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最終章 (領地での生活編)
フレッド 52−2※
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「シュウ……私も愛してるよ」
シュウから漏れる愛の言葉に私の愛を何度伝えても足りないと思ってしまう。
それくらい私の全てはシュウだけのものなのだ。
自分の独占欲を示すように身体中至る場所に紅い花を散らしていく。
陶器のように滑らかで真っ白な肌に、私の付けた紅い花がひとつ、またひとつと増えるたびに心が満たされて行くのがわかる。
ああ、シュウのこの白い肌にこの花を散らせるのは私だけだ。
飽きることなくシュウの身体に花を散らしていると、シュウが潤んだ漆黒の瞳で私を見つめながら自分もつけたいとねだってくる。
ああ、もうなんでシュウはこんなにも可愛いことを言ってくれるのだろう。
シュウの好きなところにつけてくれと、シュウを乗せたままベッドに横たわるとシュウは力ないままに私の身体の上を動くと耳たぶにちゅっと吸い付いた。
ああ、ここならばシュウのか弱い力でも花を散らすことができるな。
「ふふっ。かわいい……っ」
私の耳につけた花を見てそんなことを言っているが、可愛いのはシュウの方だ。
こんなにも可愛いことをされて我慢できるはずもなく、私はサッと身体の向きを変えシュウをベッドに押し倒した。
そして、すでにグチュグチュに解れ切ったシュウの後孔に愚息を押し込むと、シュウは可愛い声を上げながら私を受け入れる。
私の蜜でとろとろに蕩けたシュウの中が愚息に吸い付いてきてとてつもなく気持ちがいい。
シュウもまた気持ちよさそうに可愛い果実から蜜をピュルピュルと放つ。
もうすでに何度も蜜を放って量は少なくなっているが、蜜はどんどん甘くなっていく。
それはシュウが私との交わりに満足しているという証なのだから、これほど嬉しいことはない。
シュウが私との交わりに満足していると言うのなら、もっともっと満足させてやる!
「シュウ……私の愛は後にも先にもシュウだけだ」
私の思いをぶつけると、シュウは気持ちよさそうに悶えながら自分にも私だけだと返してくれた。
ああ、シュウ!!
私のどれだけの思いが伝えられているだろう。
少しでもシュウの奥の、さらに奥まで入り込んで私の思いを伝えたい。
そう思った瞬間、愚息がシュウの閉ざしていた場所を超えてはまり込んだようだ。
「ひゃぁぁーーーっん!!!!」
シュウはあまりの衝撃に全身をぴくぴくと震わせて甘い甘い蜜を溢した。
その可愛らしい姿に私もその心地よい最奥の場所に大量の蜜を放った。
シュウの中は私の放ったその蜜を全て吸い取っていく。
ふふっ。
子でも出来そうなほど蜜を放ってしまったな。
だが、私には子は必要ない。
たとえシュウとの子であっても、私以外にシュウの気持ちが向くことが耐えられないのだ。
自分の子でさえも嫉妬するような狭量な私には、シュウだけいてくれればいい。
シュウの愛は全て私のものだ。
そんな独占欲に塗れた私の腕の中には、互いの蜜に塗れたシュウが眠っている。
いや、あまりの激しさに意識を失ったと言うのが正しいか。
シュウを抱き上げると、ベルを鳴らしマクベスに寝室を片付けておくようにと指示をしてから寝室横の風呂場に連れて行った。
シャワーで身体の中も外も綺麗に清め、湯船に浸かると風呂の心地よさにシュウが目を覚ましたのに気づいた。
声をかけたがまだ夢見心地と言った様子だ。
私の名を呼びながら私の身体に擦り寄ってくる。
私の裸を気に入ってくれているようだ。
寝ぼけているのかいつもより甘えたなシュウが可愛くて抱きしめると、
「あまえるの、いや?」
少し舌ったらずな言葉で返してくる。
シュウが甘えてくれるのは私の至福のひとときなのだ。
嫌なことなどあるわけがない。
ぎゅーしてとさらに甘えてくるシュウを抱きしめると、湯の中にいるせいかいつもより体温が上がって気持ちがいい。
すぐに愚息が昂ってしまいそうになる。
流石にこれ以上はと必死で抑えていると
「ねっ、きょう……ふれっどと、このままねるぅ……」
と言い出した。
寝ぼけているのか?
