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第四章 (王城 過去編)

フレッド   38−1

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私がシュウに知らせることなくジュリアン王太子がリャバーヤに戻ることになっても、きっとアンドリュー王もトーマ王妃も仕方がないと言ってくれただろう。
だが、シュウがジュリアン王太子のことを気にかけていたのはよくわかっていた。
だから、私はジュリアン王太子がリャバーヤに戻る前に詫びたいと言っているのをシュウに隠さなかったんだ。

シュウが会いたいと言い出すこともわかっていたが、会わなければシュウの頭の中にはずっとジュリアン王太子への想いが残ってしまう。
それが私にはどうしても許せないことだったのだ。

それならばジュリアン王太子に会わせる方がまだマシだ。
その腹黒い考えで私はシュウにジュリアン王太子の話をしたのだ。

シュウは心の中の憂いがなくなったからか、まだ痛々しい痣の残る身を私に預けながら幸せそうな表情を見せ眠りについた。

私はもう二度とシュウのこの幸せそうな顔を苦痛に歪めることはしないぞ。
絶対に……。


私はシュウの寝息が一定に落ち着くのを待って、そっと寝室を出た。

部屋の扉を開け、騎士にブルーノを呼ぶように声をかけるとどこかで聞こえていたのかすぐに現れた。

「ああ、ブルーノ。いいところにきた。例の件、シュウが了承したのでな、陛下とトーマ王妃に伝えてくれ」

「畏まりました。あの、シュウさまのお具合はいかがですか?」

「マルセル医師の薬がよく効いているおかげで、シュウは少しずつだが良くなっている。心配はいらない」

「そうですか。それはよろしゅうございました」

ブルーノにはここのところずっと心配ばかりかけてしまっているな。
シュウとまた以前のように画室での時間を早く過ごさせてあげたいものだ。


寝る支度を整え、寝室に戻るとシュウは先ほどの幸せそうな表情から一転、悲しげな表情でうなされているように見えた。
急いでシュウの隣に身体を滑り込ませて、痛みを感じないようにゆっくりと腕の中に抱き込むと、シュウは途端に表情を柔くした。

そうか、私を探していたのか。
寂しい思いをさせてしまって申し訳なかったな……。

まだ朝までは長い。
ゆっくりといい夢を見るといい。

私がシュウの夢も楽しいものにしてやろう。
いや、私の方がシュウのおかげで楽しい夢を見そうだ。
ならば同じ夢を見られればいい。

そんなことを思いながら、私も眠りについた。



「フレッド……」

小鳥の囀りかと思ってしまいそうなほど心地よい声が私の名前を呼ぶのに気づいて、私は目を覚ました。

私の目に可愛らしいシュウが飛び込んでくる。
しかも可愛い口が『フレッド、おはよう』と挨拶をしてくれた上に、私に口づけをしてくれたのだ。

ああ、こんなに幸せな目覚めがあっていいのだろうか。
シュウはどこまでも私を幸せへと誘ってくれるのだな。

私はとてつもない幸福感に満足しながら、シュウに『おはよう』と返し、甘い甘い口づけを返した。

「身体の具合はどうだ?」

そう尋ねると、シュウは痛みが少なくなってきていると答えながら急に顔を赤らめた。

どうやら、私がシュウの蜜を出してやったことを思い出したようだ。
伴侶としてあんなこと普通のことであるし、そもそもそれ以上のこともしていると言うのに、シュウはなぜか恥ずかしいようだ。
その初心うぶな反応を見れば、つい意地悪をしてみたくなってしまうのは私だけではないだろう。

「シュウ? どこか痛いのか?」

「あ、やっ……ううん。違う、そうじゃ、なくて……あの、ね……昨日のことなんだけど……その、フレッドに薬塗ってもらってる時に……ね、その、シテ・・もらったでしょ?」

何も気づいていないふりをして、そう尋ねれば、シュウは焦りながらも必死に私に伝えようとしてくれた。
こう言うところ、シュウは変わった。
そう、下手に隠そうとせず、きちんと言葉にしようとしてくれるようになったのだ。

