ひとりぼっちのぼくが異世界で公爵さまに溺愛されています

波木真帆

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第五章 (王城〜帰郷編)

フレッド   46−2

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エルドにシュウの服を仕立てるように頼むと、エルドは嬉しそうに、今シュウが着ている服が自分の仕立てたものかと尋ねてきた。

シュウの着ている服はアレクがシュウのために仕立てておいてくれたものでサイズはもちろんのこと、私の好みをよくわかってくれていると思った。

だからこそ、今すぐにでも私がシュウの服を仕立てたくなったのだ。
私の望むものを全て詰め込んだとっておきの一枚が欲しい。

エルドは私の思いを感じ取ってくれたようで、私の意見を取り入れながらも素晴らしい助言を与えてくれた。
このように話し合いをしながら、シュウの服を作ることができるとは思いもしなかった。

以前なら、私の意見だけを取り入れたまま、希望を叶えるだけの服が出来上がったことだろう。
だがこうやって職人であるエルドの意見を聞くことができたからこそ、私が思っている以上の服が完成しそうだ。

本当に素晴らしい世界になったものだ。

大満足の服が注文でき、もうすでに出来上がりが待ち遠しくてたまらない。
エルドに出来上がり次第、領地へと戻りたいのでできるだけ早く完成させて欲しいと頼むと、エルドは喜んで了承し、すぐに仕立てに取り掛かると言って部屋を出ていった。

私は心晴れやかなままに、シュウに散策にいこうと声をかけた。

シュウはようやく散策に行けると嬉しそうに微笑みながらも、後ろにいるレオンを気にしていたが、レオンがついてくるというので頼むことにした。

シュウに断られたばかりで大丈夫なのかと思ったが、当のレオンはあまり気にしてはいないようだ。

せっかくの王城散策の時間だ。
シュウの行きたい場所へ行こうと、シュウにどこに行きたいかを尋ねた。

とはいえ、多分あの場所だろうなと見当をつけていた。

「中庭に行きたいな」

ああ、やっぱりな。
シュウがこの城の中で一番に訪れたい場所はそこしかない。

やっぱり考えることは同じだなと嬉しくなり、笑顔を向けるとシュウもまた嬉しそうに微笑んでくれた。

王城の中庭はトーマ王妃と過ごした思い出の場所。
一歩一歩踏み締めるようにあの東屋へと向かうシュウはどんな思いでいるのだろうか。

すると、緊張していたシュウの顔が突然綻んだ。
何かを思い出したのだろうかと思った瞬間、芳しい花の香りが漂っていることに気づいた。

ああ、この香りか。

毎日毎日トーマ王妃と共にいつも嗅いでいたであろうあの麗しい花の香り。
それを覚えていたんだな。

東屋を見つけて駆け寄ろうとするシュウの手をとり、一緒に東屋へと向かった。

いつも座っていた席に躊躇いもなくシュウが座るのをみて、まるで指定席のようだなと笑みがこぼれる。
私はトーマ王妃の座っていた席に腰を下ろし、今までと同じ体験をさせてやりたいと思った。

「シュウ、せっかくだからここでお茶をしようか」

そう声をかけると、シュウは嬉しそうに頷いた。
ふふっ。やっぱりシュウの喜ぶ顔は最高だ。

ブライアンにお茶を頼んでくれとレオンにいうと、レオンは周りを守っていた騎士にそれを伝え、騎士はブライアンの元へと急いで向かった。

私にはごくありふれた光景だが、シュウを見るとなぜかびっくりしている。
どうやら騎士が突然現れたことに驚いたらしい。

我々の警護にはレオン以外にもおそらく5人はいるだろう。
アンドリュー王の生まれ変わりだと思われている私と、そして神の力で授けられたトーマ王妃の子であるシュウにレオンだけが護衛でつくわけがない。
いや、そんなことをアレクが許すはずがないのだ。
それは騎士団長であるレオンがアレクではなく、我々についているのが何よりの証拠。

