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最終章 (領地での生活編)
フレッド 53−2
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「旦那さま……」
「シュウの気配を感じたのでな。戻ってきたのだが中の様子は変わらぬか?」
ルーカスにそう声をかけたのとほぼ同時に目の前の扉がカチャリと開いた。
小さく扉が開き、私の目に飛び込んできたのは愛しいシュウの姿だった。
「シュウっ! どうなったんだ? 大丈夫なのか?」
慌てふためきながら尋ねる私に、シュウは静かにするようにと口の前に指を立てた。
慌てて口を押さえながら、ルドガーの様子を尋ねると、シュウは可愛らしい笑顔を浮かべてレオンを呼んで来てくれと言い出した。
レオンと3人で話すつもりなのかと思ったが、私も一緒にいていいらしい。
だが絶対に邪魔はしないように、そしてシュウとルドガーの意見に同意するようにと言われ、訳がわからない。
何をするつもりかと尋ねると、シュウは小悪魔のような笑みを浮かべながら、
「ふふっ。ルドガーさんを泣かせたから、レオンさんにお仕置きだよ」
と言っていた。
シュウのお仕置きとは……一体なんなのだろう?
気になって尋ねようとしたが、シュウは女神のような笑みを浮かべながら扉を閉めてしまった。
あの笑みにブルっと身体が震える。
「旦那さま……シュウさまは一体何をお考えなのでしょう?」
ルーカスに目をやれば、ルーカスも恐怖に顔を引き攣らせている。
最強の警備隊長と言われているルーカスさえこの表情にしてしまうとは……。
シュウのようなタイプを怒らせると怖いとよく聞くが、それは本当なのかもしれないな。
とりあえず言われた通りに、レオンを連れてこよう。
話はそれからだ。
「レオンっ、シュウが呼んでいる」
「ルドガーに会わせていただけるのですか?」
「それはまだわからん。とりあえず、ついてこい」
まだ悲壮感が漂った顔でいたレオンを連れてルドガーの部屋の前に戻り、シュウに声をかけると、レオンは我慢しきれなくなったのか、自分から声を上げた。
「シュウさま、レオンでございます。お呼びいただきありがとうございます。あの、ルドガーは……ルドガーの様子をお教えいただけないでしょうか?」
ルドガーがもう落ち着いていればレオンのこの声に反応すると思ったが、扉の向こうからはルドガーの反応はない。
がっかりするレオンに、シュウから返事が返ってきた。
「心配しなくても、ルドガーさんは大丈夫ですよ。マクベスさんの代わりにフレッドの世話役にすると約束したら機嫌を直してくれましたから」
嬉しそうなその声にレオンは驚きを隠せない様子で私を見るが、マクベスの代わりにルドガーが世話役になるとは私も初耳だ。
何も知らされていないのだから反応しようもない。
レオンはもう一度シュウに聞き返した。
「えっ? フレデリックさまの……お世話役、ですか?」
そういうと、シュウはその理由を話し始めた。
ルドガーが王都にいた頃から私に憧れていて、いつか私の世話役になることを夢見ていたのだと。
そのためにわざわざ王都を離れ、このサヴァンスタックまで私についてきてくれたのだと。
いやいや、そんな話聞いたことがない。
もちろん、ルドガーが私を慕ってここまでついてきてくれたことは知っているが、憧れというならむしろ私よりマクベスに対してではないか。
ルドガーは常々、マクベスのような執事になりたいと話していたからな。
だから、私の世話役になりたくて……というのは本当の理由ではないだろう。
だが、レオンはシュウの話にかなりのショックを受けているようだ。
おそらくそんな話をルドガーから聞いていなかったからだろう。
