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第四章 (王城 過去編)
フレッド 37−3※
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つい今しがたまで私の腕の中にいたはずのシュウが、泥だらけでまるで人形のように一ミリも動かない。
「うわぁぁぁーーーーっ!!!」
と常軌を逸した叫び声を上げながら無我夢中に手綱を引くとユージーンはようやく動きを止めた。
私はすぐに馬から降り畑に倒れているシュウの元へと駆け寄った。
「し、シュウ……?」
どうか目を開けて、返事をくれ……その一心で声をかけたがシュウは声に反応するどころか、生きているのかも危うい状況だ。
「あ、あるふ…………ご、めん……なさ……」
トーマ王妃から微かな声が漏れ聞こえる。
シュウが必死に守っていたからだろうか、意識はあるようだが、身体が動かせないのは同じようだ。
「陛下に連絡を!!! すぐに担架をもってこい!! それから医師を呼ぶんだ!!!!」
私は急いで騎士たちに指示を出すとすぐに騎士たちは陛下と医師へ連絡に向かった。
シュウを抱きしめてやりたい。
今すぐにシュウをこの腕に掻き抱きたい。
だが、頭と身体を激しく打ち付けた時は無闇に動かさないというのは鉄則だ。
シュウを冷たい畑に置いたままになるのは忍びないがシュウの状況がわからない今は仕方がない。
早く担架が来るのを待つばかりだ。
ガタガタと足を震わせながらその場に立ち尽くしているジュリアン王太子のことは今は気にかける余裕がない。
声をかけることすらせずに私はただシュウの頬を撫で続けた。
担架が到着するまでにかかった時間はほんの数分だったが、私には何十時間もの時が流れたような気がした。
戦いで傷ついた兵士を固定しながら運ぶ専用の担架にシュウとトーマ王妃は乗せられた。
急いで駆けつけてきたアンドリュー王とブルーノはシュウとトーマ王妃の姿に絶句していたが、すぐに気を取り直し急いで担架を運んで行った。
私も上着を脱ぎシュウの顔と身体を覆い隠して騎士たちと共にシュウを部屋の寝室へと運んだ。
寝室が泥だらけになろうが今はどうでもいい。
トーマ王妃ではなく、シュウの元にマルセル医師が送られたのはアンドリュー王の判断だそうだ。
この前のシュウの状態も知っているし、それに何よりシュウの方が重篤な状態だと感じ取ったのだろう。
マルセル医師の指示のもと、頭を動かさないように注意しながら身体中を丹念に調べた結果、骨や脳内には問題はないとのことだったが、全身にひどい打ち身があり、全てがひくまでは数週間は要するだろうとの診断だった。
すぐに身体を綺麗に拭き取って身体中に炎症を鎮める薬を塗布すること、そして痛み止めの薬を飲ませること、痛みが治まるまでは安静に過ごすことをマルセル医師に念を押されて、医師は帰っていった。
私はシュウが痛みを感じないように優しく抱き上げ、風呂場にある広いソファーに寝かせた。
落ちたりしないように策を施し、急いでブルーノを呼んだ。
ベッドを綺麗に整えてもらっている間に私はシュウの服をゆっくりと脱がし、濡らしたタオルで綺麗に身体中を拭っていく。
頭は鬘には泥がたくさんついていたが、それを綺麗に脱がせると中の黒髪には泥は何もついてはおらず安堵した。
真っ白な肌も可愛らしい胸の尖りも果実のようなモノもいつものシュウと同じくその場にあったが、今は邪な気持ちは何も起きない。
それはそうだろう。
ぐったりと目を開ける様子もないシュウを見ていれば心配でそんな気にならないのが普通だ。
早くシュウの笑顔が見たい。
シュウの美しい瞳で私を見てほしい。
シュウの声で名前を呼んでほしい。
そう願いながら、私はシュウの身体を清め夜着を着させた。
着替えを終え、寝室に戻るとベッドはすでに綺麗な状態に整えられていた。
ブルーノに感謝しながら、シュウをベッドへと寝かせた。
ああ、そういえば薬を飲ませておかなくては。
意識がなくとも薬飲めるというのは今までの経験から知っていた。
甘い薬を口に含みシュウの唇に重ね合わせゆっくりと飲ませていった。
シュウの喉がコクコクと動くのを指先で触れ確認をしてからシュウを横たわらせた。
それから何時間ほど経っただろうか。
あれからずっとシュウの眠る隣に腰を下ろしシュウの手を握りしめ続けた。
だが、まだシュウの意識は戻らなかった。
途中ブルーノが何度か飲み物と食事を運んできたが、意識なく横たわるシュウを前に食事も喉を通らず、ただひたすらにシュウの意識が戻るのを待ち続けた。
このままシュウの意識が戻らなかったら……?