それは私との間におかしな誤解を生みたくないというシュウの気持ちの表れなのだろう。
私はそんなシュウの変化に喜びながら

「シュウ、どうした? はっきり言ってくれないか?」

と尋ねると、シュウは意を決した表情で、

「だ、だから……その、ぼくのお……ちん、ちん……触って、その蜜を……」

真っ赤な顔で辿々しくも口にしてくれた。

シュウの口から『おちんちん』などと聞くのはやはり楽しい。
恥ずかしがっているのが余計にクるな。

これ以上いじめるのは可哀想だと思い、

「ふふっ。シュウはまだあれを気にしていたのか。気にしなくていいと言ったろう?
あんなふうに元気になるのはシュウの身体が良くなってきているという証拠だし、それに出さないほうが帰って病気になるんだからな。私が手伝えてよかったんだよ」

と言ってやるとシュウはホッとしたように顔を綻ばせた。

ところが、突然何やら思いついたような表情で、

「ねぇ、あれって……毎日でも出したほうがいいの?」

と聞いてきた。

シュウの可愛らしい疑問だが、それはそうだと言っておくのがここは正解だろうな?
シュウがそれが当然のことだと理解してくれれば、私はこれからいつでもシュウの身体を自由にできるのだから。
それ以外の答えはないだろう。

私はそれが正しいのだと言わんばかりに必死にシュウに説明してみせた。

私たちは毎日愛し合って蜜を出していたのだから、出さなくなれば病気になってしまうのだと。
だからシュウの身体のことは私に任せてくれたらいい……そう言ったら素直なシュウのことだ。

そうかとすぐに納得してくれるものだと思っていた。

ところがシュウの口から飛び出してきたのは、思っても見ない言葉だった。

「じゃあ、フレッドはどうしたの?」

驚く私を前にシュウは次々に質問を投げかけてくる。

「ぼくがお手伝いできない間、どうしてたの? 毎日出したほうがいいんだよね?
もしかしてぼくが一緒にできないせいで、フレッドが病気になっちゃう? ぼく今からお手伝いしようか?」

つぶらな瞳で心配そうに私を見つめるシュウに、私はなんという愚かなことをしてしまったのだと急に自分が恥ずかしく思えた。

私はあわよくば毎日シュウの身体を悪戯できると心の中でほくそ笑んでいたというのに、シュウは自分が相手をできないせいで私が病気になってしまうと心から心配してくれているのだ。

ああ、シュウを騙そうとするなんてそんな邪な思いを持ってしまった自分が恥ずかしい。

私はシュウを抱きしめ、私のことは気にしないで自分の身体を早く治すことだけを考えてくれればいい……そう伝えたのだが、シュウはなおも、

「フレッドが病気になるのは、やだ……」

と可愛いことを言ってくれる。

あまりにも心配してくれるシュウにこれ以上、隠すことはできないと悟った私は、愛おしい表情で私を見つめてくれるシュウに

「その、自分でシタ・・……から大丈夫だ。だから心配しないでいい」

と説明した。

自分でシタ・・などと告白をさせられたのは、私の人生で初めてのことだ。
これは初めて精通がきて下着を汚してしまったのをマクベスに知られてしまった時よりも恥ずかしいものがある。

