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第四章 (王城 過去編)

花村 柊   41−2

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「ならば、大広間に飾るとしよう。玄関は流石に多くの者の目が付きすぎる」

「そうか、そうだね。じゃあ大広間にしよう。あそこなら、僕毎日でも見に行けるよ。自分の絵を観に行くのは正直恥ずかしいけど柊が描いてくれて、しかもアンディーも描かれているからアンディーを観に行っちゃおう」

「ふふっ。お父さんが毎日観に行ってくれてると思ったら嬉しいな」


ということで肖像画の設置場所は大広間に決まった。

明日早々に設置してくれるように準備を整えてくれるらしい。
準備が整うまで今さっきまでかけていたカバーをかけて、設置完了した後、皆さんにお披露目するということに決まった。

お披露目には宰相であるカーティスさんをはじめとするお城で働いてくれている人たち、ヒューバートさんをはじめとする騎士団の人たち、そして、ギーゲル画伯にも招待状を送ることが決まった。

明日中に設置して、お披露目会は3日後。

ぼくたちが元の時代に帰るのはその後になる。

そんなに早く? とも思ったりしたけれど、肖像画が完成した今、いつまでもここに留まっているわけにはいかない。
あっちで待ってくれている人たちがいるんだ。

いつまでもここにいても離れ難くなるだけだし、もうすっぱりと別れる日を決めたほうがいい。

お父さんやアンドリューさまとの思い出はたくさん作ったもん。
大丈夫、その思い出だけでこれからもずっと楽しく過ごしていける。


出来上がった肖像画にしっかりとカバーをかけ、明日の設置まで画室にこのまま保管されることになり、ぼくたちはそれぞれの部屋に戻った。

「シュウ、陛下もトーマ王妃も喜んでくださっていたな。それにしてもあれだけの絵をよく1人で描き上げられたものだ」

「うん。ぼくも描き始めた時はあんな大きな絵、描き上げられるのか心配で心配で仕方がなかったけれど、だんだんと出来上がっていくのをみていると、本当にあの絵が自分の子どものように思えてきて……我が子が成長していく過程ってこんな感じなのかなって思ったりしてたよ」

「そうか、あの絵はシュウの子か……。そう思えば、あれは私の子でもあるのだな。ああ、愛おしく思えてきたな」

「ふふっ。フレッドったら」

「だが、あの肖像画を飾る場所についての陛下のお考えとは一体なんだろうな?」

確かに。
ぼくも思った。

でも、思い出したんだ。
確かあれはぼくが肖像画を描くと決まった時……

お父さんたちの肖像画にパールも一緒に描くことにすれば、白が忌むべき色という概念はなくなり、未来の美醜感覚の違いは存在しなくなるんじゃないかってアンドリューさまが言ってくれたことを。

それはものすごくいい考えだと思った。
あの時代にフレッドと同様に白に近い色を持って苦しんでいた人がたくさんいたことを知っているから。
その人たちが幸せになれる未来が待っているならそれは素晴らしいことだ。

けれどぼくは、未来のオランディアが今のオランディアと同じ、色によって差別なんかされない世界になっていたら、ぼくと出会う前にフレッドには婚約者や、もうすでに奥さんと子どもがいたりなんかしたらどうする? っていう不安に押しつぶされた。

元の時代に戻っても、フレッドと一緒にいられない人生が待っているのならそれは不幸でしかない。

その不安をフレッドには言い出せなくてお父さんに相談した時、お父さんはアンドリューさまが言っていたという言葉を教えてくれたんだ。

――未来を変えるとはそれくらい心配になるものだ。
シュウ、そしてフレデリック。よく聞いてくれ。私は未来のオランディアに向けて予言めいたものを残そうと思っているのだ。それできっと、フレデリックのことは問題なくなるはずだ。

そうはっきりと断言してくれたことでぼくは不安を取り除くことができて、こうやってお父さんとアンドリューさまの肖像画を描き上げることができたんだ。


「フレッドはアンドリューさまのこの言葉を覚えていたでしょう?」

「ああ、確かにそう仰っていた。とすれば、その予言めいたものにこの肖像画の件も書いて残してくださるということか?」」

「うーん、多分そうじゃないかな。どういうふうに残してくださるのかはわからないけれど、アンドリューさまがあれほど自信たっぷりに仰るのだからぼくたちは信じるしかないよ。それに……」

