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第四章 (王城 過去編)

フレッド   39−1※

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「だいぶ綺麗になったな」

「うん、もう痛みはないよ。フレッドが毎日薬を塗ってくれたおかげだね」

嬉しそうに笑顔を見せるシュウとは対照的に私の心は晴れない。
薄くなったとはいえ、ここに痣があるかぎりいつもあの時のことが目に浮かぶ。
それに何より、私のシュウの身体に我が物顔でついているこの痣がどうしても許せないのだ。

シュウの身体に印をつけてもいいのは私だけのはずなのに。

早くこの身体中を私の紅い花で埋め尽くしてしまいたい……そんなことを思いながら、今日もせっせとシュウの身体に特製の薬を塗り込んでいく。

ああ、痣はあっても相変わらず滑らかで綺麗な肌だな。

すべすべとして気持ちがいい。

すると、シュウが突然自分で薬を塗ろうか? と言い出した。

いくらシュウの言葉とはいえ、そんなこと了承できるはずがない。

だが、シュウは私がシュウの肌に薬を塗っている時の表情が辛そうに見えるという。
私の思いがどうやら表情に出てしまっていたせいでシュウに心配をかけていたのだな。

だから、私はシュウに呆れられると思いながらも正直に自分の気持ちを伝えた。

シュウの身体に私がつけた以外の痣があるのが許せないのだと。
それでも薬を塗るのは私だけの特権なのだから許して欲しいと。

必死にそう訴えたのにシュウは突然声を上げて笑い始めたのだ。

呆れられるとは思っていたが、まさかこんなにも笑われるとは思わず驚いてしまった。

痣に嫉妬する私が可愛いのだとそう笑顔を見せるシュウの耳元で

「シュウの白い肌につけていいのは私の紅い花だけだろう?」

と囁いてやると、シュウが可愛らしい声をあげる。

シュウの痣が綺麗になるまではと、シュウの蜜を出させるだけで終わらせていたが、シュウの口からそのような声を聞いてしまえば、すっかり愚息がその気になってしまっている。

ほんの少しの悪戯心でシュウの耳に囁いただけのはずが、もうすっかり臨戦態勢に入った愚息の勢いを止めることができなくなってしまっている。

もうだめだ、シュウが欲しくてたまらない。

必死に抗おうとするシュウの口を自分のそれで閉じ込め、甘い甘い唇を貪りくらう。

パクリと唇を食めば、その反動でシュウの唇が少し開いた。
まるで吸い込まれるようにその中に舌を滑り込ませ、シュウの柔らかな舌に絡みついた。

シュウの甘い唾液に蕩けそうになりながら私の唾液を流し込むと、シュウはそれを美味しそうにコクコクと飲み干していく。
その恍惚とした表情にクラクラしてしまう。

私の唾液をこんなにも美味しそうに飲んでくれるとは、なんという幸せなのだろうな。

とはいえ、私との口付けより、唾液を飲むことに意識が向いているのがほんの少しだけ悔しい。
私はシュウの唇から離し、そのまま首筋へと移動させそこに鮮やかな紅い花を散らした。

痣のない白肌のその場所には私の所有の証が綺麗に見える。

ああ、やはりシュウは私のものだ。
と同時に私はシュウに身も心も囚われているのだな。

シュウの首筋についた紅い花を見て嬉しく思っていると、シュウの口が私を誘う。

フレッド……来て

色香漂う小悪魔のようなシュウの姿に私はもうあっという間に理性を飛ばし、シュウを貪り始めた。

鎖骨、腋、胸、臍、腰……シュウの弱いところ全てに舌を這わせ、そのまま果実を飛び越えて、シュウの可愛い蕾を舌で舐め尽くしていく。

「やっ……そんな、とこ……きたな……っ」

何を馬鹿なことを言っているんだ。
シュウの身体に汚いところなどあるはずがないのに。

濃いシュウの香りに猛り狂う愚息を必死に抑えながら、蕾に舌を挿し入れてほぐしていく。
甘くて濃いシュウの愛液をジュルジュルと舐めとると蕾はあっという間に綻んだ。

早く! 早く!
と暴れる愚息をシュウの蕾にあてがうと、

「ああっ、あっ……きもちいぃ、は、やくぅ……なかに、いれてぇ……」

と強請ってくる。

こんなものゆっくり優しくなんてできるはずがない。

柔らかくほぐれたシュウの蕾にググッと愚息を押し込むと、シュウの肉襞が愚息を包み込みながらあっという間に奥へと導いてくれた。

「ああ……っ、あっ、あああ……っ、きもちいぃ……っ」

シュウのあまりにも素直な声に私は嬉しくなって、シュウの腰を掴んで奥を擦るようにガツガツと大きく腰を振った。
久しぶりの感覚にいつもよりも大きく成長した愚息がシュウの奥の奥をゴリゴリと擦り、シュウはあっという間に蜜を弾けさせた。