いつも一緒に寝ていると言うのに。
そう返すと
「ちがう…っ、はだかで、ねるっていったぁ……」
と少し拗ねながら言ってくる。
ああ、確かにそう言っていた。
だが今、裸で寝るのはかなりの苦行なのだが……シュウのおねだりに抗うこともできず、私はシュウを抱いたまま風呂から出た。
寝室に戻ると、マクベスがすでにシーツを整えベッド脇のテーブルにレモン水を用意してくれていた。
さすがマクベス、仕事が早い。
口移しでレモン水を飲ませると、よほど喉が渇いていたのだろう。
ゴクリと嬉しそうに三度も飲み干した。
長旅から帰ってきたばかりだというのに、初夜だからと激しくし過ぎてしまった。
シュウも相当疲れていることだろう。
「明日はゆっくりと部屋で過ごそう。私が全て世話をするからな」
そういうとシュウは嬉しそうに私への愛を囁きながら深い眠りに落ちていった。
それからしばらく経って、腕の中にいたシュウの身体がどんどん熱くなっていくのに気づき、私は目を覚ました。
顔や身体にも汗をかいている。
もしや、熱を出したのか……。
以前、あの城でシュウと初夜を迎えた時もあまりにも激しく盛りすぎてシュウが熱を出し体調を崩してしまったのだった。
ああ、あの時もトーマ王妃に叱られてしまったというのに……。
私はなんの成長もしていないのだな。
自分の愚かさに気づき、苦しげに息を吐くシュウを抱きしめながら謝ったが、それよりもすべきことがある。
私はそっとベッドから抜け出し寝室を出て、マクベスを呼ぶベルを鳴らした。
「何かございましたか?」
そのベルの音で気づいたのだろうか。
心配そうな表情を浮かべながらマクベスがやってきた。
「シュウが熱を出した」
その一言を伝えた途端、マクベスの表情が一気に無に変わった。
「旦那さま、今なんと仰ったのですか?」
ああ、これはかなり怒っている。
長い付き合いだ。
マクベスが必死に怒りを抑えているのが手に取るようにわかる。
「お前の怒りはよくわかる。私も申し訳ないと反省しているが、まずはシュウの熱を下げて楽にしてやりたい。説教は後でいくらでも聞く。だから、シュウの薬を用意してくれないか?」
そう言うとマクベスは
「はぁーーーーっ」
と大きなため息を吐きながら、
「承知いたしました。すぐにお薬とそのほかに必要なものをお持ちいたしますので、旦那さまはシュウさまのおそばについていて差し上げてください」
と言ってくれた。
礼を言って寝室に戻ると、シュウの手が私を探しているのが見える。
熱に浮かされながらも、私の存在を必要としてくれているのだ。
そんなシュウのいじらしさに我慢できず、急いでシュウの横に身体を滑り込ませると、シュウは安堵の表情を浮かべながら私に擦り寄ってきてまた眠りについた。
おそらく熱で何も覚えていないだろう。
それでもシュウが辛い時に私を必要としてくれている、その事実が嬉しかった。
それからすぐにマクベスが戻ってきた。
シュウに申し訳ないと思いつつも、寝室を出てマクベスを中に入れた。
「こちらのお薬は解熱作用と栄養補給が入っております。これを3時間おきに飲ませて差し上げてください。目を覚まされましたら、シュウさまの食事をご用意いたしますのですぐに私をお呼びください」
「シュウの食事は大丈夫なのか? シュウは元々食が細いが、体調を崩している時はさらに食べなくなるぞ」
「それはご安心ください。アレクサンダーさまよりシュウさまの食事についてお教えいただきましたから」
「アレクに? 何を教えてもらったのだ?」
「王家に伝わるあの予言書の内容に、シュウさまに関することが記載されていたようです。というより、シュウさまに関することが半分を占めていたようですが、その中にシュウさまが体調をお崩しになった際の食事の作り方が丁寧に記載されていたのです。確か『お粥』という名前だったかと存じます」
「『お粥』……確か、以前熱を出した時にトーマ王妃がシュウにパンで作ってくれたものも『パン粥』と言っていたな。それを米で作ったものか……。おそらく、それがシュウのいた世界での体調を崩した時の食事なのだろうな」
「はい。私どもにもわかりやすく記載されておりましたので、何かあったときにいつでも作れるようにとローリーにも伝えていたところでございます。こんなにも早く役に立つとは思ってもみませんでしたが……」
「マクベス、分かっている。私が悪いのだ。それよりも米はあるのか?」
「はい。先ごろ、リューイ殿が連絡してくださった業者が屋敷に米を運んできてくれましたのでいつでもお作りできます」
「そうか。助かるな。ではシュウが目を覚ましたらすぐにお前に声をかける」
「旦那さま、もうシュウさまにお手はお出しにならないようにお気をつけくださいませ。もし、お約束を違えましたらシュウさまは客間で休んでいただきます」
「分かっている。もう何もしない。シュウの世話に最善を尽くす」
そういうと、ようやく納得してくれたようでマクベスは部屋を出ていった。
寝たまま薬を飲ませようと思ったが、少し量が多すぎる。
起こすのは可哀想だが、薬を飲ませないわけにはいかない。
声をかけると、熱を出していることに気づいていない様子のシュウが目を覚ました。
無理をさせすぎたせいで熱を出させてしまったのだと詫びたのだが、
