違っている。
なんせ今までのものは全て、平民であったのだから。

だが、彼の藍色の瞳を見た瞬間、私の身体がザワザワと蠢いてなんとも言えない感覚が走ったのだ。

これは一体?

ワーグナー子爵の次男はハーヴィーと言ったが、彼はまるで小動物のように怯えながら、私を見つめてきた。
その目に嫌悪の様子は見えない。
だが、少々戸惑っているようだ。

私の中で彼を逃してはいけないと警告がなる。
どうしようか……そう思っていると、救いの声がかかった。

公爵夫人となられたシュウさまが私に助け舟を出してくださったのだ。

そのおかげで彼と2人で話をする時間を与えられた。
この機会を決して逃さないように慎重にテラスに向かっていると、突然隣から大きなため息が聞こえた。

やはり私の伴侶になることを嫌がっているのか……。
私は震える声で彼に尋ねた。

「私の伴侶になるのはそれほど辛いか?」

その声に彼は縋るような目で私を見つめた。
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