ああ、何て可愛いんだろう。

シュウの蕩け切った表情を見ながら、私もシュウの中に大量の蜜を弾けさせた。

ビュルビュルと途轍もない量の蜜がシュウの中にあるのがわかる。
これで少しは愚息も落ち着くことだろう。

久しぶりのシュウとの交わりに満足しながら、私はシュウを抱き抱え風呂場へと向かった。


綺麗に身体を清め、せっかくつけた薬もすっかり流れてしまった。
湯を浴び、ホカホカになったシュウをベッドに寝かせもう一度綺麗に薬を塗り直してから新しい夜着を着せた。

シュウの隣に身を横たえると、シュウはススッと寄り添ってきて私の胸に頭を乗せ、幸せそうな笑顔を浮かべる。
シュウの方からそうやって寄り添ってきてもらえる私の方がもっとずっと幸せなのだとシュウは気づいているだろうか。

私がシュウの身体についている青痣に嫉妬してしまったことを、恥ずかしいと思いながらもシュウに打ち明けたおかげで、こんな時間からシュウとの甘い時間を過ごすことができた。

意外と嫉妬するのも悪いことでないのかもしれないな。

そう思っていると、シュウが驚くべき提案をしてくれた。

「ぼくのこの青痣が綺麗に治るまではぼくがフレッドに紅い花をつけるよ」

思ってもみない素晴らしい提案に、私の耳がおかしくなってしまったのかと思った。
自分にとって都合が良いふうに聞こえているのではないかと勘違いしてしまったほどだ。

いいか? 私が頼んで無理やりしてもらうのではないのだぞ。
シュウがシュウの意志を持って私に紅い花をつけてくれるのだ。
こんなのご褒美でしかないではないか。

あれほど仲の良いアンドリュー王とトーマ王妃ですら、毎日紅い花をつけてもらうことなどないだろう。
ならば、シュウに毎日紅い花をつけてもらったら、アンドリュー王に見せびらかしてやろうか。

そんな意地の悪いことも思いついてしまうのは、シュウの嬉しい提案に興奮しすぎているせいだろう。

シュウの気が変わらぬうちに、私は毎日必ずつけてもらうことを約束してもらった。

それからというもの、あれほど我が物顔でシュウの身体を占拠している青痣を見るのが憂鬱だったのが、また今日もシュウに紅い花をつけてもらえるのだと嬉しく思えるようになったのだから、私もまた単純なのだと思う。

「陛下。見えますか? 今日もシュウが私に証をつけてくれたのですよ」

「ああ、見えている。見えているとも。それにしても其方はシュウにどういって毎日つけてくれるように頼んだのだ?」

「ふふっ。陛下、これはシュウが自分の意志で毎日つけたいと言ってくれたのですよ。私が頼んだのではないです」

「まさか……、それは本当なのか?」

「はい。ですから、毎日シュウの方から近づいてきて私に紅い花をつけてくれるのです。
この時間が私の至福のときなのですよ」

得意げにそう言って見せると、アンドリュー王は心から羨ましそうにシュウのつけてくれた証を見つめていた。

まさか、アンドリュー王が我慢に我慢を重ねていたとはこの時の私は夢にも思っていなかったのだ。


シュウについていた青痣が身体からようやく姿を消した頃、昼食を終えマルセル医師の診察を受けたシュウはもう大丈夫との診断を受け、夕方までの数時間を、休んだままになっていた肖像画描きの時間に当てることにしたようだ。

ブルーノを連れ久しぶりに画室へ向かう嬉しそうなシュウを見送って、私はアンドリュー王のいる執務室へと戻った。

「アルフレッド、シュウは画室に向かったのか?」

「はい。おかげさまでもうすっかり痣も癒えましたので、今から肖像画描きを再開するそうです」

「そうか、これで一安心だな。だが、まだ病み上がりだ。何かあってはいけないから無理だけはさせぬように」

「はい。身体中の青痣を目にしたときには一体どうなることかと心配いたしましたが、本当にマルセル医師の処方した薬はよく効きますね」

「そうだろう。トーマの痣もすっかり良くなっていたからな」

「そういえば、トーマ王妃の診察はいかがでしたか?」

「ああ、シュウを先にしてもらうと言っていたから、今診て貰っているところだ。そろそろ結果が出る頃だとは思うのだが……」

どうしたのだろう。
なんとなくだが、いつものアンドリュー王と違ってソワソワとして落ち着きがないように見える。
もしや、トーマ王妃に何か気になるところでもあるのだろうか?

あの時のマルセル医師の診察では特に怪我があるとは聞いていなかったが、もしかしたらあのときに頭をぶつけていたとか?

それにしてはアンドリュー王が少し嬉しそうに見えるからそれは違うか。

だとしたら一体なんだろうか?