だが、シュウはそんなレオンの様子を気にすることなく話を続ける。
「マクベスさんが不在の間、ルドガーさんが頑張ってこのお屋敷を切り盛りしてくださったでしょう? こんなに優秀なルドガーさんだから、レオンさんがぼくの護衛をしてくださるように、ルドガーさんにも着替えや入浴の手伝いをお願いすることにしたんです。これからはお二人でぼくたちのことを守ってくださいますよね?」
その言葉に流石のレオンも焦り始めた。
それはそうだろう。
自分の唯一が屋敷の主人の世話とはいえ、着替えを手伝い、入浴に付き添い身体を洗ったりする……そのようなことを知って冷静でいられる訳がない。
ルドガーが本当に私の着替えや入浴を手伝うのかと焦って聞き返すが、シュウは冷静に返す。
いや、むしろ声が楽しそうだ。
「もちろんです。マクベスさんと同じことをやっていただくんですから。ねぇ、フレッド。ルドガーさんならいいでしょう?」
シュウの意見に同意してと言っていたのはおそらくこのことだろう。
それがわかったから、私は少し大袈裟に返してやった。
「ああ、ルドガーならきめ細やかな世話をしてくれそうだ。異論は何もないな」
正直なところを言えば、私には世話役など必要ない。
もちろん、マクベスはなくてはならない存在であるし、シュウにもシンシアとメリルというメイドをつけている。
しかし、シュウの言ったような着替えや入浴の手伝いなどをさせることは決してない。
それは私もシュウもお互いの裸を他の者に見せたくないからだ。
彼らにやってもらうのは、我々の身の回りの掃除であったり、必要なものを用意してもらうことが主な仕事だ。
わざわざ私が指示をしなくとも必要な時にすぐに準備して渡してくれ、ベルの音だけでどんな用事かを理解してくれるマクベスのようになるには相当の経験と時間がかかるだろうがな。
いずれはルドガーにもそのようになってもらいたいとは思っている。
だが、それは今ではない。
ルドガーにはもっと経験を積んでもらわねばな。
「あの、それは本当にルドガーの希望でしょうか?」
レオンは悲壮感たっぷりの顔で扉の向こうにいるシュウに問いかけたが、シュウからはもちろんだと嬉しそうな声が返ってきてガックリと肩を落としていた。
しかも、今度はルドガー自らレオンに語りかけ始めた。
「レオンさま……私、ずっと旦那さまに憧れていたのです……」
ルドガー本人から紡がれる言葉に、その場に崩れ落ちそうな様子で茫然と佇むレオンを見て可哀想に思ってしまうが、今、助け舟を出すことはレオンにとっても、そして私にとってもマイナスでしかない。
ここは大人しく見守ることが大事だ。
いつか、この屋敷を一人で切り盛りすることができたら旦那さまの世話役にしていただこうと密かに思っていた。
だから今回思いを汲んでもらえてとても嬉しいのだと嬉しそうに話すルドガーに、レオンは
「ルドガー……そんなに、フレデリックさまをお慕いしていたのか?」
と声を震わせながら問いかけた。
ルドガーは自信満々にもちろんですと言い切ったが、レオンはさらに食い下がるように、
「唯一の私よりもフレデリックさまの方が好きだというのか? 私はそれを聞いてこれからフレデリックさまとルドガーの姿を見るたびに嫉妬するのだぞ。それでもルドガーはフレデリックさま付きのお世話役になるというのか?」
と叫びにも似た声を張り上げた。
普段のルドガーなら、レオンにここまで言われればきっと折れただろう。
だが、ここで折れては意味がない。
もっとレオンにわからせなければいけないのだ。
そう思っていると、ルドガーは毅然とした態度で、
「フレデリックさまへの思いはレオンさまとは違います。フレデリックさまは尊敬と憧れで、レオンさまのことは心から愛しています。それではだめなのですか?」
と問いかけた。
すると、レオンは