王国騎士団最強と言われているレオンがついているというだけで我々がどれだけ重要だと思われているかわかるだろう。

そうは言ってもシュウはどこにいる時も変わらない。
自分に大勢の人員がついてくるのが申し訳ないと思っているのだ。

シュウも気持ちもわからないではないが、レオンだけが護衛につくことは未来永劫あり得ないだろうな。

そう思っていると、シュウが

「フレッドが一緒にいてくれたら、何かあったらフレッドが助けてくれるから騎士さんたちが守っていてくれなくても何も心配はないでしょう?」

と当然のことのように言ってくれる。

それほど私のことを信頼してくれているのだ。

そうだな。
私がいつでもシュウのことを守っているから問題ない。
騎士たち数十人分の力で私がシュウを守るよ。

ブライアンがワゴンにお茶を乗せてやってきた。
ああ、この時代の紅茶を飲むのはかなり久しぶりだ。
というよりブライアンが淹れてくれる紅茶をまた飲める日が来るとはな……。

あんなに好きだったブライアンの紅茶だが、飲めなくなって10年以上経っていることもあってブライアンの紅茶の味を忘れてしまっている。

もうすっかりここ数ヶ月ブルーノの淹れてくれていた紅茶に染まっていたから、なおのことブライアンの紅茶が懐かしい。
しかも、子どもの時から好きだったブライアンの紅茶をシュウと一緒に飲める、こんな未来が来るとは思いもしなかった。

これも全てシュウと出会えたからこそだ。
シュウは本当に私を幸せにしてくれるために現れたのだな。

シュウを見ると、紅茶はもとより一緒にワゴンに乗っているお菓子にも興味が向いているようだ。

ふふっ。
以前は毎日トーマ王妃とのお茶に、美味しいお菓子を食べていたからな。
ブルーノはその菓子に合う紅茶を淹れるのが本当に上手だった。

ブライアンの紅茶の腕前はどうだろうな。
楽しみでたまらない。

期待しながら、ブライアンが紅茶を淹れるのをみているとフワッと風に乗って甘い果物の香りが漂ってくる。
これは紅茶の香りか……?

どんな紅茶なのか想像もつかない。
だが、ブライアンの満足そうな表情を見る限り、きっとうまく淹れられたのだろう。

目の前に置かれた紅茶のカップはシュウと対のもの。
きっとブライアンが選んでくれたのだろう。

その気持ちを嬉しく思いながら、紅茶を啜ると懐かしい味がする。
ああ。ここにいた頃、毎日飲んでいた紅茶はこれだったな。

あまりの懐かしさに涙が込み上げそうになるのを必死で抑えながら、ブライアンに目を向けると、柔らかく微笑み返してきた。
きっと私がこの味に気づくかどうか考えていたに違いない。

ふふっ。
忘れるわけがないだろう。
ブライアンの紅茶に何度心救われたことか……。

隣ではシュウが紅茶を飲み、苺の味がすると驚いている。
シュウの紅茶にはきっと苺ジャムを溶かしたのだな。

ああ、懐かしい。
私も子どもの頃、ブライアンの淹れてくれるこの苺ジャム入りの紅茶が好きだったのだ。

シュウが私の好きだったものをこんなにも手放しで喜んでくれるとは……なんとも嬉しいことだ。

だが、シュウの目がブライアンにばかり向いていることに嫉妬してしまい、シュウの興味を惹きつけようと焼き菓子を食べてみてくれと声をかけた。

すぐに紅茶から私の差し出す菓子に目を向けてくれるシュウが愛おしくてたまらない。
こんなにも私のことを思ってくれているのだから、いちいち嫉妬などする必要などないのだが……。
私ももう少し寛大にならなければな。