「あやま、らないで……ふれっど……すこしの、ねつくらい、だいじょうぶ、だから……しんぱい、しないで……」
と苦しげな声で私に気を遣ってくれる。
ああ、身体も辛いだろうに……なぜこんなに優しいのだろう。
熱で熱くなったシュウの身体を抱き起こし、薬をまずは自分の口に含んでシュウの口に少しずつ流し込んでいく。
全部きちんと飲み干せただろうかと尋ねると、シュウは返事の代わりに口をあーんと開け、空っぽの口内を見せてくれた。
小さくて赤く可愛らしい舌が目に止まる。
それだけで昂りそうになるが、相手は病人。
ここで襲い掛かれば本当に鬼畜の所業。
マクベスの監視のもとでシュウと離れ離れにされてしまうだろう。
それだけは絶対に避けなければならない。
「シュウ、何か欲しいものはないか?」
薬で栄養補給はしたとはいえ、何か食べたいものがあるかもしれない。
シュウの好きな果物でも持ってこようかと、少しの間シュウから離れて、昂る愚息を躾でもしてこようかと思っていたのだが、シュウは私の服の裾を掴み、
「なにもいらない……ここに、いてぇ……」
と必死に頼んでくる。
ああ、こんなにもシュウは私を必要としてくれているというのに私は……なんて愚かなのだろう。
何よりも大切なシュウが私がそばにいることを望んでくれているのだ。
私はずっと抱きしめているからと約束して、シュウの隣に横たわった。
熱が下がったらあの中庭に行こうと声をかけ口づけを贈るとシュウは笑顔を見せながら眠りに落ちていった。
いつ急変するかもしれないと気を張ってシュウの様子を見守っていたが、マクベスの用意してくれた薬が少しずつ効いているようだ。
熱を持っていた身体が少しずつ平常を取り戻しつつある。
本当によかった。
頬を柔らかな指が滑っていく、そんな感触がして目を覚ました。
ハッと気づいて隣にいるシュウに目をやると、いつもの笑顔を見せながら私をみている。
「シュウ……大丈夫か?」
そう尋ねる私に、
「フレッドがずっとそばについててくれたから、ぼく……早く治ったんだよ」
と嬉しい言葉を返してくれる。
ああ、熱が下がって本当によかった。
実のところ、あれから二日熱は上がったり下がったりを繰り返し、ようやく昨晩から熱は平熱を保っていたのだ。
薬で栄養補給はしていたが、流石に腹も空いたろう。
食事を持ってくるからと言って寝室を離れ、ベルを鳴らすとすぐにマクベスがシュウの食事を持ってやってきた。
「マクベス、流石に早いな」
「シュウさまのお熱が下がって大変ようございました」
「ああ、心配かけて悪かったな。この食事をしたらさらに体調も良くなるだろうから安心してくれ」
そう言って、食事を受け取りシュウの元に戻った。
きっとこの食事を見て大喜びするだろうな。
そう想像するだけで笑みが溢れる。
シュウの目の前にテーブルを用意してやり、トレイに乗せたまま食事を置く。
小さな鍋の蓋を開いてみせると、
「わぁーっ、お粥だ!」
と目を輝かせて喜んだ。
「ねぇ、これ……どうしたの?」
驚きの表情を見せるシュウにマクベスがアレクから教えてもらったのだというと、ますます驚いていたが、シュウのことがたくさん書かれたあの例の予言書を見せてもらい、そこに書かれていたトーマ王妃のレシピでこの『お粥』を作ったのだと伝えると、
「じゃあ、この『お粥』……お父さんの味なんだ……」
と感慨深そうに呟いた。
そう、まさしく父の味。
シュウにとってはトーマ王妃との思い出をつなぐ大切な味なのだろう。
せっかくだから温かいうちに食べようと声をかけ、シュウの口へと運んでやる。
シュウが火傷をしないようにふーっふーっと冷ますのを忘れないように運ぶと、シュウは美味しそうにそれをたべた。
この粥のおかげですっかり体調も戻ったのか、ぱくぱくと食べ進めるシュウを愛おしく思いながら、この粥を作るために尽力してくれた皆に感謝の気持ちでいっぱいになっていた。
食事を終え、薬を飲ませてからシュウを休ませる。
食事も食べられたことだし、目を覚ました頃にはきっとすっかり治っていることだろう。
シュウが深い眠りについてしばらくした頃、扉を叩く音が聞こえた。
この音はマクベスではないな。
ルーカスか?
もしや何か賊でも?
シュウに何かがあれば危険だと思い、シュウを起こさないように寝室を出てそしてすぐに扉をあけた。
「どうした? 一体何事だ?」
「旦那さま、申し訳ございません。実はレオン殿とルドガーに何やらあった様子でして……」
「なに? どういうことだ?」
「私も把握できていないのですが、どうやらレオン殿がルドガーに部屋から追い出されたようです」
「追い出された、だと?」
「はい。どうやらそのようです」
「とりあえず、本人に話を聞いてみよう。話はそれからだな」
シュウのことが心配だが、レオンたちも気になる。
とりあえず話を聞いてみないことにはどうしようもない。
単なる痴話喧嘩であれば良いのだが……。
警備兵を二人、部屋の前に置き何か物音がしたらすぐに呼びにくるように。
絶対に中に入るなと強く含めて、ルーカスと共に使用人棟へと向かった。
部屋に近づくと、レオンの声が聞こえる。
「ルドガー、ここを開けてくれ」
その悲痛な声に単なる痴話喧嘩ではなさそうだと感じる。
「レオン」
