ひとりぼっちのぼくが異世界で公爵さまに溺愛されています

波木真帆

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第五章 (王城〜帰郷編)

フレッド   51−1

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昨夜、シュウからの甘い誘いに理性を失い、その後もとめどなく深く愛し合ってしまった。
いや、愛し合ったことに後悔は何もしていないが、シュウを疲れさせてしまったことは申し訳なく思う。
腕の中でぐっすりと眠るシュウの身体を清め、長旅最後の夜は何もつけずに生まれたままの姿で眠りについた。

散々愛し合った後だから、流石に愚息も大人しく寝てくれるだろうこの姿で寝ることにしたのだが、手のひらでシュウの滑らかな肌を堪能していると途端に熱を持ってくる。

それも仕方ないか。
私はどれだけ愛し合ってもシュウの身体には飽きることなどない。
いつでもどんな時でもすぐに昂ってしまうのだから。

それでもシュウと離れて寝る気には到底なれなくて、必死に愚息を宥めながらシュウを抱きしめて眠った。

スウスウと穏やかな寝息を立てるシュウはさっき私の上で淫らな姿を見せてくれてたシュウと同一人物には思えないほど、清らかで天使のような寝顔を見せてくれている。
私はどちらのシュウも等しく愛している。

ああ、どちらの姿も私だけしかしらない。
私だけのものだ。

トクトクトクとシュウの鼓動が肌を伝わってくる。
唯一とはおそらく前世ではひとりの人間だったのだろう。
だからこそ、こんなにも惹かれあう。
命尽きる時が同時なのもそれが理由だろう。

シュウ……サヴァンスタックに戻り公爵に戻っても、私は永遠にシュウだけのものだ。
それを忘れないでくれ。


シュウの甘い匂いと温もりに包まれて私は深い眠りについた。
先に目覚めたシュウがお互いに裸で眠っていることに気づき、真っ赤な顔をして私を起こすまであと数時間……。


「もうびっくりしちゃった」

「ふふっ。シュウが驚いて私を起こした時は可愛すぎて笑ったな」

「だって、起きたら突然フレッドが裸で寝てるんだもん」

「シュウの柔らかな肌を堪能しながら寝られたから、ぐっすり眠れたぞ。旅の疲れも吹き飛んだな」

いつも幸せな眠りの時間だが、昨夜はいつにも増して本当に至福のひと時だった。

「えっ? じゃあ……毎日裸で寝ちゃう?」

「――っ!!! 本当か?」

「でも、流石にお屋敷じゃ無理かな。突然の事故とかで慌てて部屋から出る時裸だったら恥ずかしいし……」

「いやいや、そんなことありえないから心配することなどない。ならば、数日試してみよう。それでシュウがどうしても気になるならまた考えるとしよう。なっ」

「う、うん。わかった。これから公爵さまのお仕事も増えて忙しくなるし、フレッドがぐっすり眠れるならその方がいいしね」

ああ、シュウはいつでも私のことを第一に考えてくれるのだな。
私は本当に幸せものだ。

「シュウ、身体の疲れはないか?」

「うん、大丈夫。これもフレッドと裸で眠ったおかげかな……なんて。ふふっ」

「そうだな、そうかもしれないな。シュウの体力回復にも一役買っているのなら、いいことばかりじゃないか」

「ふふっ。フレッドったら。わぁー、そろそろだね。アンナさんとリューイさんのお店」

シュウに言われて外の景色を見ると確かにあの港町の近くまで来ているようだ。

シュウがこのあたりの景色を覚えていたのかと思ったが、潮の香りで海が近いと思ったらしい。
言われてみれば少し開けていた馬車の窓から微かに潮の香りが漂ってくる。

相変わらずシュウの鼻は冴えていて素晴らしいな。


シュウが待ち望んでいた港町に入ろうかという時、少し離れた場所で大勢の者たちの騒いでいる声が聞こえ始めた。
シュウもその声に気づいたようで少し怯えている。

せっかく楽しみにしている場所でシュウを怖がらせるわけにはいかない。
我々の馬車に並走するレオンに声をかけ、騒ぎの理由を調べさせると、

「どうやら、フレデリックさまがご伴侶さまをお連れになったとの情報が流れてお祝いを申し上げたいと詰めかけているようです」

騒ぎの理由は私だった。

遠目で見ても、町中の者ほぼ全員が集まっているのではないかと思えるほど私たちの馬車がくるのを待ち構えているように見える。
あれほどの大人数の中にシュウを連れて歩くのは警護の面から言ってもかなり危険だ。

だが、シュウは我々への祝福のために集まってきてくれている者たちを邪険に扱うことなど考えていないようだ。
シュウにちゃんと挨拶がしたいと言われればダメだとも言えず、私はシュウに危険のないように騎士たちを配備させるようレオンに指示を出し、停まっていた馬車は群衆の方へゆっくりと進み始めた。