今日の菓子はアリーチェ王妃のおすすめだという焼き菓子。
この『ファーナ』という硬めの焼き菓子は紅茶と一緒に食べるようにできているらしい。

アリーチェ王妃のおすすめだと聞いて嬉しそうなシュウの口に、小さな焼き菓子を一つ入れてやるとシュウは紅茶を一口飲み、

「本当に口の中で溶けていく。美味しいっ!!」

と目を輝かせて喜んでいた。

シュウの可愛らしい顔を見てそんなに美味しいのかと尋ねると、当たり前のようにフレッドも食べてみてと言いながら、『あーん』と言って食べさせようとしてくれる。

視界の隅にレオンが見えるが、警護としての立場を弁えているようでなんの表情も見せない。

さすがだなと思いながら、シュウに食べさせてもらうついでにシュウの指まで咥え舐めとってやると、

「ひゃ――っ、もうっ、フレッドっ!」

シュウの可愛らしい声が中庭に響く。
ちょっとしたシュウへの悪戯のつもりだったが、周りで警護している騎士たちにも聞かせてしまったのは失敗だったな。

さっと周りに視線を向けると、私の意図に気付いたのか騎士たちがスッと離れていく気配を感じたからまぁそれでよしとしといてやろう。

ブライアンの紅茶と菓子を楽しみながら、シュウと2人だけの時間を過ごす。
こんな穏やかな時間が心地良い。
まるで世界がシュウと2人だけになったようなそんな時間の中で、

「フレッド、なんだかぼくたちだけみたいだね」

と同じことをシュウが思ってくれているのが嬉しい。

さっきまでいた護衛騎士たちが、私たち……特にシュウが気にせずゆっくりできるように移動してくれたんだと教えてやると、シュウは今気づいたとでもいうようにトーマ王妃とのお茶会での護衛騎士たちの話を持ち出した。

あの時も同じようにたくさんの護衛騎士がいたのかと尋ねられ、あの時は10人はいたと教えてやると目を丸くして驚いていた。

2~3人くらいかと思っていたと言っていたが、シュウとトーマ王妃の護衛に2~3人だなんて少なすぎてどこにも行かせられない。

アンドリュー王が私の想いを汲んでくれていたというのもあるだろうが、アンドリュー王自身も2人のことが心配であったし、それに愛していたんだ。

シュウがトーマ王妃の子だとわかる前から、アンドリュー王はシュウのことを気にかけてくれていたからな。
そして、私もこともいつも気にかけてくれた。

アンドリュー王のことは父であり、兄であり、そして親友のように思っていた。
もう会えないのは本当に寂しいが、共に過ごしたあの素晴らしい時間を私は生涯忘れることはないだろう。

紅茶も飲み終わり、楽しい時間を過ごしたところで、シュウに他の場所にもいってみようかと声をかけると、シュウは厩舎にいきたいと言い出した。

ふふっ。
やはりシュウ。
馬が好きなのは変わらんな。

流石にあの時代にいた子たちは残ってはいないだろうが、もしかしたら子孫には会えるかもしれないな。

思い出の場所巡りにはいい場所を選んだと思う。

「レオン、ブライアン」

そう声をかけると、2人はすぐに我々の元に駆け寄ってきた。

「今から厩舎に移動する」

「厩舎、でございますか?」

「ああ。シュウは馬が好きなのだよ」

「なるほど。乗馬されるのですね」

「ふふっ。違う。挨拶しにいくだけだ」

「えっ? 挨拶、でございますか?」

まぁ、その反応が普通だろうな。
わざわざ馬に挨拶しにいくものなどいるはずがないのだから。

不思議そうな表情で顔を見合わせるレオンとブライアンに行ってみればわかると声をかけると、

「畏まりました」

と頭を下げていた。

中庭からそのまま厩舎への道のりを歩いていくと、遠くの方に綺麗な建物が見えた。
そうだ、あれが厩舎だ。
もうすっかりあの時代の厩舎に慣れすぎていたが、私が生まれた時には今のこの綺麗な建物だったのだ。
サヴァンスタックに移ってからは王城に来る機会があっても、なかなか厩舎まで足を運ぶことがなかったから私にとってもかなり久しぶりの厩舎だ。
懐かしいな。

あの時代の厩舎より広くなったというシュウに、馬たちが増えたのだろうと教えてやるとなるほどとでもいうように大きく頷いていた。

私が声をかける前にレオンが厩舎へと駆けて行って、厩務員と話をつけてくれているようだ。

すぐに厩舎からレオンと共に駆けてきたのが主任厩務員のジェシー。
私の記憶にはいないが、おそらく私が城を出てから入ったのだろう。


「サヴァンスタック公爵さま、並びにご伴侶さま。
こんな場所にわざわざお越しいただくとは……どういった御用向きでございましょう?」

緊張しているのか、声が少し上擦っている。
が、それよりもシュウを見ながら少し顔を赤らめているのが気になる。
シュウが美しいことは分かりきっていることだから多少見られるのは仕方がないとしてもやはりこのことは伝えていた方がいいだろう。