ルドガーに聞こえないように小さな声でレオンを呼ぶと、さっとこちらに目を向けてきた。
指でクイっとおりまげこちらに呼ぶと、レオンは部屋の中にいるルドガーを気にしながらもこちらに来た。
「フレデリックさま……」
「お前とルドガーに何か問題が起きているようだとルーカスに話を聞いてきたのだが、どうした? 何があったのだ?」
そういうと、レオンは私の後ろにいるルーカスを気にする素振りを見せたため、ルーカスにシュウの部屋の前で警護しておいてくれと声をかけた。
ルーカスが離れたのを確認してレオンにもう一度問いかけた。
「それで何があったのだ? まさか無理やりに――」
「そ、そんなことは決してっ!」
「ならば、どうしたのだ? お前が外に出されるとは余程のことだろう?」
「実は……ルドガーに騎士団長を辞めるのに躊躇いはなかったのかと問いかけられまして、唯一であるルドガーには嘘偽りのない真実の私を知っていて欲しくて……」
「やはり、ルドガーとは唯一だったのか?」
「はい。そうです。確認しました」
「そうか、それはめでたいな。それで嘘偽りのない真実とはどういうことだ?」
「ルイ・ハワードであった頃の記憶と、そしてそれを思い出したレオンの記憶も含めてルドガーに全てを打ち明けたのです」
「なに? ルイの頃の記憶も含めて全部? それはもしやシュウへの思いも……ということか?」
私の問いかけにレオンは当然とでもいうように、大きく頷いた。
「もちろんでございます。ルドガーに隠し事などしたくありませんから!」
そう言い切るレオンに、ルドガーがレオンを追い出し部屋に引き篭もった理由がわかった気がした。
「なるほど……そういうことか」
「フレデリックさま? どうなさったのですか?」
「お前の話はわかった。とりあえず、シュウが心配なので一度部屋に戻るが、またすぐに来る。それまでしばらく待っていろ」
「は、はい……」
レオンは不安げな表情を見せていたが、理由がわかった今、ここで無闇にルドガーに話しかけても火に油を注ぐだけだろう。
何か対策を考えてからにした方がいい。
私は急いで部屋に戻った。
部屋の前にはルーカスと警備兵二人がしっかりと立っているのが見える。
「異常は無いか?」
「はっ。物音ひとつありません」
「よし」
安心しながら、静かに部屋に入り寝室へと向かうと、身体を起こしベッドから下りようとしているシュウと目があった。
私がいなかったから探しに行こうと思っていたんだと言い出して、急いで帰ってきて本当に良かったと胸を撫で下ろした。
シュウのことだ。
着替えもせずにこの姿のままで外に出ようとしたに違いない。
そうなればあの警備兵たちにシュウのこの格好が見られていたわけで……ああっ、想像するだけでも身体が震える。
寸前で止められて本当に良かった。
「どこに行っていたの?」
シュウにそう尋ねられてなんと言おうか正直迷った。
おそらくシュウのことで喧嘩になっているらしい二人の話をシュウに聞かせるべきか……。
悩んだものの、隠しておいておかしなことになる方が困る。
とりあえず言葉を選びながら、状況を話すことにした。
レオンとルドガーが唯一で間違いなかったと話すとシュウは喜びつつも、それならば余計に問題が起こったことを気にしているようで
「実はな、レオンが唯一には嘘偽りなく正直に話しておきたいからとルイの頃からの記憶も含めて、ルドガーに話をしたようだ」
と教えると、シュウは
「えっ? まさか……」
と驚きの声をあげた。
おそらく、シュウも気づいたのだろう。
「ああ、そのまさかだ。その話を聞いてルドガーは今でもレオンはシュウのことを好きなのではないかと不安になったようでな。ルドガーが泣いて部屋に閉じこもってしまったらしくて……」
シュウは私の話を聞きながら大きく頷いた。
そして、まだその誤解が解けていないことを知ると、ルドガーのところに一緒に行くと言い出した。
レオンの想い人だと思っているシュウが直接会いに行けば、それこそ火に油を注ぐことにもなりかねないが……どうしたものか。
とはいえ、シュウが一度言い出したら聞かないのはわかっている。
アンドリュー王もトーマ王妃がそうなのだと言っていた。
おそらく血筋なのだろう。
ここは大人しく連れていくほうがいいかもしれない。
私も一緒についていくと言い聞かせてから、シュウを着替えさせた。
そして、抱きかかえて外に出ると、目の前にマクベスとルーカスが立っていた。
マクベスに疲れの色が見える。
それもそうだろう。
シュウの熱で心配をかけたと思えば今度はレオンとルドガーのいざこざに巻き込まれているのだからな。
「ルドガーが旦那さまにご迷惑をおかけしてしまいまして……」
と謝るマクベスにシュウは
「ルドガーさんのことを思えば、閉じ籠っちゃっても仕方ないよ。だって、唯一の人に好きな人がいるかもしれないって思っちゃったんでしょう? ぼくなら悲しすぎておかしくなっちゃうかも」
などと声をかける。
喩え話だとしてもそんなことは絶対にないと言っておかねばならぬ。
シュウを悲しませたりはしないと言いながら抱きしめると、
「旦那さま。シュウさまは病み上がりでございますよ。もう少しお優しくなさったほうがよろしいかと……」
とマクベスから小声で注意をされてしまった。