私の頭にあの時の嫌な記憶が甦る。
あれはレナゼリシアへと出発した日のことだった。
馬車の中でシュウの意識が突然無くなり、身体もどんどん冷たくなっていった。
あの時は生きた心地がしなかった。
目の前でどんどん冷たくなっていくシュウに医師がもう亡くなっていると告げられたとき、私の心は一度死んだのだ。
その後シュウの意識が戻りもう二度とこんな目には……と思っていたのに、まさかこんなことが起きようとは……。
ああ、神よ。
シュウが早く目覚めるようにシュウをお守りください。
必死にそう願っていると、部屋の扉が叩かれる音が聞こえた。
シュウから離れたくはなかったが、扉の外から聞こえる声はアンドリュー王の声だ。
流石に無視するわけにもいかない。
後ろ髪引かれる思いで握っていたシュウの手を離し、扉へと向かった。
「陛下。わざわざお越しいただきましたのにお待たせして申し訳ございません。さぁ、どうぞ中へ」
「失礼する。お前たちはいい」
付いてこようとした護衛を止め、アンドリュー王は1人で部屋に入ってきた。
「フレデリック、すまなかった。シュウの様子はどうだ?」
「はい。おかげさまで骨にも脳にも異常はないとの診断でございました。
まだ意識は戻っておりませんが、薬を塗布して痛み止めを飲んで眠っています」
「そうか。トーマから話は全て聞いた。シュウは身を挺してトーマを守ってくれたのだな。トーマに代わって礼を言う。ありがとう」
「いえ、トーマ王妃に怪我がなく幸いでございます。それをシュウは一番望んでいたのだと思いますので」
「そうか、シュウは本当に優しすぎるな。こちらが恐ろしくなってしまうほどに……」
寝室の扉に目を向け、愛おしそうに見つめるアンドリュー王の姿に私は思わず涙が溢れた。
「フレデリック……」
「も、申し訳ございません……シュウのことで胸がいっぱいで」
「ああ、そうだろう。ずっと付いていてやりたいのが本当だろう。2人の時間を邪魔して悪かった。
これだけ伝えにきたのだ。ジュリアンは今反省室にいる」
「えっ? それは陛下の御命令でしょうか?」
「いや、違う。ジュリアン自ら反省室に入ったのだ。
あやつにも今回のことで思うことがあったのだろう」
「そうでございますか……」
「私はそれとトーマの無事を伝えにきただけだ。すぐに帰る。其方はシュウに付いていてやれ。
それからどんなにシュウが心配であっても其方も食事だけは摂るように。いざという時にシュウを抱きかかえられなくなるぞ」
にこやかな笑顔の中に私を心配してくれているのがわかり、私はなんともいえない喜びに溢れていた。
「はい。ありがとうございます」
声が震えるのを気づかれないように必死にお礼を言うと、アンドリュー王は部屋を出ていった。
アンドリュー王が何か言ってくれたのか、すぐにブルーノが軽食を運んできてくれた。
私はそれに感謝しながら寝室へと運び込んだ。
またシュウは目を覚ます気配はない。
シュウから目を離さないように私は無心で食事を摂り続けた。
それから数時間が経って、握っていたシュウの手に微かに力が入るのを感じた。
もしや……。
息を潜めながらシュウの顔をじっと見つめていると、ゆっくりとシュウの瞼が開いていくと同時に隠れていた漆黒の瞳が私の目の前に現れた。
「ああっ、シュウっ!!!」
あれほど待ち望んだシュウがようやく私の元に戻ってきてくれた。