「それに?」

「いきなり肖像画からぼくたちが現れても、ここまでアンドリューさまとお父さんにそっくりなんだからとんでもないことはされたりはしないんじゃないかな」

「まぁそうだな。確かに手を出せば罰が当たりそうとは思うかもしれないな」

「なら、そんなに心配しなくてもいいのかも。アンドリューさまを信じよう」

「そうだな。陛下に限って我々に困ったことが起こるようなことはされないだろう」

肖像画ができた今、どうやってもぼくたちは元の世界に戻るのだし、今更ジタバタしても仕方ない。
それよりも、3日後のお披露目会で最後になるこの世界を楽しもう。
ぼくとフレッドの思いはただそれだけだった。


翌日すぐにぼくの描いた肖像画が大広間の誰の目にも留まる一番良い場所に設置された。
けれど設置されている間もずっと絵にはカバーがかけられていて、まだ誰の目に触れられてはいない。

フレッドはもちろん、アンドリューさまやお父さん、そしてブルーノさんはぼくの絵を褒めてくれたけれど他の人の反応がどんな感じか気になって仕方がない。

目線より少し高い台の上に設置されたまだカバーのかけられた肖像画を見上げながら、

「大丈夫かなぁ……なんだか心配になってきた」

というと、

「大丈夫。柊、自分の絵を信じて」

と背中をぽんと叩かれた。

そうだ。
もう完成したんだしね。
お父さんたちが褒めてくれたことに自信を持たなきゃ!