ああ、しまった。
つい……。
シュウに謝り急いでレオンとルドガーの元へ向かおうとすると、シュウがちょっと待ってと私の足を止め、
「ルーカスさん。挨拶が遅くなりましたけど、これからよろしくお願いしますね」
とルーカスに挨拶をした。
そういえば、帰ってきた時にルーカスと話をしていなかったのだな。
すっかり忘れていた。
シュウの丁寧な挨拶にルーカスは嬉しそうな笑顔を見せ、
「――っ! は、はい。こちらこそご挨拶が遅れまして大変失礼いたしました。警備隊長のルーカスでございます。これから精一杯お護りいたしますのでどうぞよろしくお願い致します」
と挨拶を返した。
隣でマクベスはニコニコと笑顔を向けている。
ああ、さすがだ。
自分の大事な人が他の者に笑顔を見せていても、嫉妬もしない。
それはある意味、相手を信用しているということなのだろう。
私もマクベスを見習わないといけないな。
再び、使用人棟に向かうと、レオンはまだ部屋の前でルドガーに声をかけていた。
必死に許しを請う姿など騎士団の者たちには見せられんな。
レオンは私たちの姿を見て、謝罪をしてきたが、全ては自分のせいなのだとはっきり言っていた。
シュウがルドガーと話したいと言っていると告げると心配そうに扉を見つめていたが、扉の向こうからはまだ何の物音も聞こえなかった。
シュウから漏れる愛の言葉に私の愛を何度伝えても足りないと思ってしまう。
それくらい私の全てはシュウだけのものなのだ。
自分の独占欲を示すように身体中至る場所に紅い花を散らしていく。
陶器のように滑らかで真っ白な肌に、私の付けた紅い花がひとつ、またひとつと増えるたびに心が満たされて行くのがわかる。
ああ、シュウのこの白い肌にこの花を散らせるのは私だけだ。
飽きることなくシュウの身体に花を散らしていると、シュウが潤んだ漆黒の瞳で私を見つめながら自分もつけたいとねだってくる。
ああ、もうなんでシュウはこんなにも可愛いことを言ってくれるのだろう。
シュウの好きなところにつけてくれと、シュウを乗せたままベッドに横たわるとシュウは力ないままに私の身体の上を動くと耳たぶにちゅっと吸い付いた。
ああ、ここならばシュウのか弱い力でも花を散らすことができるな。
「ふふっ。かわいい……っ」
私の耳につけた花を見てそんなことを言っているが、可愛いのはシュウの方だ。
こんなにも可愛いことをされて我慢できるはずもなく、私はサッと身体の向きを変えシュウをベッドに押し倒した。
そして、すでにグチュグチュに解れ切ったシュウの後孔に愚息を押し込むと、シュウは可愛い声を上げながら私を受け入れる。
私の蜜でとろとろに蕩けたシュウの中が愚息に吸い付いてきてとてつもなく気持ちがいい。
シュウもまた気持ちよさそうに可愛い果実から蜜をピュルピュルと放つ。
もうすでに何度も蜜を放って量は少なくなっているが、蜜はどんどん甘くなっていく。
それはシュウが私との交わりに満足しているという証なのだから、これほど嬉しいことはない。
シュウが私との交わりに満足していると言うのなら、もっともっと満足させてやる!
「シュウ……私の愛は後にも先にもシュウだけだ」
私の思いをぶつけると、シュウは気持ちよさそうに悶えながら自分にも私だけだと返してくれた。
ああ、シュウ!!
私のどれだけの思いが伝えられているだろう。
少しでもシュウの奥の、さらに奥まで入り込んで私の思いを伝えたい。
そう思った瞬間、愚息がシュウの閉ざしていた場所を超えてはまり込んだようだ。
「ひゃぁぁーーーっん!!!!」
シュウはあまりの衝撃に全身をぴくぴくと震わせて甘い甘い蜜を溢した。
その可愛らしい姿に私もその心地よい最奥の場所に大量の蜜を放った。
シュウの中は私の放ったその蜜を全て吸い取っていく。
ふふっ。
子でも出来そうなほど蜜を放ってしまったな。
だが、私には子は必要ない。
たとえシュウとの子であっても、私以外にシュウの気持ちが向くことが耐えられないのだ。
自分の子でさえも嫉妬するような狭量な私には、シュウだけいてくれればいい。
シュウの愛は全て私のものだ。
そんな独占欲に塗れた私の腕の中には、互いの蜜に塗れたシュウが眠っている。
いや、あまりの激しさに意識を失ったと言うのが正しいか。
シュウを抱き上げると、ベルを鳴らしマクベスに寝室を片付けておくようにと指示をしてから寝室横の風呂場に連れて行った。
シャワーで身体の中も外も綺麗に清め、湯船に浸かると風呂の心地よさにシュウが目を覚ましたのに気づいた。
声をかけたがまだ夢見心地と言った様子だ。
私の名を呼びながら私の身体に擦り寄ってくる。
私の裸を気に入ってくれているようだ。
寝ぼけているのかいつもより甘えたなシュウが可愛くて抱きしめると、
「あまえるの、いや?」
少し舌ったらずな言葉で返してくる。
シュウが甘えてくれるのは私の至福のひとときなのだ。
嫌なことなどあるわけがない。
ぎゅーしてとさらに甘えてくるシュウを抱きしめると、湯の中にいるせいかいつもより体温が上がって気持ちがいい。
すぐに愚息が昂ってしまいそうになる。
流石にこれ以上はと必死で抑えていると
「ねっ、きょう……ふれっどと、このままねるぅ……」
と言い出した。
寝ぼけているのか?