その喜びは形容詞し難いものがある。
しかしそれと同時にシュウを失うかも知れなかった恐怖が瞬く間に甦る。
気づけば私は心のままにシュウを怒鳴りつけてしまっていた。
シュウはか細い声で必死に謝罪の言葉を口にする。
ああ、なんということだ。
こんなことを言いたいわけではなかったのに。
シュウを守れなかった自分が不甲斐なくてどうしようもなくて、私はシュウに八つ当たりをしてしまったんだ。
なんという愚か者だろう。
シュウは私の元に帰ってきてくれたというのに……。
許してくれ、シュウ……。
気づけば私は涙を流していた。
私は随分と泣き虫になってしまったものだ。
涙など疾うの昔に枯れ果てたと思っていたのに。
シュウのこととなると泣いてばかりだ。
シュウをそっと胸に抱くと、シュウは痛みを感じたのか眉を顰めた。
それはそうだろう、あれだけ全身に打ち身があるのだ。
痛くないわけがない。
『無理するな』と声をかけるとシュウは安心したように笑顔を見せ、トーマ王妃の様子を尋ねてきた。
自分の身体より先にトーマ王妃か。
こんな状態になってもやはりシュウなのだな。
トーマ王妃が無事だと教えてやると心から安堵した様子を見せ、ようやく自分のことを尋ねた。
『骨には異常はないが痛みが酷いうちは動いてはいけない』というとシュウは小さく頷いた。
おそらく次はジュリアン王太子のことを尋ねてくるだろうなと思っていると、やはり
「じゅり、あん……おうた、いし……は?」
と心配げな声で尋ねてくる。
どう言えばいいだろうか。
全てを教えてやるべきか?
私が少し躊躇ったことに気づいたらしいシュウがもう一度聞いてくる。
やはり教えておいた方がいいだろう。
『今、反省室に入っている』
そう教えると、シュウは驚いていたが、ジュリアン王太子自ら反省のために入ったと教えてやると、何か言いたげな表情をしていた。
優しいシュウのことだからきっとすぐに出してやってほしいとでもいうのだろう。
だが、今は人のことなど心配せずとも良い。
自分の身体を休めることだけを考えてほしいのだ。
「シュウ、今は何も気にせずに休まないといけないよ。さぁ、薬を飲んでもう一度ゆっくり休むんだ」
処方された痛み止めの甘い薬を口に含むと、シュウの唇に重ね合わせゆっくりと飲ませた。
虚ろな瞳で
「ふ、れっど……そば、にい、て……」
そう頼んでくるシュウに『大丈夫だ、次に目を覚ますときも必ずそばにいるよ。だからゆっくりおやすみ』
と頬に口づけをするとふっと笑顔を見せながら眠りについた。
全身に塗った薬もだいぶ身体に吸収されたようだ。
そろそろ塗り直した方がいいだろう。
シュウが眠っている間に起こさないようにゆっくりと布団を取り、服を脱がせた。
塗り薬は一般的に身体との相性が強く現れるものだがマルセル医師の処方した薬はシュウによく合っているようだ。
まだまだ打ち身は酷いがだいぶ薄くなっているのがわかる。
この分なら完治するのも早そうだ。
腕と背中、そして足の打ち身が酷かったからそこは丁寧に塗っておかないとな。
自分の手に薬を塗りつけ、シュウの身体に塗っていく。
腕と背中を塗り終わり、胸に取り掛かっていたとき急にシュウの身体に変化が起きた。
まだ眠っているようだが、身体は確実に起きている。
なぜならシュウの果実が緩く勃ち上がって来ているのだ。
もしかして感じているのか?