そう気になりつつも、そろそろ仕事を始めようと促され、私は目の前の仕事に取り掛かった。


それからしばらくアンドリュー王とお互いに仕事を進めていたが、急にトントントンと執務室の扉が叩かれた。

珍しいな、こんな時間にと思っていると、アンドリュー王は返事をする時間も惜しいと言った様子で急いで扉へと駆け寄り、ガチャリと勢いよく扉を開けた。

「アンディー、今大丈夫だった?」

「ああ、トーマ。入ってくれ!」

トーマ王妃? これはますます珍しいな。
アンドリュー王の仕事中は滅多に執務室に来られることはないというのに。

急いで招き入れるアンドリュー王の姿を不思議に思いながら、

「これはトーマ王妃、いかがされました?」

と声をかけた。

「ああ、アルフレッドさん。お仕事中にごめんなさい。マルセル医師の診察が終わったら、結果を報告するようにアンディーに言われてたものだから、お邪魔かなと思いながら来てしまって……」

「ああ、そうでございましたか。陛下はずっとご心配のようでしたから、ご報告に来てくださって安心なさっていると思いますよ。私のことはどうぞお気になさらず」

「ありがとう」

トーマ王妃は私にそうお礼を言うと、アンドリュー王に視線をうつした。

「アンディー。あのね、もう大丈夫だって。だから心配しないで大丈夫だよ」

「本当か? 本当にもう大丈夫なのか?」

「うん。だからね、今日の夜は――わぁっ!」

トーマ王妃が何やら言いかけたところで、突然アンドリュー王がトーマ王妃を抱きかかえた。

「どうしたの? アンディー、ちょ――、下ろしてよ」

「下ろさない!」

バタバタともがくトーマ王妃をぎゅっと抱きしめながら、

「アルフレッド、悪いが今日は先に失礼する。仕事の方は時間までやったら今日は終わりにしてくれていいから」

「は、はい」

アンドリュー王は私の返事も聞いたかどうかわからぬうちに、そのままトーマ王妃を抱きかかえて急ぐように執務室を出て行った。

私は駆け出していく2人の姿をただ茫然と見送りながら、バタンと扉が閉まるのを見つめていた。

一体アンドリュー王もトーマ王妃もどうしたというのだ?

嵐が過ぎ去った後のように静まり返った執務室の中で、私は残っている仕事を終わらせるべくそのまま作業を続けたが、頭の中は先ほどの慌ただしい2人の、いや、特にアンドリュー王の姿が浮かんでいる。

いつも冷静なアンドリュー王があそこまで慌てるとはな。
一体何があったのだろう。

トーマ王妃に何かあったわけではない。
もう大丈夫だと言われたと言っていたのだから。うーん……不思議だな。

そんなことを考えながら、自分の仕事を終えたが、まだ仕事が終わる時間にしては早い。
アンドリュー王の残した仕事で私にできるものはないかと立ち上がったその時、廊下をバタバタと駆けてくる音が聞こえた。

今度は一体何事だ?

そう思いながら扉を見つめていると、バタンッ! と勢いよく扉が開き、汗に塗れたアンドリュー王が現れた。

よく見れば、いつも綺麗に整えている髪もボサボサで服もなんとなく乱れている。

こんなにおかしな姿で部屋の外に出るような方ではないのにと不審に思いながら、

「陛下、どうなさったのですか?」

と尋ねると、アンドリュー王は

「シュウが、シュウが……」

と焦った声で繰り返すばかり。
もしやシュウに何かがあったのか? と思ったが、私の耳についている守護石のピアスにはなんの変化もなかったはずだ。
現に今だってなんの反応もない。

「陛下。落ち着いてください。どうなさったのですか?」

「ああ、すまない。フレデリック……全て私の責任だ」

「一体どう言うことでございますか?」

「実は……シュウが、我々の寝室に入ってきてしまったのだ……」

「えっ? なんと仰ったのですか?」

「だから、シュウが我々の寝室に入ってきて、その、見てしまったのだ……我々の、その……姿を……」

言いにくそうに言葉を濁しながら私に伝えるアンドリュー王の姿に私は全ての出来事が腑に落ちた。

ああ、なるほど。
そういうことだったのか……。
今日のアンドリュー王のソワソワとした様子も、トーマ王妃がここに報告に来られたのも、慌てるように自室へと戻って行ったのも全てそういうことだったのだ。

「それで、シュウは今どこに?」

「トーマが引き止めようとしたのだが、部屋から駆け出して行って、其方たちの自室に戻ったようだ。
トーマがとんでもない姿をシュウに見せてしまったと泣いておってな。すまない、其方からシュウに声をかけてくれぬか?
頼む、この通りだ」

きっとトーマ王妃の涙を見て、慌ててなんとかすると言って部屋を出て私の元にやってきたのだろう。
シュウは父親とその伴侶のそのような姿をどう思っただろうか。
嫌悪感を感じるような子ではないから大丈夫だと思うが、それでもやはり父親のそんな姿は見たくないものだろう。

「わかりました。シュウと話してみます。トーマ王妃にはどうか心配なさらぬようにと」

「ああ、ありがとう。頼む」

アンドリュー王が私に頭を下げる姿に驚きながらも、私はシュウの元へと急いだ。
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