私の大切な伴侶・・・・・・・に王城を紹介して回っているのだが私の大切な伴侶・・・・・・・が厩舎にいる馬たちに挨拶したいというのでな、連れてきたのだ」

シュウの手前私の大切な伴侶としか言わなかったが、ここまであからさまに強調して言えば大体のものは察するはずだ。
シュウが私の唯一なのだと。

しかし、ジェシーは馬に挨拶するということに驚き、そこは耳に入っていないようだ。

ジェシーは不思議そうな表情をしながらも我々を厩舎へと案内してくれた。

シュウは広々とした厩舎内を興味深そうにキョロキョロしている。
ふふっ。
そういうところも可愛い。


「こちらの2頭が国王陛下の馬車を引いております、ジャスパーとチャーリーでございます」

この2頭は知らないな。
この子たちも私が城を出てから入ったのか。
だが、綺麗な毛並みの子たちだな。
シュウが好きそうだ。

挨拶だけで終わるとは思えないな……。

そう思っていると、隣に立つシュウが私の袖を掴んできた。
シュウに目をやると、漆黒の瞳をキラキラと輝かせながら

「フレッド……ジャスパーとチャーリーをヨシヨシしたいんだけど、ダメかな?」

と可愛らしいおねだりがやってきた。

はぁー、やっぱりか。
そうだと思っていたよ。

とはいえ、こんな可愛いおねだりをされて断ることもできまい。

普通なら可愛い伴侶が馬を撫でたいと言い出したら、全力で止めるところだが。
いや、そもそも馬を撫でたいとは言い出さないか。

シュウの目は私が断らないことを知っている。
にっこりと笑顔を浮かべながら、

「フレッド、大好きっ」

と腕に抱きついてくる。

ああ、もうこれで断ることなど絶対にできないな。

ジェシーにとりあえず声をかけてみるとするか。

「ジェシー、シュウがジャスパーとチャーリーを撫でたいと言っているのだ。良いか?」

そういうと、ジェシーは目を大きく見開いて驚きの声をあげた。

チャーリーはともかくジャスパーは難しいと心配するジェシーに元々気性が荒いのかと尋ねたのは、この2頭がアレクとアリーチェ王妃の乗る馬車を引いているからだ。

このオランディア王国の王と王妃の乗る馬車にそんな気性の荒い馬をあてがうわけはないと思ったのだ。

案の上、ジェシーはいつもはそうではなく、昨夜から興奮しているのだと教えてくれた。

そうか、やはりな。
おそらく、シュウがこの城に現れたからだ。

動物に愛される能力を授かったシュウがこの城に現れたからこそ、その力を敏感に感じ取ったジャスパーが興奮したのだろう。
ある意味、ジャスパーは馬の中でも能力が高いといえる。

ジェシーには、ジャスパーが興奮しているのはシュウのせいかもしれないとだけ伝えるとかなり驚いていたが、種明かしはしなかった。
いや、話しても信用しないだろうから、その目で実際に見た方が信じると思ったのだ。

シュウをこちらに呼び寄せ、ピッタリと寄り添いながらジャスパーの馬房へと向かう。

シュウは段々と近くなるジャスパーにもうすっかり心を奪われているようだ。

「わぁっ、本当に可愛いっ!」

シュウの声を聞き取ったジャスパーは、つい今まであげていた嗎を止め、シュウに向かって顔を近づけた。

どうぞ触ってくださいとでもいうように、顔を差し出してくるジャスパーの姿を見てジェシーとレオンの驚いているのが視界の隅に入った。

ふふっ。やはり最初は驚くだろうな。
私も初めて見たときは驚愕したものだ。

周りで驚いている姿など知るはずもなく、シュウだけは可愛らしい声をあげながら、ジャスパーの鬣をそっと撫でていた。


ジャスパーを優しく撫でながら、私にすごく可愛いよと笑顔を見せてくれるシュウに手を振りながら、ジェシーに驚いただろう? と尋ねると、ジェシーは目を大きく見開いて驚いていた。