「ルドガー、私はすべての思いを独占したい。愛だけでなく、憧れも尊敬も……私以外に向くことなど耐えられないんだ。何も知らずにいられたら、まだ我慢もできただろうが……知ってしまった今は嫉妬しかない」
そう言いながら私に視線を向けた。
その目にはうっすらと涙が滲んでいる。
きっと私へのなんとも言えない感情を必死で堪えているのだろうな。
すると、レオンの目の前の扉がゆっくりと開き始めた。
「――っ!」
レオンの目がすぐにルドガーをとらえる。
そしてルドガーのすぐ後ろには愛しいシュウの姿が見えた。
きっとレオンにはシュウの姿は目に入っていないだろう。
私とて同じだ。
ルドガーよりもシュウの姿が目に飛び込んでくる。
それが愛しい伴侶の証。
数十分ぶりに見るシュウの顔に笑みが溢れる。
シュウもまた私に嬉しそうに微笑む。
ああ、やはりシュウは私の女神だ。
あれほど叫びにも似た声を張り上げていたレオンは、ルドガーを目の前にしてどうしていいかわからない様子だ。
本当に最強の騎士団長が聞いて呆れる。
まぁ私もシュウと同じ状況になればレオンと同じだろうが。
「ル、ルドガー……あの……」
緊張しながら声をかけようとしたレオンに、ルドガーはにっこりと微笑みながら
「レオンさま……何も知らない方が良かったですか? 私はレオンさまが唯一だから、全てを知ってもらいたいと思ったのですよ」
と言い放つとレオンは膝から崩れ落ちた。
唯一だから全てを知ってもらいたいと思った……そう言って自分がルドガーを傷つけてしまったことにようやく気づいたのだ。
「ルドガー。私が……私が悪かった。だから、頼む。許してくれ……」
必死に許しを請うレオンの姿にルドガーは、もう怒っていないと優しく声をかける。
顔を上げたレオンはもう涙に溢れていた。
こんな姿、騎士団員達が見たら本当に驚くことだろう。
自分にも他人にも厳しいことで有名だったからな。
それほどレオンにとってルドガーは感情を揺さぶられる相手ということなのだろう。
レオンはようやく戻ってきてくれた唯一の伴侶を二度と離さないとでもいうようにしっかりと腕の中に抱きしめ、必死に謝り続けた。
自分が誠実であろうと思いすぎて判断を見誤っていたと話すレオンに、ルドガーはたとえそこに恋愛の情がなかったとしても知りたくなことがあるのだとしっかり自分の気持ちを告げた。
シュウのお仕置きのおかげでレオンもルドガーの気持ちをしっかりと理解したようだ。
私に嫉妬したのだと正直に話すレオンを見て、ルドガーは嬉しそうに笑っていた。
これで一件落着か……とホッとしていると、目の前で二人が
「レオンさま。私はレオンさまのことをお慕いしております。この感情はレオンさまだけです」
「ルドガー! 私もだ。この世で愛するのはルドガーだけだ。信じてくれるか?」
「はい。もちろんです。泣いてしまって……部屋から追い出してしまって、ごめんなさい……」
「いや、私が軽率すぎたのだ。悪かったのは私だから謝らないでくれ」
「レオンさま、私が悪かったのです。私がもっとレオンさまを信じていれば……」
「いいや、私が……」
と言い争いを始めた。
言い争いと言ってもそれは痴話喧嘩でしかないのだが。
そんなものをずっと見ている暇はない。
「あーっ、もういいか? 私もいいかげんシュウを連れて部屋に戻りたいのだが……」
そう声をかけるとようやく私たちの存在を思い出した二人は揃って謝罪の言葉を述べた。
もうこれ以上付き合う必要はないだろう。
シュウを連れ部屋に戻ろうとした私の背後から、レオンが声をかけてくる。
まだ何かあるのかと問いかけると、緊張した面持ちで、
「ルドガーがフレデリックさまのお世話付きになるというのは、まことの話でございますか?」
と尋ねてきた。
ふっ。確かにそこは気になるだろうな。
このまま騙してやったらどうするだろうか?