シュウは私の告白に顔を赤らめていたが、シュウは私が自分ひとりででシタ・・ことに責任を感じたようで

「ぼく……痛みがなくなったらフレッドと前みたいにできるようになるから、待っててね」

とまた健気なことを言ってくれる。

私はどこまでも果てしないシュウの可愛さにやられてしまいながら、抱き寄せたシュウの耳元で

「また今日も薬を塗ってやるから楽しみにしていてくれ」

と囁いてやると、シュウは何かを期待したように顔を赤らめ身体をピクリと震わせた。

ふふっ。シュウが私の手で少しずつ性の刺激に敏感になっていく姿を見るのは実に楽しいものだ。


さて、揶揄うのはこれくらいにして、そろそろ食事でもしようかとシュウを誘うとシュウもやはり腹が減っていたようだ。
これも元気になってきている証拠だな。

ブルーノに食事を頼んでくるからと言ってシュウをベッドに残して寝室を出た。

「ブルーノ、ブルーノ!」

声をかけると、ブルーノがすぐにやってきた。

「おはようございます。アルフレッドさま。お呼びでございますか?」

「ああ、おはよう。シュウが目を覚ました。腹が減っているようなのだが、朝食を頼めるか?」

「はい。シュウさま用に栄養のあるスープと果物を用意してございます。すぐにお持ちいたしますね」

ブルーノのこの心遣いが嬉しい。
みんながシュウの回復を心待ちにしてくれているのだ。

シュウの元に戻って、ブルーノがシュウ用に美味しい食事を用意してくれていることを話すとシュウは途端に笑顔を見せた。

ブルーノが寝室に朝食を運んできてくれたので、私はシュウをゆっくりと起こし、背中に背当てをいっぱい用意し座らせてやった。
そして、ブルーノの持ってきた机をベッドの上に置き、食事を並べた。

良い匂いのする温かなスープと果物を前にシュウは嬉しそうにブルーノにお礼を言っていた。

この笑顔が見られるのならば、シュウのために用意してあげたいと思っても不思議はないな。

シュウは自分のことを心配しているブルーノに声をかけ、

「あの……ぼく、早く良くなるから! だから、心配しないで。治ったらまた画室でおしゃべりに付き合ってね」

と笑顔を見せると、ブルーノはハッと息を呑んで

「……はい。楽しみに、お待ちしていますね」

とだけ言って俯き気味に寝室を出て行った。

私にはブルーノの気持ちが痛いようにわかる。
ブルーノにとって画室で過ごす時間はブルーノの人生においても素晴らしい時間であったに違いない。
それをシュウも同じように思ってくれているとわかって感極まってしまったのだろう。

シュウが自分の気持ちを汲み取り寄り添ってくれたことがブルーノにとっては何ものにも変え難い幸せだったのだろうな。


シュウはブルーノのそんな様子に心配そうな表情をしていたが、

「ブルーノはシュウが目覚めるまでずっと神に祈っていてくれたんだ。シュウが目覚めたと聞いて涙を流して喜んでいたよ。だから、シュウにあんなふうに言われて感極まってしまったんだ。許してやってくれ」

そう言ってやると、シュウは嬉しいと言い出した。

「ぼくが無事だって聞いて涙流して喜んでくれる人がフレッド以外にもいるなんて嬉しいんだ。
僕はずっと1人だったから……。この世界に来て、大切な人が増えて、そしてぼくのことを大切に思ってくれる人も増えてぼく嬉しいんだ」


ああ、そうだな。
もうシュウはひとりぼっちなんかじゃない。
シュウは誰からも愛され、皆がシュウを大切に思っている。
それはシュウが皆を心から大切に思っているからこそだ。

私もシュウと出会うまでは一人ぼっちだったな。
確かに立場上周りに手助けをしてくれるものは大勢いたが、私のことを無条件で心から大切に思ってくれるものはいなかっただろう。
私たちはお互いに出会えたことで1人から脱却できたんだ。

シュウのことを大切に思っているものは多い。
ブルーノもそうだし、父であるトーマ王妃もアンドリュー王もそうだろう。
だが、私以上にシュウを大切に思っているものはいないと自信を持って言える。

シュウもそう思ってくれるだろう?