私はいけないと思いつつも、シュウの反応が嬉しくて薬を塗るふりをしてシュウの弱いところ……胸の尖りにそっと触れてみた。
「……んっふふっ……」
シュウは可愛らしい声を上げながらゆっくりと目を開ける。
しまった、もう起こしてしまったか。
シュウは自分の身に何が起きているのがわからない様子だったので、私は素知らぬふりをして
「今、炎症と痛みを抑える薬を塗っていたところだったんだ。マルセル医師の薬はよく効いているようだよ。少し打ち身が治まってきたみたいだ」
と教えてやると、シュウは納得しながらも自分の格好に驚いていた。
私の手の動きに感じているのに必死に隠そうとするシュウの顔はもう真っ赤になっている。
ああ、なんて可愛らしいんだ。
そんなシュウを見ていると、もっともっと感じさせてやりたくなる。
必死に耐えようとしているシュウは実に可愛い。
だが気づいていないのだろうか、もうシュウの果実はフルフルと涎を垂らしながら天を向いて勃ち上がっていることに。
こんな可愛いモノを見せられてそのまま終わらせるなど伴侶としてあるまじき行為だ。
これはシュウを気持ちよくさせてあげなければな。
薬を塗り終わったと見せかけてシュウの果実をキュッと握った。
私は驚くシュウを横目に
「大丈夫シュウ、心配しないでいい。こういうのは出してやらないとかえって病気になってしまうからな」
そう言ってやると、シュウはすぐに信じた。
私だからいいようなものの他の者の言うことは信じてはならぬと教えておかねばならぬな。
シュウは私の邪な意図には全く気付かず、ただ介護の延長でやっていると思っているようだが、それならばこのまま続けてやろう。
疲れた身体で昂りをそのままにしておくのは良くないからな。
「ああっ、っんん……んっ……んんっ、んんっ……ふ、れっどぉ……、も、う……だ、めぇ……」
私の扱きに耐えきれず、シュウはすぐに蜜を放った。
シュウの甘い蜜の香りに我慢できずに手についた蜜を舐め取っていく。
いつもと変わらぬ甘くて美味しい蜜に顔が綻ぶ。
ずっと裸のままでいて風邪をひかせては元も子もない。
私は急いでシュウに夜着を着せ布団を被せた。
シュウは私が薬を塗っていただけなのに淫らになってしまったことを恥じらうように謝っていたが、そんな必要などない。
なぜなら私がそれを望んだのだから。
「シュウの世話ができるのは私の特権なのだから、むしろ喜んでいるんだぞ私は」
というとシュウは嬉しそうに笑って、
「ねぇ、ふれっど……いっしょにねてくれる?」
と甘えてくれた。
シュウのおねだりが嬉しくて私はシュウを腕の中に包み込んだ。
頬がほんのりと赤くシュウの顔色が良くなって来たことが本当に嬉しい。
ああ、シュウの世話ができるのが私だけだと思うと嬉しくてたまらなくなる。
これからシュウが完治するまで全て私が世話をしてやる。
そう考えているとシュウが私の耳元で『あ、あのね、トイレに行きたいんだけど……』と頼んできた。
そうか、トイレか。
眠っている間に何度か行かせたが起きている時に連れていくのはまた違う興奮があるな。
恥ずかしそうに赤い顔で用を足すシュウの手伝いをしてやってから、私はシュウを連れ
「シュウが大丈夫そうなら少し話をしようか」
と声をかけた。
シュウもなんとなく理由をわかっているのか拒むことはしなかった。
私はシュウが痛みを感じないように丁寧にソファーに腰を下ろし、ジュリアン王太子がリャバーヤに戻る前にシュウに詫びたいと言っていると話すと、シュウは『ぜひ会いたい!』と言い出した。
やはりな、シュウならそう言うだろうと思っていた。
シュウの体調がよければここにきてもらうと話をして私はシュウをまた寝室へと連れ帰った。
シュウがジュリアン王太子と会って話をしてどういうことになるかは見当もつかぬが、私はそばで見守るだけだ。
今度はシュウが傷ついたりすることがないように、シュウを絶対に守ろう。
「うわぁぁぁーーーーっ!!!」
と常軌を逸した叫び声を上げながら無我夢中に手綱を引くとユージーンはようやく動きを止めた。