「ギーゲル画伯からもお披露目会には喜んで参加してくれるって返事も届いていたし、楽しみだね」

「うん。もう会えるのも最後だしお話しできたらいいなぁ」

「そうだね」


大広間から部屋に戻る途中で

「シュウ!」

とフレッドに声をかけられた。

「もう今日のお仕事終わったの?」

「ああ、今日はシュウを『でーと』に誘おうと思ってな、陛下にお願いしたのだ」

「えっ? デート?」

「ああ、付き合ってくれるか?」

笑顔で差し出された手にそっと手を置くと、フレッドはそれを嬉しそうに優しく握りしめた。

「じゃあ行こうか」


連れてこられたのはお父さんといつもお茶会をしていた中庭の東屋。

「ここはシュウが部屋以外の場所で一番長い時間を過ごしてきた場所だな」

「うん。こっちにきてすぐにお父さんに誘われてお茶したのもここだった。
あの時はまだ冬馬さんって呼んでたんだっけ。ふふっ。懐かしいな」

「ほら、シュウ。見てごらん。あの花壇にトーマ王妃が倒れていたんだそうだ。言うなれば、陛下とトーマ王妃の初めて出会った思い出の場所だな」

「そうなんだ、中庭には思い出がいっぱいなんだね。
アンドリューさまとお父さんの大切な場所の思い出にぼくの思い出も入ってるなら嬉しいな」

「ああ。だからお二人はシュウを一生忘れたりはしないよ。あの美しい花壇が咲き誇っている間は永遠にな」

あの花壇は噴水から染み出しているお水によって一年中いつでも綺麗な花を咲かせていると言っていた。
それは数百年後のオランディアでも同じ。

フレッドはもうすぐここを離れるぼくに素敵な思い出を残そうとデートに誘ってくれたんだな。
本当、フレッドのこういう優しさにぼくはいつも救われているんだ。

「シュウ、厩舎に行ってみよう」

「うん!」

最後にユージーンにあったのはあの事故の時。
あれからずっと会えずにいたままだった。
あの時はユージーンもきっと怖かっただろうな。

「ダン! ダンはいるか?」

厩舎につきフレッドが呼びかけたのはユージーン担当の厩務員さん。

フレッドの声に急いで厩舎から飛び出してきた。

「これはこれはアルフレッドさま。奥方さま。今日はどうなさいましたか?」

「其方にはいろいろと世話になったな。我々は近々この地を発つことになったのだ。
それでシュウにユージーンと別れをさせてやりたくて厩舎に寄ったのだ」

「ええっ!!! それはまことでございますか。アルフレッドさまと奥方さまがこのお城からいらっしゃらなくなったらお寂しゅうございます」

「我々も離れ難いがあちらで待って居る者もおるのでな」

「そうでございますね。ですが、またお会いできます日を心待ちに致しております」

「ああ。ありがとう」

厩務員のダンさんの目にうっすらと涙が浮かんでいるのを見て、ぼくたちとの別れを悲しんでくれる気持ちが嬉しいと思った。

「奥方さま。ユージーンのブラッシングをお願いしても宜しいでしょうか?」

「わぁっ! ぜひやらせてください!!」

この間、フレッドと川遊びを楽しいんだ後でユージーンにブラッシングするつもりでできなかったから残念だと思ってたんだよね。

最後にこうやってユージーンと遊べるなんて本当に嬉しい思い出になるよ。

「フレッド、ありがとう」

ダンさんがユージーンを連れてきてくれる間にフレッドにお礼をいうと、

「私もシュウがユージーンの毛並みを整えてやるのを見たかったんだ」

と嬉しそうに言ってくれた。

「ねぇ、もしユージーンのブラッシングを上手にできたら、フレッドのお屋敷にいるアンジーやエイベルたちのブラッシングもぼくにやらせてくれる?」

「ああ、もちろんだとも。シュウにやってもらったらみんな大人しくなりそうだな」

ふふっ。そうだ。
ぼく、お馬さんにはなぜか好かれるんだよね。

「もちろん、私が一緒にいるときだけだからな」

そう念を押されたけれど、フレッドが一緒にいてくれる方がぼくも安心だしいうことないな。

「うん。わかってるって」

ぼくの言葉にフレッドはホッとしたように笑みを浮かべた。


「ヒヒーンッ!!」

ぼくの声が聞こえていたのか、ユージーンはダンさんに連れられながらテンション高く馬房から出てきた。

「ユージーンっ!」

久しぶりにみるユージーンは相変わらずぼくのことを覚えてくれていて、ぼくが近づくと途端に静かになって顔を擦り寄せてきた。

あんなにテンション高かったのが不思議なくらい急に大人しくなったユージーンに驚きながらも、身体をさすってやるとユージーンは嬉しそうに嘶いた。

フレッドがダンさんから手綱を受け取り引っ張ってゆっくりとユージーンを外に出すと、ユージーンはよっぽど楽しいのかウキウキとはしゃいでいるように見えた。

「どうだ、シュウ。最後だから1人でユージーンに乗ってみるか?」

「乗りたいっ! でも、乗れるかなぁ?」

「大丈夫、私がちゃんと支えてあげるよ」

フレッドとそう話している間に、ダンさんが厩舎から横座り用の鞍を持ってきてユージーンにささっと取り付けてくれた。
ユージーンもこの鞍が付けられたことでぼくが乗るんだと思っているようで嬉しそうに声を上げている。
これはもうやるしかないな。

静かに停まってくれているユージーンの横に立ち、フレッドに助けてもらいながらヨイショっとユージーンに飛びつくとぼくの身体がふわりと浮かんでポスッと鞍に座ることができた。

一体どうやってやったのかは正直全然わからないけれど、

「シュウっ! 上手に乗れてるぞ!」

なんて褒められたら嫌な気は全然しない。
それどころか、ユージーンの背中から見るこの景色に喜びしかない。

「わぁっ! いい眺め。ねぇ、見て。私、1人で乗れてるよ!!」

いつもはフレッドに後ろから抱きしめてもらって乗っているユージーンの背中。
そういえば、初めてユージーンに乗ったときは今と同じ1人だったっけ。

あの時はユージーンがいきなり出てきた仔ウサギに驚いて暴走しちゃったけど、あの時もフレッドが駆けつけてくれて助けてくれたんだよね。

本当、いつもぼくが危険な目にあったら助けに来てくれるんだ。
フレッドはぼくのヒーローだよ。

今日はフレッドが手綱を持ってくれて歩いているから、なんの心配も危険もない。
ぼくは思いっきりユージーンとの最後のお散歩を楽しむことにした。

ユージーンのふわふわの緑色のたてがみが焦茶色の毛並みに映えて本当に可愛い。
フレッドのお屋敷にいたドリューにそっくりだから、きっとドリューを見るたびにユージーンのことを思い出すんだろうな。