少しずつ群衆に近づくにつれて、私たちへの祝福の声が飛び込んでくる。

誰からも私を蔑むような声は聞こえない。
そのことに本当に歴史が変わったのだと痛感する。

喜びに胸を震わせた瞬間、シュウが馬車の窓から見える者たちに笑顔で手を振った。

きっと祝福の言葉を贈ってくれたことに対するお礼のつもりだったのだろう。

ところが、シュウの微笑みを見た彼らは

「「「ぎゃあーーーっ!!!!」」」

と地鳴りのような大声をあげた。

その途轍もない迫力にシュウは驚き怯えたように私に抱きついてきた。

腕の中で震えるシュウを抱きしめ、シュウに絶対に私から離れないように言いふくめ、窓の外を走るレオンに目を向けた。

本来ならば馬停場で馬車を降り、店まで歩く予定であったが、この様子では危なすぎる。
店の前に停めるようにと合図を送ると了承の合図を送り返してきた。

馬車の周りを騎士たちで囲い、シュウを抱きかかえて降りると私たちのすぐ隣にレオンが立った。
これで少しは安心だろう。

「サヴァンスタック公爵さま~! おめでとうございま~す!!」

周りから投げかけられる祝福の言葉は嬉しいが、あまりの多さに私でさえほんの少し怯んでしまうほどだからシュウは怖くてたまらないだろう。

シュウのためにもすぐに鎮めた方がいいだろう。

私は彼らの声に応えるために、シュウをひととき隣に下ろし、片手を上げた。

領主である私が行方不明になったという話は、ここに住む者たちにとってこれからのサヴァンスタックの未来への不安を抱かせたことだろう。
まずはそれについての詫びを言いたかった。
そして、私の隣に立つ美しい彼が私の伴侶であり、唯一だと宣言した。
シュウがこれから私と共に皆のために、そしてこの領地のために頑張ってくれると告げ、シュウが私の命よりも大切な存在なのだと話し終えると、静かに話を聞いてくれていた群衆からは大きな拍手と共に私とシュウ、そしてこれからのサヴァンスタックに対する祝福の声が巻き起こった。

誰一人反対する声が聞こえないことに感動して、私はシュウを抱き上げ皆に見せてやった。
これでシュウは私の大切な存在だと見せつけることができただろう。

私は喜びに震えながら、レオンの呼びかけに答えシュウを連れ、アンナとリューイの店に入った。

人々の視線から離れた瞬間、私とシュウから同時に安堵の息が漏れた。
シュウはもちろん、私も少なからず緊張していたようだ。

シュウを下ろしピッタリと寄り添いながら、私たちを迎えてくれたアンナに店先を騒がせてしまったことへの詫びの声をかけた。

しかし、アンナは私の無事な姿に喜んでくれたばかりか、シュウをつれてきたことへの礼を言ってくれた。
相変わらずアンナは私を喜ばせてくれるな。

私と同じように不遇の人生を歩んできたリューイはどう変わっただろう。
私の知る世界では辛い思いをしてきたリューイ。
今は少しは明るく自信に満ちているだろうか?

リューイを呼んでくれと頼むと、アンナは元気よく

「リューイ! リューイ! 公爵さまがお呼びだよー!!! ほら、お待たせしないで!」

と大声で呼びかけた。

その瞬間、以前来た時のことが思い出される。
思わずシュウと顔を見合わせて笑い声が溢れる。

こうやって昔の思い出で笑い合えるというのはなんと幸せなことなのだろうか。

すぐにアンナに引っ張られるように我々の元にやってきたリューイは以前のようにおどおどした様子は全くなく、

「リューイ! 元気にしていたか?」

と声をかけると、ハキハキとした嬉しそうな声で

「はい。公爵さま、この度はお越しいただきありがとうございます。そして、素敵なご伴侶さまとご縁がおありになったようで本当におめでとうございます」

と返してくれた。

自分に自信があればこんなにも変わるものなのだな。
本当にあの忌々しい歴史が変わったことは私を含めてどれほどの者たちの人生を明るいものに変えてくれたか。
本当に素晴らしいことだ。

私はアンナとリューイにシュウが私の大事な伴侶で唯一だと知らせた。
シュウは唯一と知らせることの意味を理解してたからか、今日は何も反対はしない。

シュウが唯一だと知ったアンナの喜びは凄まじかった。

その心からの喜びに感謝しながら、リューイにシュウのために美味しい食事を頼むというと、リューイもまた嬉しそうに腕によりをかけて作ってくれると言ってくれた。

二人の言葉が嬉しくて礼をいうと、アンナとリューイは驚きの表情を見せた。
それが気になって尋ねると、私の心から嬉しそうな笑顔を見るのが初めてで驚いたのだと教えてくれた。