私はすぐに馬から降り畑に倒れているシュウの元へと駆け寄った。
「し、シュウ……?」
どうか目を開けて、返事をくれ……その一心で声をかけたがシュウは声に反応するどころか、生きているのかも危うい状況だ。
「あ、あるふ…………ご、めん……なさ……」
トーマ王妃から微かな声が漏れ聞こえる。
シュウが必死に守っていたからだろうか、意識はあるようだが、身体が動かせないのは同じようだ。
「陛下に連絡を!!! すぐに担架をもってこい!! それから医師を呼ぶんだ!!!!」
私は急いで騎士たちに指示を出すとすぐに騎士たちは陛下と医師へ連絡に向かった。
シュウを抱きしめてやりたい。
今すぐにシュウをこの腕に掻き抱きたい。
だが、頭と身体を激しく打ち付けた時は無闇に動かさないというのは鉄則だ。
シュウを冷たい畑に置いたままになるのは忍びないがシュウの状況がわからない今は仕方がない。
早く担架が来るのを待つばかりだ。
ガタガタと足を震わせながらその場に立ち尽くしているジュリアン王太子のことは今は気にかける余裕がない。
声をかけることすらせずに私はただシュウの頬を撫で続けた。
担架が到着するまでにかかった時間はほんの数分だったが、私には何十時間もの時が流れたような気がした。
戦いで傷ついた兵士を固定しながら運ぶ専用の担架にシュウとトーマ王妃は乗せられた。
急いで駆けつけてきたアンドリュー王とブルーノはシュウとトーマ王妃の姿に絶句していたが、すぐに気を取り直し急いで担架を運んで行った。
私も上着を脱ぎシュウの顔と身体を覆い隠して騎士たちと共にシュウを部屋の寝室へと運んだ。
寝室が泥だらけになろうが今はどうでもいい。
トーマ王妃ではなく、シュウの元にマルセル医師が送られたのはアンドリュー王の判断だそうだ。
この前のシュウの状態も知っているし、それに何よりシュウの方が重篤な状態だと感じ取ったのだろう。
マルセル医師の指示のもと、頭を動かさないように注意しながら身体中を丹念に調べた結果、骨や脳内には問題はないとのことだったが、全身にひどい打ち身があり、全てがひくまでは数週間は要するだろうとの診断だった。
すぐに身体を綺麗に拭き取って身体中に炎症を鎮める薬を塗布すること、そして痛み止めの薬を飲ませること、痛みが治まるまでは安静に過ごすことをマルセル医師に念を押されて、医師は帰っていった。
私はシュウが痛みを感じないように優しく抱き上げ、風呂場にある広いソファーに寝かせた。
落ちたりしないように策を施し、急いでブルーノを呼んだ。
ベッドを綺麗に整えてもらっている間に私はシュウの服をゆっくりと脱がし、濡らしたタオルで綺麗に身体中を拭っていく。
頭は鬘には泥がたくさんついていたが、それを綺麗に脱がせると中の黒髪には泥は何もついてはおらず安堵した。
真っ白な肌も可愛らしい胸の尖りも果実のようなモノもいつものシュウと同じくその場にあったが、今は邪な気持ちは何も起きない。
それはそうだろう。
ぐったりと目を開ける様子もないシュウを見ていれば心配でそんな気にならないのが普通だ。
早くシュウの笑顔が見たい。
シュウの美しい瞳で私を見てほしい。
シュウの声で名前を呼んでほしい。
そう願いながら、私はシュウの身体を清め夜着を着させた。
着替えを終え、寝室に戻るとベッドはすでに綺麗な状態に整えられていた。
ブルーノに感謝しながら、シュウをベッドへと寝かせた。
ああ、そういえば薬を飲ませておかなくては。
意識がなくとも薬飲めるというのは今までの経験から知っていた。
甘い薬を口に含みシュウの唇に重ね合わせゆっくりと飲ませていった。
シュウの喉がコクコクと動くのを指先で触れ確認をしてからシュウを横たわらせた。
それから何時間ほど経っただろうか。
あれからずっとシュウの眠る隣に腰を下ろしシュウの手を握りしめ続けた。
だが、まだシュウの意識は戻らなかった。
途中ブルーノが何度か飲み物と食事を運んできたが、意識なく横たわるシュウを前に食事も喉を通らず、ただひたすらにシュウの意識が戻るのを待ち続けた。
このままシュウの意識が戻らなかったら……?