ユージーンの鬣に手を置くとふわふわで気持ちがいい。
あまりの気持ちよさに手を置いたまま背中を撫でると、ユージーンが気持ちよさそうに『ヒヒーン』と嘶いた。


しばらくその辺りを歩かせてもらって、フレッドに助けてもらいながらユージーンの背中から降りた。

「どうだった? ユージーンとの散歩は」

「うん。すっごく楽しかった。鬣がふわふわで触り心地が良かったし」

「ふふっ。シュウにそこまで気に入られているユージーンに他の馬たちが嫉妬しそうだな」

「ユージーンを見てると、フレッドのお屋敷にいたドリューを思い出すんだ」

「ああ、そういえばあいつも焦茶色に緑の鬣だったな。もしかしたらあいつはこのユージーンとは親戚に当たるかもしれないな」

「ええっ? そうなの?」

「ああ、馬の色は雄の色を受け継ぐものだからな。まぁ数百年も離れているからどれも遠戚だと言えばそうかもしれないが」

「ふふっ。確かに。でもそう思うだけで楽しいもんね」

この時代に生きているみんながぼくたちの帰る時代の誰かと繋がっていると思うだけで寂しさも少しは和らぐ気がする。


やってみたいと何度も思いながら叶わずにいたユージーンのブラッシング、ようやく願いが叶った。
フレッドはこうやって一つ一つ確実にぼくの願いを叶えてくれるんだ。

フレッドのそんな優しさに感謝しながら、ぼくはユージーンとの最後の戯れを楽しんだ。

まだ遊びたいよ~とでも言いたげに嘶き続けるユージーンをダンさんに返して、ぼくたちは厩舎を後にした。

「シュウ、この後はどうする?」

「あ、あのね。ぼく、もう一つ行きたい場所があって……」

「んっ? それはどこだ?」

「あのね…………」


 ✳︎      ✳︎      ✳︎


「し、シュウさまっ!!」

「あっ、ロイドさんっ! 会えて良かった」

前にお父さんと、フレッドとアンドリューさまのためにパンケーキを作ることになったときに手助けをしてくれた料理人さん。
あの時はすごく優しく手伝ってくれたおかげでフレッドとアンドリューさまに美味しいって言ってもらえたんだ。

その後もぼくが体調が悪いときにもロイドさんはぼくのために身体に良い食事を作ってくれた。
あの食事がぼくを元気にしてくれたんだ。

だからこそ、帰る前にロイドさんにお礼を言いたかったんだ。

「あ、あの……どうして、こんなところに?」

目を丸くして驚いているロイドさんに言葉をかけようと思ったら、

「我々は郷里へと戻ることになったのだ。それでシュウが其方に礼を言いたいと言うのでな」

とフレッドがぼくとロイドさんの間に入ってそう説明してくれた。

「えっ……郷里へ、戻られるのですか?」

悲しげな表情でぼくを見つめてくるロイドさんに、

「今まで美味しい食事を作ってくれてありがとうございました」

とお礼を言うと、

「そんなっ! シュウさまっ! お寂しゅうございます」

ロイドさんは感極まった様子でぼくに抱きついてきた。
いや、正確には抱きついてこようとしたところで、フレッドがスッとぼくの前に立ちはだかりロイドさんは涙を流しながらフレッドと抱き合っていた。