いつも一緒に寝ていると言うのに。
そう返すと
「ちがう…っ、はだかで、ねるっていったぁ……」
と少し拗ねながら言ってくる。
ああ、確かにそう言っていた。
だが今、裸で寝るのはかなりの苦行なのだが……シュウのおねだりに抗うこともできず、私はシュウを抱いたまま風呂から出た。
寝室に戻ると、マクベスがすでにシーツを整えベッド脇のテーブルにレモン水を用意してくれていた。
さすがマクベス、仕事が早い。
口移しでレモン水を飲ませると、よほど喉が渇いていたのだろう。
ゴクリと嬉しそうに三度も飲み干した。
長旅から帰ってきたばかりだというのに、初夜だからと激しくし過ぎてしまった。
シュウも相当疲れていることだろう。
「明日はゆっくりと部屋で過ごそう。私が全て世話をするからな」
そういうとシュウは嬉しそうに私への愛を囁きながら深い眠りに落ちていった。
それからしばらく経って、腕の中にいたシュウの身体がどんどん熱くなっていくのに気づき、私は目を覚ました。
顔や身体にも汗をかいている。
もしや、熱を出したのか……。
以前、あの城でシュウと初夜を迎えた時もあまりにも激しく盛りすぎてシュウが熱を出し体調を崩してしまったのだった。
ああ、あの時もトーマ王妃に叱られてしまったというのに……。
私はなんの成長もしていないのだな。
自分の愚かさに気づき、苦しげに息を吐くシュウを抱きしめながら謝ったが、それよりもすべきことがある。
私はそっとベッドから抜け出し寝室を出て、マクベスを呼ぶベルを鳴らした。
「何かございましたか?」
そのベルの音で気づいたのだろうか。
心配そうな表情を浮かべながらマクベスがやってきた。
「シュウが熱を出した」
その一言を伝えた途端、マクベスの表情が一気に無に変わった。
「旦那さま、今なんと仰ったのですか?」
ああ、これはかなり怒っている。
長い付き合いだ。
マクベスが必死に怒りを抑えているのが手に取るようにわかる。
「お前の怒りはよくわかる。私も申し訳ないと反省しているが、まずはシュウの熱を下げて楽にしてやりたい。説教は後でいくらでも聞く。だから、シュウの薬を用意してくれないか?」
そう言うとマクベスは
「はぁーーーーっ」
と大きなため息を吐きながら、
「承知いたしました。すぐにお薬とそのほかに必要なものをお持ちいたしますので、旦那さまはシュウさまのおそばについていて差し上げてください」
と言ってくれた。
礼を言って寝室に戻ると、シュウの手が私を探しているのが見える。
熱に浮かされながらも、私の存在を必要としてくれているのだ。
そんなシュウのいじらしさに我慢できず、急いでシュウの横に身体を滑り込ませると、シュウは安堵の表情を浮かべながら私に擦り寄ってきてまた眠りについた。
おそらく熱で何も覚えていないだろう。
それでもシュウが辛い時に私を必要としてくれている、その事実が嬉しかった。
それからすぐにマクベスが戻ってきた。
シュウに申し訳ないと思いつつも、寝室を出てマクベスを中に入れた。
「こちらのお薬は解熱作用と栄養補給が入っております。これを3時間おきに飲ませて差し上げてください。目を覚まされましたら、シュウさまの食事をご用意いたしますのですぐに私をお呼びください」
「シュウの食事は大丈夫なのか? シュウは元々食が細いが、体調を崩している時はさらに食べなくなるぞ」
「それはご安心ください。アレクサンダーさまよりシュウさまの食事についてお教えいただきましたから」
「アレクに? 何を教えてもらったのだ?」
「王家に伝わるあの予言書の内容に、シュウさまに関することが記載されていたようです。というより、シュウさまに関することが半分を占めていたようですが、その中にシュウさまが体調をお崩しになった際の食事の作り方が丁寧に記載されていたのです。確か『お粥』という名前だったかと存じます」
「『お粥』……確か、以前熱を出した時にトーマ王妃がシュウにパンで作ってくれたものも『パン粥』と言っていたな。それを米で作ったものか……。おそらく、それがシュウのいた世界での体調を崩した時の食事なのだろうな」
「はい。私どもにもわかりやすく記載されておりましたので、何かあったときにいつでも作れるようにとローリーにも伝えていたところでございます。こんなにも早く役に立つとは思ってもみませんでしたが……」
「マクベス、分かっている。私が悪いのだ。それよりも米はあるのか?」
「はい。先ごろ、リューイ殿が連絡してくださった業者が屋敷に米を運んできてくれましたのでいつでもお作りできます」
「そうか。助かるな。ではシュウが目を覚ましたらすぐにお前に声をかける」
「旦那さま、もうシュウさまにお手はお出しにならないようにお気をつけくださいませ。もし、お約束を違えましたらシュウさまは客間で休んでいただきます」
「分かっている。もう何もしない。シュウの世話に最善を尽くす」
そういうと、ようやく納得してくれたようでマクベスは部屋を出ていった。
寝たまま薬を飲ませようと思ったが、少し量が多すぎる。
起こすのは可哀想だが、薬を飲ませないわけにはいかない。
声をかけると、熱を出していることに気づいていない様子のシュウが目を覚ました。
無理をさせすぎたせいで熱を出させてしまったのだと詫びたのだが、
「あやま、らないで……ふれっど……すこしの、ねつくらい、だいじょうぶ、だから……しんぱい、しないで……」
と苦しげな声で私に気を遣ってくれる。
ああ、身体も辛いだろうに……なぜこんなに優しいのだろう。
熱で熱くなったシュウの身体を抱き起こし、薬をまずは自分の口に含んでシュウの口に少しずつ流し込んでいく。
全部きちんと飲み干せただろうかと尋ねると、シュウは返事の代わりに口をあーんと開け、空っぽの口内を見せてくれた。