「おそらく、ご伴侶さまがおそばにいらっしゃるからでございましょう」

そう言ってくれるアンナの言葉に共感する。
そうだ。
私はシュウがいてくれるだけでどこにいても幸せになれるのだ。


「さぁ、公爵さま。ご伴侶さま。こちらのお席へどうぞ」

アンナが案内してくれたのは以前と同じ個室。
別に以前の記憶があるわけではない。
ただこの個室が一番見晴らしがいいというだけだ。

だが、あの時と同じ席に座れるからこそ、懐かしさもひとしおだ。

きっと以前来た時のことを思い出してくれているのだろう。
シュウの表情が随分と柔らかい。
先ほどまで少し怯えた表情が残っていたが、ようやく落ち着いたようだ。

シュウの椅子にピッタリとくっつけるように自分の椅子を並べる。
本当ならば膝に乗せたいところだが、今日はシュウの楽しみにしている食事だから邪魔をしたくない。
とはいえ、離れてはいたくないからピッタリとくっついて座るのは許してもらおう。

シュウが嬉しそうに私の隣に座ったところで、扉の前に立っていたマクベスとレオンに声をかけた。

「ここは二人でいい。お前たちは外の席で食事をとっていろ」

二人はすぐに私の意図に気づき、部屋を出ていった。
今のうちに二人でこれからの対策でも考えてくれることだろう。

ようやく二人だけの空間が訪れてシュウから安堵の息が漏れる。
きっと無意識に出ているのだろうが、やはり少し気が張り詰めていたのだな。

あの大勢の者達の勢いに呑まれシュウは怖かったと漏らした。
やはり私は軽率だった。

歴史が変わって、私がただ蔑まれなくなったわけではない。
なんといってもアンドリュー王の生まれ変わりだと言われるほどそっくりな私だ。
その私が治めるサヴァンスタックの領民たちはトーマ王妃にも匹敵するような素晴らしい人を伴侶に娶るに違いないと楽しみに待っていたはずだ。
その私が30を過ぎても伴侶を娶ることもなく、一人で過ごしているのを領民たちは今か今かと待ち侘びていたことだろう。
そんな私が行方不明の末にようやく伴侶を娶り、領地へと連れ帰ってきた伴侶があのトーマ王妃にそっくりとなれば、あれほどの騒ぎになることなど容易に想像できたはずだ。

やはり、私の中ではまだ嫌悪され蔑まれていた頃の自分が頭に残っているのだ。
だから、こんなにも騒がれるとは想像できずにいたのだ。

そのせいでシュウを怖がらせ危険に晒してしまった。

すべては私の軽率さが招いた失態だ。
シュウだけでなく、私も自分がどんなふうにみられているのかをしっかりと理解しておかねばならぬのだ。

そう話すとシュウも理解を示してくれた。

シュウとしては我々の祝いにと駆けつけてくれた者たちの気持ちに応えたいという純粋なものだったのだろう。
だが、それがあれほどの騒ぎを巻き起こす原因となった。
今日はレオンをはじめ、護衛騎士たちのおかげであれ以上の騒ぎにはならずに済んだが、もしかしたら興奮してしまったものたちによってシュウが怪我をする事態になってしまったかもしれない。

そうなればお祝いムードなど一瞬にして消えてしまう。
せっかくのおめでたい話がこれで立ち消えとなってしまうのは、領民たちにとっても、そして我々にとっても辛いことだ。
彼らの祝いの気持ちを踏み躙ることのないように、そしてシュウを危険に晒すことのないように……全て計画しなければな。

レオンとマクベスのことだ。
さっきの騒ぎを踏まえて一足早く騎士たちを屋敷周辺に先回りさせてくれていることだろう。

シュウに心配しないでいいよと伝えると、それでもシュウは私が行方不明となったことを心配していた領民たちの気持ちを慮って、私が元気であることを伝えた方が良いのではないかと言ってきた。

やはりそういうだろうと思っていた。

だから私は近いうちに護衛騎士たちとも相談して、領民たちと貴族たちと日にちを分けてシュウのお披露目会をし、その時にシュウも皆に挨拶できるようにしようと話をした。

シュウは私の考えに賛同してくれて、そして、

「フレッド……大好きっ!!」

と抱きしめてくれた。
ああ、シュウから抱きついてきてくれるのは本当に嬉しい。

それにしても今回の件で私たちはお互いに悪かったことを認め合い、きちんと相談し合えるようになったのだ。
こうなれたのも私に自信がついたからだろうか。

しばらく二人で抱き合っていると、扉が叩かれた。
どうやら食事ができたようだな。

自分の席へと戻ったが、手は繋いだままアンナを迎え入れる。
すると、アンナと一緒にリューイが料理を運んできた。
それだけで感動している自分がいることに気づいた。

以前の世界ではリューイは決して厨房から出ようとしなかった。

それもこれも見目の悪い自分が作っているということで店の評判を下げたくなかったから。
シュウと食べにきた時に我々の前に出てきてくれたのはシュウが美味しい料理を作ってくれたリューイに会いたいと言ったからだ。

決して厨房から出ようとしなかったそのリューイがイキイキと料理を運んでくれる姿が私は嬉しかった。
目の前に料理を置き、

「ごゆっくりお召し上がりください」

と笑顔で声をかけてくれるリューイの姿に思わず目が潤んでしまった。
ああ、この世界は本当に良い世界になってくれたものだな。
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