私の頭にあの時の嫌な記憶が甦る。
あれはレナゼリシアへと出発した日のことだった。
馬車の中でシュウの意識が突然無くなり、身体もどんどん冷たくなっていった。
あの時は生きた心地がしなかった。
目の前でどんどん冷たくなっていくシュウに医師がもう亡くなっていると告げられたとき、私の心は一度死んだのだ。
その後シュウの意識が戻りもう二度とこんな目には……と思っていたのに、まさかこんなことが起きようとは……。
ああ、神よ。
シュウが早く目覚めるようにシュウをお守りください。
必死にそう願っていると、部屋の扉が叩かれる音が聞こえた。
シュウから離れたくはなかったが、扉の外から聞こえる声はアンドリュー王の声だ。
流石に無視するわけにもいかない。
後ろ髪引かれる思いで握っていたシュウの手を離し、扉へと向かった。
「陛下。わざわざお越しいただきましたのにお待たせして申し訳ございません。さぁ、どうぞ中へ」
「失礼する。お前たちはいい」
付いてこようとした護衛を止め、アンドリュー王は1人で部屋に入ってきた。
「フレデリック、すまなかった。シュウの様子はどうだ?」
「はい。おかげさまで骨にも脳にも異常はないとの診断でございました。
まだ意識は戻っておりませんが、薬を塗布して痛み止めを飲んで眠っています」
「そうか。トーマから話は全て聞いた。シュウは身を挺してトーマを守ってくれたのだな。トーマに代わって礼を言う。ありがとう」
「いえ、トーマ王妃に怪我がなく幸いでございます。それをシュウは一番望んでいたのだと思いますので」
「そうか、シュウは本当に優しすぎるな。こちらが恐ろしくなってしまうほどに……」
寝室の扉に目を向け、愛おしそうに見つめるアンドリュー王の姿に私は思わず涙が溢れた。
「フレデリック……」
「も、申し訳ございません……シュウのことで胸がいっぱいで」
「ああ、そうだろう。ずっと付いていてやりたいのが本当だろう。2人の時間を邪魔して悪かった。
これだけ伝えにきたのだ。ジュリアンは今反省室にいる」
「えっ? それは陛下の御命令でしょうか?」
「いや、違う。ジュリアン自ら反省室に入ったのだ。
あやつにも今回のことで思うことがあったのだろう」
「そうでございますか……」
「私はそれとトーマの無事を伝えにきただけだ。すぐに帰る。其方はシュウに付いていてやれ。
それからどんなにシュウが心配であっても其方も食事だけは摂るように。いざという時にシュウを抱きかかえられなくなるぞ」
にこやかな笑顔の中に私を心配してくれているのがわかり、私はなんともいえない喜びに溢れていた。
「はい。ありがとうございます」
声が震えるのを気づかれないように必死にお礼を言うと、アンドリュー王は部屋を出ていった。
アンドリュー王が何か言ってくれたのか、すぐにブルーノが軽食を運んできてくれた。
私はそれに感謝しながら寝室へと運び込んだ。
またシュウは目を覚ます気配はない。
シュウから目を離さないように私は無心で食事を摂り続けた。
それから数時間が経って、握っていたシュウの手に微かに力が入るのを感じた。
もしや……。
息を潜めながらシュウの顔をじっと見つめていると、ゆっくりとシュウの瞼が開いていくと同時に隠れていた漆黒の瞳が私の目の前に現れた。
「ああっ、シュウっ!!!」
あれほど待ち望んだシュウがようやく私の元に戻ってきてくれた。