小さくて赤く可愛らしい舌が目に止まる。
それだけで昂りそうになるが、相手は病人。
ここで襲い掛かれば本当に鬼畜の所業。
マクベスの監視のもとでシュウと離れ離れにされてしまうだろう。
それだけは絶対に避けなければならない。
「シュウ、何か欲しいものはないか?」
薬で栄養補給はしたとはいえ、何か食べたいものがあるかもしれない。
シュウの好きな果物でも持ってこようかと、少しの間シュウから離れて、昂る愚息を躾でもしてこようかと思っていたのだが、シュウは私の服の裾を掴み、
「なにもいらない……ここに、いてぇ……」
と必死に頼んでくる。
ああ、こんなにもシュウは私を必要としてくれているというのに私は……なんて愚かなのだろう。
何よりも大切なシュウが私がそばにいることを望んでくれているのだ。
私はずっと抱きしめているからと約束して、シュウの隣に横たわった。
熱が下がったらあの中庭に行こうと声をかけ口づけを贈るとシュウは笑顔を見せながら眠りに落ちていった。
いつ急変するかもしれないと気を張ってシュウの様子を見守っていたが、マクベスの用意してくれた薬が少しずつ効いているようだ。
熱を持っていた身体が少しずつ平常を取り戻しつつある。
本当によかった。
頬を柔らかな指が滑っていく、そんな感触がして目を覚ました。
ハッと気づいて隣にいるシュウに目をやると、いつもの笑顔を見せながら私をみている。
「シュウ……大丈夫か?」
そう尋ねる私に、
「フレッドがずっとそばについててくれたから、ぼく……早く治ったんだよ」
と嬉しい言葉を返してくれる。
ああ、熱が下がって本当によかった。
実のところ、あれから二日熱は上がったり下がったりを繰り返し、ようやく昨晩から熱は平熱を保っていたのだ。
薬で栄養補給はしていたが、流石に腹も空いたろう。
食事を持ってくるからと言って寝室を離れ、ベルを鳴らすとすぐにマクベスがシュウの食事を持ってやってきた。
「マクベス、流石に早いな」
「シュウさまのお熱が下がって大変ようございました」
「ああ、心配かけて悪かったな。この食事をしたらさらに体調も良くなるだろうから安心してくれ」
そう言って、食事を受け取りシュウの元に戻った。
きっとこの食事を見て大喜びするだろうな。
そう想像するだけで笑みが溢れる。
シュウの目の前にテーブルを用意してやり、トレイに乗せたまま食事を置く。
小さな鍋の蓋を開いてみせると、
「わぁーっ、お粥だ!」
と目を輝かせて喜んだ。
「ねぇ、これ……どうしたの?」
驚きの表情を見せるシュウにマクベスがアレクから教えてもらったのだというと、ますます驚いていたが、シュウのことがたくさん書かれたあの例の予言書を見せてもらい、そこに書かれていたトーマ王妃のレシピでこの『お粥』を作ったのだと伝えると、
「じゃあ、この『お粥』……お父さんの味なんだ……」
と感慨深そうに呟いた。
そう、まさしく父の味。
シュウにとってはトーマ王妃との思い出をつなぐ大切な味なのだろう。
せっかくだから温かいうちに食べようと声をかけ、シュウの口へと運んでやる。
シュウが火傷をしないようにふーっふーっと冷ますのを忘れないように運ぶと、シュウは美味しそうにそれをたべた。
この粥のおかげですっかり体調も戻ったのか、ぱくぱくと食べ進めるシュウを愛おしく思いながら、この粥を作るために尽力してくれた皆に感謝の気持ちでいっぱいになっていた。
食事を終え、薬を飲ませてからシュウを休ませる。
食事も食べられたことだし、目を覚ました頃にはきっとすっかり治っていることだろう。
シュウが深い眠りについてしばらくした頃、扉を叩く音が聞こえた。
この音はマクベスではないな。
ルーカスか?
もしや何か賊でも?
シュウに何かがあれば危険だと思い、シュウを起こさないように寝室を出てそしてすぐに扉をあけた。
「どうした? 一体何事だ?」
「旦那さま、申し訳ございません。実はレオン殿とルドガーに何やらあった様子でして……」
「なに? どういうことだ?」
「私も把握できていないのですが、どうやらレオン殿がルドガーに部屋から追い出されたようです」
「追い出された、だと?」
「はい。どうやらそのようです」
「とりあえず、本人に話を聞いてみよう。話はそれからだな」
シュウのことが心配だが、レオンたちも気になる。
とりあえず話を聞いてみないことにはどうしようもない。
単なる痴話喧嘩であれば良いのだが……。
警備兵を二人、部屋の前に置き何か物音がしたらすぐに呼びにくるように。
絶対に中に入るなと強く含めて、ルーカスと共に使用人棟へと向かった。
部屋に近づくと、レオンの声が聞こえる。
「ルドガー、ここを開けてくれ」
その悲痛な声に単なる痴話喧嘩ではなさそうだと感じる。
「レオン」
ルドガーに聞こえないように小さな声でレオンを呼ぶと、さっとこちらに目を向けてきた。
指でクイっとおりまげこちらに呼ぶと、レオンは部屋の中にいるルドガーを気にしながらもこちらに来た。
「フレデリックさま……」
「お前とルドガーに何か問題が起きているようだとルーカスに話を聞いてきたのだが、どうした? 何があったのだ?」
そういうと、レオンは私の後ろにいるルーカスを気にする素振りを見せたため、ルーカスにシュウの部屋の前で警護しておいてくれと声をかけた。
ルーカスが離れたのを確認してレオンにもう一度問いかけた。
「それで何があったのだ? まさか無理やりに――」
「そ、そんなことは決してっ!」
「ならば、どうしたのだ? お前が外に出されるとは余程のことだろう?」
「実は……ルドガーに騎士団長を辞めるのに躊躇いはなかったのかと問いかけられまして、唯一であるルドガーには嘘偽りのない真実の私を知っていて欲しくて……」