聞けば、元々気性の荒い馬ではないがどんなに機嫌がいい時でさえ、鬣に自分から触れさせることなどは絶対にありえないのだという。

まぁ、そうだろうな。
馬にとって鬣に触れされるのは服従の証のようなものだ。

それを自分から触れさせるとは信じ難い光景だろう。

「シュウは馬に限らず、動物から好かれる能力を持っているのだ」

そう教えてやると、ジェシーが素晴らしいとシュウを尊敬の眼差しで見つめていた。

私とジェシー、そしてレオンと共にシュウがジャスパーと戯れる姿を見つめていると、隣の馬房から激しく嘶く声が聞こえてきた。

どうやらチャーリーが暴れているようだ。

「あれほどおとなしいチャーリーがあんなに大きな声を上げるとは……」

ジェシーどころか、レオンさえも驚いているようだ。

しかし、シュウはチャーリーのそんな激しい声にも動じる様子もなく、ジャスパーに声をかけ離れると、そのまま隣の馬房へと入っていく。

チャーリーはシュウが近づいてきていることを知ると、すぐに大声での嗎をやめ小さな声でシュウを招き入れた。

シュウはさも当然のようにチャーリーに近づき、チャーリーの鬣に触れ始めると、チャーリーは気持ちよさそうに可愛らしい声をあげていた。

シュウと馬たちの一連の様子を見てもまだ信じられないという表情をしているジェシーに

「ジェシー、どうだ? 心配なかっただろう?」

と声をかけたが、ジェシーは目を丸くしてシュウを見つめるばかりだ。

シュウもそのジェシーの視線が気になったようで、声をかけているがそれでもシュウの手はチャーリーの鬣から離れることはない。

ふふっ。
チャーリーの鬣がよほど気に入ったとみえる。

ジェシーはジャスパーとチャーリーが大人しく鬣を触らせているのが現実とは思えないようだ。
しかし、シュウがチャーリーに言い聞かせる様子を見て不思議そうに見つめていた。

シュウがチャーリーと戯れていると、今度は隣の馬房から激しい嗎が聞こえてきた。

シュウはチャーリーに断ってジャスパーの元へと行こうとしたが、チャーリーの悲しげな瞳に離れられずにいる。
だが、隣の馬房からはジャスパーのシュウを呼ぶ声が聞こえる。

どっちに行けばいいかわからないで困っているシュウに私は助け舟を出した。

ジェシーに声をかけ、二頭を外に出してもらうことにした。

ジェシーはすぐに二頭の馬房に入り、厩舎の外の広場に連れていった。

ジェシーとレオンがそれぞれの馬の手綱を持っているが、ジャスパーもチャーリーもシュウが来るのを興奮して待っているようだ。

それでもシュウが近づくとすぐに大人しくなる。
やはりシュウは好かれているのだな。

シュウは二頭の間に入り、両手で楽しそうにふわふわの鬣に触れながら、

「ジャスパーも、チャーリーもジェシーさんのいうこと聞くんだよ」

と声をかけると、二頭は嬉しそうに

「ヒヒーン」
「ヒヒーン」

と高らかに鳴いていた。

ぼくの言っていることを理解しているみたいと冗談ぽく話すシュウに

「いや、本当に理解していると思うぞ」

と言ってやると、シュウだけでなくジェシーもレオンも驚きの表情を見せていた。

どういう意味なのかと尋ねてくるレオンに

「レオン、シュウは神に愛された者だからな。神が神使であるリンネルをシュウの守護獣として遣わしたくらいだ。動物たちがシュウの言うことを聞くなど容易いことだ」

と教えてやると、ジェシーはなるほどと納得し、レオンは驚愕の表情を見せた後で少し考え込んで見せたが、何か自分の中で気持ちの整理をつけたのだろうか。
いつもの冷静な表情に戻り、警護の位置へと戻った。

そのまましばらくジャスパーとチャーリと戯れている姿を眺めていると、ジェシーがシュウに餌のりんごを持ってきた。
シュウの手ずから嬉しそうに食む二頭の様子を眺めたり、毛並みを整えたりしながら二頭との時間を楽しく過ごした。

シュウは久しぶりに背中に乗りたいと言っていたが、どちらに乗るかで揉めるだろうということで、領地への帰り道にシュウと2人で乗馬を楽しむことにした。

ああ、サヴァンスタック領はどうなっているだろう………
シュウを連れ帰る日が待ち遠しくてたまらない。
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