「ああ、あれか。だとしたらどうする?」
レオンの気持ちを確かめるようにそう言ってやると、
「お決めになられたことでしたら私が文句など言えた義理ではございませんが……できることならばルドガーにはしてほしくないと思っております」
とはっきりと言い切った。
ああ、これでいい。
ルドガーも喜んでいるのが見える。
あれがレオンにルドガーの気持ちをわからせるための嘘だと告げると、驚きつつもあからさまな安堵の表情を浮かべた。
「そもそも私に世話役は必要ない」
世話などお互いがするのだからな。
普段のレオンならあの嘘にすぐに気づいたことだろう。
それに気づかなかったのもルドガーへの思いに頭に血が昇っていたからだろうな。
これで二人の痴話喧嘩は終わりだ。
「レオンもルドガーも明日からはしっかりと頼むぞ」
その声に二人が深々と頭を下げるのを見ながら、私はシュウを連れ部屋に戻った。
これから、離れていた分の数十分を取り戻すとしようか。
「シュウの気配を感じたのでな。戻ってきたのだが中の様子は変わらぬか?」
ルーカスにそう声をかけたのとほぼ同時に目の前の扉がカチャリと開いた。
小さく扉が開き、私の目に飛び込んできたのは愛しいシュウの姿だった。
「シュウっ! どうなったんだ? 大丈夫なのか?」
慌てふためきながら尋ねる私に、シュウは静かにするようにと口の前に指を立てた。
慌てて口を押さえながら、ルドガーの様子を尋ねると、シュウは可愛らしい笑顔を浮かべてレオンを呼んで来てくれと言い出した。
レオンと3人で話すつもりなのかと思ったが、私も一緒にいていいらしい。
だが絶対に邪魔はしないように、そしてシュウとルドガーの意見に同意するようにと言われ、訳がわからない。
何をするつもりかと尋ねると、シュウは小悪魔のような笑みを浮かべながら、
「ふふっ。ルドガーさんを泣かせたから、レオンさんにお仕置きだよ」
と言っていた。
シュウのお仕置きとは……一体なんなのだろう?
気になって尋ねようとしたが、シュウは女神のような笑みを浮かべながら扉を閉めてしまった。
あの笑みにブルっと身体が震える。
「旦那さま……シュウさまは一体何をお考えなのでしょう?」
ルーカスに目をやれば、ルーカスも恐怖に顔を引き攣らせている。
最強の警備隊長と言われているルーカスさえこの表情にしてしまうとは……。
シュウのようなタイプを怒らせると怖いとよく聞くが、それは本当なのかもしれないな。
とりあえず言われた通りに、レオンを連れてこよう。
話はそれからだ。
「レオンっ、シュウが呼んでいる」
「ルドガーに会わせていただけるのですか?」
「それはまだわからん。とりあえず、ついてこい」
まだ悲壮感が漂った顔でいたレオンを連れてルドガーの部屋の前に戻り、シュウに声をかけると、レオンは我慢しきれなくなったのか、自分から声を上げた。
「シュウさま、レオンでございます。お呼びいただきありがとうございます。あの、ルドガーは……ルドガーの様子をお教えいただけないでしょうか?」
ルドガーがもう落ち着いていればレオンのこの声に反応すると思ったが、扉の向こうからはルドガーの反応はない。
がっかりするレオンに、シュウから返事が返ってきた。
「心配しなくても、ルドガーさんは大丈夫ですよ。マクベスさんの代わりにフレッドの世話役にすると約束したら機嫌を直してくれましたから」
嬉しそうなその声にレオンは驚きを隠せない様子で私を見るが、マクベスの代わりにルドガーが世話役になるとは私も初耳だ。
何も知らされていないのだから反応しようもない。
レオンはもう一度シュウに聞き返した。
「えっ? フレデリックさまの……お世話役、ですか?」
そういうと、シュウはその理由を話し始めた。
ルドガーが王都にいた頃から私に憧れていて、いつか私の世話役になることを夢見ていたのだと。
そのためにわざわざ王都を離れ、このサヴァンスタックまで私についてきてくれたのだと。
いやいや、そんな話聞いたことがない。
もちろん、ルドガーが私を慕ってここまでついてきてくれたことは知っているが、憧れというならむしろ私よりマクベスに対してではないか。
ルドガーは常々、マクベスのような執事になりたいと話していたからな。
だから、私の世話役になりたくて……というのは本当の理由ではないだろう。
だが、レオンはシュウの話にかなりのショックを受けているようだ。