その喜びは形容詞し難いものがある。
しかしそれと同時にシュウを失うかも知れなかった恐怖が瞬く間に甦る。
気づけば私は心のままにシュウを怒鳴りつけてしまっていた。
シュウはか細い声で必死に謝罪の言葉を口にする。
ああ、なんということだ。
こんなことを言いたいわけではなかったのに。
シュウを守れなかった自分が不甲斐なくてどうしようもなくて、私はシュウに八つ当たりをしてしまったんだ。
なんという愚か者だろう。
シュウは私の元に帰ってきてくれたというのに……。
許してくれ、シュウ……。
気づけば私は涙を流していた。
私は随分と泣き虫になってしまったものだ。
涙など疾うの昔に枯れ果てたと思っていたのに。
シュウのこととなると泣いてばかりだ。
シュウをそっと胸に抱くと、シュウは痛みを感じたのか眉を顰めた。
それはそうだろう、あれだけ全身に打ち身があるのだ。
痛くないわけがない。
『無理するな』と声をかけるとシュウは安心したように笑顔を見せ、トーマ王妃の様子を尋ねてきた。
自分の身体より先にトーマ王妃か。
こんな状態になってもやはりシュウなのだな。
トーマ王妃が無事だと教えてやると心から安堵した様子を見せ、ようやく自分のことを尋ねた。
『骨には異常はないが痛みが酷いうちは動いてはいけない』というとシュウは小さく頷いた。
おそらく次はジュリアン王太子のことを尋ねてくるだろうなと思っていると、やはり
「じゅり、あん……おうた、いし……は?」
と心配げな声で尋ねてくる。
どう言えばいいだろうか。
全てを教えてやるべきか?
私が少し躊躇ったことに気づいたらしいシュウがもう一度聞いてくる。
やはり教えておいた方がいいだろう。
『今、反省室に入っている』
そう教えると、シュウは驚いていたが、ジュリアン王太子自ら反省のために入ったと教えてやると、何か言いたげな表情をしていた。
優しいシュウのことだからきっとすぐに出してやってほしいとでもいうのだろう。
だが、今は人のことなど心配せずとも良い。
自分の身体を休めることだけを考えてほしいのだ。
「シュウ、今は何も気にせずに休まないといけないよ。さぁ、薬を飲んでもう一度ゆっくり休むんだ」
処方された痛み止めの甘い薬を口に含むと、シュウの唇に重ね合わせゆっくりと飲ませた。
虚ろな瞳で
「ふ、れっど……そば、にい、て……」
そう頼んでくるシュウに『大丈夫だ、次に目を覚ますときも必ずそばにいるよ。だからゆっくりおやすみ』
と頬に口づけをするとふっと笑顔を見せながら眠りについた。
全身に塗った薬もだいぶ身体に吸収されたようだ。
そろそろ塗り直した方がいいだろう。
シュウが眠っている間に起こさないようにゆっくりと布団を取り、服を脱がせた。
塗り薬は一般的に身体との相性が強く現れるものだがマルセル医師の処方した薬はシュウによく合っているようだ。
まだまだ打ち身は酷いがだいぶ薄くなっているのがわかる。
この分なら完治するのも早そうだ。
腕と背中、そして足の打ち身が酷かったからそこは丁寧に塗っておかないとな。
自分の手に薬を塗りつけ、シュウの身体に塗っていく。
腕と背中を塗り終わり、胸に取り掛かっていたとき急にシュウの身体に変化が起きた。
まだ眠っているようだが、身体は確実に起きている。
なぜならシュウの果実が緩く勃ち上がって来ているのだ。
もしかして感じているのか?