私が自信満々にそう言うと、シュウは嬉しそうに笑顔を見せた。


「さぁ、シュウ。温かいうちに食べよう」

湯気の立つスープを冷ましてやりながら口に入れてやると、シュウは嬉しそうにそれを飲んでいった。
甘い果物も私の手ずから食べさせてやると、ツーッと甘い汁が首筋を伝わっていく。
私はそれを舌で舐め取ってやると、シュウは恥ずかしそうにしながらもありがとうとお礼を言ってくれた。

今日の果物がいつにも増して甘く感じたのは、シュウの甘い汗の味がついていたからに違いない。
こんな果物なら毎日でも食べたいものだな。

あっという間に食事を平らげ、満足そうにお腹をさすっているのをみてシュウが元気になって本当によかったと思った。
食事後に飲むことになっている痛み止めの薬をシュウに飲ませ、次は塗り薬か。

「痛みが取れるように薬をちゃんと塗らないとな」

そう言ってやると、シュウは恥ずかしそうにしながらもお願いねと言ってくれた。

ああ、もちろんだ。
私だけの特権なのだからな。

さて、食後30分ほど経ったからもうベッドに寝かせてもいいだろう。

シュウに薬を塗ろうと声をかけ、シュウの服を手早く脱がせた。

広いベッドに裸のシュウが横たわっているのを見るだけでで愚息が滾りそうになるがそれは必死に抑えなければな。

少し顔の赤いシュウはきっと恥ずかしがっているのだろう。
可愛いなと思いつつ、手にたっぷりと塗り薬をつけシュウの身体に塗り込んでいく。

マルセル医師の薬は本当によく効く。
あれだけ身体中にあった青痣は薄くなっている。

これならシュウの綺麗な白い肌が戻ってくるのもそう遠くはないな。

そう思いながら、シュウの身体に薬を塗り込んでいると、『フレッド』と声をかけられた。

『どこか痛いところでもあったか?』
そう尋ねつつも、シュウには強張っている所がないことは確認済みだ。
痛みは感じてはいないだろう。

シュウも私の塗り方は上手だと言ってくれた。
よかったと思いながらもシュウの言いたげな表情はなんだろうかと思っていると、

「ぼく……ずっとフレッドにお世話してもらってるでしょ? 今回だけじゃなくて今までも何度か……」

そう言われて、ドキッとした。
もしかしてシュウは私がシュウの世話をするのを嫌がっているのだろうか?
心配で尋ねると、シュウは焦ったように

「違う、違うっ! 嫌なんかじゃなくて、むしろお世話されて嬉しいっていうか、フレッドにしかお世話して欲しくないっていうか……」

と嬉しいことを言ってくれた。

そうか、シュウは私に世話をされて嬉しいばかりか、私にしか世話をしてほしくないとは……ああ、なんと嬉しい言葉を聞けたのだろう。

シュウが望んでくれるなら、私は喜んで世話をしよう。
シュウの世話は私だけのものだ!

鼻息荒く息巻いていると、シュウの口からとんでもない言葉が飛び出した。

「あ、あのね、それで……言いたかったことなんだけど、ぼくはいつもフレッドにお世話してもらうばっかりだから、一度くらいフレッドのお世話を練習しておかないとなって」

シュウは今、なんと言ったのだ?
自分が世話をされてばかりだから、私の世話を練習したいとな?

シュウが私の世話をしたい……それはシュウが私にあんなことやこんなことをしてくれるということか?
そんな天国のような時間をいいのか?

「食事だって、お風呂だって、トイレだって……あの、それにアレ・・も、ねっ」

なんだとっ??
シュウに口づけをしながら優しく起こしてもらい、シュウの柔らかな手で顔を洗ってもらい、服を着させてもらって、食事を食べさせてもらい、汁が垂れれれば舐め取ってもらう。
風呂に入って身体を隅々まで洗ってもらい、シュウは私の愚息を持ってトイレを手伝ってくれる。
その上、シュウが愚息を昂らせ、小さな手で握り、小さな口で蜜が出るまで舐め尽くしてくれる……そんな天国がやってくる?

私はそんなことを一日中シュウにしてもらって理性が保てる自信などないのだが……。
いや、断るのは勿体無いな。

愚息には必死に言い聞かせるか……。
うーん、できるか?

いやいや、やるしかないだろう!!

すっかり私のお世話をやる気になっているシュウに治ったら頼むよ! と返したが、私の頭の中はシュウに世話をしてもらう日々の妄想でいっぱいになってしまっていた。
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