おそらくそんな話をルドガーから聞いていなかったからだろう。
だが、シュウはそんなレオンの様子を気にすることなく話を続ける。
「マクベスさんが不在の間、ルドガーさんが頑張ってこのお屋敷を切り盛りしてくださったでしょう? こんなに優秀なルドガーさんだから、レオンさんがぼくの護衛をしてくださるように、ルドガーさんにも着替えや入浴の手伝いをお願いすることにしたんです。これからはお二人でぼくたちのことを守ってくださいますよね?」
その言葉に流石のレオンも焦り始めた。
それはそうだろう。
自分の唯一が屋敷の主人の世話とはいえ、着替えを手伝い、入浴に付き添い身体を洗ったりする……そのようなことを知って冷静でいられる訳がない。
ルドガーが本当に私の着替えや入浴を手伝うのかと焦って聞き返すが、シュウは冷静に返す。
いや、むしろ声が楽しそうだ。
「もちろんです。マクベスさんと同じことをやっていただくんですから。ねぇ、フレッド。ルドガーさんならいいでしょう?」
シュウの意見に同意してと言っていたのはおそらくこのことだろう。
それがわかったから、私は少し大袈裟に返してやった。
「ああ、ルドガーならきめ細やかな世話をしてくれそうだ。異論は何もないな」
正直なところを言えば、私には世話役など必要ない。
もちろん、マクベスはなくてはならない存在であるし、シュウにもシンシアとメリルというメイドをつけている。
しかし、シュウの言ったような着替えや入浴の手伝いなどをさせることは決してない。
それは私もシュウもお互いの裸を他の者に見せたくないからだ。
彼らにやってもらうのは、我々の身の回りの掃除であったり、必要なものを用意してもらうことが主な仕事だ。
わざわざ私が指示をしなくとも必要な時にすぐに準備して渡してくれ、ベルの音だけでどんな用事かを理解してくれるマクベスのようになるには相当の経験と時間がかかるだろうがな。
いずれはルドガーにもそのようになってもらいたいとは思っている。
だが、それは今ではない。
ルドガーにはもっと経験を積んでもらわねばな。
「あの、それは本当にルドガーの希望でしょうか?」
レオンは悲壮感たっぷりの顔で扉の向こうにいるシュウに問いかけたが、シュウからはもちろんだと嬉しそうな声が返ってきてガックリと肩を落としていた。
しかも、今度はルドガー自らレオンに語りかけ始めた。
「レオンさま……私、ずっと旦那さまに憧れていたのです……」
ルドガー本人から紡がれる言葉に、その場に崩れ落ちそうな様子で茫然と佇むレオンを見て可哀想に思ってしまうが、今、助け舟を出すことはレオンにとっても、そして私にとってもマイナスでしかない。
ここは大人しく見守ることが大事だ。
いつか、この屋敷を一人で切り盛りすることができたら旦那さまの世話役にしていただこうと密かに思っていた。
だから今回思いを汲んでもらえてとても嬉しいのだと嬉しそうに話すルドガーに、レオンは
「ルドガー……そんなに、フレデリックさまをお慕いしていたのか?」
と声を震わせながら問いかけた。
ルドガーは自信満々にもちろんですと言い切ったが、レオンはさらに食い下がるように、
「唯一の私よりもフレデリックさまの方が好きだというのか? 私はそれを聞いてこれからフレデリックさまとルドガーの姿を見るたびに嫉妬するのだぞ。それでもルドガーはフレデリックさま付きのお世話役になるというのか?」
と叫びにも似た声を張り上げた。
普段のルドガーなら、レオンにここまで言われればきっと折れただろう。
だが、ここで折れては意味がない。
もっとレオンにわからせなければいけないのだ。
そう思っていると、ルドガーは毅然とした態度で、
「フレデリックさまへの思いはレオンさまとは違います。フレデリックさまは尊敬と憧れで、レオンさまのことは心から愛しています。それではだめなのですか?」
と問いかけた。
すると、レオンは
「ルドガー、私はすべての思いを独占したい。愛だけでなく、憧れも尊敬も……私以外に向くことなど耐えられないんだ。何も知らずにいられたら、まだ我慢もできただろうが……知ってしまった今は嫉妬しかない」
そう言いながら私に視線を向けた。
その目にはうっすらと涙が滲んでいる。
きっと私へのなんとも言えない感情を必死で堪えているのだろうな。
すると、レオンの目の前の扉がゆっくりと開き始めた。