「やはり、ルドガーとは唯一だったのか?」
「はい。そうです。確認しました」
「そうか、それはめでたいな。それで嘘偽りのない真実とはどういうことだ?」
「ルイ・ハワードであった頃の記憶と、そしてそれを思い出したレオンの記憶も含めてルドガーに全てを打ち明けたのです」
「なに? ルイの頃の記憶も含めて全部? それはもしやシュウへの思いも……ということか?」
私の問いかけにレオンは当然とでもいうように、大きく頷いた。
「もちろんでございます。ルドガーに隠し事などしたくありませんから!」
そう言い切るレオンに、ルドガーがレオンを追い出し部屋に引き篭もった理由がわかった気がした。
「なるほど……そういうことか」
「フレデリックさま? どうなさったのですか?」
「お前の話はわかった。とりあえず、シュウが心配なので一度部屋に戻るが、またすぐに来る。それまでしばらく待っていろ」
「は、はい……」
レオンは不安げな表情を見せていたが、理由がわかった今、ここで無闇にルドガーに話しかけても火に油を注ぐだけだろう。
何か対策を考えてからにした方がいい。
私は急いで部屋に戻った。
部屋の前にはルーカスと警備兵二人がしっかりと立っているのが見える。
「異常は無いか?」
「はっ。物音ひとつありません」
「よし」
安心しながら、静かに部屋に入り寝室へと向かうと、身体を起こしベッドから下りようとしているシュウと目があった。
私がいなかったから探しに行こうと思っていたんだと言い出して、急いで帰ってきて本当に良かったと胸を撫で下ろした。
シュウのことだ。
着替えもせずにこの姿のままで外に出ようとしたに違いない。
そうなればあの警備兵たちにシュウのこの格好が見られていたわけで……ああっ、想像するだけでも身体が震える。
寸前で止められて本当に良かった。
「どこに行っていたの?」
シュウにそう尋ねられてなんと言おうか正直迷った。
おそらくシュウのことで喧嘩になっているらしい二人の話をシュウに聞かせるべきか……。
悩んだものの、隠しておいておかしなことになる方が困る。
とりあえず言葉を選びながら、状況を話すことにした。
レオンとルドガーが唯一で間違いなかったと話すとシュウは喜びつつも、それならば余計に問題が起こったことを気にしているようで
「実はな、レオンが唯一には嘘偽りなく正直に話しておきたいからとルイの頃からの記憶も含めて、ルドガーに話をしたようだ」
と教えると、シュウは
「えっ? まさか……」
と驚きの声をあげた。
おそらく、シュウも気づいたのだろう。
「ああ、そのまさかだ。その話を聞いてルドガーは今でもレオンはシュウのことを好きなのではないかと不安になったようでな。ルドガーが泣いて部屋に閉じこもってしまったらしくて……」
シュウは私の話を聞きながら大きく頷いた。
そして、まだその誤解が解けていないことを知ると、ルドガーのところに一緒に行くと言い出した。
レオンの想い人だと思っているシュウが直接会いに行けば、それこそ火に油を注ぐことにもなりかねないが……どうしたものか。
とはいえ、シュウが一度言い出したら聞かないのはわかっている。
アンドリュー王もトーマ王妃がそうなのだと言っていた。
おそらく血筋なのだろう。
ここは大人しく連れていくほうがいいかもしれない。
私も一緒についていくと言い聞かせてから、シュウを着替えさせた。
そして、抱きかかえて外に出ると、目の前にマクベスとルーカスが立っていた。
マクベスに疲れの色が見える。
それもそうだろう。
シュウの熱で心配をかけたと思えば今度はレオンとルドガーのいざこざに巻き込まれているのだからな。
「ルドガーが旦那さまにご迷惑をおかけしてしまいまして……」
と謝るマクベスにシュウは
「ルドガーさんのことを思えば、閉じ籠っちゃっても仕方ないよ。だって、唯一の人に好きな人がいるかもしれないって思っちゃったんでしょう? ぼくなら悲しすぎておかしくなっちゃうかも」
などと声をかける。
喩え話だとしてもそんなことは絶対にないと言っておかねばならぬ。
シュウを悲しませたりはしないと言いながら抱きしめると、
「旦那さま。シュウさまは病み上がりでございますよ。もう少しお優しくなさったほうがよろしいかと……」
とマクベスから小声で注意をされてしまった。
ああ、しまった。
つい……。
シュウに謝り急いでレオンとルドガーの元へ向かおうとすると、シュウがちょっと待ってと私の足を止め、
「ルーカスさん。挨拶が遅くなりましたけど、これからよろしくお願いしますね」
とルーカスに挨拶をした。
そういえば、帰ってきた時にルーカスと話をしていなかったのだな。
すっかり忘れていた。
シュウの丁寧な挨拶にルーカスは嬉しそうな笑顔を見せ、
「――っ! は、はい。こちらこそご挨拶が遅れまして大変失礼いたしました。警備隊長のルーカスでございます。これから精一杯お護りいたしますのでどうぞよろしくお願い致します」
と挨拶を返した。
隣でマクベスはニコニコと笑顔を向けている。
ああ、さすがだ。
自分の大事な人が他の者に笑顔を見せていても、嫉妬もしない。
それはある意味、相手を信用しているということなのだろう。
私もマクベスを見習わないといけないな。
再び、使用人棟に向かうと、レオンはまだ部屋の前でルドガーに声をかけていた。
必死に許しを請う姿など騎士団の者たちには見せられんな。
レオンは私たちの姿を見て、謝罪をしてきたが、全ては自分のせいなのだとはっきり言っていた。
シュウがルドガーと話したいと言っていると告げると心配そうに扉を見つめていたが、扉の向こうからはまだ何の物音も聞こえなかった。
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