「ああーっ、シュウさまーっ」

「……ロイド。そこまで別れを惜しんでくれるとは……私も嬉しいぞ」

「えっ? な――っ、わっ!!――った!!」

ロイドさんは涙に塗れた顔を上げると、目の前にフレッドがいたのが相当驚いたようで後ろに跳ね飛んでいった。

「ろ、ロイドさん……だ、大丈夫ですか?」

あまりの勢いに後ろの机に身体をぶつけて痛がっているロイドさんに慌てて駆け寄ろうと思ったら、フレッドがさっとぼくの手を掴んだ。

「大丈夫だ。シュウは気にしなくていい」

「えっ、でも……痛そうだよ」

「大丈夫だ、ロイドは強いからな。なぁ、そうだろう?」

フレッドがそういうと、ロイドさんは急に起き上がって

「はいっっっ!!! 何も問題ありませんっ!!!」

と元気よく言ってくれた。

ぼくだったら痛くて何も出来なさそうなすごい音がしてたけど……すごいな、ロイドさん。
やっぱりお城にいる人って、騎士さんたちみたいにみんな鍛えてるのかな。

「あの、本当に今まで美味しい食事を作ってくれてありがとうございました。
私、ロイドさんの食事とっても好きでした」

涙ぐんだまま直立しているロイドさんにぼくは笑顔で最後のお礼をいうと、

「私……好き、私……好き、私………………」

ロイドさんは真っ赤な顔で何やらぶつぶつと同じ言葉を呟いていたけれど、ぼくには何を言っているのかまでは聞こえなかった。

「あの……?」

口だけがずっと動いているロイドさんに声をかけたけれど、

「シュウ、もういいだろう? ロイドにしてみればこうやって直々にお礼を伝えてくれただけで十分喜んでいるはずだ」

とフレッドに言われて、ぼくは

「あの、本当にお世話になりました。ありがとうございました」

ともう一度だけお礼を言ってフレッドに手を引かれ厨房を後にした。

「ねぇねぇ、フレッド。ロイドさん、何か様子がおかしくなかった?」

「そうか? 私にはそうは見えなかったぞ」

「そうかな? うーん、フレッドがそういうならそうかも」

「そろそろ部屋に戻るか?」

「うん。しておきたかったことも全部できたし。フレッド……ねぇ、ちょっと屈んで……」

「んっ? どうした?」

「フレッド、ありがとう。大好き」

「――っ!」

ぼくがフレッドの頬っぺたにちゅっとすると、なぜかフレッドは顔を真っ赤にしてほっぺたを押さえた。

「フレッド? どうしたの?」

今更頬っぺたにちゅーくらいでフレッドがこんな反応をするなんて……。

「シュウが部屋以外の場所で、しかも自分から口付けをしてくれることなどほとんどなかっただろう?
それに……」

「それに?」

「人前でなど絶対にしてくれなかっただろう?」

「えっ? 人前??」

慌てて周りを見れば、いつの間に現れたのかカーティスさんとブルーノさんとヒューバートさんが驚いた様子でこっちを見ている。

「――っ! やぁ――っ、ぼく、恥ずかしいっ!」

ぼくは一気に恥ずかしさが込み上げてきてフレッドの身体に顔を隠すと、フレッドは

「くっ――!」

と苦しそうな声を出しながら、ぼくを抱きかかえ赤くなったぼくの顔を自分の服で隠しながら急いで部屋へと戻っていった。


そんなこんなでぼくとフレッドの『でーと』は唐突に終わりを告げたのだけれど、こういうのもぼくたちらしいのかなと思うと楽しい思い出になったのかなと思う。

翌日はぼくがどうしても1人でやりたいことがあるからとお父さんとのお茶の時間まで部屋に篭って過ごした。
そして、最後の1日は朝から晩までお父さんとただひたすらにおしゃべりをして過ごした。

けれど、お父さんは

「もっと柊と話していたいな。まだまだ足りないよ」

とぼくの手を掴んで離そうとしない。

「ねぇ、今日は柊と一緒に寝ちゃダメかな?」

「えっ? ぼくと一緒に?」

「うん、僕たちの部屋の中にはアンディーと一緒に寝るベッド以外に僕だけのベッドがあるんだ。
そこで一緒に横になりながらおしゃべりして夜を過ごそうよ!」

思っても見ない提案に驚いたけれど、でもなんだか修学旅行みたいで面白そう!!
まぁ実際にはぼくは修学旅行には一度も行ったことがないんだけれど……。

でも、一つだけ問題が……。


「ならぬ!! いくらトーマの頼みでもそれはだめだっ!! フレデリックもそう思うだろう?」

「はい。トーマ王妃、流石にそれを許すのは難しいかと……」

怒るアンドリューさまと困った様子のフレッドを前にぼくはやっぱりなぁ……と思っていた。

「でも……柊とゆっくり話せるのももう最後なんだよ……。ねぇ、アンディー……だめ??」

「うぬぬっ、だが……うーん、フレデリック、どうする?」

お父さんの必死のお願いにアンドリューさまはフレッドとヒソヒソと話をし始めた。

「ならば、今日は4人で一緒に寝るとしよう。それが我々の最後の譲歩だ」

「4人で? 一緒に??」

「ああ、そうだ。できなければそれで――」
「わぁーーっ!!! 楽しそうっ!!! うん、4人で一緒に寝よう!!」

「「えっ??」」

驚くフレッドとアンドリューさまを横目にぼくとお父さんは最初で最後の4人の夜を楽しむことで頭がいっぱいになっていた。
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