「――っ!」
レオンの目がすぐにルドガーをとらえる。
そしてルドガーのすぐ後ろには愛しいシュウの姿が見えた。
きっとレオンにはシュウの姿は目に入っていないだろう。
私とて同じだ。
ルドガーよりもシュウの姿が目に飛び込んでくる。
それが愛しい伴侶の証。
数十分ぶりに見るシュウの顔に笑みが溢れる。
シュウもまた私に嬉しそうに微笑む。
ああ、やはりシュウは私の女神だ。
あれほど叫びにも似た声を張り上げていたレオンは、ルドガーを目の前にしてどうしていいかわからない様子だ。
本当に最強の騎士団長が聞いて呆れる。
まぁ私もシュウと同じ状況になればレオンと同じだろうが。
「ル、ルドガー……あの……」
緊張しながら声をかけようとしたレオンに、ルドガーはにっこりと微笑みながら
「レオンさま……何も知らない方が良かったですか? 私はレオンさまが唯一だから、全てを知ってもらいたいと思ったのですよ」
と言い放つとレオンは膝から崩れ落ちた。
唯一だから全てを知ってもらいたいと思った……そう言って自分がルドガーを傷つけてしまったことにようやく気づいたのだ。
「ルドガー。私が……私が悪かった。だから、頼む。許してくれ……」
必死に許しを請うレオンの姿にルドガーは、もう怒っていないと優しく声をかける。
顔を上げたレオンはもう涙に溢れていた。
こんな姿、騎士団員達が見たら本当に驚くことだろう。
自分にも他人にも厳しいことで有名だったからな。
それほどレオンにとってルドガーは感情を揺さぶられる相手ということなのだろう。
レオンはようやく戻ってきてくれた唯一の伴侶を二度と離さないとでもいうようにしっかりと腕の中に抱きしめ、必死に謝り続けた。
自分が誠実であろうと思いすぎて判断を見誤っていたと話すレオンに、ルドガーはたとえそこに恋愛の情がなかったとしても知りたくなことがあるのだとしっかり自分の気持ちを告げた。
シュウのお仕置きのおかげでレオンもルドガーの気持ちをしっかりと理解したようだ。
私に嫉妬したのだと正直に話すレオンを見て、ルドガーは嬉しそうに笑っていた。
これで一件落着か……とホッとしていると、目の前で二人が
「レオンさま。私はレオンさまのことをお慕いしております。この感情はレオンさまだけです」
「ルドガー! 私もだ。この世で愛するのはルドガーだけだ。信じてくれるか?」
「はい。もちろんです。泣いてしまって……部屋から追い出してしまって、ごめんなさい……」
「いや、私が軽率すぎたのだ。悪かったのは私だから謝らないでくれ」
「レオンさま、私が悪かったのです。私がもっとレオンさまを信じていれば……」
「いいや、私が……」
と言い争いを始めた。
言い争いと言ってもそれは痴話喧嘩でしかないのだが。
そんなものをずっと見ている暇はない。
「あーっ、もういいか? 私もいいかげんシュウを連れて部屋に戻りたいのだが……」
そう声をかけるとようやく私たちの存在を思い出した二人は揃って謝罪の言葉を述べた。
もうこれ以上付き合う必要はないだろう。
シュウを連れ部屋に戻ろうとした私の背後から、レオンが声をかけてくる。
まだ何かあるのかと問いかけると、緊張した面持ちで、
「ルドガーがフレデリックさまのお世話付きになるというのは、まことの話でございますか?」
と尋ねてきた。
ふっ。確かにそこは気になるだろうな。
このまま騙してやったらどうするだろうか?
「ああ、あれか。だとしたらどうする?」
レオンの気持ちを確かめるようにそう言ってやると、
「お決めになられたことでしたら私が文句など言えた義理ではございませんが……できることならばルドガーにはしてほしくないと思っております」
とはっきりと言い切った。
ああ、これでいい。
ルドガーも喜んでいるのが見える。
あれがレオンにルドガーの気持ちをわからせるための嘘だと告げると、驚きつつもあからさまな安堵の表情を浮かべた。
「そもそも私に世話役は必要ない」
世話などお互いがするのだからな。
普段のレオンならあの嘘にすぐに気づいたことだろう。
それに気づかなかったのもルドガーへの思いに頭に血が昇っていたからだろうな。
これで二人の痴話喧嘩は終わりだ。
「レオンもルドガーも明日からはしっかりと頼むぞ」
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