私はいけないと思いつつも、シュウの反応が嬉しくて薬を塗るふりをしてシュウの弱いところ……胸の尖りにそっと触れてみた。
「……んっふふっ……」
シュウは可愛らしい声を上げながらゆっくりと目を開ける。
しまった、もう起こしてしまったか。
シュウは自分の身に何が起きているのがわからない様子だったので、私は素知らぬふりをして
「今、炎症と痛みを抑える薬を塗っていたところだったんだ。マルセル医師の薬はよく効いているようだよ。少し打ち身が治まってきたみたいだ」
と教えてやると、シュウは納得しながらも自分の格好に驚いていた。
私の手の動きに感じているのに必死に隠そうとするシュウの顔はもう真っ赤になっている。
ああ、なんて可愛らしいんだ。
そんなシュウを見ていると、もっともっと感じさせてやりたくなる。
必死に耐えようとしているシュウは実に可愛い。
だが気づいていないのだろうか、もうシュウの果実はフルフルと涎を垂らしながら天を向いて勃ち上がっていることに。
こんな可愛いモノを見せられてそのまま終わらせるなど伴侶としてあるまじき行為だ。
これはシュウを気持ちよくさせてあげなければな。
薬を塗り終わったと見せかけてシュウの果実をキュッと握った。
私は驚くシュウを横目に
「大丈夫シュウ、心配しないでいい。こういうのは出してやらないとかえって病気になってしまうからな」
そう言ってやると、シュウはすぐに信じた。
私だからいいようなものの他の者の言うことは信じてはならぬと教えておかねばならぬな。
シュウは私の邪な意図には全く気付かず、ただ介護の延長でやっていると思っているようだが、それならばこのまま続けてやろう。
疲れた身体で昂りをそのままにしておくのは良くないからな。
「ああっ、っんん……んっ……んんっ、んんっ……ふ、れっどぉ……、も、う……だ、めぇ……」
私の扱きに耐えきれず、シュウはすぐに蜜を放った。
シュウの甘い蜜の香りに我慢できずに手についた蜜を舐め取っていく。
いつもと変わらぬ甘くて美味しい蜜に顔が綻ぶ。
ずっと裸のままでいて風邪をひかせては元も子もない。
私は急いでシュウに夜着を着せ布団を被せた。
シュウは私が薬を塗っていただけなのに淫らになってしまったことを恥じらうように謝っていたが、そんな必要などない。
なぜなら私がそれを望んだのだから。
「シュウの世話ができるのは私の特権なのだから、むしろ喜んでいるんだぞ私は」
というとシュウは嬉しそうに笑って、
「ねぇ、ふれっど……いっしょにねてくれる?」
と甘えてくれた。
シュウのおねだりが嬉しくて私はシュウを腕の中に包み込んだ。
頬がほんのりと赤くシュウの顔色が良くなって来たことが本当に嬉しい。
ああ、シュウの世話ができるのが私だけだと思うと嬉しくてたまらなくなる。
これからシュウが完治するまで全て私が世話をしてやる。
そう考えているとシュウが私の耳元で『あ、あのね、トイレに行きたいんだけど……』と頼んできた。
そうか、トイレか。
眠っている間に何度か行かせたが起きている時に連れていくのはまた違う興奮があるな。
恥ずかしそうに赤い顔で用を足すシュウの手伝いをしてやってから、私はシュウを連れ
「シュウが大丈夫そうなら少し話をしようか」
と声をかけた。
シュウもなんとなく理由をわかっているのか拒むことはしなかった。
私はシュウが痛みを感じないように丁寧にソファーに腰を下ろし、ジュリアン王太子がリャバーヤに戻る前にシュウに詫びたいと言っていると話すと、シュウは『ぜひ会いたい!』と言い出した。
やはりな、シュウならそう言うだろうと思っていた。
シュウの体調がよければここにきてもらうと話をして私はシュウをまた寝室へと連れ帰った。
シュウがジュリアン王太子と会って話をしてどういうことになるかは見当もつかぬが、私はそばで見守るだけだ。
今度はシュウが傷ついたりすることがないように、シュウを絶対に守ろう。
応援ありがとうございます!
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